国立大学法人高知大学の平成20年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 高知大学は、南国土佐の自然と風土に学び、未来を展望した知の創造と学術の継承・発展を通した人類の持続的発展と地域社会への貢献を使命とし、高度で実際的な学術研究の推進と、広く国際社会に貢献し得る人材を輩出している。また、文理統合型大学院への改組に伴う領域横断的な教育研究の実施、教育・教員組織の分離による発展的な教育研究の展開等、機動的・戦略的な大学運営に取り組んでいる。
 業務運営については、既設の大学院6研究科を一元化した文理統合型の大学院「総合人間自然科学研究科」を開設し、教育組織と教員組織を分離した新たな体制に移行している。また、学長のリーダーシップをより強固なものとし、理事の戦術の立案を補佐して具体化するため、教育担当副学長を1名追加し、「学士課程教育の構築」等について、より円滑かつ充実した立案を図っている。
 一方、年度計画に掲げている外国人教員の増加を図ることについては、平成19年度から平成20年度にかけて外国人教員が増加していないことから、着実な取組が求められる。
 財務運営においては、財務情報に基づく財務分析について、四半期ごとに大学運営費の収入支出、目的積立金の支出、外部資金の収入支出状況や部局ごとの予算執行状況等を検証し、平成21年度予算編成方針及び予算配分基準の算定に活用して、経営戦略を促進している。
 施設整備については、予防的修繕を考慮した施設マネジメントとして、必要性の高い設備等について、プリメンテナンスの年次実施計画を策定している。また、営繕経費の補修執行計画を策定し、整備に着手している。
 教育研究の質の向上については、 教員の教育力を強化するために、平成19年度に策定した「第1期教育力向上3カ年計画」に基づき、「教育力向上推進委員会」を設置し、教員の教育力向上のためのPDCAサイクルの構築等を実施している。また、黒潮圏科学の創成を目指して、ビコール大学(フィリピン)に高知大学初の国際共同オフィスを開設している。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  既設の大学院6研究科を一元化した文理統合型の大学院「総合人間自然科学研究科」を開設し、教育組織と教員組織を分離した新たな体制に移行している。事務組織については、法人監査室の強化、企画・立案部門と実施部門の確立を行っている。
  •  法人監査室、会計監査人、監事の監査結果のデータベース化を行っている。
  •  特定財源により任期を付して、特定分野に優れた知識及び経験を有する者を雇用する制度として特任職員制度を策定している。
  •  学長のリーダーシップをより強固なものとし、理事の戦術の立案を補佐して具体化するため、教育担当副学長を1名追加し、「学士課程教育の構築」等について、より円滑かつ充実した立案を図っている。
  •  学長裁量経費については、従来の重点配分に加え、施設設備マスタープランに基づき、教育研究設備を充実するために対前年度比1億円を増額して配分している。
  •  中期計画において女性教員比率の数値目標を設定するなど、女性教員の採用の促進に向けた取組が行われている。

 平成20年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。

(法人による自己評価と評価委員会の評価が異なる事項)

  •  「社会の国際化及び男女共同参画に向けた取り組み等に対応するため、大学の教員構成の多様化を図り、現在の女性教員の2割増及び外国人教員の2割増を目標とする」(実績報告書12頁・年度計画【177】)について、外国人教員の増加を図る取組を行っているものの、平成19年度から平成20年度にかけて外国人教員が増加していないことから、年度計画を十分には実施していないものと認められる。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けておおむね順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載22事項中21事項が「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められるが、1事項について「年度計画を十分には実施していない」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  ウェブサイト、マスコミ、地方自治体・団体、企業の広報誌等を通じて幅広く情報提供を行い、外部資金獲得を推進している。これらの取組の結果、受託研究、共同研究及び寄附金等による外部資金収益額は、11億7,194万円(対前年度比2億9,073万円増)、外部資金比率は4.2%(対前年度比0.9%増)となっている。
  •  目的積立金を活用し、教育研究環境の充実を図る事業として、安心で安全なキャンパスの整備、全学共同利用施設の増設等の整備を実施している。
  •  科学研究費補助金の採択に至らなかった教員に対して総額1,537万円のインセンティブ経費を付与し、採択増加に向けて取り組んでいる。
  •  電力については、節電意識啓発のための掲示を行うとともに、デマンド監視及び省エネルギーパトロールを実施し、対前年度比62,000kwの使用量削減を実現している。
  •  財務情報に基づく財務分析について、四半期ごとに大学運営費の収入支出、目的積立金の支出、外部資金の収入支出状況や部局ごとの予算執行状況等を検証し、平成21年度予算編成方針及び予算配分基準の算定に活用して、経営戦略を促進している。
  •  中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。
【評定】 中期目標・中期計画の達達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載6事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  「教員の総合的活動自己評価」について、教員組織の改編への対応、入力開始時期の早期化(9月入力開始)、ウェブサイト入力システム改善継続、大学運営支援業務等評価項目の追加等を評価本部で決定し、実施している。
  •  年度計画の進捗状況を把握するために、半期ごとに進捗状況報告書の提出を求め、役員会等の会議で進捗状況の報告を行うとともに、今後の計画進行の参考としてグループウェアに掲示・公開している。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載3事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備等、2.安全管理

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  学部の枠を超えた効率的な施設の利用を図るため、理学部1号館の改修に当たっては、共同機器室等の共同利用スペースを配置した総合研究棟(実験系)として改修整備している。
  •  予防的修繕を考慮した施設マネジメントとして、定期点検調査等検討会を施設保全検討会に発展させ、必要性の高い設備等について、プリメンテナンスの年次実施計画を策定している。また、営繕経費の補修執行計画を策定し、整備に着手している。
  •  エネルギーマネジメントの推進を図るため、学内ESCO(Energy Service Company )制度として空調機器の調査を行い、計画を策定している。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載5事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成20年度の外形的・客観的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

  •  教育改革実施検討本部がまとめた『学士課程教育の改革案―2008年度実施に向けてVer.4―』に基づき、共通教育を中心とした新たな学士課程教育を実施し、初年次教育とキャリア形成支援教育が強化されている。
  •  教員の教育力を強化するために、平成19年度に策定した「第1期教育力向上3カ年計画」に基づき、「教育力向上推進委員会」を設置し、教員の教育力向上のためのPDCAサイクルの構築、授業改善アクションプランの実施、教育力向上支援策等を実施している。
  •  各学部は教育サービスの受け手である学生の意見を集約し授業改善等に資するために、ファカルティ・ディベロップメント(FD)に学生が主体的に参画できる仕組みについて改善を図っている。
  •  総合教育センターの「キャリア形成支援部門」は就職室と協働してキャリア形成支援関連プロジェクト等について企画・開発・試行し、就職率向上を目指している。
  •  高知大学国際交流基金による助成事業により、研究発表を目的とする海外の国際学会に大学院生7名を派遣し、うち1名が「国際カイアシ類会議」において、「最優秀学生ポスター賞」を受賞するなど効果が現れている。
  •  外部資金獲得や研究力向上を図るために、科学研究費補助金採択に至らなかった教員に対してインセンティブ経費を付与したり、学外研究者を委嘱し申請書のブラッシュアップを行うなど組織的に取り組んでいる。
  •  産学官民連携部門の取組として、国際・地域連携センターが各学部等と連携して多様な事業(地域再生事業、科学技術振興、健康産業振興等)を推進している。
  •  高知県、南国市、香美市、香南市、農業協同組合(JA)、食品関連企業等との連携により、地域食材を加工食品化して付加価値を高める「開発・製造を担う食品産業中核人材等の養成」を行う、「土佐フードビジネスクリエーター人材創出事業」を開始し、平成20年度においては16名が修了している。
  •  教育学部では教員養成の一貫として、中山間地の学校・地域支援の活動を採り入れ「学習―実習―振り返り」を1サイクルとし、年間で3サイクルを実施している。
  •  黒潮圏科学の創成を目指して、ビコール大学(フィリピン)に高知大学初の国際共同オフィスを開設している。オフィスには常駐スタッフを置き、共同研究のサポートと大学間の緊密な連絡に当たっている。
  •  小中高大連携の新しい異文化理解と国際交流教育を推進するとともに、国際教育実習やアジアにおけるモデル校としての教育プログラムを開発することを目的に、ロモノソプ初等中等高等学校(ベトナム)と学術交流協定を締結している。

全国共同利用関係

  •  全国共同利用の研究施設である海洋コア総合研究センターでは、研究者コミュニティに開かれた運営体制を整備し、大学の枠を越えた全国共同利用を実施している。

附属病院関係

  •  臨床技能の教育・充実のため各種シミュレータを備え実習トレーニングを行うスキルズラボ4室を設置して良質な医療人の育成に努めている。また、新規WT1ペプチド癌ワクチンと百日咳全菌体由来の癌ワクチン用アジュバンド剤を開発、各種悪性腫瘍に対して臨床試験を行うなど、臨床研究の推進を図っている。診療では、国立大学病院初となる排泄障害を専門に診療する「骨盤機能センター(失禁センター)」を開設するなど、独自の取組を行っている。
     今後、特徴ある診療体制や研修プログラム等を活用しながら、地域からのニーズに密着した専門性の高い医療のさらなる取組が期待される。
(教育・研究面)
  •  土佐山へき地診療所の開設による医師教育の充実、地域における看護師に対する勉強会、講習会等への講師派遣等、積極的に地域の学習支援の取組を行っている。
  •  女性医師が働きやすく、出産や育児時もなるべく休職しなくてすむシステム作りに努めており、11名の女性医師が同プログラムを活用している。
(診療面)
  •  自己資金調達による「PETセンター事業」は、平成20年度にPET事業単体として黒字化させている。事業実績も平成20年度3,494件(対前年度比664件増)と成果を上げている。
  •  医療の質を可視化するため、「診療の質指標(クオリティ・インジケーター)」の測定と公表を行うために診療情報管理室を設置、併せてがん手術後の治療成績フォローアップシステム化も進行させている。
  •  高知大学病院及び公的5病院からなる小児救急医療の輪番制体制の維持に努力している。
  •  医師(又は歯科医師)の指導の下に行う看護師による静脈注射の施行を開始、順次拡大した結果、全病棟において実施され、役割分担の推進を図っている。
  •  医療を可視化し公開性を高めるため、原因不明の死亡例に対するオートプシーコンピュータ断層撮影(CT)のルール作りを行っている。
(運営面)
  •  病院長の裁量で病院助教の増員(17名)、大学病院で診療に貢献する大学院生の身分保障等、病院機能の向上に努めている。

お問合せ先

高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成22年02月 --