国立大学法人島根大学の平成21年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 島根大学は、人類共有の財産である知的文化を継承し、さらに創造的に発展させるとともに、大学が有する知的資産と知的創造力を活用した人材育成、学術研究活動を行い、これらを通じて地域社会・国際社会の発展と人類の福祉に貢献することを使命としている。
 このような大学の使命を果たすため、「島根大学憲章」を制定し、競争的環境の中で豊かな個性を持った大学を目指し、地域に根ざした、地域社会から世界に発信する個性輝く大学として、学長のリーダーシップの下、教職員一体となった大学運営に心がけ、高度な専門性を身に付けた自ら主体的に学ぶ人材養成を推進している。
 業務運営については、「派遣型病後児保育サポートシステム」を構築するほか、女性研究者の研究補助業務を行う「研究支援員制度」を文系研究者も対象とするなど仕事と育児等の両立支援に積極的に取り組んでいる。
 財務内容については、科学研究費補助金の申請に対するインセンティブ・ペナルティ制度を適用するとともに、アドバイザー(個別指導)制度を活用して申請者の支援を行った結果、採択件数及び採択金額は増加している。
 その他業務運営については、専用ヘリポートの設置、救急搬送を想定した離着陸訓練や医療資機材の確認等が行われている。
 教育研究等の質の向上については、学生の学びを中心に据えた教職員ネットワークの構築とファカルティ・ディベロップメント(FD)の組織化に向けた取組として、学士課程及び大学院課程における優れた取組に対し重点的な財政支援を行う「教育改革推進事業《島大GP》」を創設している。また、「S-匠ナノメディシンプロジェクト」(医理工連携プロジェクト)において、酸化亜鉛蛍光標識剤の開発や新規チタン酸バリウムの医療応用技術の開発を行っている。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 全学アンケート調査の結果を踏まえ、教職員や学生等の育児と仕事又は勉学の両立を支援するため、「派遣型病後児保育サポートシステム」を構築するほか、女性研究者の研究補助業務を行う「研究支援員制度」を、利用者の意見を踏まえ、文系研究者も対象とするなど仕事と育児等の両立支援に積極的に取り組み、女性研究者がデータ処理や論文執筆等を行う環境を整備していることは、評価できる。

○ 地域貢献推進や学生教育、学生支援のさらなる充実のため、新たに社会連携担当理事、医学教育・研究担当の副学長及び学生支援担当の副学長を置き、より戦略的な運営と運用を図る体制を整備している。

○ さらなる業務改善を担当する学長特別補佐、教員の個人評価に係る教員情報入力データベースシステムの改善を担当する学長特別補佐をそれぞれ任命している。

○ 経営協議会学外委員からの意見を踏まえ、附属病院ヘリポートで離着陸訓練を実施するとともに、その取組内容をウェブサイトで公表している。

○ 大学運営等に対し、意欲ある者の中から早期に管理職員等に登用するための制度を設けて選考試験を実施し、合格者を登用候補者名簿に登載し、平成22年度より名簿登載者から課長級、課長補佐級、係長級に昇任させている。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて特筆すべき進捗状況にある

(理由)年度計画の記載28事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められるほか、男女共同参画推進に関する積極的な取組が行われていること等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 科学研究費補助金の申請に対するインセンティブ・ペナルティ制度を適用するとともに、アドバイザー(個別指導)制度を活用して申請者の支援を行った結果、採択件数は197件(対前年度比25件増)、採択金額は4億418万円(対前年度比1,792万円増)となっている。

○ 各省庁から公募される競争的研究資金制度等及び各助成機関から公募される研究助成等の公募状況一覧を学内専用ウェブサイトで情報提供しており、最新情報に更新するごとに教職員に周知するように改善した結果、受託研究、共同研究及び奨学寄附金による外部資金が8億1,025万円(対前年度比8,091万円増)となっている。

○ 中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載6事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 大学評価情報データベースにおいて、ReaD(研究開発支援総合ディレクトリ)へのデータ提供を可能とし、学術情報リポジトリと双方向のデータ連携を行うなど利用者の利便性向上に向けた改善を図っている。

○ 同窓生との交流を目的に、ホームカミングデーを開催している。

○ 「島根県の高等教育の未来を考える」と題するシンポジウム「大学教育合同フォーラム in 島根2009」を開催し、島根県知事の基調講演、Good Practice等の先進事例報告、島根経済同友会代表幹事をコーディネーターに迎えてのパネルディスカッションを実施している。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載3事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 松江キャンパスでは、施設マネジメント評価の基礎データを収集するため、全学の施設利用状況調査を実施している。

○ 島根県西部の医療体制を補うため、救急搬送用ヘリコプターが離着陸できる専用ヘリポートを附属病院敷地内に設置するとともに、島根県防災ヘリコプターに医師等が搭乗し、救急搬送を想定した離着陸訓練や医療資機材の確認等が行われている。

○ 災害時の災害緊急避難場所や救急処置対応の大型テント代わりとなるよう、支柱に電源及び水道設備を完備した外来患者用の立体駐車場を附属病院に整備している。

○ 会計経理の適正な執行を行うための「発注者綱紀保持マニュアル」を作成し、関係職員に周知している。

○ 平成19年度から平成20年度までの評価結果で評価委員会が課題として指摘した、薬品管理システムの構築、運用等については、導入に伴う費用対効果、日常の管理・運用業務に与える業務量が多いこと、安全管理体制には支障がなく、現状の紙ベースでの管理でも支障がないこと等を勘案してコンピュータシステムによる管理体制の構築、運用は見送ることとしているものの、内部監査の所見において、「契約事務マニュアル(教員等用)」に従った毒物、劇物等のデータ入力がなされていないと指摘されていることから、さらなる安全管理の徹底が期待される。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載15事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成21年度の外形的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

○ 医学部医学科では、学生と指導医双方による評価のフィードバックに有効なウェブサイトを用いたクリニカルクラークシップ評価を実施するとともに、臨床実習記録等をウェブサイトに蓄積することでポートフォリオとしても活用している。

○ 地域の人材を活用した教育として、「松江のまちづくり」や「島根学~島根の医学・医療と文化の歩み~」を開講している。

○ 学生の学びを中心に据えた教職員ネットワークの構築とFDの組織化に向けた取組として、教育の質保証及び質の向上を図るため、学士課程及び大学院課程における優れた取組(Good Practice)に対し重点的な財政支援を行う「教育改革推進事業《島大GP》」を創設している。

○ 「S-匠ナノメディシンプロジェクト」(医理工連携プロジェクト)において、酸化亜鉛蛍光標識剤の開発や新規チタン酸バリウムの医療応用技術の開発を行っている。

○ 包括連携協力協定を締結している企業グループと「ビジネスサイエンスサロン」を開催し、食品開発に応用可能な技術について、研究成果発表や食品関連分野での産学連携、新ビジネス創出について意見交換を行うとともに、具体的な産学連携事例について、研究者と連携企業それぞれの視点からの講演を実施している。

○ 島根県商工会議所連合会等との間で「島根大学博士研究員等派遣研究事業に関する協定書」を締結し、共同研究を前提としたポストドクトラルフェローの地域企業等への派遣制度を確立している。

○ 地域住民の生涯学習を支援するため、島根県内図書館蔵書横断検索システムを用いた資料の統合検索や物流システムにより、資料の貸出サービスを実施している。

○ 指導的教員の養成を行うため、大学院教育学研究科において、「学校教育実践研究」及び「教科内容構成実践研究」を「研究的教育実習」と位置づけ、学部教員と附属学校教員の協働よる運営委員会を設置して、年間を通じた実践的指導を行っている。

附属病院関係

○ 海外における短期地域医療研修への若手医師及び指導者派遣や、連携先大学病院及び関連病院で研修を実施するなど、引き続き、質の高い医療人養成を推進している。診療では、病院敷地内にヘリポートを新設し、防災ヘリコプターによる救急患者搬送を開始するなど、救急医療体制の強化にも努めている。
 今後、ドクターヘリの導入も検討していることから、社会的に重要な政策課題等に積極的に参画していくとともに、引き続き、7対1看護体制の導入、看護職員の安定的充足に向けて、附属病院が一丸となって全力で取り組む体制の構築が期待される。

(教育・研究面)

○ がん登録データ等の解析から、膵臓がん発生が多い地域に着目し、腫瘍センターや公衆衛生学講座等と連携して共同プロジェクトを立ち上げ、発生要因の解明及び新規治療薬開発等の研究を開始している。

○ 「クリニカルスキルアップセンター」を新設して、医療技術の習得・向上を図るとともに、地域医療機関の医療従事者も利用できる内視鏡手術トレーニングセンターを整備するなど、教育研修体制の強化に取り組んでいる。

(診療面)

○ 「メタボリックシンドローム専門外来」において、臨床栄養部と連携し、食生活を踏まえた健康管理の指導及び治療の推進を図るなど、メタボリックシンドローム対策を総合的に推進している。

○ 都道府県がん診療連携拠点病院として、県内の地域がん診療連携拠点病院以外からのがん患者データ登録の推進や電子カルテ内での「レジメン(治療計画)登録・オーダリングシステム」を実施するなど、安全な化学療法の推進を図っている。

○ 地域医療連携センターの医療ソーシャルワーカー(MSW)を3名増員して7名体制にするとともに、MSWを中心とした「退院支援チーム」を設置するなど、早期に退院支援に介入できる体制を構築している。

(運営面)

○ 院内施設「うさぎ保育所」を増築し、入所定員を25名から50名に倍増し、働きながら子育てをする職員の支援強化を図っている。

○ 医薬品費削減に係る取組として、中四国地区の4大学病院が共同で後発医薬品への切替や安価な医薬品への切替に取り組んでおり、経費削減に努めている。

お問合せ先

高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成23年12月 --