大学共同利用機関法人自然科学研究機構の平成20年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

  自然科学研究機構(以下「機構」という。)は、我が国の天文学、物質科学、エネルギー科学、生命科学その他の自然科学分野の中核的研究拠点として、「国立天文台」、「核融合科学研究所」、「基礎生物学研究所」、「生理学研究所」及び「分子科学研究所」の5つの大学共同利用機関(以下「機関」という。)を設置する法人である。
 機構は、各分野の国際的拠点であると同時に、自然科学分野の関連する研究組織間の連携による学際的研究を推進するとともに、欧米、アジア諸国等との連携を進め、自然科学の長期的発展を見極めながら、国際的研究拠点の形成を推進している。
 業務運営面については、機構長、理事及び副機構長を構成メンバーとする機構会議を中心に機構内の重要事項を審議し、円滑な運営を進めるとともに、機構長裁量経費の大幅な増額により、分野間連携事業、若手研究者の育成、研究環境の整備、機構シンポジウムの開催に充てるなど、効果的な資源配分を実施しており、これまでの取組を一歩進めたものとして評価できる。
  他方で、平成20年度の年度計画については、具体性が必ずしも十分でないものが散見された。今後、国民に対する説明責任を果たすとともに、適切な評価に資する観点から、年度計画及び第2期中期目標・中期計画については、達成状況が事後的に検証可能となるよう可能な限り具体的なものとすることが必要である。
 教育研究の質の向上については、引き続き、機構長裁量経費により、「分野間連携による学際的・国際的研究拠点形成プロジェクト」及び「新分野創成型連携プロジェクト」を推進している。「新分野創成型連携プロジェクト」については、外部評価者を含む研究報告会を開催し、その評価結果を後続のプロジェクト研究に活用している。
 また、平成19年度評価においては、機構としての一体的・総合的取組の必要性を指摘したが、平成21年度から機構に「新分野創成センター」を設置し、これまで各機関個別の研究や分野間連携により取り組まれていた研究をさらに発展させ、「ブレインサイエンス」と「イメージングサイエンス」の2つの新分野について、総合的・重点的に推進することを決定したことは、これまでよりも一歩進んだ取組として評価できる。今後は、第2期中期目標期間に向け、機構長のリーダーシップの下、新分野創成センターにおける具体的研究成果の創出や新たな研究分野の設定等を含め、活動の一層の推進が期待される。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  機構長のリーダーシップの下、目的積立金を活用し、機構長裁量経費を大幅に増額(約3億7,700万円の増額)し、老朽化が著しく円滑な共同利用・共同観測の実施に支障を来している国立天文台45m電波望遠鏡の改修に着手するなど、各機関の喫緊の懸案事項等に対し予算を措置した。
  •  機構本部に設置している国際戦略本部が実施した国際共同研究支援職員研修を通じて、外国人研究者雇用ハンドブックを作成し、外国人研究者の雇用に関する基礎知識及びノウハウ等の共有を図るとともに、業務手順を統一した。
  •  国立天文台では、各プロジェクト等で個別に行われていた国際協力及び国際連携に関する事務を一元化し、台長の下に研究教育職員を長とする国際連携室を設置し、国際共同研究、国際研究集会、国際研究協力協定の締結に関する支援強化を進めた。
  •  基礎生物学研究所では、3名の若手教授及び1名の若手独立准教授を採用し、研究体制の強化を行うとともに、これらの研究者に対して重点的な経費配分を行った。また、若手研究者確保の一環として、研究所雇用のポストドクトラル・フェローをNIBBリサーチフェローと改称するとともに、1週間の勤務時間の上限の延長等の制度を整備した。
  •  基礎生物学研究所では、研究教育職員の流動化に向け、任用から1年を経過する特任教授及び任期制導入後に雇用した准教授・助教のうち任期が5年を経過する者について業績評価を行った。
  •  生理学研究所では、運営会議外部委員の要望等、コミュニティの意見を踏まえ、サバティカル制度等を利用した研究者を受け入れるため、平成21年度からの流動連携研究室の設置準備を進めた。
  •  岡崎地区では、平成18年度から研究と子育ての両立を支援するために保育園を開園するとともに、「子育て支援ネットワーク」を設置し、子育て中の研究者が安心して研究に従事・専念できる取組を行っている。今後、機構全体として、女性が活躍しやすい環境作りとともに、各機関の女性研究者の比率の向上に向けて、発想の多様性の確保という研究ミッション遂行上の観点から、大学セクターを牽引するような積極的な取組を行うことが期待される。     
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる                  

(理由) 年度計画の記載22事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  将来的に利用の見込みがなくなった国立天文台野辺山地区の職員宿舎及び共同利用研究者宿泊施設の一部について、施設の有効利用の観点から実地調査を行い、機構本部の直接管理による施設として、再利用の途を検討していくこととした。
  •  国立天文台では、「天文学振興募金」を設立し、ウェブサイトからの寄附の申し込みや、クレジットカードでの寄附も可能とするなどの寄附金の受入れ体制の整備を進めた(231件、約1,009万円)。また、外国の大学との研究協力を前提に複数年にわたり多額の寄附金を受け入れる協定の締結等により、平成19年度に比べ約2億9,700万円増の寄附金を受け入れた。
  •  新たに、設計業務委託契約において、環境対策、透明性、公正性、競争性及び品質の確保を図るため、環境配慮簡易公募型プロポーザル方式を導入し、分子科学研究所の明大寺実験棟改修設計契約において実施した。
  •  中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載6事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  機構及び各機関のウェブサイトに改良を加え、内容の充実を図った結果、総アクセス件数は、合計が約1億7,656万件となり、年度計画で目安とした9,000万件を大きく上回った。
  •  広報活動を効率的かつ効果的に実施するため、機構における「広報の基本方針」を策定し、機構が取り組む広報の考え方を明らかにした。
  •  国立天文台では、自己点検・評価を行うとともに、国際標準での評価の必要性から、国際外部評価を実施し、その結果を受けて、「RISE月探査プロジェクト」、「VSOP‐2推進室」等の研究体制や組織の改廃等の見直しを行った。
  •  核融合科学研究所では、共同研究を行う機関の研究者が相互に行き来して行う「双方向型共同研究」について、外部評価を実施するとともに、研究所顧問と海外研究機関の有識者5名を評価委員とした評価会合を設け、研究所の研究活動全体にわたる最近の進展について評価を受け、活動の改善に生かすとともに、評価結果をまとめた報告書をウェブサイトに掲載した。
  •  分子科学研究所では、外国人運営顧問2名によるヒアリングを受けた。また、研究顧問(国内)3名と所長による、研究成果及び平成21年度の研究計画のヒアリングを行い、その結果に基づいて研究費の配分を行うとともに、評価結果を教授・准教授に個別に通知し、改善等を促した。
  •  分子科学研究所では、「分子科学フォーラム」を市民一般公開講座として位置付けを見直し、社会人向け、高校生向け等、対象を絞った講演を企画・実施した。(6回開催)
  •  岡崎3機関では、アウトリーチ活動の円滑な運営のために岡崎3機関アウトリーチ活動連絡委員会を組織し、地域社会や学校との連携活動を推進した。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる                  

(理由) 年度計画の記載12事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  機構の「施設マネジメント・ポリシー」に基づき、施設実態調査・満足度調査を実施し、キャンパス年次計画の再検討を行った。また、建物修繕年次計画に基づく老朽化改修工事を主とするクオリティマネジメント、各室の使用状況調査に基づき研究室・実験室・ホール等の有効利用を図るスペースマネジメント、省エネルギー対策工事や複数年契約等の契約の見直しによるコストマネジメントを行い、それらの取組状況をウェブサイトで公表した。
  •  核融合科学研究所では、研究棟1階ホール周辺を子ども向け広報用科学実験展示スペースに改装し、建物の有効活用を図った。
  •  分子科学研究所では、安全衛生講習の電子教材化を日本語版・英語版の両方で進めた結果、外国人も含めて、随時の安全衛生講習の実施を可能とした。
  •  岡崎3機関では、動物及び動物実験の管理に関する専門家である他大学の名誉教授を、動物実験コーディネータとして特任教授に採用し、従来よりも教育訓練の回数を増やすとともに、関連事項の周知、実験動物の飼養保管施設や実験室の整備、動物実験計画の審査等を行い、動物実験の実施体制を強化した。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる                  

(理由) 年度計画の記載9事項すべて「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成20年度の外形的・客観的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

1.研究水準及び研究の成果等、2.研究実施体制等の整備

  •  自然科学研究の新分野の創成を目指す機構の理念を具体化するために、「ブレインサイエンス研究分野」と「イメージングサイエンス研究分野」の2つの新たな研究分野の研究を行うことを目的とした、「新分野創成センター」を平成21年度に設置することを決定した。また、「ブレインサイエンス研究分野」の推進のため、存続期限付きのヴァーチャルなネットワーク型の研究拠点を設置する「ブレイン・サイエンス・ネットワーク(仮称)」を構築するため、関連予算を獲得(平成21年度:2,178万円)した。
  •  国立天文台では、ALMA推進室において、日本が担当する主要装置であるアタカマ密集型干渉計(ACA)用7mアンテナ及び受信機カートリッジ、ACAシステムの製造を進めた。平成20年12月には、ACA用12mアンテナ4台のうち1台が、国際アルマ観測所が定めた性能基準を満たした第1号アンテナとして認められた。また、平成20年3月より共同利用に供するために公開されたバーチャル天文台(VO)システムに各種大規模天体カタログを充実させ、月当たり平均400ギガバイト、最大1テラバイトの天文データを世界各地に発信した。
  •  核融合科学研究所では、プラズマの高性能化に必要な物理機構の解明を図るため、九州大学応用力学研究所高温プラズマ力学研究センター等4大学の関連研究施設との「双方向型共同研究」を進め、68件の研究課題を採択した。また、九州大学に完成したTRIAM‐QUEST装置(長時間維持球状トカマク装置)により、プラズマ生成実験が開始された。同時に、同装置で取得したデータを本研究所に転送し、全国各地からアクセスできるシステムを構築した。
  •  基礎生物学研究所では、波長可変レーザーを生物試料に適応する際に必要とされる光波長、光強度等を実現するための制御プログラムの仕様等を検討した。また、生物遺伝リソース情報を一体的に提供するためにウェブサイトをリニューアルし、収集・保存・提供を一層円滑に行える体制を構築した。飼育関係では、より健康なメダカバイオリソースを提供するとともに、外部からの系統寄託をスムースに進めるため、検疫室と主飼育室を整備し、検疫及び飼育体制を強化した。
  •  生理学研究所では、生理学(医科学、基礎医学)の基盤的学術研究を展開し、神経幹細胞と精神神経疾患の関係、社会的価値判断の脳科学的基盤等の成果を上げた。また、技術面では、位相差電子顕微鏡の高度化を図るとともに、痒み刺激装置を開発した。
  •  分子科学研究所では、量子化学計算の効率を大幅に向上する計算アルゴリズムの開発・高度化による分子の集団的挙動の解明、ナノ物質や金属や半導体の固体表面の機能とそれらの動的過程を観察するための顕微分光法の高度化、放射光とレーザーの分野間協力によるコヒーレント放射光源開発、有機半導体太陽電池での世界最高変換効率の実現等の成果を上げた。

3.共同利用等の内容・水準、4.共同利用等の実施体制

  •  平成20年度は国内外の大学・研究機関合計765機関から共同利用・共同研究者数6,685名(国立天文台1,484名、核融合科学研究所1,950名、基礎生物学研究所253名生理学研究所900名、分子科学研究所2,098名)を受け入れ、各機関の特性に応じた共同利用・共同研究を実施した。
  •  国立天文台では、ハワイ観測所、水沢VERA観測所、野辺山宇宙電波観測所、野辺山太陽電波観測所、太陽観測所・乗鞍コロナ観測所、岡山天体物理観測所等の様々な観測装置及び天文シミュレーションプロジェクトのスーパーコンピュータ並びに天文データセンターのデータベースを共同利用に供したほか、太陽観測衛星「ひので」のデータ公開を実施した。
  •  核融合科学研究所では、磁場閉じ込め関連の共同研究・共同利用を一層推進するため、共同研究者が利用できるMHD(電磁流体力学)シミュレーションコードを作成した。また、LHD(大型ヘリカル装置)のMHD不安定性に関する試験計算により、シミュレーションコードの有効性を確認し、研究部との共同研究の利用形態で共同研究者に公開した。
  •  基礎生物学研究所では、所外の研究者が提案する従来の公募型共同利用研究に加え、所内の研究者が所外の研究者に積極的に働きかけて行う提案型共同研究を新設し、総体として2つの方向性を持つ共同研究システムを推進した。また、DSLM(デジタル走査式平面照射顕微鏡)の共同利用実験の公募を平成21年度に開始することを目指し、DSLMの整備並びに改良型DSLMの開発を進めた。
  •  生理学研究所では、脳科学研究の拠点としての機能を強化するために、全国の多分野の研究者とネットワークを形成し、多次元的な共同研究を展開する「多次元共同脳科学推進センター」を設置した。
  •  分子科学研究所が中心となって各大学が所有する研究設備の相互利用・共同利用を行う「化学系研究設備有効活用ネットワーク」の登録利用者数は、引き続き増加し、72機関5,600名となり、登録設備は197台となった。また、インターネットを活用した設備の利用予約・利用料課金ソフトの大幅なアップグレードを実施した。

5.大学院への教育協力・人材養成

  •  総合研究大学院大学の大学院生8専攻177名について、すべての専攻で5年一貫制大学院教育を実施した。また、連携大学院制度により54名(4大学5研究科)、大学からの要請に応じて受け入れた特別共同利用研究員91名について、大学共同利用機関の特色を活かした研究指導等を行うなど、大学院教育に積極的に協力した。
  •  機構全体で、ポスドク108名、特別共同利用研究員91名、リサーチ・アシスタント149名を採用し、若手研究者の育成を行った。
  •  各機関では「夏の体験入学」及び「アジア冬の学校」を引き続き実施し、国内外の学部学生、大学院生を対象として研究教育体験を通した人材発掘とそのための広報活動を積極的に行った。また、核融合科学研究所では、主として外国人留学生を対象に勉強会と文化交流を行う「賢島セミナー」を実施するとともに、基礎生物学研究所では、総合研究大学院大学生命科学研究科としてインドの3大学並びに研究所で学部学生対象の大学院説明会を開催し、人材発掘に努めた。

6.社会との連携、国際交流等

  •  核融合科学研究所では、研究所の活動を地域住民等一般にわかりやすく紹介するため、広報誌「プラズマくんだより」を6月に創刊した。また、核融合研究の意義と今後計画している重水素実験の安全性について、簡潔にわかりやすく記載したリーフレットを新たに作成し、市民説明会や一般公開等で広く配布した。
  •  基礎生物学研究所では、バイオイメージングに関連して大学・研究所所属の研究者と企業の研究者が率直な情報・意見交換をするための「バイオイメージングフォーラム」を開催した。(参加人数41名)
  •  各機関においては、「スーパーサイエンスハイスクール事業」、「サイエンスパートナーシッププログラム事業」、若者の職業能力の開発・育成のための「日本版デュアルシステム」等の教育事業に積極的に協力したほか、中学校及び高等学校の職場体験学習にも積極的に貢献して地域との教育連携を行った。

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高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成22年02月 --