国立大学法人東京医科歯科大学の平成21年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

  東京医科歯科大学は、医学部・歯学部の両附属病院を経営戦略上の重要事項として位置付け、学長の執行方針である、附属病院の運営の見直しによる自己資金を教育研究及び診療活動の質の向上に充て、附属病院の診療活動を高めるというサイクルの循環を、引き続き強力に推進している。
 業務運営については、研究プロジェクトを推進するため、プロジェクト研究の企画や評価に関する検討・実施を行っており、多くの分野を越えた研究成果の発表を積極的に行うとともに、大学の特徴を活かした各部局の教員相互の医歯工連携によるプロジェクト「医歯工連携による人間環境医療工学の構築と人材育成」により、連携を図り研究を推進している。
 財務内容については、大学全体の財務情報について、四半期ごとに貸借対照表及び損益計算書を作成し、収益・費用の増減要因等の分析を行うとともに、前年度同時期の財務指標を用いた比較分析を行い役員会に報告している。
 その他業務運営については、スチューデントセンターにおいて「ecoアクションプラン」を学生支援の一環として企画し、学生や教職員が処分する予定の家具・家電について、スチューデントセンターを仲介として必要な学生・教職員へ譲渡することにより、エコロジーと学生支援を推進している。
 教育研究等の質の向上については、新たに構築を目指す「医歯学融合教育カリキュラム」のために医学科、歯学科、教養部合同の研修会を開催し、教養部を含んだ教育カリキュラムと、医歯学融合教育カリキュラムへの理解を深めている。
 また、チュラロンコン大学(タイ)との医歯工分野での国際交流大学間協定を締結し、
 教育研究活動を国際社会へ広く展開する活動を行うなど、アジア圏の人材養成機関としての役割の構築に向けた取組を実施するとともに、チリ共和国との協定によるラテンアメリカ共同研究センターの開設、ガーナ共和国での新興・再興感染症研究拠点の形成等、海外拠点化事業を推進している。 

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。 

○ 研究プロジェクトを推進するため、プロジェクト研究の企画や評価に関する検討・実施を行っており、多くの分野を越えた研究成果の発表を積極的に行うとともに、大学の特徴を活かした各部局の教員相互の医歯工連携によるプロジェクト「医歯工連携による人間環境医療工学の構築と人材育成」により、連携を図り研究を推進している。

○ 戦略的学内資源配分を行い、医学部附属病院における外来患者増、救命救急センター設置、手術件数増に対応した医師やコ・メディカルスタッフの増員や、医学部入学定員増に伴う基礎系教員の配置の見直しにより医学教育の充実を図っている。

○ 心の健康問題により休職を余儀なくされた教職員の職場復帰を支援するため、保健管理センターや安全衛生委員会において、復帰支援プログラムを作成し、円滑な職場復帰支援の環境を整備している。

○ 事務組織の改組により、情報担当部門を財務部から学術国際部へ移管し、情報処理センターと連携を取りながら全学的な電子情報化をサポートする体制としている。

○ 副学長を中心とした委員会を設置し、育児支援に関する意向調査を実施したり、保育施設を整備したりするなど、仕事と育児等の両立を支援する取組がなされている。

○ 経営協議会から出された法人運営に関する意見(医師不足問題や地域社会への貢献等への対応等)について、その取組事例をウェブサイトで公表している。

○ 経営協議会の審議内容は、大学のウェブサイトに議事要旨を掲載することにより社会に広く公表している。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載20事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 大学全体の財務情報について、四半期ごとに貸借対照表及び損益計算書を作成し、収益・費用の増減要因等の分析を行うとともに、前年度同時期の財務指標を用いた比較分析を行い役員会に報告している。

○ 補助金等の財政支援が終了した9件のプロジェクト等のフォローアップを公募・審査を経て行っており、フォローアップについては次年度以降も行うこととし、公募、受付を実施している。

○ 各設備の保守点検業務を複数年契約とし、電気量料金の蓄熱調整契約(使用量の減る夜間にエネルギーを蓄熱し、昼間に転換利用する)の契約内容を見直すこと等により、恒常的な経費節減を行っている。

○ 一般管理費比率が2.1%(対前年度比0.2%増)となっていることから、削減に向けさらなる取組が期待される。

○ 中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。

○ 平成20年度評価結果において評価委員会が課題として指摘した、随意契約見直し計画の実施については、競争契約化が遅れていた医学部附属病院における業務について競争入札に付すなど、指摘に対する取組が行われている。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載18事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ 平成22年度のウェブサイトの全面的なリニューアルに向けて内容を精査し、デザイン等を広報委員会等で検討、作成するとともに、特別な技術がなくても随時更新ができるシステムに変更したほか、操作性に優れたウェブサイトとしている。

○ 広報室に事務職員を置くとともに業務分担を明確にし、情報収集・管理体制の強化を図っており、広報室にて厳選した8件の高い研究成果についてプレスリリースを実施している。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載11事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理

平成21年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

○ スチューデントセンターにおいて「ecoアクションプラン」を学生支援の一環として企画し、学生や教職員が処分する予定の家具・家電について、スチューデントセンターを仲介として必要な学生・教職員へ譲渡することにより、エコロジーと学生支援を推進している。

○ 湯島地区メインアプローチについて、駐車場数が条例による設置義務数から削減できたことにより、当初計画の地下2層分を減じた経済的な計画とするとともに、利用者の歩行者動線と車両動線が交差していることから、歩車道分離の動線の確保も踏まえた一連の基本計画を策定している。

○ 大規模な建物改修(生体材料工学研究所、2号館等)に併せて、断熱効率の高い二重ガラス窓や内側断熱の採用、インバータ照明器具への交換を促進し、太陽光発電設備を設置するとともに、井戸水活用プロジェクトについて災害時におけるライフラインの確保を含め検討している。

【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由)年度計画の記載11事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

評価委員会が平成21年度の外形的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

○ 教育理念の一つとして「国際感覚と国際的競争力に勝れる人間の養成」を掲げており、留学生センターを国際交流センターに発展させ、国際交流ディレクターを採用するとともに、国際シンポジウムを含む国際サマープログラムを新たに開催している(11か国35名の参加)。

○ 新たに構築を目指す「医歯学融合教育カリキュラム」のために医学科、歯学科、教養部合同の研修会を開催し、教養部を含んだ教育カリキュラムと、医歯学融合教育カリキュラムへの理解を深めている。

○ チュラロンコン大学(タイ)との医歯工分野での国際交流大学間協定を締結し、教育研究活動を国際社会へ広く展開する活動を行うなど、アジア圏の人材養成機関としての役割の構築に向けた取組を実施するとともに、チリ共和国との協定によるラテンアメリカ共同研究センターの開設、ガーナ共和国での新興・再興感染症研究拠点の形成等、海外拠点化事業を推進している。

○ 教養教育において、医療施設での体験実習や医療面接、コミュニケーション技術の演習を実施するとともに、各学科の専門教育において早期臨床体験実習を行い、高い倫理観や人間的共感力を持った医療人を養成している。

○ 学部教育において、海外研修奨励制度による派遣枠を拡大(7名から9名へ)したほか、医学部医学科では、8名をハーバード大学(米国)関連病院で3か月間臨床実習を行わせるとともに、教員16名を派遣(医学部・歯学部教員)し、教育プログラムの見直しを行っており、インペリアル・カレッジ(英国)とはそれぞれ4名の学生を基礎研究実習期間に相互派遣受入(3か月から5か月)を実施している。

○ シミュレーターを導入し、スキルスラボ機能の充実を図ったほか、講義をビデオ撮影したものをストリーミング配信することに加えて、学生グループのプレゼンテーションの様子を同様に配信し、e-learningシステムを活用した学生間で評価・討論できるシステムの運用を始めている。

○ 医学部医学科の臨床参加型実習において、学生電子カルテを用いて実践的な臨床実習を行うとともに、学生の達成度、教員による学生評価、学生からの指導体制・実習プログラム評価を行っている。

○ スチューデントセンターを開設し、学生に対する総合案内、相談窓口として関連各所との連携体制を構築するなど、キャンパスライフ全般にわたり学生の相談体制を強化している。

○ 医学系産学官連携活動の強化を目指し、全国医学系大学のネットワーク設立に向けた検討委員会を立ち上げ、定期的に協議するとともに、教育面においても大学院生を対象にした「ボーダレス教育研究拠点の形成」において、知的財産及び産学連携概論・特許制度の概要・大学における知財管理・ライフサイエンス分野の特許事例等の講義を行い、職務発明規則・有体物取扱要領の周知を図っている。

○ 「若手研究者の自立的研究環境整備促進」により、テニュア・トラック制に基づき若手教員に競争的環境の中で自立と活躍の機会を与える仕組みの導入を進めている。

○ お茶の水女子大学・学習院大学・北里大学とともに学際生命科学東京コンソーシアムによる市民講演会を開催し、教育・研究資源の有効利用や大学院教育の質向上に寄与している。

○ 学術研究と地域社会発展のために、人材育成や文化・産業の進展に寄与することを目的に、東京都文京区との相互協力に関する協定を締結したほか、学校教育法で規定された「履修証明プログラム」を開設するために必要な規則を制定している。

附属病院関係

<医学部附属病院>

○ 高度先進医療の研究・開発では、自主臨床試験の実施件数が142件(対前年度比112件増)となっており、医師主導型治験やグローバル治験の実施等、新たな治験への取組を推進している。診療では、救命救急センター等において、13,622件の救急要請を受け入れるとともに、ドクターカー(救急車両)の運用(147回の出動)、一般病床12床を救命救急病床(高度治療室(HCU))16床に変更・増床するなど、救命救急体制の強化、救急医療の貢献に成果を上げている。
 今後、歯学部附属病院との特色ある医療連携を図るとともに、引き続き、幅広い視野を持つ専門医研修の充実に向けたさらなる取組が期待される。

(教育・研究面)

○ 「看護職キャリアシステム構築プラン(看護職IKASHIKAキャリアパスの開発-メンターPBL方式による-)」に選定されており、医学部保健衛生学科との連携の上、学生からエキスパートに至る看護職発達モデルに基づく一貫した支援システム体制の構築に努めている。

(診療面)

○ 社会的ニーズの高い不妊治療について、体外受精・胚移植等の治療効果を高めるために「胚培養士」を採用し、不妊治療の強化に取り組んでいる。

○ がん患者の症状・治療の現況等について意見を交換する「キャンサーボード」を9回開催(院内外でのがん治療に関する取組実例の講演等も含む。)しており、「がんプロフェッショナル養成プラン」事業とも連携して、がん診療体制の充実を図っている。

(運営面)

○ 経費削減の取組として、医薬品や医療材料の価格見直し及び品目の集約に継続して取り組んでおり、また、手術部の医療材料の科別・術式別のキット化を推進(53種類)した結果、経費節減はもとより手術部内全体の業務効率化が図られており、経営改善に取り組んでいる。

○ 医療福祉支援センターのメディカル・ソーシャル・ワーカー(MSW)を常勤化し、より一層医療福祉体制の充実を図っている。

<歯学部附属病院>

○ 「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」によるリカレント教育を適切に実施し、歯科衛生士や歯科技工士の知識・技術向上に取り組んでいる。
 診療では、医学部附属病院に快眠センターを設置、口腔装具適応患者に対する連携スタッフとして義歯外来の教員を窓口にしてその治療に当たるなど、医学部附属病院との連携強化に努めている。
 今後、引き続き、快眠センター等の医学部附属病院との連携を図り、集学的な治療体制を確立するなど、良質な歯科医療の提供に向けたさらなる取組が期待される。

(教育・研究面)

○ 歯科医師臨床研修指導歯科医講習会を2回、それぞれ2日間にわたり実施し、48名が研修プログラムを修了している。

(診療面)

○ 外来及び入院患者に満足度調査を実施し、病院を受診した理由、診療に際して改善が必要な点・良い点等について分析(過去3年間との比較)を行い、患者のニーズを反映させる取組を行っている。

○ 院内でのインシデント・アクシデントレポートの収集を継続して実施、また、財団法人日本医療機能評価機構のヒヤリハット事例収集分析提供事業への参加を開始するなど、医療安全体制の強化に努めている。

(運営面)

○ 社会情勢の変動に伴い料金体系について見直しを行い、附属病院収入の効率的確保に資するため及び保険適用外治療に対する患者の要望に応えるため、私費料金の改定を行うなど、病院経営の改善に向けた取組を行っている。

お問合せ先

高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成23年12月 --