大学共同利用機関法人自然科学研究機構の平成21年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 自然科学研究機構(以下「機構」という。)は、我が国の天文学、物質科学、エネルギー科学、生命科学その他の自然科学分野の中核的研究拠点として、「国立天文台」、「核融合科学研究所」、「基礎生物学研究所」、「生理学研究所」及び「分子科学研究所」の5つの大学共同利用機関(以下「機関」という。)を設置する法人である。
 機構は、各分野の国際的拠点であると同時に、自然科学分野に関連する研究組織間の連携による学際的研究を推進するとともに、欧米、アジア諸国等との連携を進め、自然科学の長期的発展を見極めながら、国際的研究拠点の形成を推進している。
 業務運営面については、機関における研究活動等の情報発信において、報道機関による迅速で内容の深い取材活動を支援するため、ウェブサイト上の会員制情報提供サービスであるプレスメンバーズラウンジ(バーチャル記者クラブ)を通じて情報提供を行っているほか、ウェブサイトへのアクセス元の解析や時系列の分析による情報をウェブサイトの充実へ活用するなど、積極的な取組を続けている。
 また、国際戦略本部に国際アソシエイト等の専門的な人材を配置し、国際的な研究機関との窓口機能を強化したことにより、12件の国際協力協定を締結又は更新するなど、国際交流の積極的な推進を行っていることは評価できる。
 教育研究等の質の向上については、自然科学研究の新分野創成を目指す機構の理念を具体化するために、「ブレインサイエンス研究分野」と「イメージングサイエンス研究分野」の2つの新たな研究分野の研究を行う「新分野創成センター」を設置し、「ブレインサイエンス研究分野」では複数の領域を横断した研究プロジェクトの策定、「イメージングサイエンス研究分野」では5機関の分野間連携による自然現象の研究データを用いた時間的空間的階層連結の手法の開発などの成果を上げていることは評価できる。今後は、新分野創成センターにおける研究活動を一層推進し、さらなる研究成果を創出することが期待される。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 機構長のリーダーシップの下、「機構長裁量経費」を約8億9,000万円確保し、すばる望遠鏡制御システムの機能更新や大型ヘリカル装置の機能増強等、平成20年度に引き続き各機関の喫緊の懸案事項に対し予算を措置した。

○ 生理学研究所では、サバティカル制度等を利用した長期滞在型共同利用・共同研究を行う研究者を客員教授、客員准教授又は客員助教として受け入れる流動連携研究室を多次元共同脳科学推進センターに新設し、長期滞在型の共同利用・共同研究を開始した。

○ 核融合科学研究所では、社会活動の中核的組織の整備について検討した結果、広報体制の強化を図るため、広報管理室、地域連携室、教育連携室等の6室で構成する広報部を設置した。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載21事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 国立天文台では、引き続き、クレジットカードでの寄附も可能な「天文学振興募金」を運営し、広く一般国民から寄付を募るとともに、寄附金の受入れについて、外国の大学と協定を締結するなど、総額3億4,300万円の寄附を受入れた。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載6事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び情報提供

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 基礎生物学研究所では、連携・広報企画運営戦略室を改組し、より広報に特化した広報国際連携室を設置し、広報体制の強化に努めた。

○ 核融合科学研究所では、運営会議の下に所外運営委員9名、所外専門家13名(外国人4名を含む)で構成する外部評価委員会を設置し、「核融合工学研究」の他、大学共同利用機関としては非常に重要な課題である「安全管理」に関しても、法人化後6年間の実績について評価を受けた。

○ 分子科学研究所では、平成21年10月から11月にかけて、外国人運営顧問2名による業務運営全般に関するヒアリングを行い、「分子研リポート2009」にまとめた。また、平成22年1月末に、研究顧問(国内)2名と所長による教員の研究計画の進捗状況等に関するヒアリングを行い、研究計画の見直し等の改善を促した。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載12事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 機構本部では、施設の効率的な利用を図るため、国立天文台において使用する見込みのなくなった野辺山地区の職員宿舎及び共同利用研究者宿泊施設の一部について、機構全体の研修施設として運用を始めた。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載9事項すべて「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成21年度の外形的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

1.研究水準及び研究の成果等、2.研究実施体制等の整備

○ 国立天文台では、ハワイ観測所のすばる望遠鏡により、太陽型星をめぐる惑星候補天体を直接撮像で発見することに世界で初めて成功した。また、恒星の自転に逆行して公転する惑星系が存在することを初めて観測的につきとめた。誕生から8億年後という初期の宇宙において、現在の銀河系円盤に匹敵する巨大な天体がすでに存在していることを明らかにした。また、岡山天体物理観測所では、天体観測史上最も遠い131億光年の光をガンマ線バーストによる残光で捉えることに成功した。また、精力的に進めている太陽系外惑星探査では、日韓共同研究により初めて褐色矮星の検出に成功した。

○ 自然科学研究の新分野の創成を目指す機構の理念を具体化するために、「ブレインサイエンス研究分野」と「イメージングサイエンス研究分野」の2つの新たな研究分野の研究を行うことを目的とした、「新分野創成センター」を設置し、研究連携活動を推進した。

○ 国立天文台では、ALMA推進室において、日本が担当する主要装置であるアタカマ密集型干渉計(ACA)用7mアンテナ及び受信機カートリッジ、ACAシステムの製造を推進するとともに、12mアンテナ等の製造完了した装置を用いた試験調整を継続し、平成22年1月、アタカマ砂漠の標高約5,000mの高原において、日本製造のアンテナ1台と米国製造のアンテナ2台、合計3台による干渉実験に成功し、アンテナを含むシステムが「干渉計」として仕様どおり機能することを確認した。

○ 分子科学研究所では、光分子科学研究領域、物質分子科学研究領域及び生命・錯体分子科学研究領域の連携によって、分子の回転運動の光制御の新手法の開発等に成功したほか、紫外光電子磁気円二色性に基づく顕微観測手法の開発では2光子観測に世界で初めて成功するなど、様々な分子物質、ナノ物質や表面の機能と動的過程の解明、及び制御のための、分光法・顕微鏡法、光制御法のさらなる高度化を進めた。

○ 生理学研究所では、多次元共同脳科学推進センターにおいて、20年後の脳科学の将来を論じるブレインストーミングを開催するとともに、「多次元トレーニング&レクチャー:運動制御回路の構造と機能」を開催し、脳科学以外の領域の若手研究者に基本的な脳科学の知識を提供した。

○ 核融合科学研究所では、大型ヘリカル装置において、電子温度について1億7,000万度を達成し、高温無衝突プラズマの閉じ込め磁場の最適化が、この核融合条件を越えた領域でも成立することを実証した。また、高い中心イオン温度をもたらすプラズマ中心部でのイオン系エネルギー輸送の改善と不純物イオンの排除の両立という、将来の核融合炉にとって最も好ましい結果が得られた。さらに、従来の核融合条件の10倍を超える超高密度プラズマや高ベータ(5%)プラズマの準定常的な維持ができるようになるなどの大きな進展があった。

3.共同利用等の内容・水準、4.共同利用等の実施体制

○ 分子科学研究所では、理化学研究所と共同して高輝度マイクロチップレーザーを用いた広帯域波長可変小型テラヘルツ光パラメトリック光源の開発に成功し、並行してさらなる高出力テラヘルツ光発生のためのエッジ励起マイクロチップレーザーのモードロック発振に成功した。

○ 基礎生物学研究所では、研究支援施設を改組し、新たに生物機能解析センター、モデル生物研究センターを設置し、両センターを利用した次世代DNAシーケンサーによるゲノム情報の解析等の研究技術開発を推進した。

○ 基礎生物学研究所では、新たにマックスプランク植物育種研究所との国際共同研究協定を締結して第1回シンポジウム「進化と発生」をドイツで開催し、所内の研究者に加えて同研究所と共同研究を希望する研究者を全国から公募して現地に派遣した。

5.大学院への教育協力・人材養成

○ 機構本部では、運営費交付金に加え、外部資金を活用し、各種ポストドクトラル・フェローシップを整備し、若手研究者の育成と流動化に努めるとともに、修了生の進路先調査をはじめとする修了生の現状把握を行うなど、ポストドクトラル・フェローの今後の進路指導や修了生ネットワーク構築に向けた取組を行った。

6.社会との連携、国際交流等

○ 国立天文台では、プリンストン大学(米国)並びに中央研究院・天文天体物理研究所(台湾)と協力協定に基づき、すばる望遠鏡HyperSuprime-Camの製作や系外惑星観測における共同研究を推進した。

お問合せ先

研究振興局学術機関課

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成23年12月 --