国立大学法人九州大学の平成21年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 九州大学は、伊都キャンパスへの統合移転と、新病院の建設という2大プロジェクトを推進しており、これらを円滑に推進していくことを重要なテーマとして事業を展開しながら、「教育憲章」、「学術憲章」に掲げられた使命・理念を具現化するために「4+2+4アクションプラン」の行動計画を踏襲するとともに、5つの活動指針のもと教育・研究・診療においてアジアに開かれた世界の拠点大学として様々な活動を展開している。
 業務運営については、複合的・学際的な新領域の課題に「知の統合」で取り組む統合新領域学府の設置や、各部局を越えた高度な研究活動を展開するための全学的な組織として、高等研究院を設置しており、今後の発展が期待される。この他、国際化拠点整備事業(グローバル30)の開始に伴う事務職員の英語コミュニケーション能力の向上を図るため、業務英語能力向上研修を開始している。
 財務内容については、競争的資金獲得に積極的で実績のある部局へのインセンティブ付与や、航空券発注システムと旅費計算システムを統合した新システムの構築と外部委託による業務の効率化等に取り組んでいる。
 環境への取組については、「九州大学の地球温暖化対策実現に向けて」を策定し、自然エネルギーを活用した太陽光発電設備の設置及び風力発電システムの工事に着手するなど、CO2削減に向けて取り組んでいる。
 教育研究等の質の向上については、学士課程教育での独自の教育プログラム「チャレンジ21」の実施、学内インターンシップの実施、教育研究プログラム・研究拠点形成プロジェクト(P&P)において、「萌芽的若手研究」等を設けて若手研究者の支援を実施するとともに、新規採択件数のうち20%を女性研究者枠とするなど、若手・女性研究者支援に取り組んでいる。この他、台湾工業技術研究院との共同シンポジウムの開催、中国の大学・政府系機関・企業との共同研究の推進、オランダのユトレヒト州政府・大学との交流による国際産学連携を推進している。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 総長裁量経費として、研究スーパースター支援プログラムや次世代研究スーパースター養成プログラム等を措置し、将来を担う研究者の養成に努めている。さらに、学生が自ら企画するユニークな研究・調査プロジェクトをサポートする「C&C(Challenge& Creation)」経費として配分している。

○ 経済的困難を抱えている在学生に対する緊急経済支援として、1名当たり10万円の奨学一時金を支給(総額1億円)することとしている。

○ 人員管理方式にポイント制を活用した女性採用枠を設定し、女性限定の国際公募、部局の採用候補者と男女共同参画の取組とを併せて評価する競争方式による審査を実施し、理・工・農学分野部局で170名の応募者から10名を採用している。

○ 経営協議会の審議内容は、大学のウェブサイトに議事録を掲載することにより社会に広く公表している。

○ 複合的・学際的な新領域の課題に「知の統合」で取り組むべく新たな大学院として「統合新領域学府」を設置しており、今後の発展が期待される。

○ 各研究院・附置研究所等の部局を越えて、極めて高い研究業績を有する教員や次世代を担う若手教員が高度な研究活動を展開するための全学的な組織として、高等研究院を設置している。

○ グローバル30の開始に伴う外国人留学生及び研究者の増加への対応として、事務職員の英語コミュニケーション能力の向上を図るため、業務英語能力向上研修を開始し、初年度として46名が受講している。

○ 実証実験を重ねてきた独自技術を用いたICカードの本格導入により、建物施設の電子錠、生協の電子マネーによる電子決済、自動販売機の電子決済、附属図書館の入館ゲート及び図書貸出システム等の機能を利用できるようになり、利便性が格段に向上している。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載31事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 学内予算配分では、科学研究費補助金の採択率が0.65件以上の部局に対して基盤校費の研究経費の5%を措置するなどの傾斜配分を実施し、競争的資金獲得に積極的で実績のある部局へのインセンティブを付与している。

○ 「ムラなくムリなくムダなくす!」をスローガンとしたポスターに、光熱水料や用紙購入を削減した場合の年間節減額を指標として示すなど、教職員の節減意識を高め、光熱水料節減額約600万円を節減している。

○ 航空券発注システムと旅費計算システムを統合した新システム(Q-HAT2010)を構築するとともに、旅費計算業務等の外部委託により、業務の効率化と利便性の向上が図られ、年間約750万円の節減が見込まれている。

○ 全学基本メールを活用し、従来、葉書で行っていた旅費の振込通知を電子メール通知に変更したことにより、年間約400万円の経費節減効果につながっている。

○ 中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載13事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 大学評価ポータルの導入により、中期計画の進捗状況管理や実績報告書作成への活用、経年比較、大学運営への改善に資する情報分析が可能となるよう準備しており、今後の効率化が期待される。

○ 大学の研究成果が活用されて生まれた良質な製品を、大学ブランドグッズとして認定し、芋焼酎「いも九」、バイオ有機肥料「土と植物の薬膳」等の販売に取り組んでいる。

○年6回発行する広報誌「九大広報」により、「高等研究院」、「百周年記念事業」等、特色ある取組について特集を組み、伊都キャンパスについて、特集号を発行し、オープン・キャンパス等を通じ学内外に幅広く配布、紹介を行っている。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載11事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ スペース管理システムを活用した施設利用状況調査を実施し、これを基に具体的な全学共用スペース拠出に関する運用基準として定めるなど、さらなる有効活用の促進を行っている。

○ CO2削減に向けた行動計画「九州大学の地球温暖化対策実現に向けて」を策定し、自然エネルギーを活用した太陽光発電設備の設置及び風力発電システム(風レンズ風車)の工事に着手するなど、CO2削減に向けて取り組んでいる。

○ 研究費不正使用防止に向けて、ヒアリング形式による学内モニタリングを継続実施するとともに、e-Learningを活用して、「適正な研究活動に向けた説明会」を受講できる制度を整え、全教職員が時間と場所を選ばず説明会に参加できるようになり、受講機会を大幅に確保できるよう工夫している。

○ 伊都キャンパスセンターゾーンと周辺地区のまちづくりを推進するために、大学職員、学生、地元住民、民間企業等が意見交換を行う推進会議を開催するとともに、フォーラムの開催、伊都祭の実施、糸島産弁当の学内販売開始、学内野菜無人即売所の設置、地域との相談窓口の設置等様々な活動を行っている。

○ 平成20年度評価結果において評価委員会が課題として指摘した、文部科学省公表の「農薬の使用状況等に関する調査の結果」において、特定毒物を所持していたにもかかわらず、特定毒物研究者の許可を受けていなかったことについては、化学物質管理システムの改善、全学薬品管理者による定期的なチェック等を行っており、指摘に対する取組が行われている。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載16事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成21年度の外形的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

○ 学士課程教育において、専門性を基盤としながら学生の関心分野の拡張、国際性の修得等、学生の自主的・自律的な修学を図り、新たな視点に立つスペシャリストを養成することを目的とした独自の教育プログラム「チャレンジ21」を実施している。

○ 学生が大学での就業体験を通じて、高等教育機関における教育研究及び大学運営等への関心を持つことを目的として、学内インターンシップを実施している。

○ 大学院共通教育に継続して取り組んでおり、特定の分野を体系的に構成した課程として、「防災」、「USI(ユーザーサイエンス)」、「国際協力・社会開発」の3科目群を配置し、全体の科目数も平成20年度に比べ、約1.5倍の75科目を開講している。

○ 新任教員研修、体験活動を通じた学習成果の達成、学習成果達成のための教育プログラム開発をテーマにした全学ファカルティ・ディベロップメント(FD)を開催し、実践紹介や情報交換を行っている。

○ 教育研究プログラム・研究拠点形成プロジェクト(P&P)において、「萌芽的若手研究」、「若手スタートアップ」、「ポスドク研究奨励費」を設け、若手研究者支援を実施しており、新規採択件数の20%を女性研究枠とし、推進中の37課題中13課題が若手研究者支援、9課題が女性研究者枠により採択されている。

○ 医学、薬学、工学、農学の英知と医療・製薬・分析機器の各産業界の創造力を結集し、協働企業とのマッチングファンドにより、生体レドックス(酸化還元)関連疾患の画像・解析技術、診断、創薬・治療の確立を目指した先端融合医療領域を創出する研究を推進している。

○ 科学技術振興調整費やグローバルCOEプログラムに係る大型の研究プロジェクトを、総長直轄の「大型研究プロジェクトの拠点」として規定し、大学として、組織面、財政面、人材配置等の多方面から拠点を支援し、研究活動をより迅速、柔軟かつ機動的に推進するための全学的な体制を整備している。

○ 新入学生の大学生活での様々な不安を解消し、円滑な大学生活への移行を図ることを目的として「新入学生サポート制度」を実施している。

○ 平成19年度に創設した大学院博士後期課程学生を対象とした独自の奨学金制度により、全学で291名に対し5,000万円の支援を行うとともに、研究資金を活用した奨学金の制度を整えている。

○ 来日する留学生・外国人研究者の学習あるいは研究活動を円滑に開始できるよう、ビザ手続きや住居斡旋等、生活に関する各種手続き支援等を行う組織として、外国人留学生・研究者サポートセンターを各キャンパスに設置している。

○ 台湾工業技術研究院との共同シンポジウムを開催し、共同研究契約2件を調印している。また、九州大学東アジア環境研究機構との連携により、中国の大学・政府系機関・企業との共同研究を推進している。欧州では、オランダのユトレヒト州政府・大学との交流により、ゲーム産業を主に国際産学連携を推進している。

○ 全学教育の伊都キャンパス移転を契機として、伊都キャンパスセンターゾーン(全学教育実施地区)に情報教室や情報学習室の整備、無線LANの整備、図書館機能を備えた学習・交流スペース「嚶鳴天空広場“Q-Commons”」を整備している。

○ 国立情報学研究所が進めるUPKI学術認証フェデレーションと連携したShibboleth認証の採用等により、異なるサービスを1回のログインで利用できるようになり、大学全体の情報インフラと利便性が大きく向上している。

全国共同利用関係

○ 応用力学研究所、情報基盤研究開発センターでは、研究者コミュニティに開かれた運営体制を整備し、大学の枠を越えた全国共同利用を実施している。

○ 応用力学研究所では、自然科学研究機構の核融合科学研究所との間で、相互の研究分野の特徴を活かした双方向型共同研究を推進している。大学独自の主幹教授制度を活用したプラズマ乱流研究センターを設置し、核融合研究及び非線形科学の国際的な最先端研究拠点としての研究活動を展開している。

○ 情報基盤センターでは、全国共同利用事業室及び計算科学技術支援室を設置し、最先端のスーパーコンピュータによる高速大規模計算サービスの提供や全国共同利用の計算機システム運用、先端的計算科学研究の支援等を行っている。

附属病院関係

○ 初期臨床研修では、小児科・産婦人科プログラムを新たに策定して充実を図っており、また、「大学病院連携型高度医療人養成推進事業(北部九州における循環型高度医療人養成事業)」に選定され、他大学病院と連携した幅広い専門医研修プログラムの構築に取り組んでいる。診療では、子どもと養育者の心の問題に対応するため、包括的な診断と専門的なケアを提供する「子どものこころの診療部」を開設するなど、社会的なニーズや喫緊の課題に対して積極的に応えている。
 今後、機能性やアメニティーにも配慮して開院した新外来診療棟等の効率的な活用を行い、国内外に開かれた高度先進医療を提供し、診療拠点の形成を目指したさらなる取組が期待される。

(教育・研究面)

○ 「周産期医療環境整備事業(周産期ゆりかごネットプロジェクト)」、及び「看護職キャリアシステム構築プラン(看護実践力ブロッサム開花プロジェクト)」に選定され、周産期領域の人材養成システム、看護部と保健学科が連携したキャリアパスの開発等に取り組むためのプログラムを開始している。

○ アジア遠隔医療開発センターにおいて、国際遠隔医療会議を49回開催しており、新たに、新規国際接続拠点4か国20機関、国内接続拠点5機関等、国内外接続拠点の拡充を図っている。

(診療面)

○ 新型インフルエンザ発生時には、行政機関と連携して、発熱外来やワクチン接種外来を設置するなど感染症対策に取り組んでいるほか、患者の待ち時間改善のために、外来初診の予約制の充実等、患者サービスの向上に取り組んでいる。

○ 救急ホットラインを活用して、二次及び三次救急患者(小児救急患者も含む。)を積極的に受け入れる(救急車搬送件数平成21年度1,733件)とともに、ヘリコプターによる救命救急患者や特殊疾患患者の受入れを推進している。(平成21年度実績:救急搬送7件、転院搬送17件)

(運営面)

○ 新たに21品目の後発医薬品を採用するとともに、病院長ヒアリングを実施し、手術枠の拡大や病室(特別室)の見直しを検討するなど、増収・節減に取り組んでいる。

○ 管理会計システムの部門ごとの収益等に関するデータの経年比較(平成19~20年度)を行い、改善努力が見られる診療科等については、インセンティブの付与を行うなど、教職員のモチベーションの向上を図っている。

○ 外部評価では、薬剤部が、財団法人日本品質保証機構による品質マネジメントシステム(ISO9001)の更新審査を受審、検査部が、財団法人日本適合性認定協会による臨床検査室の品質と能力に関する特定要求事項(ISO15189)の更新審査を受審し、いずれも認証を取得している。

お問合せ先

高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成23年12月 --