産学連携によるグローバル人材育成推進会議(第3回)議事録

1.日時

平成23年2月24日(木曜日)15時00分~17時00分

2.場所

文部科学省3階 3F1特別会議室

3.出席者

(座長)河田悌一座長

(委員)市村泰男,伊藤元重,白石隆,土居丈朗,新浪剛史の各委員

(事務局)磯田高等教育局長,加藤大臣官房審議官,義本高等教育企画課長,藤原大学振興課長,氷見谷国際企画室長,茂里高等教育局視学官 外

4.議事

(1)事務局から,産学官によるグローバル人材の育成のための戦略について,資料1及び資料2に基づき説明があり,以下のとおり意見交換が行われた。

【伊藤委員】記憶で申し上げているので,間違っているかもしれませんけれども,今海外に住んでいる日本人,つまり,仕事が多いと思いますが,その数は確実に増えているという数字を見たことがあります。ですから,資料2で示されているような,留学生が減少傾向である,あるいは,外国へ行く気持ちが少ないという人が増えているという事実と,一方では海外で実際に働いている人が多いという,このギャップをどう理解したらいいのか。ある意味で見たら,今回のこの議論というのは産学連携によるプログラム人材育成ですから,例えば,考え方によっては教育であるとか,若い時に海外へ行って人材を育てて,それをプッシュして日本のグローバル化を進めるとかという見方と逆に,いずれにしても今後周りの国は規模が大きくなるわけですから,好むか好まないかにかかわらず外へ出て仕事をする人が増えているということから,やはりプルで,どういう形でこういうことへ持っていくのかと,我々が考えて,随分議論の仕方が違うと思いますので,その辺について,事実関係を教えていただきたいと思います。

【茂里高等教育局視学官】外務省のデータによりますと,今先生がおっしゃったように,海外在留邦人者数というのはかなり増えてきております。一方,それに反しまして日本人の海外の高等教育への留学者が減っているという事実は確かにございます。

【市村委員】この調査の結果でございますけども,これはいわゆる国内を中心に企業活動している会社の社員等も対象になっているのかなと思うのですが,少なくとも海外に拠点を持っている企業は社員を海外にどんどん出さなくてはいけないという宿命があるわけですから,そういう観点で言いますと,そういった企業へ入ってきた社員が海外に行きたくないという50%近い意思を表明するであろうかという疑問もあります。例えば,私は日本貿易会で,商社の業界団体でございますけれども,商社に入った人間が海外赴任をしたくないとか,そういうものに対して消極的という社員はまずいないと思います。従いまして,海外に出たい,あるいは,海外で仕事をしたいと思う社員というのは企業によって大きく違うのではないか。いわゆるグローバル企業に入る者は最初から自分なりに英語を勉強し,そういう世界を勉強して,留学をして入ってくるという環境だと思います。一方,海外と全く関係のない企業というのも日本の場合かなりあると思うので,そういう人たちを本当にグローバル化のためにどこまで教育したらよいのかという問題とはちょっと違ってくるのではないかと思います。いわゆる全体の底上げというのが当然,将来日本に外国人が大勢住むようになって,あるいは,移民を認めるようになった時には全体のレベルアップというのは非常に重要になってくるかもしれませんが,現在の社会的な環境からすると,企業によって対応の仕方が大分違ってきていると,産業界から見てそう思います。従って,海外での活躍,海外での企業活動がもう宿命となっているような企業の社員のレベルはかなり高いのではないかという感じがします。

【新浪委員】企業によってもいわゆる平均値というのはあまり意味がないと思います。標準偏差もとても大きいのではないかと思うわけです。やはり物事は偏差を見ていかなくてはいけないと思います。おそらく偏差が相当あると思います。けれども,その偏差が大きいことに問題があるのかという点があります。逆にそこは全く関心のない人たちが結構いて,関心のある人がどれだけいてというような状況そのものをとらまえ切れていないのだろうと思います。一方で,外に出ていかなくてはいけないと感じます。今回,私がラオスに行って感じたことは,日本のトップがものすごく増えています。だから,良いも悪いも右向け右で一気に進む国であると思いました。そういった意味では,やはり上の人たちがそうやって外へ出ていくことによって随分変わっていくのだろうとも思うわけです。私も市村委員がおっしゃるように,企業によって随分違うのだろうと思います。

 そういった中でどういう統計の取り方が良いのかわからないのですが,やはり平均値で語ることは大変危険であると思うわけです。そういった意味で先進的な人たちはどういう考えを持ち,また,そうでない人たちというのはどのように考えているのか。例えば,国内企業,私の会社でも,海外へ行かないで,国内でビジネスをやるために入ってきている人も多いです。そういう人たちをどうモチベートして海外に行くかということもまたこれで別の論点があると思うのですが,そういった意味で,申し上げているとおり,平均値で語らないことが大変重要でないかと思います。海外へ行きたい人たちは次々と行っています。先日,「クローズアップ現代」でも取り上げられていたように,中国で起業する日本人が増えています。大変良いことであり,そういう人たちがロールモデルとして出てくれば,それに続く人たちが出てきます。また,トップが前へ進めば,それに続く人たちも出てくるだろうと思うので,逆にどんどん進んでいる例というのはなぜなのか、いわゆるネガティブなところではなく,どうして海外に行きたいのかという点についても深く探って,それを横にどう展開するかということも考えていかなくてはいけないと思いました。

【伊藤委員】平均値と偏差という話が出たので,ちょっとコメントをさせていただきたいのですけれども,確かに海外へ行って活躍する人ばかりである必要はないことはわかるのですけれども,やはり日本の,特に教育の現場にいて非常に感じるのは,平均を大事にするために,例えば,海外に出たいという偏差の人たちを押し込めてしまう仕組みが非常に多いと感じます。ご存じのように,これは教育システムというよりは社会システムそのものですけれども,就職が大学3年の時から動き始めており,留学したいと思っても,現実的に1,2年しか行けないとか,私の学生のケースであったのですけれども,留学したいのだけど,内定をもらっているため行けないとかあります。そうすると,やはり単位の互換が認められないケースが多いものですから,結果的には諦めて,2,3カ月で帰ってきてしまいます。

 ですから,日本の今までの教育だけではなくて社会システムそのものが平均を大事にする仕組みになっています。グローバル化の中でそうではない,少し外れた人材をもっとたくさん出していかなくてはいけないけれども,そういう人たちを押し込めてしまうような結果になって,このグローバル人材の問題が起きているという気がします。

【白石委員】もう1つ重要なことは,先ほどの紹介の時に海外で働きたい人と働きたくない人が両極化しているという点は非常に重要な点で,企業の方でもグローバル化している企業と国内マーケットに納まる企業ころでかなり両極化しているので,政策としてはこういう政策を考える上で,どれくらいの規模感で考えれば良いのかということに直接つながってくると思いますので,その規模感というのはある程度我々で共有しておいた方が良いと思います。覚,大学から毎年卒業する人たちの1割とか,2割とか,そのくらいかなというのが私の非常に大ざっぱな感覚ですけれども,念のために申し上げておきたいと思います。

【土居委員】今の議論を伺っていて1つ思ったことは,確かに二極化しており,海外に出ても良いと思う人と出たくないと思う人がいるということはそのとおりですけれども,出たくないと思う人の理由が単純でないといいますか,単純に解決できないという状況にあるのではないかというのが私の印象です。例えば,それはどういうことかというと,単に海外に出たくないというだけの話にとどまっていないメンタリティーがあるのではないかと思います。つまり,最近の就職活動の議論を聞いていてもリスクをあまり負いたがらない学生が多いという話があって,海外に行くというある種のリスクを自分で負いたくないということが,また,海外でなくとも,何か別のリスクも同様に負いたくないというような,そういうメンタリティーがある学生がある一定数いるというところが根っこにあるのではないかと思います。それは別の言い方をすると,日本の産業の中でも国際競争力を持っている産業では生産性が高いけれども,非貿易財では生産性が低いという話があって,これはなかなか行動が変わらないという話とも通じてきていると思います。つまり,海外に出たくないということがある種象徴的にリスクを負いたくない,さらには国内で何とかしていれば良いというけれども,結局,それで自発的に生産性向上を図るかというとそうでもない。海外との厳しい競争力を支えているところは,自分たちが切磋琢磨してどんどん生産性を伸ばしていかなくてはいけないという状況を支えているので,みずからもそういう努力をしようとします。それはもちろん海外に行ってビジネスをしても良いという,リスクを負ってとっても良いと思うメンタリティーが潜在的にあるということも裏表の関係にあるのですけれども,どうも単純に海外へ行きたくないという話で片づけられない問題が潜在的にあって,それはある種大学教育だけで何とかなるのかどうかわかりませんけども,少なくとも大学教育の場でも何かてこ入れをして,極端に言えば,そんなに保守的にならないように学生を鼓舞するというか,励ますというか,そういうことが必要ではないかと思います。

【市村委員】ただ,今白石委員がおっしゃったグローバル時代におけるいわゆる人材のニーズといいますか,需要については非常に大事だと思います。ですから,それをどういう形で図ったら良いのか,その辺がわかれば,それに合った形での教育というのが組めると思います。ところが,それが実際どのくらいあるのかというのがなかなか見えてこないと,そこに問題があるような気がします。ですから,大学,あるいは,企業等がやはり将来のビジョンの中でどれだけいわゆるグローバル人材が必要なのかということは示しておく必要があるかもしれません。

【河田座長】そうですね。私も大学に勤めて,中国に行く学生を養成してきたのですけれども,だんだんと中国に行きたがらない,リスクを負いたくない学生が増えたような気がいたします。「中国はだんだん近代化しているから、夏休みの中国語研修に参加するように!」と言っても,特に男子学生は行かなくなりました。以前なら中国のトイレには戸がなく困惑したものです。そんな時でも平気で中国に行くことができた学生諸君でしたが……。私は,冗談でいつも言うのですけれども,ウォッシュレットのトイレが普及してから日本の若者は海外に行く率が少なくなったのではないかという感想をもっています。

 海外の在留邦人の数の推移ということで,確かに数は増えているということであります。けれども,学生だけでなく20歳以上の人々も海外に行きたがらない,資料2の18ページを見ても,アメリカ,西欧,カナダ,オーストラリア,ニュージーランドまでは行きたいけれども,中国からは数が減るという状況があるのは事実だろうと思います。この会議ではどういう戦略と戦術によって,そういった学生を少しでも海外に出かける状況を,あるいは,海外から学生を招くようなシステムをどう構築するかということについて議論したいと思います。

資料1として,戦略のたたき台の文章ができております。こういう項目は必要であるとか,大学においても企業においても,あるいは,国においてもこういう項目が抜けているとか,こういうことが大事であるとか,いろいろとお考えがあると思いますので,ご意見をいただければと思います。

【伊藤委員】先ほど市村委員が非常に重要なキーワードを出されており,この政策提言の中で全体の底上げをねらうのか,それともある種突出したというか,グローバル化に関してだけ言うと,先ほどの白石委員の相場観で1割か2割のところを強化するかということで随分イメージが違うだろうと思います。これはなかなか難しく,悩ましい問題ですけれども,社会システムそのものを考えた時に,あるいは,若者の将来に対するインセンティブを考えたときに,少し乱暴な議論なのですけれども,全体の底上げをやることに意味がないとは申しませんけれども,やはり突出した,少し言葉は誤解を招くかもしれませんけれども,ある種のエリートというか,あるいは,グローバル化のいわゆるフロンティアで活躍する人たちの目標になるようなものをつくっていくという考えが出せるかどうかということで随分違ってくると思います。TOEFLの平均点が日本全体で10点上がるということよりも,800点か900点か点数はわかりませんけれども,そういう高い点数能力を持っている人が,例えば,何千人か増えるということでは,かなり違うと思うので,そういう内容が報告書の中に色濃く出ているのであれば良いと思います。私の読み方が多分足りないのかもしれませんが,どちらかというとこのたたき台に書いてある内容は全体的にグローバル教育を底上げするというニュアンスが強いと思いますのでで,そこのところをどのように考えたら良いか,皆さんにもご意見を伺いたいと思います。

【白石委員】今の伊藤委員の話の続きに近いのですが,資料1の概要の5ページ目で,国として何をやるか,まさにここが文部科学省として取り組むところですけれども,グローバル化事業を推進するということで拠点づくりということが挙げられていて,これは文科省が大学に対してインセンティブをどうつくるかということでは非常によく使っておられるやり方で,これは結構だと思うのですけれども,私が最初にいただいたCOEプログラムから考えますと,もう既に随分こういう取組を行っていて,1つ気になっておりますのは,中間評価があって,最終評価があって,それで,その最終評価というのはもうその後全然どこにも効かないような形になっています。是非,今回の拠点づくりの場合においてはそこの評価が効いてくるようにしていただきたい,これが1点です。

 それから,もう1つは,どうしてもこういう拠点づくりをする時には大学がパイとなるのですけれども,実際に大学で教育を行っているところからすると,一番重要なのは学科です。それで,大学をざっと見回してみますと,私がかつていた大学では,ある分野はものすごく熱心に留学生の教育をしていました。ところが,その隣の分野では日本語ができない外国人学生に「日本語で何か書くように」と言って,それで平気で恬淡としている先生が多いといった,ものすごく不均質な状況というのが実は日本のトップクラスの大学でもあります。

 それを是正していくためには,私は可視化ということがものすごく重要で,グローバル人材養成にどのくらい体制が整備され,拠点づくりのお金をもらってどれくらい良くなったかということを学科別に示すことが必要だと思います。例えば,トップの5つの学科は良いので,ここに行けば,きちんとグローバル人材の教育をしてくれるということが示されれば良いです。トップの5つくらいのところをリストアップできるような仕組みを是非取り入れていただきたいと思います。そうすると,本気になって走り出する大学が出てくるという気がいたします。

【土居委員】伊藤委員,白石委員がおっしゃったことに私も全く同感でして,やはり選択・集中といいましょうか,グローバル人材の育成ということに関しての国の役割ということでいえば,どこの大学でも同じようないうことを取り組むというわけでは当然ないということについて,誤解を招かないように明確に書いておく必要があるのではないかと思います。別にどこの大学でもグローバル化したいと思っているわけでないかもしれないですし,なりたいと思ってもなれないようなキャパシティーしか持っていない大学もあるかもしれないので,そこはきちんと取捨選択をしていただかなければいけないところだと思います。

 それから,少し細かい話に立ち入至るのですけれども,資料1のたたき台の4ページにある大学の役割についてですが,大学の現場でこういうプログラムないし授業で,こき使われているといったら言い方は悪いかもしれませんが,かなり汗をかいているがゆえに,こういうところを改善しないとなかなか環境がうまく整わないのではないかという意味で少し具体的に申し上げたいと思います。1つめと2つめに,大学自体がグローバル化するということ,それから,魅力ある教育を提供することが掲げられており,これは当然重要なことであると思うのですが,教育ということに少し力点が置かれ過ぎているために,研究を推進しなければ魅力ある教育は提供できないということをきちんと踏まえておいていただかなければいけないことかと思います。特に大学は,海外からの留学生を受け入れるということになれば,世界的に見ても先端的な研究をしている研究者がその大学にいるということは非常に重要なポイントで,日本の大学生がなぜ海外の大学に留学するかといえば,魅力ある研究者が海外にいるからだということが一番の大きな理由であると思います。それは逆に言えば,我が国にもそういう研究者がいないと魅力ある教育を提供できないということに通じますので,そういう意味では,優秀な外国人教員を確保するということももちろんですけれども,確保しただけではなく,確保した後にもさらに研究,教育水準を向上させるために,研究も,研究推進,研究促進と両立といいますか,教育と研究を両立させることが必要であると思います。大学の中で,ないし学部の中でこういう教育プログラムを充実させようということになると,どうしても教員は教育に時間が割かれてしまって,研究がやりたくてもなかなか時間が費やせないということになりがちなものですから,是非もう一つということで申し上げるならば,教育に貢献した教員に対しての補償,コンペンセーションを広範に認めるということも入れないと,やはり教育と研究の両立と,それがひいては魅力ある教育を提供するということにつながらないのではないかと思います。

 それから,国としての取組として、資料1の8ページに書かれている大学入学者選抜試験の改善というのは非常に重要なポイントであると私は思っているのですが,大学の役割ということとの兼ね合いであえて申しますと,まさに今この季節,大学は全く講義を開講していないわけです。これで本当にグローバル人材を育成し,海外の留学生を受け入れて教育すると言えるのかと思います。なぜ大学の授業が行われていないかといえば,もう皆様ご承知のように,大学入試があるからです。それに大学の教員が相当関わることとなっています。教員が今の季節に話をすると決まって入試事務の苦労話が出てくるというくらいです。むしろそういう入学者選抜試験の体制をきちんと教育が滞らない形で確立するということは,この場だけの話では済まないことだと思うのですが,グローバル人材育成という観点からしても重要なポイントだろうと思っています。そういう意味では,大げさな言い方をすれば,教育に携わっている教員の入試事務からの解放といったら少し言い過ぎかもしれませんが,少なくとも授業を全く行わない時期が2月,3月と2カ月もあるということはやはり教育面から見てもおかしな話で,グローバル化に対応しているとはとても言いがたいと思いますので,その点の改善は促せるような方向に,一足飛びにいかないにはしても,徐々にそういう方向に導くべきではないのかと思います。

【河田座長】私立大学の場合は入学試験をやることによって,受験料収入という経済的メリットが図られていることから,入試事務をなくすことは非常に難しいところがあります。国立大学の場合は入試で収入を得るというわけではないですが。だから,本来はアメリカのようにSATみたいな形で試験を行い,その点数を参考にして面接によって決める。そして,入学した学生については,成績の悪い学生をどんどん落第させるといった,アメリカ式で行うことができれば一番良いとは思いますけれども,日本ではそうした制度化はなかなかできないので,今の入試事務問題はなかなか難しいかと思っています。

【新浪委員】伊藤委員がおっしゃったように,私はやはりロールモデルをつくっていくということはとても重要なイシューであると思います。特にこのイシューに限らず,全般的にロールモデルというものがこの世の中からなくなってきたような気がします。一方で,幾つかの中でやはり日本の大学のガバナンスや,根本的なところを少し変えていかないとなかなか厳しいのではないかかと思います。非常にタブーなのかもしれないのですが,本当に大学でグローバル人材を育成するというコミットメントは一体何であるかと考えた時に,学生もやる気にならなくてはいけないし,先生も教える側としてやはり生徒からフィードバックを得る必要があると思います。生徒と先生が真剣勝負を行い,そして,お互いが切磋琢磨していく中に外国人も入り,いわゆる多様化の受容力を養っていくことが重要であると思います。先生もそれで学んでおり,教育はともに育つ部分があって,そういうものを本当に行うために私は最高学府である東京大学が入学の仕組みを変えないといけないのだろうと思います。いや,それは慶應にしても早稲田にしても,私はむしろ一貫教育の仕組みをどう差別化してつくるかがすごく重要なことであると思います。例えば,慶應大学では,私は福沢諭吉先生がすばらしいと思います。あのような物の考え方が今でも生きていれば,本当にグローバルな人材が育っていくと思います。東京大学も,例えば,入試というものにプラス,いわゆるエキストラカリキュラ的なものをきちんと評価するとか,面接をするとか,やはりもう少し違った形で人材の選抜をしていけば,それにフォローして高校生も中学生も変わっていくと思います。前回の会議で申し上げたことは,例えば,いわゆるトップ5とか,10の企業がそういうグローバル人材を求めれば,やはりおのずと下の方に,下流に流れていくということです。入試のあり方も同様で、どこから着手していくかということだと思います。しかし,それを取り組んでいく上で,先ほどのガバナンスのイシューはどうするのかと思います。やはり今のいわゆる一発試験ではなくて,社会貢献など,もっとマルチな,そして,またマルチの人たちを幾つか折り重ねてポートフォリオで入れていくということを私はエッセーで3カ月くらいかけて書いたのですが,自分自身をどうさらけ出して,どうアピールするかという,いわゆる入試のあり方というのを大きく変えていかなければいけないと思います。そして,それに向けてのベンチマーク,もしくはテンプレートになっていくわけです。そして,その中でのプログラムを,さっき申し上げたとおり,先生と生徒の真剣勝負があるという仕組み,これはどこから手をつけたらいいかなというくらいイシューが広くなっていくと思うのですが,やはり会社,企業はそういう人たちを求める1つのスペック的なものを提示し,一方で,初等教育から高等教育,大学まで一貫してそういうグローバル人材を育てるということが必要です。これはもともと,先ほど慶應の福沢先生もそういうところを主張していましたし,一方で,最高学府の東大がやっぱり変わっていくことによって他の大学も随分変わっていくだろうと思います。これも大学としてのロールモデルだと思うのです。そういうことを1つディテールに入って考えていかないと実現できないのではないかと思いました。

【市村委員】このたたき台について少し感じましたのが,従来グローバル30というプロジェクトがございました。本会議の第1回目の時に現状についての説明が4大学からあったと思うのですが,このグローバル30というせっかく始めたプロジェクトを継続的に活用して,このたたき台の中に何らかの形で残すということは必要なのではないかと私は思います。といいますのは,なぜグローバル30の中で13大学しか選ばれなかったのかということです。本来であれば30大学選んで留学生30万人という計画が、13大学で現在ストップしているわけです。これがインフラの問題なのか,お金の問題なのか,いろいろあると思うのですが,いずれにしてもグローバル30というプロジェクトそのものはいい取組であったわけですから,それを引き続き活かして,このたたき台の中に反映させていくということがある程度必要ではないかと思いました。

 あと,この企業の役割という観点では,もう既に取り組んでおりますけれども,それをさらに拡充して取り組んでいくということは当然考えていかなくてはいけないだろうと思います。これは企業の側の責任でもあると思いますので,これは前向きに考えさせていただきたいと考えています。

【河田座長】全体の底上げを図るのではなくて,やはり本来のグローバル30の13大学の取組をいかに続けていくか,それをどういう形で共有化できるのか,どういう方法で他の大学も利用できる形にできるのかということが大事であります。しかし,それだけにとどまらず,できるのであれば,せっかく先生方に集まっていただいたわけですから,それを骨子にしながら,他の大学にもいかに利用していただけるような底上げが図れるか,座長としては両方兼ねたような報告が書ければ,一番良いと思っています。さらに,次回,10日に第4回目の会議がありますので、それまでに委員の方々の建設的な意見を答申に反映していければと思います。しかし,今の国の方針を見ておりましても,例えば,これはもう文部科学省だけで対応できることではなくて,この高等教育を海外で展開し,学生を受け入れようと思えば,それぞれの国にあります機関,例えば日本大使館や領事館にはそういう役割を果たしていただかないといけないと思います。ですから,国全体としてそういうミッションを果たしていただく必要があります。ブリュッセルに行きましたけれども,ベルギーの大使館は非常に貢献しておられますし,ニューヨークの総領事館も貢献しておられます。が,全ての国においてそうであるかというと必ずしもそうではない。ですから,オールジャパンというからには谷内委員もいらっしゃいますので,大使館とか,領事館の協力というものも是非入れていただきたいと思います。

 たたき台において,具体的な国の方策として今5つ出ておりますけど,是非ともこの他にこれは入れるべきであるとか,ここの部分でこういう文言を入れるべきであるとか,それから,企業としても4つの方策しかございませんが,国は5つございますので,企業としてはこういう取組が可能であるとか,そういうことも是非入れていただきたいと思います。

大学も4つしかないわけですが,大学については,先日,立命館アジア太平洋大学の学長をしておられましたモンセ・カセム先生(現在,副総長)という,スリランカ御出身の,東大で都市工学を専攻された日本語の堪能な先生が,こんなことをおっしゃっていました。日本人は少し萎縮気味で,日本の良さを見ないで他の国ばかりを気にしている。しかし,日本の大学の,例えば,ゼミというのはおそらく非常に売りになる制度だ。学生を集めて,資料を読み,発表し討論する。まさにゼミにおいて全人教育をしているのだから,もっとアピールした方が良い。なのに,何か日本人は,そういう良さをアピールするのが下手だという話をしておられました。ですから,大学の方策も4つではなくて,魅力あるものをもう1つくらい追加し,せめて各項目5つくらいにしていただければと考えます。もう少し時間がございますから,是非,忌憚のない意見をお願いいたします。

【伊藤委員】海外から日本に留学生をどうやって呼び込むかという話をさせていただきたいのですけれども,白石委員とよく同じ会議に出ていまして,昔アジア・ゲートウェイ戦略会議という中でも一緒に議論しましたし,その前の経済財政諮問委員会の下にグローバル部会という部会がありまして,その座長をやらせていただき,過去に色々な議論をしてきました。結果的に,資料2の33ページにあるような形で確かに外国人の受け入れ状況が伸びてきていますけれども,過去にどういうことをやろうとしてきて,どこが成功して,どこが失敗したのか,あるいは,どういうところが有効であって,どういうところが有効ではなかったということを少し追っていかないと,毎回色々な報告書が出て,その間のつながりがないと思いますので,非常に難しいのかとは思いますが,その辺のところをまた少し加味していただきたいと思います。

 そういう観点から,少し思い出したのですけれども,当時白石委員と議論していて,よく我々が,アジア・ゲートウェイ戦略会議などで議論したことは,どういうインセンティブで海外の人は日本に来るのだろうか,また,留学するだろうかということです。日本に良い教育システムがあるので,日本で勉強して,それで,勉強が終わったら早々に国へ帰って仕事をしたいと思うのか,又はそうではなくて,日本も含めた,特に日本絡みの仕事を得たい,それも1つの目的として日本に来たいという学生が多いのかどうかと考えた際に,おそらく後者の方ほうが多いだろうと思います。そう考えていきますと,今回の産学連携ということで言えば,この教育を受けるということとその後働くということの間に色々なつながりをつくってあげるということが,もしかしたら結果的にはものすごいインセンティブを与えるのではないかと思います。

 当時我々が議論していたことは,たしかアメリカのプロフェッショナルトレーニングであったと思いますが,ビザの仕組みを少し緩め,それが実現したのかどうか知りませんけれども,アメリカだと,ご存じのように留学した人はその後18カ月だったと思いますが,現地で働くいわば権利を与えられるわけですけども,それも含めて,目的意識が見え見えではあるのですけれども,日本のビジネスコミュニティーで関わったところで働くチャンスが大幅に広がりますから日本へ勉強に来てくださいという仕掛けみたいなことがあっても良いのではないかというのが1つです。これは過去にも議論していましたし,今それがどういう状況かということを必ずしも正確に把握していませんけれども,教えていただきたいと思います。

 もう1つとして,白石委員が当時おっしゃっていたのですけれども,少し話が長くなりますが,私のところにこの3,4年中国で毎年同じ高校から留学生が来ています。私が意識しているわけではないのですが,ゼミの募集をする際に,少し応募が多いものですから,良い学生しか採らないのですけれども,結果的に同じ高校から来ている学生を採っている状況があります。瀋陽の近くの高校だったと聞いています。学生に聞いてみると,そのクラスの生徒はほとんど全員日本に来るということです。おそらく成績の良い生徒は東大に行って,そうでない生徒は他の大学に行くのかもしれませんが,日本では全く関与していないにも関わらず,中国にそういう高校があるということは結果的に潜在的に優秀な学生が日本に来てくれるということです。つまり,外の教育システムの中に,留学生数は稼がないにしても,優秀で来ていただきたいという学生を囲い込むような仕組みがあっても良いと思います。今ハーバード大学へ戻られた竹内弘高さんが日経新聞で書いていましたけれども,彼は何も知らないうちに,インターナショナルスクールに入学させられてしまい,結果的に彼はアメリカに留学して,ハーバードのいわば花形プロフェッサーになって日本に戻ってきました。

 ですから,いろんな経済支援とか,経済協力とかいう話があるので,場合によってはそういう日本の教育下に,大学なら大学で,ある種ゴールデンシートといいますか,スペシャルチャンネルのようなものを実験的につくってみてはいかがかと思います。今の海外の日本人学校というのは日本人のための仕組みで,それはもちろん必要ですけども,そういうものを少し広げてみて,例えば,現地の人も加わるような形にして枠組みを広げるだけで,100人でも優秀な学生が色々な国から日本の大学へ来るだけでも随分違うと思います。そういう意味で,日本にどういう形で優秀な学生に来てもらうかということについて,色々仕掛けがあり得ると思います。

【土居委員】日本で教育して,どのような形で人材を輩出するかという観点について,私も非常に悩ましいなと思って話を伺っておりまして,特に大学院に関して言えば,文系の大学院に関しては,ただでさえ日本の修士課程を終えた大学院生を送り出すという時になると,ビジネススクールやロースクールは別として,学部学生とは違う形の職につくことはなかなか大変です。これは私の理解では今までの日本企業は文系大学院を卒業した学生をすぐに採用するということにそれほど積極的ではなかったといいますか,文系の学生を求めるマーケットがなかったということによるところが結構大きいと思うのですが,産業界の委員がいらっしゃるので,お伺いしたいところなのですが,仮にそれなりの人材が育成されたとすれば,日本の大学院,特に修士課程を出た学生でも採用するという素地が日本の産業界の中ではありそうなものなのでしょうか。

【市村委員】私の知る限り,大学院の卒業生が商社業界で働いているケースはよく聞きます。その中には技術系も入ります。学生時代に何をしたか,あるいは,本人にどういう能力があるかというのを総合的に判断して採用していると思います。

【土居委員】入社後のキャリアパスは学部卒の人よりも何か違いはあるのでしょうか。

【市村委員】違う点は入社年度が2年先行扱いになるというだけです。ですから,大学院の卒業生は入社3年目扱いになるということだけのインセンティブです。

【白石委員】私は日本貿易振興機構(ジェトロ)の下にありますアジア経済研究所というところの所長をしていますけれども,2年ほど前に日本のトップクラスの大学を卒業して,アメリカの大学に行って,Ph.D.を取得して,ワールドバンクで長い間働いてシニアエコノミストになった方から日本に帰って来たいという話があり,喜んで採用しました。そこで,事務に彼の給与を計算してもらうと,同じ年齢の高卒者よりも給与が安かったのです。なぜかというと,要するに,日本の大学に入る時期に遊休期間があったからということでした。それから,卒業して,アメリカでPh.D.を取るにもかなり時間がかかっているとのことでした。つまり,普通の国のシンクタンクの給与システムだと,Ph.D.を取るインセンティブはない仕組みとなっています。それは公務員も全く同じだと私は思います。MAやPh.D.を取得したら給与が上がるかといいますと上がりません。この点を変えるだけでも実は相当変わってくるのではないかと思います。そこで,国際的に申しますと,発展途上国ですら,Ph.D.を持っていないとある職種には就けないというのはごく当たり前になっているので,文部科学省の所掌範囲を超えているとは分かりきった上で申し上げておりますが,やはり国としてこれは重要な問題であるということを是非提案するということは重要であると思います。

【河田座長】以前,李登輝さんにお会いした時,我々の内閣には海外,特にアメリカの大学院を修了したPh.D.が十人近くいるが,日本の当時の内閣を見てもPh.D.が1人もいない。我々はある意味で日本を追い越しているという話をされていました。それから,高校卒業後の大学進学率を見ても台湾は今79%くらいです。だから,国全体として修士や博士などの学位についての評価や認識が少しちょっと違うのかもしれません。

【新浪委員】先ほどの土居委員のご質問についてですが,私が入社した頃はどちらかというと理系が非常に評価されていて,例えば航空工学など学んだことが活かせる分野に結構進んでいたと思います。

 ただ,文系で2年間何を学び、何に活かせるかというのはなかなか難しいかもしれません。ですから,市村委員がおっしゃったように,2年とはいいませんが,2年プラスそこで何を学んだかというバリューが必要であり,その分キャリアにおいて早くチャンスが恵まれるかどうかというのはまた別の問題であると思います。逆に,2年学んだことが,本当にきちんとした中身があれば活かされるだろうし,そうでなくても,学部4年間できちんと学んできた学生は相応に評価されます。ある意味,ビジネスはフェアゲームをしているのだと思いますし,そこで差をつける必要はあるかと思います。ただ,やはり科学とはちょっと違うのかもしれません。そこは,例えば,韓国の企業ではPh.D.をどれだけたくさん出しているか,特に技術系,ものづくり,そういった分野にとっては大変重要かもしれません。一方で,例えば,法科大学院も随分増えて,そこの修了者が何かプラスになるような要素が産業界としてあるかどうかという問題もあります。

 だから,産業界にとってどのようにプラスとなるかという点が重要であると思います。例えば,経済学を2年間学んだからといって,どのようにプラスになるかというのはあまりイメージできないと思います。むしろ逆に頭でっかちなイメージがあって,もっとプラクティカルにできれば良いのですけれども,一方で,卒業後すぐに就職せずに,ビジネススクールに行ってもあまり価値がないだろうなとも思います。その辺でなかなか難しいかもしれません。

【伊藤委員】例えば,Ph.D.とか,マスターを取ったから良くなるかどうかというのは別ですけれども,長く大学生を見ていて非常に不幸だなと思うことは,ほとんどの学生は3年次か4年次で,世の中のことがまだほとんどわからない中で就職活動をしていて,ある意味で見ると,体力があって従順だが,頭の中は真っ白で会社に入ってきてすぐに染まってくれる学生が一番良いような採用をしています。だから,20,22,23歳くらいで若い人が就職に血眼になり,会社に入ってしまえば,もうその会社の中でずっと一生,商社なら商社,あるいは,メーカーならメーカーの中で閉ざされてしまうことは非常に不幸な状況だと思います。アメリカは少し特殊かもしれませんが,例えば,Ph.D.のコースに入りますと,隣にいた学生は中年の学生で,年齢を聞いたところ33歳でした。今まで何をしていたか聞いてみたところ,どこかの山奥で金鉱を掘っていて,金が出なかったから,自分は今こうしているとのことでした。今では,ジョーンズ・ホプキンスの教授をしており,有名な仕事をしています。

 だから,人生の中である年齢までにその大学を出て会社に入らないとキャリアになれない,しかも,昭和何年卒は同期で,同じように上がっていくという仕組みはわからなくはないですけれども,ここが変わらない限りはなかなかこのグローバル化,つまり,多様な人材を多様な形で受け入れていくということは難しいのではないかと思います。これは誰が変えるかという問題は難しいので,いずれ変わってくるのだろうと思いますが,経済学の修士があるから付加価値がつくということではなくて,色々なキャリア,あるいは,色々な教育のバックグラウンドみたいなものを持った人たちが活躍できるような場をつくっていくことが必要だと思います。そういう意味ではフェアゲームでもちろん行うということであると思いますけれども,そこが今回のグローバル人材を育成するというところで大きなネックになっている気がします。

【市村委員】今の就職活動の問題につきましては,日本貿易会が昨年11月に就職活動の長期化の是正をすべきであるという提言活動を行いまして,その後に国立大学協会,公立大学協会,私立大学連合会の皆さんに賛同していただきました。その後,経済団体でも経済同友会と日本商工会議所等は,私どもが提言した学部3年次終了時,いわゆる3月から広報活動を始めて,8月に採用選考活動を行うということで,これまでより半年後ろ倒しにするという提言をさせていただいて,経団連を除いてまとまってきています。ただ,経団連の方は加盟会社がやはり1,200くらいありますので,それぞれの事情があることから,一概にまとめるということは簡単でないことから,現状では12月からの広報活動ということで,これまでより2カ月後ろ倒しという程度で行おうと今取り組んでいます。昨日ありました国会議員との会でも同様の話題が上がったのですが,3年間は勉強させなくてはいけないというのは共通の認識になってきていますので,まだまだこの就職活動の是正の問題というのは続くと思います。

【河田座長】たたき台の4ページ目に具体的方策として大学の役割があり,グローバル化するための方策の第3番目に9月入学の推進というのが盛り込まれており,国立大学もそうですが,私立大学もかなり9月入学が進んでおります。そうすることで,優秀な帰国子女をこの9月期に入学させるということは良いのですけれども,あまり入学者はおりません。なぜかといいますと,このタイミングで入学したとしても,6月に卒業したのではもう企業が採用してくれないとのことです。だから,企業も新規採用を4月に限定するのではなく,もう少し柔軟な採用枠をつくっていただき,卒業年度についても,新卒に限定しないなど,ご努力いただきたいと思います。

【市村委員】現実問題として,既卒者で就職していない学生を3年以内は新卒扱いにするということは業界としても決めていますので,9月入学に変えなくても,1年遅れて留学して卒業しても新卒扱いで,大学を4年間ではなく,5年間学んできたということです。

【河田座長】一般的に仕事を始めるのが4月1日で,入社式も行われます。大学は9月1日に入学式をして秋学期としていますので,その卒業生を9月1日から企業としても採用していただければ,9月採用もあり,社会あるいは大学も変わるのではないかと思っています。

【市村委員】いわゆる中途採用というか,そういう制度もありますから,その辺をうまく利用して入ってくる人がいるみたいですけど,ただ,9月というのを制度化するかどうかというのはまだ議論したことがないと思います。

【新浪委員】特にグローバル人材育成のための寄附講座など、クイックインといいますか,すぐに対応可能な取組は,日本貿易会でも行っておりますが,早く取り組んでいくべきであると思います。前にもお話ししましたとおり,商社マンの話など,学生に関心を持たせる仕組みというのはもっとつくっていかないといけないと思います。

 そういった意味で,海外でのいろんな苦労話や,苦労の後にどのようなリターンがあったかという話を大学で行うと関心を持ってもらえるのではないでしょうか。これは草の根の取組であると思いますが,非常に重要なことで,私も自分の出身大学でなくとも呼ばれることもあります。学生に対して色々な話をして,違う世界を伝えますと,学生が皆目を輝かせて聞いています。学校の先生のみならず,そういった仕組みづくりというものは企業として,自分たちにとりましても後々戻ってくることです。理想を言えば,寄附講座をして,法人税を控除してくれるという話もあれば非常に良いわけですし,何かインセンティブを政策として与えることは国ができることで,また,企業がそれに基づいてアピールをしていけば良いと思います。また,これがきっかけとなって就職にも結びついたり,インターンシップに参加する学生が増えたりするかもしれません。グローバルな経験をされた方が,若手でも,年齢を重ねて苦労をされた方,プラントを行った方など,そういう人たちの話を聞く機会を設けることはすごく有効なことだと思います。

 だから,今すぐお金もかからずにできることとして,寄附講座であったとしても,行くのは手弁当でも良いわけですので,自分自身で行ってみて,こういった取組をもっと広げていくことがすごく重要であると思います。その時の学生の目の輝きといいますか,実は学生の目の一番輝くのは外国人ですけれども,これはこれで良いだろうと思うのですが,ベター・ザン・ナッシングで,やはりそういった中で質問をたくさんする中国人の姿を見るとすごいとは思いますけれども,一方で,日本人は日本人の表現の仕方があって,こういう寄附講座はとても有効であると思います。

【伊藤委員】今の新浪委員の話に触発されたのですが,こういう考え方,こういう仕組みをどのように進めていくかという具体論の中で,まだうまく頭の中で整理できていないのですけれども,私はある時おもしろい経験をしたことがありまして,MITが自動車プログラムというものを行ったのです。アメリカの自動車産業が非常に遅れていると思い,日本にどのようにしてキャッチアップするかということで,80年代の中頃に行われました。場所はMITで,金はどのようにして集めたかは知りませんが,寄附講座もありますし,ひょっとしたら国がお金を投入したかもしれません。プレーヤーとして,日本の経験を知りたいとのことから私のような者が呼ばれたり,あるいは,エンジニアも呼ばれたりと,外の人もいっぱい来ました。そこでアメリカの自動車産業をどうするかという話をつくり上げて,今度アメリカの政策論になるわけですけれども,例えば,日本のグローバル人材を育てる何か1つの推進策をつくってみようというときに大学が良いのかもしれません。こういう具体策を議論するだけではなくて,実際にそこで学生を引っ張ってきて,そこから実験的に人を育成してみることです。ですから,何かそういう推進のメカニズムみたいなものを1つでもつくってみるとおもしろいかもしれません。その場合おそらく企業も関わってくると思いますし,若い人がそこで色々な教育を受けますし,あるいは,そういうものについて現場を見ながら次の政策について議論するということもあり得ると思います。グローバル人材をどのように育てていくかということは,ひょっとしたら,アメリカの当時自動車産業をどうやって競争的にしていくかということと同じくらいのレベルの政策的重要性があると考えますと,そういうことを何か,この報告書でなくても良いのですが,次のステップで行っていければ良いと思います。もちろんグローバル30の取組なども大事であるだと思いますし,良いと思いますので,突然こういうことを行いましょうという前に5年くらいの付加的なメカニズムのようなものがあると良いと,思いつきですけれども思いました。

【土居委員】新浪委員の寄附講座のお話につきまして,私も寄附講座のコーディネーターをやっている関係でまさにそのとおりだと思いました。特に企業の方などの実際の話を聞くということが学生にとっては非常に効果的です。ただ,大学のカリキュラムの都合上オムニバスといいますか,講演会ばかりを行うわけにもいかないという時があります。そうはいいましても,少なくとも講義を15回,10回の中で2回くらい,こういう特別講演みたいな形で行うということだけでも相当違ってくるという印象は,私も何年か寄附講座をやっていて学生の反応を見ていると,そうであるという印象がありまして,そういう意味ではいろいろな形でこういう寄附講座が導入されることをむしろ促進するような方策があっても良いのではないかと思います。おそらく1つ障害になってくるのは,カリキュラムの中でどのように寄附講座を組み込むかという点で,まさに産学連携でプログラムを学科ないしは大学院のコースの中でうまく組み込めるような形で寄附講座をお受けして,それで人材育成を行っていくという連携ができましたら,尚更良いのではないかと思います。

 また,別件ですけれども,具体的方策の中の大学の役割の中で1つ,私の印象として,大学でこれを実行するために色々と障害があると思われるようなところで言いますと,補助金等の資金をいろいろな形でいただきますが,その使途が制約を受けていて,必ずしも使い勝手が良くないというケースがあるわけです。特に国からいただく場合ですと,色々な制約があります。従いまして,できるだけそういう制約がない形で研究や教育に色々な形で柔軟に使えるようにするという必要があるのではないかと思います。大分,弾力化が進んではいると思いますけれども,こう言っては天につばするような感じかもしれませんが,私がよく言うことは,大学職員は官僚よりも官僚的だと思います。どういうことかと言いますと,制約があるとのことで,行いたい教育にお金が投じられないなんていう場合があります。その辺はまさに,大学内部だけの問題と必ずしも言えないようなところもありますので,そういう意味の柔軟化といいますか,単に規定上使って良いと書いてあるだけですと,本当に柔軟化が現場まで進むかどうかわからないというところがありますので,実態としても柔軟化が進むようなことがあると良いと思いました。そういう点につきまして盛り込まれましたら,よりこの目的が達せられるという印象を持ちました。

【河田座長】かなり色々な意見が出ましたので,それを盛り込みながら,軸足はやはり,フロンティア的なグローバル30なり,すでに選定された13大学をどういう方策で充実していくか,それがどのように多くの大学によって共有され使われるような形にしていくのかということであると思います。しかし,それだけにとどまらず,日本の高等教育の中でグローバル化を全体的に底上げしていくという視点を入れながら,まとめていくことができればと思っております。具体的には,例えば,たたき台の4ページですと,9月入学の問題,それから,学位取得プログラムの確立という点ですが,海外での大学の修得単位をどのような形でカウントしていくのかということです。この頃はダブルディグリーですとか,デュアルディグリーの議論も進んでおりますので,それをどのように取り入れていくのかという点もあります。また,帰国子女枠につきましては,かなり色々な大学で進んできております。

先日,加藤審議官もいらっしゃったかと思いますが,天皇の在位20年の御下賜金による日本学術振興会育志賞の授賞式がございました。これは大学院生でしたけれども,17名の人文科学,理工系,それから生物系の受賞者が決まりましたが,その時の答辞といいましょうか,お礼の言葉を述べられた西本希呼さんという京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究科の大学院生がいらっしゃいました。この方はたしか海外の高校を出て,日本の大学に入学し,現在はアフリカに住んでマダガスカル語の方言の研究をしているとのことです。その彼女がアフリカの方から自分は様々な支援と影響を受け,それが今の自分を形づくっている,また,恩師,学友,家族をはじめ多くの日本人,外国人に支えられて勉強できている。さらに,この育志賞でいただいたお金をどういう形で活かしていけば良いのか真剣に考えていきたいということを述べられました。我々は聞いていて非常に心を打たれるお話でした。やはりこういう若い世代の方々が次々と出てきていただければ日本の将来は安心だと思います。それから,外国の大学づくりへの協力ということで,実際にエジプトでそれが進んでおりますし,ベトナムも進行中であります。中国でもこれは可能でありましょう。こういうことにも援助していければと思います。国際的な通用性を確保するところで,連携,拠点づくりをして共有化する。それから,海外,特にアメリカの大学の先生方が日本のカリキュラムで問題点を指摘されていることはナンバリングです。それをしていないために日本の授業というものがわかりにくいということがあります。そういうことも工夫するべきであろうし,先ほど申しました海外の事務所,大使館,領事館の利用など,さまざまな形での推進策が考えられましょうし,企業の方からのご意見も取り入れながら是非とも充実した報告にしていければと思っています。

本日の議論を整理したものを事務局で取りまとめていただいて,もう一度委員の皆様に内容を見ていただいた上で,次回会議に向けての最終的な案をつくらせていただこうと思います。

 

(2)事務局から,今後の会議予定について,資料3に基づき説明があった。

【河田座長】本日は,委員の皆様のご意見をいただきましたので,これで一応の締めとさせていただきたいと思います。是非,次回もよろしくお願い致します。本日はありがとうございました。

―― 了 ――

 

 

 

 

 

 

お問合せ先

高等教育局高等教育企画課

茂里・石川・中島
電話番号:03-5253-4111(代表)内線:3378

-- 登録:平成23年03月 --