大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構の平成21年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 高エネルギー加速器研究機構(以下「機構」という。)は、我が国の加速器科学(高エネルギー加速器を用いた素粒子・原子核に関する実験的研究及び理論的研究並びに生命体を含む物質の構造・機能に関する実験的研究及び理論的研究も包含した、広義の加速器科学を指す。)の総合的発展の拠点として、「素粒子原子核研究所」、「物質構造科学研究所」の2つの大学共同利用機関と、「加速器研究施設」、「共通基盤研究施設」の2つの研究施設を設置する法人である。
 機構は、世界に開かれた国際的な研究機関であるとの理念の下で、高エネルギー加速器を用いた研究を行い、自然界に働く法則や物質の基本構造を探求することにより、人類の知的資産の拡大に貢献するとともに、国内外の研究者に共同利用の場を提供し、加速器科学の最先端の研究及び関連分野の研究を発展させることを目指した研究活動を行っている。
 業務運営面については、新たに「機構長補佐室」を設置し、教員と事務職員の連携・協力の下、機構データベースの構築、ユーザー受入体制の強化、広報体制の強化等、機構長の指示に基づく取組を行っている。
 また、平成20年度小林誠特別栄誉教授らのノーベル賞受賞を契機に広報室を中心として、より一層社会への情報発信等が積極的に行われているとともに、高校生や大学生等に世界最先端の研究に触れる機会を提供するほか、小・中学生及び高校生を生涯学習事業の一環として受入れ、実習を行う等、積極的な人材育成や社会貢献を行っていることは評価できる。
 他方、機構が行う高水準の研究活動の同分野における国際貢献度について、社会の認知度が高いとはいえないことから、一般公開等の機会を捉え積極的な活動を行うことが期待される。
 教育研究等の質の向上については、独立行政法人日本原子力研究開発機構(JAEA)と共同で建設を進めてきた大強度陽子加速器施設(J-PARC)において、平成21年4月にニュートリノ実験施設へのビーム供給が開始され、平成22年2月には295km離れた岐阜県飛騨市神岡町のスーパーカミオカンデにおいて、J-PARCから発射されたニュートリノによる反応を初めて検出するなど、順調に進捗している。今後、研究者コミュニティの意向を踏まえた同施設を利用した共同利用実験により、自然界に働く法則や物質の基本構造を探求する研究が進展することが期待される。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 機構における将来の研究に貢献する先端的な測定器関連の開発研究を行うための「測定器開発室」及びアジア地域における研究連携を推進するための「アジア連携推進室」を設置するとともに、それらと既存の「リニアコライダー計画推進室」及び「ERL計画推進室」を取りまとめる「先端加速器推進部」を設置し、機構のロードマップの実現に向けた開発研究体制を整備した。

○ 物質構造科学研究所においては、これまでの研究系に加えて、放射光、中性子、ミュオンの各研究系所属教員が連携・協力して先端的研究を積極的に推進するための構造生物学研究センター及び構造物性研究センターを設置した。

○ 育児支援として、子の看護を行うための特別休暇(有給)の許可日数を年3日増やし、育児を行う職員への支援を強化した。

(法人による自己評価と評価委員会の評価が異なる事項)

○ 「法人運営に適合した事務組織等の構築と事務職員の適切な配置に努め、事務の合理化を図る。」(実績報告書24頁・年度計画【24】)については、年度計画を十分に実施したと認められるが、実施の決定、又は試行にとどまっているものもあり、当該計画を上回って実施したとまでは認められない。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載21事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ きめ細かな資金運用(運用回数:34回)を積極的に行った結果、経済情勢の厳しい状況においても1,370万7,000円の運用益を確保することができた。

○ 平成21年度は、これまで日頃から行ってきた省エネルギー活動に加え、平成20年度に創設した「省エネ推進経費(省エネファンド)」の運用を開始し、予算化された1,770万円で、省エネルギーを一義的な目的としたエアコンや照明器具等の高効率化機器への更新等を行い、一般需要に係るCO2排出量について前年度比約9%を削減した。

○ 機構におけるほとんどの会議のペーパーレス化に加え、共同利用実験の課題採択をシステム化して審査事務を効率化するために構築した「課題審査システム」の稼働開始により、年間でさらに約5万6,000枚のペーパーレス化等による経費抑制及び業務の効率化を図った。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載5事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び情報提供

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ つくばキャンパスの一般公開における、平成20年度ノーベル物理学賞受賞者である小林誠特別栄誉教授による講演「CP対称性の破れとは」において、メイン会場の他、2会場でのテレビ中継により、法人化後最高の入場者数を記録したほか、東海キャンパスのJ-PARCの施設公開においても、過去最高の入場者数を記録した。また、団体見学を積極的に受入れ、多くの来場者に機構の研究活動への理解を深めてもらうため、実験施設を見ることのできるツアーを実施した。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載7事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 研究者居室の有効利用を推進するため、居室の面積配分や複数キャンパスでの居室使用について指針化した「研究系職員の居室等の使用に関する基本方針」を策定し、この基本方針に基づき東海キャンパスの研究棟における居室配分を行ったほか、つくばキャンパスの利用居室の見直しを実施した。また、つくばキャンパスの既存施設について「居室スペース利用状況調査」を実施し、新規プロジェクトや共同利用者に向けて配分可能な居室面積を把握するなど、居室スペースの有効利用を推進した。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載3事項すべて「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成21年度の外形的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

1.研究水準及び研究の成果等、2.研究実施体制等の整備

○ 歪六極磁石を用いた調整法を考案し、クラブ空洞による複雑なビーム衝突下での微妙な調整に成功し、KEKB加速器の最高ルミノシティーの記録を設計値の2倍を超える2.1x1034cm-2s-1に押し上げ、BELLE測定器がこれまでに収集した積分データは1,000fb-1を達成した。

○ ミュオン実験装置に関しては、120kwでの定常運転の陽子ビームにおいて1パルス当たり7万2,000個という世界最高強度のパルスミュオンビームを達成(平成21年12月)し、平成20年度の「超高分解能粉末中性子回折実験装置」における、世界最高分解能の達成と合わせ、中性子、ミュオンともにこれまで世界最先端施設とされてきた英国施設の記録を上回る世界有数の高性能な実験装置の開発に成功した。

3.共同利用等の内容・水準、4.共同利用等の実施体制

○ 機構とJAEAが共同で建設を進めてきたJ-PARCにおいて、平成21年4月にニュートリノ実験施設へのビーム供給が開始され、平成22年2月には295km離れた岐阜県飛騨市神岡町にあるスーパーカミオカンデにおいて、J-PARCから発射されたニュートリノによる反応を初めて検出するなど順調に進捗しており、J-PARCにおけるすべての共同利用実験を開始した。

5.大学院への教育協力・人材養成

○ 高校生や大学生等が世界最先端の研究に触れる機会を提供するため、Belle実験で実際に得られたB中間子崩壊データをウェブサイトを通じて一般に公開し、新粒子探索を行う「新粒子発見プログラムB-Lab」を実施するとともに、機構を会場として、高校生が大型素粒子実験装置Belleを実際に使ったデータ収集や、過去に収集したデータの解析等、研究者の現場を4日間体験する企画「Belle Plus 2009」を開催した。(平成21年9月20日~23日:全国から公募による23名が参加)

6.社会との連携、国際交流等

○ 機構における生涯学習事業の一環として、小・中学生及び高校生を受入れ、霧箱実験や大型研究施設の見学及び研究者の講義による実習を実施(9校、参加者約260人)するとともに、中学校・高等学校等に出向いて行う出張講義を実施(平成21年度:高等学校5校)した。

○ 各種展示会等に出展することにより民間企業等への技術紹介を行うとともに、放射光研究施設の施設利用に関し、先端研究施設共用促進事業に基づく「フォトンファクトリーの産業利用」においてトライアルユースを実施(平成21年度13件)し、新たな民間企業等による利用の促進に努めた。また、研究開発施設共用等促進費補助金(先端研究施設共用促進事業)のつくば地区4研究機関(機構、産業技術総合研究所、筑波大学、物質・材料研究機構)の合同ワークショップを開催(平成22年1月)するなど、外部機関との連携や民間企業等との共同研究、受託研究等の推進に努めた。

お問合せ先

研究振興局学術機関課

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成23年12月 --