大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構の平成20年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 高エネルギー加速器研究機構(以下「機構」という。)は、我が国の加速器科学の総合的発展の拠点として、「素粒子原子核研究所」、「物質構造科学研究所」の2つの大学共同利用機関と、「加速器研究施設」、「共通基盤研究施設」の2つの研究施設を設置する法人である。
 機構は、世界に開かれた国際的な研究機関であるとの理念の下で、高エネルギー加速器を用いた研究を行い、自然界に働く法則や物質の基本構造を探求することにより、人類の知的資産の拡大に貢献するとともに、国内外の研究者に共同利用の場を提供し、加速器科学の最先端の研究及び関連分野の研究を発展させることを目指した研究活動を行っている。
 業務運営面については、職員の意識改革の基本となる「管理局職員宣言」や、「業務改善アクション・プラン」を策定するなど業務効率化に向けた取組を進めており、今後、合理化活動を目に見える形で実行してゆくことが期待される。
 また、小林誠特別栄誉教授らのノーベル物理学賞受賞を受け、記念ウェブサイトの作成や講演会、シンポジウム等の開催を通じ、受賞に結びついた機構の活動に関する情報等を発信するなど、社会一般の関心を高める活動を積極的に行っており、評価できる。
 その他業務運営では、エネルギー使用量の概ね0.5%に相当する額を省エネルギー対策に投資するための「省エネ推進経費(省エネファンド)」を創設するとともに、省エネパトロールを実施するなど、環境に対する積極的な取組を進めており、評価できる。
 他方で、平成20年度の年度計画については、具体性が必ずしも十分でないものが散見された。今後、国民に対する説明責任を果たすとともに、適切な評価に資する観点から、年度計画及び第2期中期目標・中期計画については、達成状況が事後的に検証可能となるよう可能な限り具体的なものとすることが必要である。
 教育研究の質の向上については、独立行政法人日本原子力研究開発機構と共同で進めてきた大強度陽子加速器施設(J‐PARC)の建設が予定どおり進み、原子核素粒子実験施設(ハドロン実験施設)及び物質・生命科学実験施設における共同利用を開始している。J‐PARCの運営に際しては、J‐PARCセンターに利用促進チームを新たに設置するなど体制の強化を図っており、引き続き、円滑な共同運営を可能とする体制整備が期待される。
 機構は、機構長のリーダーシップの下、全機構的な観点から、様々な活動を積極的に行ってきており、評価できる。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  管理局若手職員による業務改善ワーキンググループにおいて、職員の意識改革の基本となる「管理局職員宣言」を策定した。また、業務改善推進チームを設置して業務改善の具体的方策となる「業務改善アクション・プラン」を策定した。さらに業務改善推進本部を筆頭に業務改善ワーキンググループを発展的に改組して業務改善推進会議を設置し、業務改善に係る具体的な検討や業務調査等を行うなど、業務の合理化・効率化・迅速化を推進する取組を推進した。
  •  機構本部では、環境・地球温暖化対策推進会議を設置し、環境負荷の低減に努めている。省エネルギー啓発ポスター・シールの貼付や省エネパトロールの実施、主な建物ごとの毎月の使用電力量等の掲示により、機構全体で職員の省エネルギーに対する意識の向上を図る取組を行った結果、一般需要に係る二酸化炭素排出量について、計画を大きく上回る成果(対前年度比12%減)を達成した。
  •  機構長を中心に第2期中期目標期間に向けた機構組織の検討を進め、平成21年度から、機構長補佐体制を強化するための機構長補佐室や先端加速器推進部等の設置を決定するなど内部組織の再編を行った。素粒子原子核研究所では、研究系及び研究主幹をすべて廃止し、組織の枠にとらわれない機動的な対応をとることを可能とし、物質構造科学研究所においては、副所長を2名としてつくばキャンパスと東海キャンパスにそれぞれ配置し、所長を補佐するとともに、各キャンパスでの活動を統括する体制をとった。
  •  J‐PARCセンターでは、本格的な運営のために、平成20年4月から広報・情報の2セクションの新設と運営推進支援セクションの改編を行い、5ディビジョン19セクション体制とした。また、利用業務セクションにおいて、利用促進チームを新設し、体制強化を行った。
  •  年齢構成のアンバランス等が課題となっていた技術職員について、「技術職員の職位等に関するタスクフォース」を設置して検討を行い、技術職員の職位を、「技術に基づく職位」と「リーダーシップの役割を持つ職位」の2種類に分類することや、職位に対応した給与の位置付け、各職位の望ましい年齢構成比率等を内容とする答申を取りまとめた。
  •  機構長のリーダーシップの下で、戦略的・効果的な人的資源活用と研究所等における計画的人事を行うため、平成20年度末に定年退職する教員を含む職員の定数を「機構長裁量定数」として一定数(平成20年度:26名)確保した上で、機構長が真に必要と認めるものについて配分を行うこととし、平成21年度のポスト配分を全機構的な観点から実施した。
  •  年俸制による任期付き教員制度を見直し、任期付き常勤職員として新たに特別助教、特任助教の採用を可能とするよう制度改正を行った。これによる公募の結果、2名の採用及び7名の内定を決定した。
  •  大学等における修学や、独立行政法人国際協力機構が実施するボランティア等での活動を可能とする「職員の自己啓発等休業規程」を制定し、平成21年度から新たな休業制度として自己啓発休業制度の導入を決定した。
  •  機構では、男女共同参画推進本部等を設置し、保育所設置についての検討やアンケートの実施等を継続的に行っている。今後、女性が活躍しやすい環境作りとともに、女性研究者の比率の向上に向けて、発想の多様性の確保という研究ミッション遂行上の観点から、大学セクターを牽引するような積極的な取組を行うことが期待される。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載24事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  新たに、夏季点検期間中における実験トンネル空気調和設備の間欠停止(約716万円削減)、冬季実験停止期間における特高変圧器の一部停止(約105万円削減)等による経費削減に努め、さらに、ルームエアコン・照明器具の高効率化機器への更新等により、省エネルギー対策や経費削減(約121万円)を行った。また、引き続き、IP電話の利用(対前年度比約690万円削減)、入札公告をまとめて官報に掲載(約362万円削減)、複数年の電力調達契約の締結(単年度契約と比べ約4,287万円削減)を行った。
  •  工事に関する見積競争、一般競争入札時に交付する仕様書・図面・入札説明書等を、ウェブサイトからダウンロードできるようにし、契約事務の効率化を図るとともに、平成20年度の工事に関する入札案件21件のうち17件(81%)を電子入札により実施し、入札事務を効率化した。
  •  機構の財務状況について国民に分かりやすく発信する「財務諸表の解説」の見直しを行い、図表等を増やすなど、より分かりやすく見やすい体裁を考慮して編集するとともに、機構のウェブサイトにおいて公開した。
  •  つくばキャンパスと東海キャンパス間を外部委託により運行している業務連絡バスについて、大型化等の見直しを実施した。また、バスの導入により、公共交通機関を利用した場合と比較して、旅費相当換算額で年間約2,000万円の経費削減にもつながっている。
  •  加速器施設の保守点検にあたり、冷却効率が低下する夏季(7、8 月)に集中的に保守点検を実施することに加えて、電力需給が特に逼迫する指定日を電気設備定期点検日とすることにより、電力使用量が増大する夏季の運転を回避し、約4億1,958万円の経費を削減した。
  •  余裕資金の運用において、資金の安全性を確保しつつ、きめ細かな運用(21回)を積極的に行い、運用益の増加に努めた。(平成20年度実績:3,449万円)
  •  中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載6事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  小林誠特別栄誉教授のノーベル物理学賞受賞を受け、記念ウェブサイトの作成や、1,000名を超える規模の一般向け講演会の開催(2回)や展示会の開設・出展等を実施した。また、子どもの科学に対する興味を高め社会に貢献する観点から科学連載マンガ「カソクキッズ」をウェブサイトに掲載するなど、積極的な広報活動を行った。
  •  評価・調査室では、研究成果の点検等に活用するために実施している論文収集に当たって、外部機関のデータベース等から機構の職員が著者となっているものを抽出し、収集できるシステムを構築し、論文の収集・整理を効率化した。
  •  物質構造科学研究所の広報コーディネーターを新たに採用して広報体制の強化に取り組み、広報室とコーディネーターが連携すること等により、研究成果等の収集に努め、機構ホームページ(日本語・英語)に1週間に一度のトピックス記事を作成・掲載するなどして、機構の活動の広報に努めた。
  •  機構の研究成果や活動への理解を深めてもらうために、ウェブサイトによるニュース配信(週1回の頻度で更新(年50回))やプレスリリース(年21件)、施設の一般公開(つくば:約3,700名、東海:約2,600名参加)、団体見学ツアー(つくば:329件・4,961名、東海:547件・9,109名参加)、講演会・シンポジウム・展示会等を実施するなど、積極的な広報活動を行った。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載7事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  エネルギー使用量の概ね0.5%に相当する額を省エネルギー対策に投資するための「省エネ推進経費(省エネファンド)」を創設し、機器の更新や取り替えの際に、同経費を活用して、省エネルギー機器等の積極的な導入を行うことを可能にした。
  •  研究活動の基盤となる施設のマネジメントが継続的に機能するよう、施設マネジメント室長を専任とし、スペースの有効利用やエネルギーの有効利用、地球温暖化対策に重点的に取り組む体制を強化している。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載7事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成20年度の外形的・客観的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

1.研究水準及び研究の成果等、2.研究実施体制等の整備

  •  加速器科学に関連する様々な研究課題について、国内外の大学や研究機関との共同研究を推進するため、平成20年度現在で、国内機関と79件(国立大学23件、私立大学6件、研究機関52件、(3者以上の重複あり))、国外機関と79件の研究協力協定・覚書を締結しており、これらに基づき様々な共同研究を実施した。
  •  Bファクトリーによる実験において、これまでに収集したB中間子の崩壊データが約8億事象となった。また、平成20年度に小林誠特別栄誉教授がノーベル物理学賞を受賞し、その受賞理由において、BファクトリーでのBelle実験による「小林・益川理論の検証」が挙げられるなど、これまでのBelle実験での成果が重要であったことが示された。
  •  J‐PARCでは、平成20年12月に物質・生命科学実験施設が稼動し、50GeVシンクロトロンにおいて当初目標である30GeVまでの陽子ビームの加速に成功した。平成21年2月には原子核素粒子実験施設(ハドロン実験施設)が稼動したほか、ニュートリノ実験施設についても平成21年4月からの稼動を予定するなど、計画どおりに建設を進め、今後の本格的な運転に向けての整備・調整・運転等を着実に実施した。
  •  加速器の研究において、世界最高のルミノシティー(粒子同士の衝突頻度)を有するKEKB加速器の更なる性能向上を目指し、ルミノシティーをさらに改善するためのクラブ空洞の調整を続けた結果、最高ルミノシティーは設計値の1.76倍を達成、データの総蓄積値も900fb‐1を超える値を記録した。

3.共同利用等の内容・水準、4.共同利用等の実施体制

  •  世界に開かれた国際的な研究機関として、平成20年度は、3,744名(438機関)の共同利用者(うち、外国人研究者724名、国外機関212機関)を受け入れ、国内外の関連分野の研究者に研究の場を提供することにより、加速器科学及び関連分野の発展に大きな貢献をした。
  •  実験装置等の設計・開発に関して、機構の教員と他大学及び民間を除く他の研究機関の研究者等による共同研究を積極的に推進するため、平成20年度においても、公募による共同開発研究制度を実施した。(平成20年度申請:12件、採択:6件)
  •  J‐PARCユーザーの研究環境の向上のため、隣接する「いばらき量子ビーム研究センター」の1階にユーザーズオフィスを設置し、共同利用研究者等の入構手続きから外国人研究者の生活支援等、関連手続きを一元的に処理できる体制を整備するとともに、同建物内にユーザー用居室の整備を進めた。
  •  機構の共同利用実験に参加するための課題申請手続きをウェブサイト上で行うことを可能とする「課題申請システム」の運用を開始し、利用者の申請手続き及び機構の受付事務手続きを簡素化・合理化し、共同利用研究者の利便性を高めた。また、課題採択の仕組みについてもシステム化し、課題審査事務を簡素化・合理化を進めた。
  •  J‐PARCでは、共同利用実験を開始するとともに、J‐PARC利用者協議会や、ハドロン分野の研究者等で構成するハドロンホールユーザー会、中性子及びミュオン分野の物質・生命科学実験施設利用者懇談会等により、研究者コミュニティの意見を集約する体制を整えることにより、独立行政法人日本原子力研究開発機構と協力して利用者の立場に立った運営を行っている。

5.大学院への教育協力・人材養成

  •  総合研究大学院大学の基盤機関として、3専攻56名の大学院生の教育を実施し、このうち10名が博士の学位を取得した。また、特別共同研究員として21名、連携大学院制度により18名を受け入れるとともに、リサーチアシスタント78名を採用した。
  •  若手・中堅職員を一定期間、海外の大学や研究機関等に派遣し、広く国際的な視野を有する優れた研究者として育成するための機構独自のプログラムである長期海外派遣制度により、平成20年度から4名の職員の派遣を開始した。
  •  加速器科学に関連する分野の発展を図るための大学等に対する活動支援として、大学等連携支援事業の公募を実施し、19 大学36 件の加速器科学分野の事業について連携支援を行い、大学の学部専門科目の開講や施設見学等を通じて、高エネルギー加速器実験と物質科学・生命科学・医療分野での加速器の利用等について系統的な知識を提供した。

6.社会との連携、国際交流等

  •  英語が堪能な職員や外国人の職員をユーザーズオフィスに配置して、外国人ユーザー対応を充実させた。また、外国人研究者への生活支援等に関して、研究交流推進室を中心に現状分析を行うとともに、生活面でのサポートも行っている。
  •  中東地域に建設が進められているSESAME(中東放射光施設)に関連し、平成20 年11月にエジプト・カイロ大学において、SESAME/JSPS スクールを共催し、機構から組織委員会委員や講師の派遣を行うなど、計画段階からの積極的な協力・支援を行った。

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高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成22年02月 --