大学共同利用機関法人情報・システム研究機構の平成21年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 情報・システム研究機構(以下「機構」という。)は、情報に関する科学の総合研究並びに当該研究を活用した自然及び社会における諸現象等の体系的な解明に関する研究を行う我が国の中核的拠点として、「国立極地研究所」、「国立情報学研究所」、「統計数理研究所」及び「国立遺伝学研究所」の4つの大学共同利用機関(以下「機関」という。)を設置する法人である。
 機構は、各機関における研究活動に加え、生命、地球、環境、社会等に関わる複雑な問題を情報とシステムという立場から捉え、実験・調査・観測による大量のデータの生成とデータベースの構築、情報の抽出とその活用法の開発等に関して、分野の枠を越えた融合的研究と新分野の開拓を図るとともに、その成果と新たな研究領域に対する研究基盤を広く共同利用に供することを目指した研究活動を行っている。
 業務運営面については、仕事と育児等の両立を支援するため、育児部分休業制度の対象となる子供の年齢を、小学校第3学年が終了する3月末まで延長する職員の育児休業に関する規程の改正を行うなど、男女共同参画に関する取組が積極的に行われている。
 一方、平成19年度及び平成20年度の評価結果において、自己評価の適切な実施を求めたが、根拠が不十分なまま「年度計画を上回って実施している」と自己評価している事項が多く見られた。法人の自己評価は国立大学法人評価制度の根幹であり、法人の業務運営の改善等には不可欠の要素であることから、厳格な実施を改めて強く期待する。
 教育研究等の質の向上については、ライフサイエンス統合データベース事業の中核組織として設立された「ライフサイエンス統合データベースセンター」において、生命科学データベースカタログ登録807DB(データベース)、生命科学データベース横断検索対象250DB、データベース受入れ累計30DBを達成するなど、着実な成果を上げている。今後は、「新領域融合研究センター」を立ち上げて推進している4つの大型研究プロジェクトについて具体的研究成果の創出に向けた一層の取組が推進されることが期待される。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 国立情報学研究所では、基盤研究費の配分基準の見直しを行い、研究活動の総合評価に基づく配分を導入したことにより、教育研究活動に応じた柔軟な配分を実現した。また、重点プロジェクト及び共同研究については、グランドチャレンジ課題を設定し重点的に研究費を配分したことにより、現在の情報学において難題とされるテーマにおけるブレイクスルーを支援した。研究施設のプロジェクト予算についてもヒアリングに基づく配分を行った。

○ 職員の育児休業等に関する規程において、仕事と育児等の両立を支援し、女性職員が活躍できる職場環境作りのため、育児部分休業制度の対象となる子供の年齢を国家公務員の水準を上回る小学校第3学年を終了する年まで延長する改正を行った。

○ 国立極地研究所では、平成20年度に計画した「南極観測センター」を発足させ、観測、設営、派遣等が一体となった効率的な南極観測体制を確立した。

(法人による自己評価と評価委員会の評価が異なる事項)

○ 「機構本部の総合企画室の下に設置したサブグループが有機的に活動を行い、それぞれが担当する事項について企画・立案等を行う。」(実績報告書14頁・年度計画【3】)については、機構シンポジウムの開催や自己点検、評価等において、各担当が連携した取組を行っており、年度計画を十分に実施したと認められるが、当該計画を上回って実施したとまでは認められない。

○ 「前年度の内部監査結果のフォローアップを行うとともに、監事及び会計監査人との連携により効率的な内部監査を実施する。」(実績報告書18頁・年度計画【9】)については、これまでに策定した不正防止計画等に基づく内部監査が実施されるとともに、再周知を図るなどの取組を行っており、年度計画を十分に実施したと認められるが、当該計画を上回って実施したとまでは認められない。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載30事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 国立情報学研究所では、研究の成果物(ソフトウェア)の商標の使用について、ブランド戦略の下に民間企業と、ライセンス契約を締結し、維持経費の削減等運用及び流通の自立化を図った。

○ 国立極地研究所では、科学研究費補助金について、所長と教育研究担当副所長が、助教、講師、准教授を対象とした面接を実施することにより、平成21年度では33件、総額約1億9,340万円の交付を受け、採択率34.7%と、前年度比18.9%増となった。

○ 国立極地研究所及び統計数理研究所では、立川移転に伴い、国文学研究資料館(大学共同利用機関法人人間文化研究機構)と共通する役務提供等について、法人の枠を超えた一括契約を締結し、事務の効率化及び経費の節減を図った。

(法人による自己評価と評価委員会の評価が異なる事項)

○ 「特許、出版物、ソフトウェア、データベース、講座等の研究成果に基づく収入増の方途を探る。」(実績報告書40頁・年度計画【29】)については、統計数理研究所における公開講座において収入を得たほか、収入増に向けた取組が行われており、年度計画を十分に実施したと認められるが、当該計画を上回って実施したとまでは認められない。

○ 「共通物品の一括契約、複数年契約、廃棄物の減量化等に努める。」(実績報告書42頁・年度計画【31】)については、国立極地研究所及び統計数理研究所の立川移転に伴い、共通物品の一括契約等が行われており、年度評価を十分に実施したと認められるが、当該計画を上回って実施したとまでは認められない。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載10事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び情報提供

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 国立極地研究所では、現職の教員を南極に派遣して行った南極授業は、5会場での実施し、延べ44社の取材があり、テレビ、紙面、ウェブサイト等により発信された。

○ 国立遺伝学研究所では、一般公開の実施を地元メディアと協力し広く宣伝したほか、毎週、研究に関するトーク番組を提供し地域住民への広報に努めた。また、研究所創立60周年に向けて地元新聞に研究所、研究者及び研究内容の紹介記事を掲載するなど積極的な情報発信を行った。

(指摘事項)

○ 平成19年度及び平成20年度の評価結果において、自己評価の適切な実施を求めたが、依然根拠が不十分なまま「年度計画を上回って実施している」と自己評価している事項が多く見られ、改善が見られない。法人の自己評価は国立大学法人評価制度の根幹であり、法人の業務運営の改善等には不可欠の要素であることから、厳格な実施を改めて強く期待する。

(法人による自己評価と評価委員会の評価が異なる事項)

○ 「情報の公開、提供及び広報活動について、より一層の充実に努める。」(実績報告書53頁・年度計画【40】)については、国立極地研究所において、広報室にアカデミックアドバイザーを置き、事務職員と連携して各イベントを運営しており、年度計画を十分に実施したと認められるが、当該計画を上回って実施したとまでは認められない。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載8事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 機構本部、国立極地研究所及び統計数理研究所は、立川に建設した交流棟1及び2において、身障者用トイレ、段差解消、点字ブロック等のユニバーサルデザイン及び盛り土による断熱性能の向上や、新省エネルギー基準に準拠した設計業務を行った。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載7事項すべて「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成21年度の外形的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

1.研究水準及び研究の成果等、2.研究実施体制等の整備

○ 国立情報学研究所では、量子情報処理において半導体量子メモリーによる世界最長のコヒーレンス時間の達成、ICTを利用したサプライチェーンのCO2排出量削減手法の提案、ソフトウェア工学における階層的データ処理プログラムの正当性の検証、ロボット情報学における研究開発プラットフォームSIG Verseシミュレータの構築、情報セキュリティ研究においてアナログホールを克服した映像盗撮防止技術の提案・実証等の重要な研究成果が得られた。

○ 国立極地研究所では、基盤研究を継続し、極域科学の将来の可能性を探るための「萌芽研究」3件と「開発研究」7件を実施した。また、一般共同研究として、108件の萌芽的な研究や開発研究課題を進めたほか、南極観測研究の分野融合型重点プロジェクトとして「極域における宙空-大気-海洋の相互作用からとらえる地球環境システムの研究」を推進した。

○ 機構本部に設置した知的財産本部と各研究所の知的財産室が連携し研究所の活動紹介、研究成果の実用化・移転促進等産学連携に取り組んだ。国立遺伝学研究所では、外部TLOを活用した民間企業へのライセンス活動を行った。

○ 国立極地研究所では、新たに就航した観測船「しらせ」により効率的な輸送手段を導入するとともに、新たな輸送手段として導入した航空機を観測にも利用するなど、効率的な観測活動を展開した。また、南極昭和基地のインテルサット地球局を拡充し、国内外をリアルタイムで結ぶ各種テレビ会議や南極教室を実施するなど、アウトリーチ活動を推進した。

○ 統計数理研究所では、世界最高性能の、主記憶3TB(テラバイト)、演算速度4TFLOPS(テラフロップス)、352コアの共有記憶型並列計算機及び主記憶12.1TB、演算速度33.7TFLOPS、2,880コアの分散記憶型並列計算機を平成22年1月に導入し、共同利用に提供を開始した。

3.共同利用等の内容・水準、4.共同利用等の実施体制

○ 国立遺伝学研究所では、DDBJ(日本DNAデータバンク)においては2,000億塩基対のDNA配列情報を格納し、利用数は月20万アクセスに拡大した。NBRP(ナショナルバイオリソースプロジェクト)においては情報センターとして28生物種の生物資源情報データベースを公開した。また、同ストックセンター活動としては5生物種の中核機関/分担機関として、国内外に向けて活発なリソースの配布活動を行った。

5.大学院への教育協力・人材養成

○ 国立極地研究所では、極域専攻学生1名を南極観測隊(夏隊)に同行させたほか、5年一貫制学生3名を国際フィールド調査に参加させた(4件)。また、極域科学専攻の英語版ウェブサイト、パンフレットを作成し広報の充実を図った。

○ 国立情報学研究所では、外来研究員が平成20年度の12名に対し平成21年度は33名と大幅に増加した。特に民間企業の研究者の受入れが増加した。

6.社会との連携、国際交流等

○ 国立極地研究所では、特色のある南極観測をテーマにした社会・地域貢献活動に取り組み、南極昭和基地とのライブ中継、教員による南極からの授業配信、自治体や教育機関等からの要請に基づく講師派遣、研究所見学への対応として施設紹介、南極観測で得た観測資料や写真等の提供と自主展示・公開、報道機関からの取材協力等を行った。

○ 国立情報学研究所では、研究所が有する学術情報資源を利用可能とするインターネットツールの公開、学術・文化財のアーカイブ等データベースの提供、古書の街「神田神保町」との連携、地域が取り組む新市場創出促進事業への情報技術の提供、学術機関リポジトリポータル「JAIRO」の正式公開等、社会や地域への貢献に資する取組を積極的に行った。

○ 統計数理研究所では、オープンハウスによる地域への紹介、スーパーサイエンスハイスクール事業への協力による指定高等学校の学生の受入れ、小中高の教員向けの統計学研修会の開催等アウトリーチ活動に積極的に取り組んだ。

○ 国立遺伝学研究所では、訪問者に遺伝学電子博物館の見学を通じて遺伝学・生命科学の解説を行ったほか、職場体験学習として夏季休業中に、地元中学生及び高校生を受入れた。

お問合せ先

研究振興局学術機関課

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成23年12月 --