国立大学法人京都大学の平成21年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 京都大学は、高い倫理性に支えられた「自由の学風」を標榜しつつ、学問の源流を支える研究を重視し、先端的・独創的な研究を推進し、世界最高水準の研究拠点としての機能を高め、社会の各分野において指導的な立場に立ち、重要な働きをする人材の育成のための取組を進めている。
 業務運営については、総長室に京都大学未来戦略検討チームを置いたほか、学際的な教育研究を推進するための組織として学際融合教育研究推進センターを設置している。また、共同研究を進展させるための共同研究講座・共同研究部門制度の導入の決定や、高度な研究をさらに推進するための特定有期雇用教員制度等を効果的に活用している。
 財務内容については、効率的な外部資金獲得に向けた取組により、外部資金比率が順調に増加しているとともに、特許出願件数も増加している。
 その他業務運営については、省エネルギーへの効果的な取組を実践するとともに、共用施設アセットマネジメントセンターによる建物の維持管理の集中実施等に取り組んでいる。
 教育研究等の質の向上については、世界トップレベル研究拠点等による国際プロジェクト等の積極的な展開、既成の専門分野にとらわれない研究科横断型セミナーの実施、英語のみで学位が取得可能なプログラムの開設準備等に取り組んでいる。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 特定有期雇用教員制度を効果的に活用し、平成21年度には、特定病院助教22名、年俸制特定教員320名、特定拠点教員36名を採用するなど、高度な研究をさらに推進する体制を整えている。

○ 大学の未来戦略策定に必要な中・長期的な課題について専門的に調査検討するため、総長室に京都大学未来戦略検討チームを置いている。また、学際的な教育研究を推進するための支援組織として、学際融合教育研究推進センターを設置している。

○ 経営協議会の審議内容は、大学のウェブサイトに議事録を掲載することにより社会に広く公表している。

○ 職員人事異動基本方針を定め、女性職員が多様な経験を積める人事配置や人材育成を一層進め、昇任面接の受験を奨励するとともに係長・専門職員以上の職に女性を積極的に登用するなど、女性の登用の促進に向けて取り組んでいる。

○ 世界トップレベル研究拠点の一部であったiPS細胞研究センター(CiRA)を、iPS細胞の臨床応用研究を推進する役割を担うiPS細胞研究所へ改組することとしている。

○ 研究状況等により個人レベルで共同研究を実施していたが、研究科等に講座(部門)を設置できる共同研究講座・共同研究部門制度を平成22年度より導入することから、共同研究の進展が期待される。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載35事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 他省庁からの情報収集の迅速化、京都大学東京オフィス開設による産学連携の強化を図る戦略的展開等、効率的な外部資金獲得に向けた取組により、平成21年度の外部資金比率が16.9%(対前年度比1.3%増)となっている。

○ 知的財産室において、研究成果の社会還元・実用化を見越した特許出願を促進するとともに、学外の技術移転機関と協力して技術移転を促進した結果、特許出願件数は、国内出願で240件(対前年度比約10%増)となっている。

○ 光熱水量の削減に取り組んだ結果、電気料金は約7,400万円、ガス料金は約2億6,500万円、水道料金は約2,300万円それぞれ削減している。また、役務契約の複数年契約への移行や、印刷物・定期刊行物の購入・配布部数の見直し、電子ジャーナルの外貨建契約への移行等により約4,800万円の削減を実現している。

○ 京都大学施設の再配置・有効利用に関する基本方針に則した既存スペースのマネジメントとして、11,199m2を全学共用スペースとしている。

○ 中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載9事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 大学の発展に向けた評価、質保証システムの充実及び第2期中期目標期間に求められる自己点検・評価に関する一層の共通理解を図るため、大学評価シンポジウムを他大学からの参加者も交えて開催している。

○ 桂キャンパス、白浜水族館、霊長類研究所、桜島火山観測所にライブカメラ増設を行った結果、ウェブサイトのアクセス件数が増加しており、社会からの関心を高めるとともに、大学の魅力を伝える一助になっている。

○ 附属図書館及び部局の図書室等において、学生用図書資料約15,000冊、留学生用図書資料約1,400冊、研究用図書資料約92,000冊を新たに提供している。また、学術情報リポジトリのコンテンツ登録数は6万件を超え、リポジトリ・ランキングで国内1位となっている。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載12事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.環境保全及び安全管理・安全教育、3.情報基盤の整備・活用、4.基本的人権等の擁護、5.大学支援組織等との連携強化

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 省エネルギーの効果的な取組を推進し、吉田地区ESCO事業においてはエネルギー消費量において当初計画約3%(3,724GJ)の削減目標を上回る約7.6%(9,473GJ)の削減と、CO2排出量では当初計画約3%(140t)の削減目標を上回る約9.5%(445t)の削減を行っている。

○ 共用施設アセットマネジメントセンターを設置し、総合研究棟や全学的な建物の維持管理をセンターで集中して行うことにより、高度な管理体制への移行、利用者の利便性の向上、施設セキュリティの向上を図っている。

○ 施設・スペースの有効活用を図るため、「本部構内再配置計画」の見直しを行い、耐震対策事業等で必要となる移転スペースとして、未取り壊し建物を暫定利用建物として利用し、施設・スペースの有効活用を図っている。

○ 物品等の検収所の設置による納品確認、研究費使用ハンドブックの改訂、全教員へのe-Learning研修を実施するとともに、理解度チェック及びアンケート調査等、研究費不正使用防止のために取り組んでいる。

○ 情報セキュリティポリシーの実施手順書について、多くの部局で実施手順への移行ができておらず、監事監査でも報告されていることから、速やかな取組が期待される。

○ 平成20年度評価結果において評価委員会が課題として指摘した、文部科学省公表の「農薬の使用状況等に関する調査の結果」において、特定毒物を所持していたにもかかわらず、特定毒物研究者の許可を受けていなかったことについては、大学の該当部局では特定毒物の廃棄処分や許可取得を適切に行っている。また、特定毒物の所持に係る全学調査を実施するとともに、化学物質管理システム講習会、農薬の適正な使用及び保管管理の徹底に努めており、指摘に対する取組が行われている。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載56事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成21年度の外形的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

○ 次世代を担う先見的な研究者を育成するため、京都大学次世代研究者育成支援事業「白眉プロジェクト」を立ち上げ、年俸制特定教員として全学的に支援する仕組みを構築し、平成22年4月の採用に向けた候補者の選考を実施している。

○ 国際化拠点整備事業(グローバル30)の採択により、英語のみで学位が取得可能なプログラム(英語コース)を平成22年度以降順次開設することとし、開設準備に向けたカリキュラムの作成、入学試験等の実施に取り組んでいる。

○ 既成の専門分野にとらわれない分野横断型・学際領域型の「京大院生のための研究科横断型セミナー2009」として、「社会-社会を読む学の新地平」及び「からだ-身体をめぐる知の越境」の2コースを開設・実施している。

○ 国際的なプロジェクト「親密圏と公共圏の再編成をめざすアジア拠点」、「物質科学の新基盤構築と次世代育成国際拠点」等を推進するとともに、世界トップレベル研究拠点「物質-細胞統合システム拠点」により、国際プロジェクトや共同事業を積極的に展開している。

○ 若手研究者を小中高等学校へ派遣しての「出前授業」、大学を訪れた小中高校生に対しての「オープン授業」により、研究内容・研究成果をわかりやすく紹介することを通じて、科学のおもしろさを伝えることに取り組んでいる。

○ 「満点計画による防災学習プログラム」により、最先端の地震研究に小学生が直接参加する新しい防災学習の形に取り組んでいる。

○ 全学の制度として、産休・育休・介護のため研究時間の確保が困難な研究者のために、研究実験補助者を雇用する経費を負担し、研究活動を支援するなど、研究者に対する支援に取り組んでいる。

○ 「Kyoto University Technology Showcase New York 2009」(米国ニューヨーク)等を開催し、共同研究、受託研究の新規受入れや技術移転に努めている。

○ 今まで分離されていた学内共同利用と全国共同利用に係る情報サービス業務等の申請事務・相談業務について、利用者の利便性向上を図る総合窓口体制を整備している。

○ 附属図書館では、試行的に24時間利用可能としていた自習室「学習室24」を本格運用したほか、部局においても24時まで開館するなど、利便性を高める施策を講じている。また、複数キャンパス間での図書の返却の利便性を高めるために、最寄りの図書館(室)での返却を可能とする「キャンパス間返送サービス」の本格運用を開始している。

全国共同利用関係

○ 生存圏研究所、防災研究所、基礎物理学研究所、数理解析研究所、原子炉実験所、霊長類研究所、放射線生物研究センター、生態学研究センター、地域研究統合情報センター、学術情報メディアセンターでは、研究者コミュニティに開かれた運営体制を整備し、大学の枠を越えた全国共同利用を実施している。

○ 防災研究所では、自然災害研究には長期的観測データが不可欠であるため、17の観測所、実験施設から得られたデータを共同利用に供し、他大学にはないフィールドワークを中心としたユニークな先端的研究を推進している。

○ 基礎物理学研究所では、研究会、滞在型国際共同研究プログラム、アトム型研究員、ビジター制度、地域スクール、ワークショップ、夏の学校等を実施し、活発な共同研究等を行っている。

○ 数理解析研究所では、共同研究・研究集会・合宿型セミナーの報告集である「数理解析研究所講究録」を京都大学学術情報リポジトリにおいて一般公開しており、リポジトリ全体のアクセス数の約15%(約20万件)となっている。

○ 原子炉実験所では、加速器工学研究のために福井大学分室を設置し、福井大学との連携を強化するなど、原子力関連研究の発展に寄与している。

○ 霊長類研究所では、国際共同先端研究センターを新設し、国際的かつ先端的な共同研究を推進している。

○ 生態学研究センターでは、琵琶湖観測船等の野外研究施設及びシンバイオトロン等のオープンラボを利用した共同利用研究において、延べ3,990名の共同研究者の受入れを行うとともに、公募型全国共同利用事業として、集中講義・セミナー、野外実習、生態研セミナー等を開催している。

○ 地域研究統合情報センターでは、すべての共同利用・共同研究プロジェクトの代表等が出席して共同利用研究成果発表ワークショップを開催し、プロジェクト間の研究交流を促進している。個別の研究プロジェクトは、共通のテーマで束ねる複合共同研究ユニットによる共同研究会において研究交流を促進している。

附属病院関係

○ 総合大学としての特性を生かし、「先端医療開発特区(スーパー特区)」事業では、学内外の機関と協力・連携してプロジェクトの推進や連携シンポジウムを開催するなど、高度医療・先端医療の充実発展に成果を上げている。診療では、重篤な合併症を有する妊産婦の緊急搬送を受け入れることができるよう、新生児集中治療室(NICU)の増床(6床→9床)、未熟児継続治療室(GCU)の増床(8床→ 12床)を実施しており、周産期医療体制の強化を図っている。
 今後、「京大病院にふさわしい病棟を建ててほしい」という寄附者の意向を尊重して竣工された「積貞棟」を積極的に有効活用しながら、社会に広く貢献し、高度先進医療を推進するさらなる取組が期待される。

(教育・研究面)

○ 初期臨床研修プログラムでは、医師不足・偏在の問題に対応する研修プログラム(小児科重点プログラム等)の実施や、総合診療能力を習得させるために、救急外来当直研修を開始するなど、多様なプログラムの提供に努めている。

○ 探索医療センターが支援している「コラーゲン由来物質等による新規DDSを用いた治療法の開発」プロジェクトについて、厚生労働省の高度医療評価制度を活用した申請に向けての準備に取り組んでおり、新医療の開発を推進している。

(診療面)

○ ハイチで発生した地震災害では、国際協力機構(JICA)の国際緊急援助隊に、初期診療・救急科の医師を2週間派遣しており、積極的に国際医療貢献に参画している。

○ 外来がん患者の緩和ケア実施のため、「がんサポートチーム」による「がんサポート外来」の新設や、がんセンターウェブサイトを開設するなど、がん診療の質の向上に成果を上げている。

○ 医療の高度化・診療の高密度化に対応するために、特定病院助教を22名配置して診療体制の充実を図っている。

(運営面)

○ 病床稼働率の向上、手術室の利用拡大、運営状況のウェブサイト掲載等の増収方策(対前年度13億6,000万円増)を進めるとともに、医療材料等の価格交渉、ボイラーの高効率運転等の省エネルギー対策等の経費削減(経費削減約2億6,000万円、目標額の約3.6倍)等、病院経営の改善に取り組んでいる。

○ 地域住民、高校生、看護学生等に対して、高度な医療を紹介する「オープンホスピタル2009(参加者872名)」や「京大病院医薬分業研修会」の開催等、地域連携や医療サービスの向上を図るための取組を充実させている。

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高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成23年12月 --