大学共同利用機関法人人間文化研究機構の平成20年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 人間文化研究機構(以下「機構」という。)は、人間の文化活動並びに人間と社会及び自然との関係に関する研究分野における我が国の中核的拠点として、「国立歴史民俗博物館」、「国文学研究資料館」、「国際日本文化研究センター」、「総合地球環境学研究所」及び「国立民族学博物館」の5つの大学共同利用機関(以下「機関」という。)を設置する法人である。
 機構は、人間文化の各分野における高度な基盤的研究を各機関において実施し、共同利用・共同研究を推進するとともに、各機関の連携・協力を通して人間文化の総合的学術研究の世界的拠点となることを目指した研究活動を行っている。
 業務運営面については、機構長、理事、各機関の長から成る機構会議の在り方について見直しを行い、機構の業務運営に関する重要事項について協議調整を行う機能を持たせることにより、機構と各機関の連携を一層強化している。
 他方で、平成20年度の年度計画については、具体性が必ずしも十分でないものが散見された。今後、国民に対する説明責任を果たすとともに、適切な評価に資する観点から、年度計画及び第2期中期目標・中期計画については、達成状況が事後的に検証可能となるよう可能な限り具体的なものとすることが必要である。
 教育研究の質の向上については、各機関が有する研究資源を共有化し、有効活用するために進めている「研究資源共有化推進事業」において、各機関のデータベースを横断検索できる「統合検索システム」及び研究者自らがデータベースを作成・検索できる「nihuONEシステム」を公開した。今後、これらのデータベースを利用したさらなる研究成果の創出が期待される。また、機構が中心となって関係大学等と研究拠点を共同設置し、ネットワークを構築して研究を推進している「地域研究推進事業」については、「イスラーム地域」、「現代中国」に加え、新たに「現代インド」を研究対象地域として選定し、研究実施体制の整備に着手するなど、順調に進捗している。
 機構発足から5年が経過し、各機関が当該分野の中心的拠点としての機能を高めるとともに、連携研究や研究資源共有化の推進等により、各機関が連携した取組を推進している点は評価できるが、5機関の統合による効果を創出する取組は必ずしも十分ではない。今後、第2期中期目標期間に向けては、機構長のリーダーシップの下、新たな学問領域の創成や共同利用・共同研究機能の向上、業務運営の更なる改善・効率化に向けた取組を強力に進めることが期待される。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  機構本部に設置されている機構会議と企画連携室の在り方について見直しを行い、機構会議については、機構の業務運営に関する重要事項について協議調整を行う機能を持たせることにより、機構と各機関の一層の連携強化を図れるようにした。また、企画連携室については、平成21年度より、「企画・連携・広報室」に名称を改め、機構内外の研究機関の連携による総合的研究及び研究資源の共同利用及び広報活動の企画・推進に特化するものとした。
  •  機構本部事務局では、国立民族学博物館と人事交流を行い、地域研究推進センターに常勤職員1名を新たに配置すること等により、センター研究員の研究活動のきめ細かなサポートや、新たな研究員の公募採用等を可能とし、地域研究推進事業を円滑に実施する事務体制を整備した。
  •  国立歴史民俗博物館では、中堅・若手教員によって策定された「国立歴史民俗博物館将来計画会議答申書」(平成20年4月)に基づき、事業推進の中核となる3センター(研究推進センター、博物館資源センター、広報連携センター)について、企画・執行の機能の集約、教員と事務系職員の協業を推進するなど運営体制を見直し、業務の迅速化・効率化を進めた。
  •  国際日本文化研究センターでは、総務課と財務課を統合し、課長ポストを一元化することにより、人事、給与、共済事務を一元化して事務の効率化を図った。
  •  総合地球環境学研究所では、副所長2名体制(「研究担当」及び「企画調整担当」)を導入し、研究部における研究プロジェクトの企画・遂行と、研究所全体の研究戦略の推進と成果発信・広報を効果的に実施できるようにした。
  •  総合地球環境学研究所では、プロジェクト研究の内容と実施体制の改善を図るため、所内のプロジェクト審査委員会においてプロジェクトへの指導や支援を行う体制を整備した。さらに、同審査委員会において研究終了後の総合的な事後評価を実施し、終了プロジェクトの経験を進行中のプロジェクト等に反映できるシステムを構築した。
  •  男女共同参画については、機構本部において男女共同参画検討委員会の設置に向けた検討を行っている。今後、女性が活躍しやすい環境作りとともに、女性研究者の比率の向上に向けて、発想の多様性の確保という研究ミッション遂行上の観点から、大学セクターを牽引するような積極的な取組を行うことが期待される。

(法人による自己評価と評価委員会の評価が異なる事項)

  •  「4.担当理事及び各機関を代表する者で構成される企画連携室を通じて各機関間の研究連携をより一層促進する。」(実績報告書14頁・年度計画【4】)については、企画連携室において、「連携研究」、「連携展示」、「研究資源共有化事業」の推進を行うなど、年度計画を十分実施しているが、上回って実施したとは認められない。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載19事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  各機関において、経費抑制の意識の徹底や状況に応じた経費抑制に努めた結果、例えば国立民族学博物館では、複写機の更新分について、一般競争入札を行うことで、維持管理コストを対前年度比約680万円低減した。
  •  資金管理に当っては、引き続き安全・確実性に配意し、効率的な資金運用のために必要な諸規則の整備を行うとともに、国文学研究資料館の跡地処分収入及び短期的に支出見込みがない資金を原資とし、国債による資金運用を行った。(平成20年度運用益約1,832万円)
  •  中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載6事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  国立歴史民俗博物館では、新たに設置した広報有識者会議を年2回開催し、広報活動全般について広告業界・報道界・旅行業界・文化界・財界・学界の有識者から助言を得ることにより、研究報告や図録等の海外研究機関宛ての送付を拡充するなど広報事業の一層の充実に役立てた。
  •  国文学研究資料館では、立川市・立川市教育委員会・立川商工会議所等と連携協力し、市の広報誌やウェブサイトに展示等の情報を掲載するなど、地域に向けた広報活動の充実に取り組んだ。
  •  国際日本文化研究センターでは、毎年度1回程度実施していた報道関係者との懇談会を、平成20年度は3回実施することにより、情報発信の強化に努めた。また、同懇談会に、地域自治連合会広報部の参加を得て地域代表者と連絡を密にし、社会への研究活動内容の情報発信に努めた。
  •  国立民族学博物館では、地域に根ざした広報活動の一環として、吹田市及び吹田市内の5大学とともに、インターネットを用いて、公開講演や各種イベント等の情報を共同で発信する仕組を構築した。また、ラジオ番組「みんぱくラジオ‐世界を語る‐」を通じて、定期的に研究者が研究内容をわかりやすく社会に語る活動を行った。

(法人の自己評定と評価委員会の評価が異なる事項)

  •  「引き続き、ホームページの充実に努めるなど情報公開体制の整備を図る。また、機構としての広報活動の指針に基づき、広報活動に努める。各機関の連携の下に、機構主催の講演会・シンポジウム及び連携展示を開催するとともに、広報誌「人間文化」、「論壇 人間文化」を発刊するなど、研究成果の公開に努める。」(実績報告書34頁‐37頁・年度計画【29】)については、各機関において広報活動や研究成果の公開等を実施しており、年度計画を十分実施しているが、上回って実施したとは認められない。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載5事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  国立歴史民俗博物館では、総合展示第6展示室(現代)を新たに構築する際、既存施設を活用することで、増築を行わずに展示用スペースを確保した。また、長期的視野に立った経費抑制・省エネルギー対策や屋上の有効活用のために、太陽光発電装置を整備した。
  •  国立民族学博物館では、危機管理委員会の下に置かれた危機管理委員会事前対策部 会において、自然災害への危機管理への一つとして、台風の接近に対応するマニュア ルを策定し、館内関係者に周知した。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載14事項すべて「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成20年度の外形的・客観的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

1.研究水準及び研究の成果等、2.研究実施体制等の整備

  •  平成19年度に引き続き「日本とユーラシアの交流に関する総合的研究」(3領域)、「文化資源の高度活用」(8課題)の研究テーマの下、各機関の協力による連携研究を実施した。また、平成20年度に採択した第2期中期目標期間に向けたインキュベーション的研究22課題の報告会を実施して、これまでの研究成果の評価を行い、今後継続すべき課題等について検討を行った。
  •  機構本部では、人間文化研究総合推進検討委員会の下に設置した国際連携協力検討部会において、協定に基づき外国の研究機関との関係構築を図り、外国人招へい、研究者の海外派遣を進めるとともに、国際研究集会等の開催や研究者参加の支援を行った。
  •  機構に設置している地域研究推進委員会の下に、関係大学・機関と機構の地域研究推進センターが協力し、各研究拠点において、「イスラーム地域」、「現代中国」を対象地域とする地域研究を推進し、それぞれ国際シンポジウムを開催した。また、同委員会において、新たに「現代インド」を研究対象地域とすることを決定した。
  •  国立歴史民俗博物館では、「歌川派錦絵版木」、「百鬼夜行絵巻」等、歴史的・美術史的に価値の高い資料の収集に努め、コレクションの充実を図った。特に企画展示「錦絵はいかにつくられたか」で公開した「歌川派錦絵版木」は調査研究の過程がテレビの特集番組として製作されるなど反響があった。
  •  国文学研究資料館では、「『源氏物語』再生のための原典資料研究」において、新出資料の紹介を含む研究展示「源氏物語‐千年のかがやき‐」を研究の総まとめとして開催し、展示期間の入場者総数は4,069名、図録販売数は994冊を数えるなど、歴代の展示で最高数を記録した。
  •  国際日本文化研究センターでは、日本在住の外国人日本研究者によるシンポジウムの成果を「世界の日本研究2008」として、また、創立20周年記念国際シンポジウムの成果を「日本文化研究の過去・現在・未来」として刊行することにより、広く国内外における日本研究の理解を図った。
  •  総合地球環境学研究所では、研究推進戦略センターにおいて、研究プロジェクトが収集した観測データや分析結果を整理・蓄積・公開するための「地球研アーカイブス」を構築し運用を開始するとともに、データを収容するためのサーバやストレージ等の情報設備の充実に取り組んだ。
  •  国立民族学博物館では、「ライフデザインと福祉(Well‐being)の人類学‐多機能空間の創出と持続的活用の研究」のプロジェクトにおいて、実践に関わる人々と議論の場を設けることを目的に、立命館大学との共催で新しい福祉の在り方を探求する国際フォーラムを開催した。

3.共同利用等の内容・水準、4.共同利用等の実施体制

  •  平成20年度は、国内外の大学・研究機関等655機関から3,047名の共同研究員(歴博549名、国文研254名、日文研526名、地球研1,102名、民博616名)の参加を得て、現代的な課題に対する共同研究、自然科学と人文・社会科学研究の連携による共同研究等、重要研究課題を対象とする共同研究を実施した。
  •  各機関が有する研究資源を共有化し、有効活用するために進めている「研究資源共有化推進事業」において、各機関のデータベースを横断検索できる「統合検索システム」及び研究者自らがデータベースを作成・検索できる「nihuONEシステム」を公開した。また、「時空間データ検索・分析システム」については、開発成果の一部を「統合検索システム」のインターフェースに組み込み、機能を拡充した。
  •  国立歴史民俗博物館において、大学対象の利用案内『大学のための歴博利用の手引き(改訂版)』とDVD版の作成・配布等を行い、研究者のみならず、学生の利用に供するための環境を整備した。
  •  国立民族学博物館では、「学術情報機関リポジトリの構築と公開」を実施するために「学術情報リポジトリ委員会」を設置し、調査検討の結果、登録する研究成果にかかる業務、利用や遡及的デジタル化業務、システムの維持運用に係る業務をそれぞれ推進する体制を整え、平成20年12月から事業を開始し、平成21年3月に「みんぱくリポジトリ」の試験公開を行った。

5.大学院への教育協力・人材養成

  •  総合研究大学院大学文化科学研究科に設置された5研究専攻において99名の大学院生の教育を行うとともに、他大学所属の学生32名を特別共同利用研究員として受け入れ、研究指導を実施した。さらにこれらの学生を共同研究、国際研究集会、競争的資金による研究へ参画させ、人材養成を積極的に実施した。
  •  機構全体でリサーチアシスタント50名、ポスドク84名、日本学術振興会外国人特別研究員6名を受け入れ、若手人材育成に貢献した。
  •  総合地球環境学研究所では、100名を超える大学院生・ポスドクを研究プロジェクトのメンバーとして参画させ、総合的な視野と手法を持った研究を通して教育指導に努めた。

6.社会との連携、国際交流等

  •  機構本部では、大学共同利用機関知的財産本部整備事業の終了後も、他の大学共同利用機関法人との緩やかな連携を保つために、大学共同利用機関知的財産活動連絡会を開催し情報交換を行った。また、知的財産セミナー「写真・映像による研究成果公開と著作権・肖像権」を機構本部にて開催し、基礎的知識の普及に努めた。
  •  国文学研究資料館では、人間文化研究機構シンポジウムとして、源氏物語一千年紀にちなみ「源氏物語の魅力」をテーマに国際シンポジウムを開催した(参加者462名)。また、「千年紀の源氏物語」をテーマに5回の連続講演を開催した(延べ聴講者数484名)。
  •  総合地球環境学研究所では、京都市北区役所との共催で区民を対象に環境セミナーや施設見学を実施したほか、小中高校生を対象として、研究職員による講義や施設見学を実施した。
  •  国立民族学博物館では、複数の教育機関に貸し出し用学習教材「みんぱっく」を提供(平成20年度貸出実績180件)するとともに、新たに「アイヌ文化にであう」パックを追加して内容を充実した。
  •  国立民族学博物館では、独立行政法人国際協力機構(JICA)からの委託事業として、5か国(コロンビア、ヨルダン、ペルー、ベトナム、ザンビア)から9名の外国人を受託研修員として受け入れ、博物館の運営に必要な収集・整理・研究・展示・保存に関する実践的技術を指導し、博物館を通して途上国の文化の振興に積極的に貢献できる人材の育成を目的とする「博物館学集中コース」を企画・運営した。

お問合せ先

高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成22年02月 --