「今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会」論点整理【平成23年12月】

平成23年12月15日 

論点整理

(はじめに)

○医学部の入学定員については、従来、昭和57年及び平成9年の閣議決定により抑制が図られてきたが、昨今の医師不足に対する社会的ニーズを踏まえ、地域の医師確保等の観点から、平成20年度以降、増員が図られてきた。
○本検討会は、来年度以降の入学定員の中長期的な在り方について検討するため、平成22年12月に発足し、有識者からのヒアリングも交えつつ、鋭意検討を重ねてきた。
○一方、平成23年4月には、規制・制度改革に係る基本方針が閣議決定され、「医師不足解消のための教育規制改革」が盛り込まれた。この中では、医師不足や地域偏在といった現状認識を踏まえ、医学部やメディカル・スクールの新設も含め検討し、年度内に中長期的な医師養成の計画を策定することとされ、本検討会がその検討の場であることが前提とされている。
○本検討会において出された意見は、近年の少子高齢化や医療ニーズの多様化、社会経済情勢等を踏まえ、医学部入学定員の在り方や医学部新設の是非のみならず、医師の配置やキャリアパス、地域偏在や診療科偏在を踏まえた地域医療の充実、基礎研究及びイノベーションを担う医師の養成、グローバルな視点で活躍する医師の養成、総合的な診療能力を持つ医師の養成、医学教育の改革など、医学教育の在り方そのものに至るまで、非常に多岐にわたった。
○そこでこの度、これまで本検討会においてなされた様々な議論について、一定の方向性が示されたものや、引き続き議論を深める必要があるものを整理し、現段階での「論点整理」としてとりまとめたものである。
○この「論点整理」の構成は、地域間や診療科間の偏在の解消の方策についての意見、今後の医学教育に何が求められるか、そのために何をすべきかという意見を整理した上で、医師養成数の増加が必要な部分については、既存の医学部の定員の増員を行うべきか、あるいは新設を行うべきかという点についての意見を整理している。
○今後、本論点整理を踏まえて、直ちに取り組める施策については、文部科学省や厚生労働省をはじめとする関係者が、必要な財政的措置や取組を早急に進めることが望まれる。
○そして、医学部入学定員の在り方や医学部新設の是非など、本検討会として議論を行っていく点については、広く国民的議論を期待するとともに、政府の関係審議会等においても本検討会での問題提起に関連した議論が行われることが必要である。

1.医師の配置やキャリアパス等について

[1]地域偏在や診療科偏在について

・厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師調査」によれば、地域間及び診療科間で医師数の偏在が見られる。都道府県間の医師偏在状況では、人口10万人対医師数が240 を超える都府県がある一方で、埼玉県や千葉県など関東地方では人口10 万人対医師数が180 を下回っている。
・さらに、同一都道府県内でも、一般に県庁所在地等の都市部よりも、郡部などにおいて医師が少ない。また、北海道等非常に広い自治体もあり、人口比に加えて面積も考慮する必要がある。
・診療科ごとの状況をみると、医師数の全体的な増加傾向にもかかわらず、外科や産婦人科などにおいては、全体の医師数の伸びと比較して伸びが小さい傾向にある。
・本検討会においては、この点について、地域偏在の問題については、地域に行ってしまうと戻ってくることが難しいのではないかという医師の不安は大きいといった意見や、診療科の偏在について、日本学術会議や日本医学会などのレベルで専門医の数と質の規制をしていくことが考えられないかといった意見があった。
・大学としては、これら偏在の問題に対しては、地域枠により地域の医師を確保する施策が進めてきているところであるが、さらに医師が地域で働きやすい環境の整備のため、医師のキャリアパス構築や、医師派遣支援システムの再構築などの取組について、都道府県等関係団体と協力していくことが望まれる。
・また、医師に対して地域医療に従事するインセンティブを付与することや医師の地域配置等に関する何らかの制度的な措置も必要であるという意見や、例えば産科においては、多少アクセスを犠牲にしてでも、交代制ができる数の専門の医師を集約して配置するということも必要ではないかという意見があった。
・医療提供体制や医師の勤務環境、専門医制度等の見直しの必要性に関する指摘については、厚生労働省や関係団体においてそれらの議論が行われるにあたって、本検討会の意見も踏まえた議論が行われることが望まれる。

[2]医師のキャリアパスについて

・医師は、医学部を卒業した後にも、臨床研修、専門医となるための研修、指導医となるための研修など、継続的に学習を続けていく職業である。このため、大学病院等の研修の場にアクセスしやすい地域に医師が集中することとなる。
・また、専門医として活躍していくために、治療にあたる症例数が多く、最先端の知識を学習できる環境が整った都市部の基幹病院を選ぶ傾向があると言われている。
・本検討会においては、この点について、地域で働く若手の医師に、例えば適切な人事ローテーションにより専門医となれるキャリアパスや診療経験を生かした研究を行うキャリアパスを見せることで、地域医療へのモチベーションを高める必要があるといった意見や、将来の医師数を考えていく上では、医師のキャリアパスのモデルを考えるべきであり、今後は、研究や留学、場合によってはそのほかの職業に変わっていくということもあり得る、といった意見があった。
・こういった意見を踏まえると、若い医師が将来展望をもって地域に定着できるよう、例えば地域枠の設定にあたっては、専門医研修や研究に従事するための義務年限の弾力的な取扱い等、医師のキャリアパスを考慮した魅力のある人事システムを構築していく必要がある。

[3]医師派遣等の支援システムの再構築について

・医師の地域偏在の問題に対しては、自力で医師の確保が困難な地域の病院や診療所等に対し、大学病院や地域の基幹病院等が医師を紹介・派遣することで、対応がなされてきた。
・こうした点については、大学病院と地域の基幹病院等が密なネットワークをつくりながら、地方と都市部等を循環できるような医師養成システムをつくっていくことが重要といった意見や、透明性を確保しつつ大学が医師派遣システムに関与していってほしいといった意見、都道府県が責任をもって医師を配置する機能を果たすことが重要といった意見が出された。
・また、ヒアリングで紹介された、地域医療を支援する人材を大学病院に在籍させて、大学で教育研究をしつつ地域医療を支える体制を築くような取組も有効な方策の一つと考えられる。
・こうした意見を踏まえると、厚生労働省が予算財政面で支援し、都道府県が実施する地域医療支援センターのような、地域における医師派遣支援の仕組みを構築するにあたって、大学病院が適切に関与するよう、国として積極的に大学、都道府県間の連携を促していくことが求められる。
・なお、地域偏在、診療科偏在の背景には、平成16 年から開始された臨床研修制度の影響も指摘されている。臨床研修制度については、研修医の基本的な診療能力が向上したとの意見がある一方で、臨床研修制度の開始に伴い、大学医学部の医局への入局者が減少し大学病院の医師派遣の機能が低下したとの指摘がある。
・臨床研修医採用状況を見ると、臨床研修開始前の平成15 年度では、大学病院で臨床研修を受ける者の割合は72.5%だったが、平成23 年度現在で45.0%まで低下しており、大学病院が新たな医師を獲得することが以前より困難となっている。一方で、若手医師にとって、出身大学等の意向に縛られずにキャリア形成のできる現行の臨床研修制度は重要という考え方もある。
・こうした点について、日本医師会の提言も踏まえ、研修先の選択の自由度を維持しつつ、地域偏在の解消も視野に入れ、人口や地理的条件など、地域の実情を踏まえて、研修希望者数と全国の臨床研修医の募集定員数が概ね一致するように設定される仕組みを構築すべきであるという意見があった。
・併せて、各大学が学生や研修医等に対し、研修希望先のアドバイスや調整等を行うことにより、若手医師がいわゆる「根無し草」となることを解消することができるのではないかという意見もあった。
・一方で、大学の求心力の低下の問題は、必ずしも臨床研修の必修化によるものだけではなく、各大学の教育の努力等により、臨床研修終了後の医師がまた大学に戻ってくるようにすることはできるのではないかという意見もあった。
・臨床研修制度の在り方については、大学の医師派遣機能も考慮した見直しが平成22 年に行われ、現在、厚生労働省において、改めて評価のための議論が行われているところであるが、その後の状況や本検討会で出された意見等を踏まえた検討が行われることが望まれる。

2.医師の勤務・診療に関する環境整備と女性医師の活躍支援について

・医師不足の現状に対して、医師の勤務・診療に関する環境の整備や、女性医師の活躍を支援することが必要であるとする意見が多くあった。
・この点に関し、医師に限らず女性が働きやすい社会としていくこと、男性も含めた医師が働きやすい勤務環境を整備することの2 つが必要であるという意見があった。
・医師の勤務環境については、特に若い医師の過重労働の問題を改善していく必要がある。厚生労働省の調査によれば、最も過酷な勤務環境である20代男性の病院勤務医の平均勤務時間は、1 週間に実働で57.4 時間となっている。
・また、医師の過酷な勤務環境に対応していく上では、特に女性医師の勤務環境を改善していくことが重要であると考えられる。女性医師の就業率は30 代中盤で最低となるという調査もある。また産科においては分娩を取り扱う女性医師が自身の出産を機に大きく減少するという指摘もあった。
・本検討会においては、この点について、医師養成から医師が増加するまでのタイムラグを考慮すると、医療クラーク、医師以外の医療人をできるだけ現場に増やし、医師の負担を軽減するべきといった意見や、ワーク・ライフ・バランスの実現の重要性、子育て中の医師を院内保育所や病児保育などでサポートする必要性を指摘する意見があった。
・さらに、専門的な看護師や保健師、医療クラーク等の様々な医療職種を、大学院レベルで高度な専門性を持つ人材として養成する取組が進められていることも、ヒアリングを通じて紹介された。
・こういった議論を踏まえると、大学としては、高度な医療職種の人材養成を推進し、医師の負担軽減を進めていくことや、医師が他の医療職種と連携して医療を進めていくチーム医療の視点をより重視した教育を進めることが必要である。
・現在、大学において女性医師や看護師等の復職支援プログラムの実施や、大学病院の院内保育所の整備等が進められているが、こうした取組が進められていくことが望まれる。

3.地域枠の活用等による地域医療の充実について

・大学や都道府県においては、地域医療に従事する明確な意思をもった学生の選抜枠や、卒業後に地域医療に従事することを条件とした奨学金を設けるなど、地域医療の充実に向けた取組を行ってきている。これらの取組については、従来から大学と都道府県の連携等によって実施されてきており、平成23 年度現在で、67 大学で入学定員1,292 名の地域枠が設けられている。(文部科学省医学教育課調べ)
・特に平成22 年度の入学定員からは、奨学金の設定等の条件の下、地域枠をつくるために医学部入学定員を増員することを認め、平成23 年度定員までで372 名の増員を図ってきたところである。
・こうした取組については、大学と都道府県等の連携によって実施されてきた取組の実績から大学所在都道府県に残る割合が高まることが確認されている。
・本検討会においては、この点について、地域枠は、地域でキャリアを積むうちに医師が定着するきっかけになるといった意見が出され、取組自体は肯定的に捉える意見が多かった。
・一方で、地域枠の学生を奨学金により、義務年限中の地域医療を強制するのではなく、地域で働いていくうちに、そこで働いていくことに生き甲斐が持てるようになる教育や勤務のシステムを検討するべきといった意見や、医師としての明るい将来展望をもってキャリアを積み、結果として地域に定着する教育を工夫していくべきであるといった意見があった。
・また、地域枠の学生のみならず、全ての学生が様々な地域も含めて医療現場を経験できることが重要であるといった意見もあった。
・これらの意見を踏まえると、地域枠の取組については引き続き継続していくとともに、学生の卒後の動向などについて取組の検証を行いつつ、地域への定着に向けてより取組の効果を高めていくことが必要である。
・特に、奨学金と組み合わせて実施する地域枠は、一般に、卒業後知事の指定する場所で勤務することが返還義務免除の条件とされるが、その際、医師としてのキャリアパスへの配慮が求められる。このため、都道府県が設置する地域医療支援センター等の医師派遣のシステムや大学病院の医師派遣機能の中で、地域医療への貢献と医師として学び続けることの両立を図っていくことが求められる。
・なお、地域医療の向上に貢献し、地域の医療機関等と連携協力していくことは、地域枠の学生のみならず全ての医学生に対して医師の社会的な責任として教育されていくべきことである。地域枠の卒業生のみならず、多くの医師が地域医療に携わることが望まれる。

4.基礎研究、イノベーションを担う医師(研究医)養成の充実について

・現在の医師養成の難しさは、地域医療等を担う医師の養成と、新しい医療を作っていく研究の推進との両方を解決しなければならないことにあるという意見があった。
・医学系大学院の基礎系の講座へ入る学生は、平成5 年度には医師免許をもつ者(MD)が59.2%であったが、平成22 年度では36.7%となっており、基礎系へのMD の進学率が低下している。
・本検討会の有識者ヒアリングにおいては、基礎研究医の養成について、卒後に研究に進む医師への直接的な支援や、基礎研究医の待遇の改善が必要といった意見や、学生は卒業してすぐに臨床研修を終えておこうとする傾向があり、これが基礎研究医の不足を招いているとの指摘があった。
・また、欧米では、多くの医師が行政機関や製薬企業や医療機器関係企業等で働いているが、日本では医師がなかなか集まらず重要な医薬品や医療機器等の開発に遅れが出ているという意見があった。いわゆるドラッグラグやデバイスラグの解消のためにも、グローバルに活躍できる人材養成が必要であるという意見や、直接開発に携わるだけでなく、行政や医薬品医療機器総合機構等の独立行政法人等で働く医師、科学技術の進歩と国民生活の安全・安心などの調和を図る役割(いわゆるレギュラトリーサイエンス)に関わる医師も必要という意見もあった。
・我が国の医学の強みは、臨床経験を有する医師が基礎研究を行えることであるとの意見もある。こうした意見を踏まえると、基礎研究医となる医師の減少に対する対策とともに、製薬企業や医療機器関係企業等で研究や開発に従事してイノベーションを担っていく人材を養成していくことも必要である。
・研究医の養成については、平成22 年度の入学定員から、複数大学の連携により研究医を養成するための医学部入学定員増員を、奨学金の設定を条件に認め、平成23 年度入学定員までに23 名の増員を図ってきている。
・研究を志向する医師が研究費やポストの面で不安を感じているのではないかという意見もあり、国としても企業や研究機関と連携して支援策を講じる等の方策を検討していくことが望まれる。
・学部教育の中では、研究を体験させるカリキュラムを構築し、将来、研究者になりたいという動機付けを行うことや、臨床研修に進む間に研究を志向するモチベーションを低下させてしまわないよう、医学生がシームレスに医科系の大学院に進学する方策を検討することも望まれる。

5.国際貢献等グローバルな視点で活躍する医師養成の充実について

・我が国の医療技術、医療サービスは世界最高水準にあり、グローバルな社会の中で医療の分野においても国際貢献を進めていくことが求められている。このため、これからの医師養成の数や質を議論する上で、国内の視点だけでなく、海外での医療で活躍できる医師の養成という観点など、グローバルな視点を持つことが必要になっている。
・現在行われている国内の医科系の大学の国際貢献活動としては、学生の派遣・受入れといった教育面や、共同研究の実施といった研究面での貢献のみならず、治療技術指導のための医師派遣等の医療面での貢献等が見られる。
・本検討会においては、この点について、長崎大学熱帯医学研究所などの発展途上地域へ医療協力する大学の取組や、貧困地域での医療活動の状況が報告された。この際、日本の医師が国際的に活躍していくためには、国として国際活動を行う医師を養成する場を提供していくことが必要であるといった意見が出された。
・これらの意見を踏まえると、後述する臨床実習の充実等、日本の医学教育を国際水準を上回るものとしていくことが必要である。
・また、我が国においては、大学教育全般に係る認証評価制度はあるものの、医学教育に特化した評価制度はない。国際水準の教育を実施していることを証明するためにも、日本の医学部がWFME グローバルスタンダードに基づくプログラム評価を受ける場合の環境整備の促進や、国内において医学教育に特化した評価の実施を検討していくことも望まれる。

6.総合的な診療能力を持つ医師の養成について

[1]総合的な診療能力を持つ医師養成の必要性

・地域医療の医師不足を背景に、自治体関係者や病院関係者から、へき地の診療所や小規模病院等で、様々な病気にまず対応できる総合的な診療能力を持った医師を育成することへの要望が高まっている。一方、ある程度の規模を持つ病院でも、医療の高度化に伴い、より専門分化が進む中で、どの科が担当すべきかわからない症状、複数の科に横断的な対応が求められる症状などへの対応ができる医師が求められる。
・高齢化という観点からも、様々な病気に複合的にかかる患者を、身近なところで診ることができる医師養成に重点を置くべきであるという意見があった。
・さらに、東日本大震災においても、全国の大学や都道府県から、災害派遣医療チーム(DMAT)が応援に駆けつけた一方で、救急だけでなく、慢性的な疾患への対応、複数の診療科にまたがる対応が必要となり、各大学からの医療支援チームや日本医師会の災害医療チーム(JMAT)などによる継続的な支援が行われてきた。こうした状況下では総合的な診療能力をもつ医師がより一層必要であるというヒアリングでの意見もあった。
・なお、総合医、プライマリ・ケア医などの定義については、統一された定義がないことから、今後、学会等の見解を踏まえて検討することが必要であるという意見があった。

[2]総合的な診療能力を持つ医師の養成のための方策について

・総合的な診療能力を持つ医師の養成を議論するにあたっては、総合的な診療を専門とするいわゆる総合医と、特定の専門を持ちつつ、他の専門領域もある程度診ることのできる医師の養成の両方が必要ではないかという趣旨の意見があった。
・特に、我が国では、専門医が開業することで地域の総合医的な役割を果たしてきた面もある。こうした状況を踏まえた上で、総合的な診療能力の質を担保できるような仕組みが必要であるという意見もヒアリングの中であった。
・総合的な診療を専門とする医師については、その育成のための医学教育が確立されているとは言い難く、例えば研修医の2 年間だけプライマリ・ケアの勉強をすれば総合的な診療能力を持つ医師となれるものではないという指摘もあった。
・総合診療を専門とする教授等の教育研究のポストの確保や、大学附属病院において総合診療部門を重要な部門として位置づけることなども含め、今後の教育の方法や体制の構築が求められる。
・また、専門を持ちつつ、他の専門領域をある程度診ることができる医師の養成については、卒前や卒後の研修における基礎的な診療能力の育成(プライマリ・ケア教育)や、臨床医の再教育や生涯教育において総合的な診療能力を高める研修などの充実を図ることが必要である。若い医師に、問診を重視した診断をそれぞれの専門科の中で教えていくということも必要である。
・なお、総合的な診療能力を持つ医師であっても、一人で全て完結できるわけではなく、他の病院や専門医との連携があってこそ多様な疾病に対応できる。このため、各大学等においても、それを活かす地域医療体制の構築に向け、病院内、病院・診療所や福祉施設等との連携や役割分担のあり方も、合わせて検討されることが望まれる。

7.医学教育の改革について

[1]カリキュラム改革の必要性について

・医学教育は、先に挙げた、基礎研究やイノベーションを担う医師、国際貢献等グローバルな視点で活躍する医師養成の充実など、多様なニーズに応えることが求められている。こうしたニーズに応えるために、大学の自律性に基づき、大学自らの努力により改革を進めることが求められている。
・本検討会では、短期間で医学部入学定員を増加したことなどにより医学生の学力が低下しているのではないかという意見があった。
・こうした多様なニーズや課題に応えるためには、平成23 年3 月に行われた「医学教育モデル・コア・カリキュラム」の改訂の柱である、[1]基本的な診療能力の確実な修得、[2]地域の医療を担う意欲・使命感の向上、[3]基礎と臨床の有機的連携による研究マインドの涵養という視点を、本検討会で指摘された様々な課題に対応していくために、どのように充実させていくかが課題である。
・このためには、多くの医学部の6 年次の時間の大半が、医師国家試験の対策に費やされ臨床実習が必ずしも十分でないと言われている現状を考慮し、6年間の医学教育の効果を高め、特に後述する診療参加型臨床実習の充実など、各大学におけるカリキュラム改革が求められる。

[2]各大学の特色ある教育

・これまでの医学教育の特徴として、他学部に比べ、卒業後のキャリアパスが画一的に考えられていたのではないか、もっと多様なキャリアパスを想定し、例えば地域医療に貢献する医師、臨床経験を研究に生かす医師、国際的な場で活躍する医師など、それぞれに応じた教育を考えるべきではないかという意見があった。
・これらを踏まえ、これからの医学教育は、どのような医師を育てるかというアウトカムから考えていくべきではないかという意見が多く出た。
・一方で、医学教育に関するニーズは非常に多様であり、全ての大学が全てのニーズに対応するというよりは、各大学のミッションに合わせた教育改革が期待されるという意見があった。
・「医学教育モデル・コア・カリキュラム」では、大学のカリキュラムのうち約2/3 程度をモデル・コア・カリキュラムに基づくものとし、残りの約1/3程度を、大学ごとの特色あるものとすることを求めている。
・基本的な診療能力の養成といった、すべての医学部での教育に求められる教育の充実を図りつつ、例えば、地域医療への貢献、国際的に活躍できる人材の育成、医学・医療の発展につながる研究を担う医師養成など、地域の課題やニーズを踏まえた上で、大学毎の設立の理念や特色を踏まえた教育を進めていくことが望まれる。

[3]一般教養のあり方

・医師としての専門教育のみならず、一般教養が改めて重要であるという指摘が多くあった。
・大学によっては、教養教育の内容が高校での学習の繰り返しになっていたり、医学教育のカリキュラムを全体として前倒ししたことにより、教養教育が質・量ともに貧弱になっているという意見もあった。
・これに対し、教養科目を、1年次または2年次に配置するのではなく、6年間のカリキュラムの中に入れていく等、大学6 年間を通したリベラル・アーツ教育とすることが必要という意見があった。
・なお、教養教育の充実と関連して、米国のように、一般の大学の学部で4年間学び、その後に医学部に入学するメディカル・スクールの設置を検討してはどうかという提案がヒアリングの中であった。一方、現在の医学教育、医師、学生の質を考えたときに、現在の医学部と4 年制のメディカル・スクールをダブルスタンダードとすべきではないとの反対意見があった。このような意見を踏まえると、教養教育の充実に関しては、制度の問題としてではなく、6 年間を通じて医師として必要な教養を学ぶことができるようにする等、各大学のカリキュラムの充実、改善が進むことが望まれる。

[4]診療参加型臨床実習の充実(基本的な診療能力の確実な修得)

・臨床実習は、概ね5年次から6年次にかけて行われている。しかし実施時間数がきわめて少ない大学があることや、全体としても時間が少ないこと、さらに実習の内容が見学にとどまるものが多いなどの問題もある。この背景として、前述の国家試験の準備に多くの時間を割くために実習が形骸化している場合があるのではないかという指摘があった。
・こうした中、医学部入学定員を短期間で増加させたことに伴い、医学生の能力が低下するのではないかという懸念に応えていくためには、特に臨床実習の充実が非常に重要であるという意見があった。
・このため、臨床実習については、学生が指導教員の下で医療チームの一員として、患者の診察、診断、治療等に参加する、診療参加型の臨床実習の充実が必要であるという意見が多かった。
・診療参加型臨床実習がある程度根付くことは、卒業後、早い段階から専門科の研修ができたり、臨床研修でのプライマリ・ケアの研修を充実できるなど、卒後の研修の充実にもつながるのではないかという意見もあった。
・また、米国のECFMG などから要求される国際基準にこたえるためにも、診療参加型の実習の量・質の充実を中心に、国際的に通用する医学教育としていくことが必要である。
・診療参加型臨床実習の充実のためには、指導教員の確保と、その指導力の向上が不可欠であるという意見があった。
・また、実習に協力する患者の確保が不可欠であることから、共用試験を充実させ、広く社会一般に認知してもらうことで、共用試験を通った学生が臨床実習を行う際に、患者の協力をより得やすくすることも重要という意見があった。一方、CBT やOSCE といった共用試験の合格基準は大学ごとに設定されており、共用試験に権威を持たせるためにも合格基準を統一する必要があるという意見があった。
・これらの意見を踏まえると、診療参加型臨床実習の充実については、各大学における取組が必要であるが、国としても各大学における取組を後押しすることが望まれる。

[5]地域病院等と連携した教育の充実

・大学病院は、多くの患者を抱えている一方で、特定機能病院として、専門科に分化して、地域の病院で対応が難しい患者などを中心に受け入れている。このため、学生にとっては、大学病院での実習だけでは、日常的にかかる疾病などを幅広く経験することが難しい。
・このため、学生の教育のためには、大学病院の中だけで臨床実習を行うのではなく、分院や地域の病院や診療所等との連携を行うことで、より充実した教育が行われることが必要である。
・例えば、地域の病院での実習によって、学生が地域医療や総合的な診療能力を持つ医師の役割を認識し、関心や意欲を高めることや、診療科を横断する基礎診療能力を育成したりすることが望まれる。また、介護や福祉関係との他職種連携を経験することも望まれる。
・臨床実習だけでなく、入学して間もない段階で、早期に地域での医療を体験することで、地域医療への関心、意欲を高めることも望まれる。
・ヒアリングで紹介された、福島県立医科大学が行っているホームステイ型の診療所実習、委員から紹介のあった東京慈恵会医科大学で行っている早期体験実習や、筑波大学が水戸協同病院と協力して設置した水戸地域医療教育センターの、一般病棟内に大学附属病院のキャンパスを設置して、指導教員を配置、学生実習を行っている例など、各大学で進められつつある取組を、今後さらに推進していくことが望まれる。
・このような地域の病院等と連携した教育を行うにあたっては、大学と病院等の間で、目標の共有を図るとともに、関係者の教育能力を高める研修の機会を継続的に行うことが望まれる。

[6]大学入学から卒後までを見通した教育の充実

・地域医療や国際貢献に対する熱意などの「志」というべきものは、カリキュラムの工夫だけでは育めないものであるから、入学段階から、高校と大学が連携し、志ある人材が入学できるようにすべきという意見があった。各大学と、高校や地方公共団体とが連携し、学力だけでなく、医療に対する確かな意欲や責任感のある医学生を受入れ、育てることができるよう、学生募集や入学選抜の工夫を行うことが望まれる。
・志ある医学生の確保のためには、各大学や自治体が行っている奨学金や授業料減免のように、能力と志のある若者が、経済的理由のみで医学部への進学を断念することのない道を開くことも必要である。
・医学部での教育の充実に関して、医学知識の評価は臨床実習前の共用試験において行い、医師国家試験は、より臨床実習によって培われた能力の評価に特化すべき等、医師国家試験のあり方についての意見も出された。医師国家試験のあり方については、厚生労働省の「医道審議会医師分科会医師国家試験改善検討部会」では、医師国家試験の内容について臨床実習での学習により重きを置く方向性が示される一方、大学における卒前OSCE などの実施状況を見ながら引き続き議論していくこととされた。本検討会での意見も踏まえた、国家試験の内容のさらなる議論や、各大学における取組が望まれる。
・卒前OSCE の実施については、現在、半数以上の大学で取組が行われている(文部科学省医学教育課調べ)が、実施に非常に時間がかかることや、教員の能力も求められることから、大学の負担軽減も考慮することが必要との指摘があった。
・また、知識や技能を磨くことはもとより、卒前・卒後を通して、医師としての社会的責任感や、「プロフェッショナリズム」を培うような教育が必要という意見もあった。
・卒後の教育については、臨床研修制度の評価や専門医制度の在り方について、厚生労働省において議論が開始されたところであり、本検討会における意見や提案された内容についても議論されることが望まれる。

8. 今後の医師養成体制の充実について

[1]大学における指導体制の充実の必要性

・今後、社会の期待に応えることのできる医師を養成していくためには、学生の指導をする教員の質、量の確保を初めとした体制の充実が必要である。
・医学部入学定員が増えればそれに見合った教員増が必要であるが、定員増に見合うだけの教員増が行われていないのではないかという意見があった。特に、地域枠の学生に対して、義務年限を超えて、やりがいや使命感を与えるよう教育体制への投資が必要であるという意見もあった。
・また、ヒアリングでは、大学によっては、国立大学の定員削減の中で、基礎系の教員が減ったことにより、解剖などの教育を担当する教員の確保が難しくなり、研究だけでなく、学生の教育に支障を来しているという報告もあった。
・さらに、今後、診療参加型の臨床実習の抜本的な充実を図っていくためには、実習の教育的効果や、医療安全の観点からも、十分な指導体制が必要となる。

[2]指導体制の充実の方法

・指導体制の充実のため、分野によっては他学部教員の活用や学部間連携による教育や、定数外のポストの活用、臨床教授等として卒業生や地域の病院等の医師の協力により対応できるのではないか等の意見があった。数の問題だけではなく、効率のよい、効果的な教育を行う工夫が必要との意見もあった。
・また、大学においては、全て教員から学生に教えるのではなく、いわゆる「屋根瓦方式」と呼ばれる、上級生から下級生、研修医から学生への指導など、様々な形での学習ができる仕組みを活かすことも必要という意見もあった。
・このほか、大学の人的リソースの確保のためには、臨床医のキャリアパスが見えるようにすること、また裾野の広い研究医を育てる体制を作り、若い医師等に見えるようにするなど、大学が若い医師に将来の青写真を提示できるようにすることが必要という意見もあった。
・一方で、こうした大学の工夫、努力だけでは限界があり、そもそもの大学の財政面の充実、安定も必要という意見や、大学が人材育成の拠点としての役割を果たすためには財政的な支援が必要という意見もあった。医療費や高等教育全体の財政的な問題などを踏まえつつも、国民のニーズに応えられる医師を、大学が責任をもって養成していくための環境整備も望まれる。

9.今後の医学部入学定員の在り方について

[1]検討の前提となる医師需要・供給の見通し

・医師数の需要と供給に関する中長期的推計については、厚生労働省が平成20 年に試算を行っている。これによると、需要の面では医師の勤務時間の上限の設定によって推計値も大きく変わり、供給の面でも医学部入学定員の設定の仕方が推計値に大きく影響する。同時に、社会の少子高齢化が進み、人々のライフスタイルが多様化するに伴い、国民が求める医療の在り方も変化することが予想される。
・本検討会においては、この点について、
○医師需要の将来予測を行うことは困難であり、米国を除いてどこの国もやっていない。過去の推計にはなかった、医師のキャリアパス、他職種との関係も考慮することが必要。(ヒアリング者意見)
○人口は今後減少するが、病気が多くなる65歳以上の人口は今後増加し、医療需要が増加してくることを考慮に入れるべき。
○将来的には若い人が減って高齢者が増え、ケアの内容が大きく変わってくる。また、要介護者が増えていく。
○医療が高度化して複雑になればなるほど、より多くの医者が必要となる。
○日本人の8 割が病院で亡くなる時代となっており、かつては開業医が担当していた「看取り」は、病院の勤務医が行うようになってきており、これが勤務医に大きな負担をかけている。
○患者だけでなく医師の高齢化が進むことも考慮に入れるべきである。
○多くの医師が過重労働を余儀なくされていることや、女性医師の増加を考慮すると、医師数を増加する必要がある。
などの意見が出された。
・他方で、
○需要は予測できないことを前提に、定期的に医師の養成数を見直していくという仕組みを作るべき。
○様々なデータを組み合わせ、地域医療の需給バランスや、各大学病院をとりまく状況を個別に可視化した上で、よりよい仕組みを構築していくべき。
○例えば、心筋梗塞が発症して病院に到着するまで何分遅れると死亡率がどのくらい上がるという研究もある。こうした医療提供体制に関するシミュレーションを行うことも必要である。
などの意見も出された。
・これらのことを踏まえれば、今後の医師数について需要と供給の正確な中長期的推計を行うことは困難であるが、今後の需要と供給、偏在等に影響を与える要素として、どのような要因があり、どの程度の影響があるかということを、整理することが必要であると考えられる。ただし、いずれの前提に立ったとしても、「現時点では、医師の需要が供給を上回っていること」や「将来的には、医師の供給が需要を上回る時期が来ること」については、程度や時期の差はあるにしても、概ね意見の相違はなかった。

[2]既存の医学部の入学定員増について

・厚生労働省が平成22 年に行った調査によると、前述のように、現時点では、医師数について需要が供給を上回る状況にあるが、この需給間のギャップを埋めるために考えられる方策として、既存の医学部入学定員の増員による対応と、後述する大学医学部の新設による対応について、意見があった。
・医学部の入学定員については、従来、昭和57 年及び平成9 年の閣議決定により抑制が図られてきたが、昨今の医師不足に対する社会的ニーズを踏まえ、平成20 年度から定員増が図られてきた。具体的には、平成23 年度の定員は、20 年度から計1,298 人増の8,923 人となっている。
・本検討会では、今後の医学部入学定員増について、例えば、
○既存の医学部の体制を強化しながら、医学部定員増で対応をしていくべき。
○将来的には、医師が余ってくると推計されている。この余った医師をどうするのか、我々は将来にも責任を持たなければならない。
○医療ニーズの増加が著しいので、特に60 歳以下の医師数は不足のままであり、余るということにはならない。
○現在の不足数をどうするかということと未来をどうするかということは分けて考える必要がある。
○地方の実感として、現在は医師の絶対数が足りていないため、医学部入学定員を増やすべき。また入学定員増による医師養成を待つことなく早急な地域の医師不足対策も必要である。
○東日本大震災による医師喪失・不足に対応する目的で、10 年間の時限つきで被災地にある医学部の入学定員増を提案したい。
○医師数を増やすべきでないとするならば、偏在対策についての議論が必要であり、増やすべきとするならば、都市部への集中傾向や医療費の問題を議論すべきである。一点だけを議論するのではなく、システムとして考えるべき。
などの意見が出された。
・また、定員増に関係して、
○地域のニーズを議論した上で、国民の税金としてどこまで賄うのか、地域のお金でどこまでやるのかという議論をしていくことが必要。
○米国並みの医療サービスを日本で提供するならばもっとずっと医療費がかかるだろうが、医療費に対する財源確保が難しいのではないか。とする意見が出された一方で、
○日本の対GDP 比医療費(8.1%)はOECD 平均(9.0%)に比べて低いとの指摘があるが、医師養成にかける費用も少ない。高等教育費を回復する機会があるならば、例えば総合医の養成に力を入れる大学に手厚くすることが考えられないか。
などの意見が出された。医師不足対策としての入学定員の在り方等を検討するに当たっては、今後の財政や社会保障の在り方についても念頭に置きながら議論を進める必要がある。

[3]医学部の新設による対応について

・現下の医師不足への対応として、前述の入学定員の増員による対応のほかに、大学医学部の新設による対応についても検討を行った。
・この点について、本検討会においては、
○既存の医学部の入学定員を増やしているが、教員も増えておらず、十分な施設もないという状況である。この対応を現場に強いるのは限界があり、医学部を新設すべきである。
○医学部が東西に偏在しているため、医学部を東日本に新設して地域偏在を解消するべきである。(ヒアリング者意見)
○新しい医学部を設置することにより、新しい医療ニーズに特化した医師養成が可能となる。
○既存の大学の抜本的な改革が進まなければ、新しいタイプの医学部をモデル的に設置し、例えば財政の安定した総合大学で年間授業料を抑え、広く門戸を開いて、社会と時代のニーズに合う医師養成を行うことが必要である。
○医師の絶対数を増やす以外の方法による医師不足解消の取組は今後も必要であるが、それだけで解決することは難しい。
○少なくとも2035 年頃までは、医学部新設による対応を行い、その後の対応はその時点での様々な社会情勢の変化を見て検討すべきではないか。
など、新設が必要という意見が出された一方で、
○より質の高い医学教育ができるシステムを持つ医学部の新設を検討するのもよいかと思うが、医師数を増加させるためだけに医学部を作るのは反対である。
○仮に医学部を新設すると決めたとしても、実際に医師が働くまでには相当の時間がかかることを考えると、教員などを増強しながら、新設ではなく今の医学部の定員増で対応して医師を育てていくべきである。
○将来的に医師数が過剰になった場合を考えると、新設した医学部を廃止することは困難であるので、既存の医学部定員数の調整で対応していくべきであり、医学部新設は到底考えられない。
○日本全体で地域偏在と診療科偏在の解決システムを考えなければならないのであって、東日本に医学部を作れば解決するという問題ではない。
○これまで医学部は相当の改革努力を行ってきている。既存の大学の教育には限界があるから新設が必要という意見には反対する。
○既存の医学部ではできないという新しいタイプの医学教育とは、一体どのようなものか明らかでない。
○今の医学部が中から変わらなければ医療は変わらないので、今ある大学が変わろうとすることを支援すべきである。
○医学部を新設するには、指導力のある優秀な医師を教員として確保するために広く医師を募る必要があり、結果的に地域の病院や基幹的な病院における医師の不足が助長される。
○多額の費用を注ぎ込んで新設を行うよりも、まずはこれまで定員増した、医学部増設に匹敵する、約1,300 人の学生の教育に十分な投資を行うべきである。
など新設によらず既存の医学部の入学定員の増加と偏在解消の取組を行うべきという趣旨の意見が出された。
・本検討会のこれまでの議論では、新設を行うべきという意見については、新設の意義や必要性を指摘する提案はなされたものの、将来医師数が過剰になった場合の調整や人材・財源確保等の問題点を解消する明確な方策を見いだすには至っていない。
・一方で、新設ではなく既存の医学部の増員で対応すべきという意見についても、増員の効果が出るまでの間、当面の医師不足の状況をどう改善するかという問題について、いくつかの方策や方向性の提案はなされたものの、これらの取組によって問題が解決できるという確証を得るには至っていない。
・また、新設・増員のいずれについても、医師の絶対数を増やすだけでは直ちに地域や診療科間の偏在の解消にはならず、増加した医師が偏在解消に寄与できるような仕組や方策を講じることは共通の課題である。
・このため、当面は、提案された医師不足解消のための取組、地域医療に従事する人材の育成の取組を実行に移しつつ、これらの取組やこれまでの増員スキームの効果を継続的な検証と、医師需給や偏在に影響を与える要因についての分析を行い、需給にかかる諸状況の変化を随時見極めながら、本検討会として議論を行っていくことが必要である。
・なお、今後議論を行っていくに当たっては、例えば医師数を増加することとした場合の医療費負担の問題や、医療機関の機能分化を推進するとした場合の国民の医療アクセスの問題など、医学・医療の専門家だけで議論し結論を出すだけでは十分でない論点もある。こうした問題については、今後可能な限り速やかに、本検討会での議論だけでなく、国民的議論が行われるよう促すとともに、政府の関係審議会や検討の場、都道府県における医療計画等に関する議論等においても本検討会での問題提起に関連した議論が行われることが必要である。

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医師養成係
電話番号:03-5253-4111(代表)(内線3682)

-- 登録:平成25年11月 --