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静岡県立大学短期大学部「HPS養成教育プログラム」

 1 取組を始めた経緯

 Hospital Play Specialist(ホスピタル・プレイ・スペシャリスト:以下、HPS)とは、病児や障がい児とその家族を対象に、入院前から退院までのあらゆるプロセスにおいて、子どもの感じる苦痛やストレス、不安などを遊びの力を用いて軽減し、医療との関わりを肯定化できるよう支援する専門職です。HPS発祥地の英国は、1970年代から実践的な教育プログラムを開発し、子どものQOLや療養環境の向上・改善に大きく貢献してきました。

 本学教員が研修の一環として英国の小児病院を訪れた際、HPSは入院している子どもや通院する子どもに対し、遊びを使った様々な支援を行い、ストレスの軽減を図っていました。具体的には、医師や看護師と1つのチームとして連携を図りつつ、プレイ・プレパレーション(子どもが治療に対して情緒的に準備できるように、遊びを通して子どもの不安や疑問を解消する方法)やディストラクション(処置において、子どもの不安や不快な気分を遊びによって逸らす方法)を効果的に活用し、コメディカル・スタッフの一員としてその専門性を発揮する姿が見られました。

 残念ながら、日本の医療現場では遊びと医療を融合させる効果や意義に関する理解が進んではおらず、また医療現場における保育士の業務内容も不明確であり、その専門性が十分には発揮されないという現状があります。英国研修の際、ある関係者が「病気は子どもから多くのものを奪う。だから私たちはこれ以上を子どもから奪わないで、子どもが最も得意とする遊びを積極的に取り入れないといけない」と述べていましたが、HPSの活動はまさに病児や障がい児のWell Beingを保障する活動であり、子どもは遊びを通して本来の子どもらしい日常を病院という非日常的な環境の中で取り戻していきます。

 日本のこうした現状を鑑み、静岡県立大学短期大学部では文部科学省「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」委託事業として、「子どもの福祉」という視点から病児を理解し、支援できる高い能力を持ったコメディカル・スタッフの養成を目指す「HPS養成教育プロジェクト」に着手しました。

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2 これまでの取組の概要

 本プロジェクトでは、英国HPS教育財団「National Association of Hospital Play Staff」及び「Hospital Play Specialist Education Trust」との連携による教育カリキュラムを実施し、主に保育士・看護師資格を有する小児医療分野の現場経験者を対象としたHPS養成講座を実施しています。これまでに、委託事業期間の3年間で計5回、その後は平成22年度から本学社会人専門講座として引き継がれ、合わせて6回の講座を実施してきました(表1)。

 HPS養成講座は、講義・演習と実習から構成されます。講義は小規模で意見交換がしやすく十分なリフレクションができる環境を配慮し、受講生の学ぶ意欲や力を引き出す双方向型の授業形態としています。毎期の講義では英国において先進的なホスピタル・プレイ活動を行ってきたHPSを招聘しており、発達、環境、チーム理論、援助技術などの日本人専門家による講義と合わせて、遊びの技術や子どもとの関わり方に関する専門知識、講師と受講生の相互関係に基づく演習を通した専門技術を学びます。

 また、実習では英国HPS養成と同様に、遊び計画の策定と実施に必要な3課題を設定します。その上で、本学が連携する県内外の医療施設において、現場で求められる学習成果を重視した課題探求心とコミュニケーション能力などを身に付けます。

 本講座を修了した受講生は、学校教育法第105条の規定に基づく履修証明書と本学規定に基づく「ホスピタル・プレイ・スペシャリスト」資格認定書が交付されます。さらにHPS事務局を設置し、個別のキャリア支援及び各種HPS関連のシンポジウムやワークショップを開催し、継続的な支援体制を整備しています。

表1. HPS養成講座実施状況

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 3 取組の成果と今後の課題

 HPSは医療現場経験者のキャリアアップとしての側面を持ちます。そのため、養成講座では新たな活躍の場を求める受講生が半数近くに上りました。このうち、7割近くの修了生が全国の小児医療施設に就職し、各々の施設において子どもや家族に寄り添うホスピタル・プレイを積極的に展開しています。

 現職の受講生については修了後、各自が勤務する病院等で手術前プレイ・プレパレーションの実施やプレイルームの改装、重複障がい児のためのプレイ・プログラムの導入などを進めています。HPSの活動はやがて、小児医療の中に変化をもたらします。

 例えば、HPSが活動する職場では「以前は医療者側のペースで処置を進めていた。処置などの内容も子ども本人ではなく、親に対して説明していた。しかし、今では誰もが子どもに対して説明や話をするようになった」、「子どもや家族のペースに処置を合わせて行うようになった」などの評価が得られ、医師や看護師にもその専門性が認識されるようになりました。

 しかし一方で、修了生全員が必ずしもHPSの専門性を生かした活動を十分に展開できているとは限りません。一人ひとりが様々な特性を持つ子どもたちの支援に関して、試行錯誤を繰り返しながら実践しています。こうした中で、修了生が互いに連携・協力し、理論と実践を蓄積する研究活動の展開を目的として、日本ホスピタルプレイスタッフ協会が組織されました。

 本学では修了生による研究活動を全面的に支援し、またその成果をHPS養成教育プロジェクトへと反映させることで、教育と実践の結び付きを一層強固なものにしています。また、他大学においてもHPS養成教育プログラムが実施できるように、新たに文部科学省大学教育・学生支援推進事業【テーマA】「大学教育推進プログラム」を獲得し、カリキュラムの完成を目指しています。今後は、日本におけるHPSの社会的な認知向上と地位確立を目指し、履修証明制度を積極的に活用しながらプロジェクトを推進していきたいと考えています。

お問合せ先

高等教育局大学振興課