国立大学法人信州大学の平成21年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 信州大学は、信州の豊かな自然と文化の中で、優れた教育研究を達成することによって、自然環境の保全、人々の健康と福祉の向上、産業の育成と活性化、新しい文化の創造等、大学に求められている社会的使命を果たすことを理念として掲げ、この理念の下に、教育、研究、地域貢献、国際交流の4分野について、基本目標を設定している。この理念・目標の実現に向けて、長期ビジョン「信州大学ビジョン2015/信州発飛翔プラン」を策定している。
 業務運営については、事務系職員について職場単位で設定した組織の目標に合わせ、職員個人が業務目標を設定し、その達成度を評価する制度「信大FOCUS」を導入している。 
 一方、法曹法務研究科において、平成16年度の法科大学院設置計画書の虚偽申請問題により、平成18年度から入学定員40名のところ、募集人員を30名として入学者選抜を行っているという事情があるものの、大学院専門職学位課程について、平成18年度から平成21年度にかけて一定の学生収容定員の充足率を満たさなかったことから、今後、速やかに、定員の充足に向け、入学定員の適正化に努めることや、入学者の学力水準に留意しつつ充足に努めることが求められる。
 自己点検・評価及び情報公開については、大学の魅力(教育・研究・地域貢献の特色、著名教員・OB・OG紹介等)を一堂に紹介するプロモーションウェブサイト「信州知の森」を新設している。
 教育研究等の質の向上については、学務課及び学生支援課(学生総合支援センター及びキャリア・サポートセンターを含む)の事務室をワンフロア化し、学生へのワンストップサービスを実現している。また、ナノカーボンをベースに新たに異種原子等を積極的に導入した究極のナノカーボンであるエキゾチック・ナノカーボンをテーマに、「エキゾチック・ナノカーボンの創成と応用プロジェクト拠点」を設けている。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 事務系職員について職場単位で設定した組織の目標に合わせ、職員個人が業務目標を設定し、その達成度を評価する制度「信大FOCUS」を導入している。

○ 財務・情報についての学長特命事項に係る戦略・政策面での強化を図るため、情報分野の民間企業経営者を特命戦略担当の非常勤理事に任命し、外部人材を活用している。

○ 総合情報センターを設置して大学内の情報業務に係る組織体制を再構築するとともに、「信州大学情報戦略」の策定に取り組んでいる。

○ 給与支給明細をオンライン上で閲覧するシステムを導入している。

○ 学長裁量経費を女性教員採用に係る人件費として確保するとともに、非常勤職員から常勤職員への採用制度を導入して女性非常勤職員4名を常勤職員として採用するなど、女性教職員の採用促進に向け取り組んでいる。

○ 平成20年度評価結果において評価委員会が課題として指摘した、経営協議会の審議の適正化については、適正に審議が行われており、指摘に対する取組が行われている。

平成21年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。

○ 法曹法務研究科において、平成16年度の法科大学院設置計画書の虚偽申請問題により、平成18年度から入学定員40名のところ、募集人員を30名として入学者選抜を行っているという事情があるものの、大学院専門職学位課程について、学生収容定員の充足率が平成18年度においては85%、平成19年度から平成21年度においては90%をそれぞれ満たさなかったことから、今後、速やかに、定員の充足に向け、入学定員の適正化に努めることや、入学者の学力水準に留意しつつ充足に努めることが求められる。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けておおむね順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載22事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められるが、大学院専門職学位課程において学生収容定員の充足率が90%を満たさなかったこと等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 「科学研究費補助金申請アドバイザー制度」を導入して審査経験を持つ教員等をアドバイザーとして各部局に配置し、アドバイザーが申請書案を分析し、改善点等のコメントを申請者に提示することなどにより、科学研究費補助金の採択件数(内定)は344件(対前年度比30 件増)となっている。

○ 株式会社信州TLOとの連携を継続し、技術移転による知的財産の活用を図った結果、技術移転契約件数は44件(対前年度比25件増)、技術移転収入は3,005万円(対前年度比2,572万円増)となっている。

○ 建物改修工事において屋上や外壁を断熱仕様とするとともに、窓をペアガラス化し、省エネルギー化を図ることにより、光熱水料は9億8,500万円(対前年度比4,555万円減、4.4%減)となっている。

○ 資金運用を行い、その結果得られた運用益を生協前広場の改修や学生の就学環境整備等に活用している。

○ 平成22年度の予算において教育研究推進経費2億円を措置し、教員1名当たり20万円を配分することで教育研究基盤の充実と強化を図っている。

○ 中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載18事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 第2期中期目標期間における中期計画、年度計画の進捗管理を効果的に行い、過年度の実績をデータとして蓄積するためのシステムとして、「国立大学法人信州大学中期目標・中期計画進捗管理システム」を民間企業との共同研究により開発し、導入している。

○ 「信州大学学術情報オンラインシステム(SOAR)」によるリポジトリ閲覧件数は、40万6,582件(対前年度比18万8,149件増)となっている。

○ 大学の魅力(教育・研究・地域貢献の特色、著名教員・OB・OG紹介等)を一堂に紹介するプロモーションウェブサイト「信州知の森」を新設している。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載5事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 施設等維持管理費執行基本方針を策定し、施設維持管理経費の中央管理分2億4,300万円を確保して全学的、長期的かつ効率的な視点による施設維持管理を引き続き実施するとともに、学生寄宿舎「こまくさ寮」の全面改修を実施している。

○ 「信州ユビキタスネットワークシステム」(新SUNS)の更新に伴う機能の拡張により保存配信システムを完成するとともに、同システムを活用して「高等教育コンソーシアム信州」連携校との講義の保存配信体制を整えている。

○ リスク管理体制の明確化とリスクの低減を図るため「リスク管理委員会」を設置している。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載17事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成21年度の外形的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

○ 信州大学を含む長野県内8大学の連携組織「高等教育コンソーシアム信州」における遠隔講義システム整備が完了し、県内大学単位互換制度を遠隔講義システムを利用したネットワーク配信による単位互換制度に発展させている。

○ 大学院経済・社会政策科学研究科及び大学院総合工学系研究科が連携し、工学系学生に経営学分野で社会科学の成果と研究手法を学ばせるダブルディグリー制度「グリーンMOTジョイント・ディグリープログラム」を実施している。

○ 図書館のレファレンス機能強化を図るために、附属図書館の利用者の多様化に対応して日本語・英語・中国語・韓国語による利用案内を作成するとともに、研究成果のインパクトを被引用度やダウンロード数等の指標を通じて総合的に把握できる、「視認度評価分析システム」を開発している。

○ 学生に対する経済的な支援方策として、成績優秀学生等を対象とする授業料免除制度により、408名に対して合計9,217万円の授業料免除を行っている。

○ 学務課及び学生支援課(学生総合支援センター及びキャリア・サポートセンターを含む)の事務室をワンフロア化し、学生へのワンストップサービスを実現している。

○ ナノカーボンをベースに異種原子等を積極的に導入した究極のナノカーボンであるエキゾチック・ナノカーボンをテーマとして、基礎科学の構築と物質創成研究を展開するために、「エキゾチック・ナノカーボンの創成と応用プロジェクト拠点」を設けている。

○ 長野県、信州大学双方の人材・知的財産等を有効に活用することを目的とした、包括連携協定を長野県と締結している。

○ 中・長期的国際戦略を取りまとめた「国際化推進プラン」を策定している。

○ 財団法人長野県テクノ財団及び株式会社信州TLOと連携し、知的クラスター創成事業第1期の出願特許の状況調査と特許マップの作成を行い、情報の共有を図るとともに、技術移転活動を行っている。

○ 学級規模の適正化について、教育実習における実習生の受入人数の点から検証した結果、非常勤教諭を配置して対応している。

○ 附属長野中学校と附属松本中学校に「心の支援員」計3名を配置した結果、附属長野中学校では不登校生徒が4名中3名、附属松本中学校では7名中3名の生徒が登校できるようになっている。

附属病院関係

○ 信州大学医学部附属病院で培養・増殖した細胞を医薬品として調製し、松本歯科大学病院で再生医療を実施するなど、大学間で連携した先端医療の推進に取り組んでいる。診療では、長野県立5病院との間において、情報通信ネットワークを構築、手術支援や遠隔医療を開始するなど、地域医療機関とも密接に連携しながら診療機能の充実を図っている。
 今後、引き続き、学内外との共同研究や先進医療の開発・推進を図るとともに、救急や周産期医療等、地域住民からのニーズも高い医療提供体制の強化に向けたさらなる取組が期待される。

(教育・研究面)

○ 先端医療教育研修センターにおいて、学生・研修医・医師・看護師等を対象とした研修(延べ2,528名受講)や、他医療機関の看護職員(67名)や救命救急士(9名)等の研修・トレーニングを開催するなど、積極的な受入れを行っている。

○ 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によるプロジェクトでは、民間企業との連携による新しい自動培養ロボットを完成、また、がん免疫細胞療法(樹状細胞療法)の自由診療等、先進医療の充実に取り組んでいる。

(診療面)

○ 新生児集中治療室(NICU)を8床から9床へ増床、新生児病室(GCU)を6床から12床に増床し、看護師の増員を図るなど、社会的な課題である周産期医療の充実に取り組んでいる。

○ ヘリポート稼働のために、長野県警等とヘリポート運用訓練を実施し、ヘリポート稼働後は、65名の患者を受け入れるなど、救命救急体制の強化を図っている。

(運営面)

○ 医学部との共催により、「親子で参加するメディカルフォーラムイン信州」を開催しており、35組の親子を対象に模擬手術、内視鏡体験等を実施するなど、参加生徒の医療人志向の動機付けに取り組んでいる。

○ 外部評価では、財団法人日本医療機能評価機構による病院機能評価Ver5.0に認定されている。

○ 副病院長のうち1名を経営担当に、また、病院長補佐のうち2名を「包括医療(DPC)の検証」「病床再配分・空床コントロールによる増収策」担当とするなど、病院経営の改善のための組織整備の充実を図っている。

お問合せ先

高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成23年12月 --