国立大学法人広島大学の平成20年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 広島大学は、理念5原則(「平和を希求する精神」、「新たなる知の創造」、「豊かな人間性を培う教育」、「地域社会・国際社会との共存」、「絶えざる自己変革」)を掲げ、「世界トップレベルの特色ある総合研究大学」という到達目標に向かって「広島大学の長期ビジョン」に則った政策を進めており、国際的に上位にランクされる総合研究大学の実現に向けバランスのとれた発展に努めている。
 業務運営については、大学教員以外の職員について全学で個人評価を実施し、評価結果を勤勉手当及び昇給に反映しており評価できる。この他、「高度専門職」、「大学経営アドミニストレーター」、「一般職」の複線型キャリアパスからなる広島大学新人材育成基本方針を策定し、人材育成に取り組んでいる。
 財務内容については、財務分析結果の活用として四半期ごとに予算比較を行い、各組織における配分済み予算額に対する予算執行状況の分析を通じて、年度末までの執行予定額、翌年度以降の執行予定額を把握し、部局間で資金を貸借して有効活用する「部局間貸借制度」を活用している。
 一方、年度計画に掲げている大学が設定したエネルギー削減目標(対前年度比1%減)が達成できていないことから、着実な取組が求められる。
 自己点検・評価及び情報提供については、大学独自のバランス・スコアカードの手法を活用した「広島大学目標管理シート」の共通フォーマットの作成等により評価作業の効率化に取り組んでいる。
 教育研究の質の向上については、学生が現代の教養を身につける手がかりとなる読書案内書『新版 大学新入生に薦める101冊の本』の刊行、大学独自の奨学制度「広島大学フェニックス奨学制度」の導入、欧州5大学との国際共同修士プログラムの共同開発、米国、タイに加え、スイス(ジュネーブ)に拠点を設置した国際的な産学官連携の推進等に取り組んでいる。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  大学教員以外の職員について、全学で個人評価を実施し、能力評価と業績評価を併せた評価結果を昇給・昇格の選考の際の参考資料として、業績評価の評価結果を勤勉手当の選考の参考資料として活用し、平成20年12月の勤勉手当及び平成21年1月の昇給から反映しており、評価できる。
  •  男女共同参画推進の実践的組織として「男女共同参画推進室」の設置、女性教員の部局別採用割合の目標値の設定、四半期ごとに部局別の採用割合の報告、保育施設の円滑な運用に資する取組として東広島夏季子どもクラブ等の学童保育の試行を行っている。
  •  「高度専門職」、「大学経営アドミニストレーター」、「一般職」の複線型キャリアパスからなる広島大学新人材育成基本方針を策定し、人材育成に取り組んでいる。
  •  学生からの生活・就職等に関する相談に応じるため、キャリアカウンセラーの資格を有する民間企業の人材開発担当であった者を、契約職員制度を活用し、相談員として雇用している。
  •  各理事室等の機動性の向上等を図るため、グループをまとめる部を廃止し、グループ制の確立、副理事の配置等によりスリムでシンプルな管理運営組織の構築を行っている。
  •  従前の電子事務局掲示板から、各種手続情報の集約等による利便性の向上を図った全学情報共有基盤システム「いろは」を導入し、業務マニュアル等の掲載等の周知・徹底を行い、情報や業務ノウハウのさらなる共有化を図っている。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて特筆すべき進捗状況にある

(理由) 年度計画の記載53事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められるほか、大学教員以外の職員について全学で個人評価を実施し、評価結果を処遇に反映させている取組が行われていること等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  財務分析結果の活用については四半期ごとに予算比較を行い、各組織における配分済み予算額に対する予算執行状況の分析を通じて、年度末までの執行予定額、翌年度以降の執行予定額を把握し、部局間で資金を貸借して有効活用する「部局間貸借制度」を構築・活用し、約1億4,700万円を寄宿舎整備経費に充当している。
  •  収入支出予算決算について、大学・病院・外部資金等に区分の上、財務分析を行い、四半期ごとに役員等に報告している。また、各区分における予算執行状況及びキャッシュフローを示したうえ、前年度同期比較を行うことにより、平成20年度における財務的傾向や特殊要因を分析し、問題点を洗い出した上でリアルタイムに周知している。
  •  複写機の契約内容の見直し、一般競争入札の実施等により、約2,000万円を節減し、公用自動車の更新では台数削減やハイブリッド車の導入等によりランニングコストの縮減を図っている。
  •  きめ細かな資金運用により、約1億1,000万円の財務収益(対前度比1,160万円増)を上げており、学長裁量経費を3億円から6億円に倍増するなど学生支援や教育研究拠点形成のための戦略的活用財源として活用している。
  •  中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質を確保しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。

平成20年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。

(法人による自己評価と評価委員会の評価が異なる事項)

  •  「b.エネルギーについては、管理標準を見直し、消費原単位の削減目標を前年度比1%とする」(実績報告書32頁・年度計画【72】)については、対前年度比1.7%増となっており、大学が設定したエネルギー削減目標(対前年度比1%減)が達成できていないことから、年度計画を十分には実施していないものと認められる。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けておおむね順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載12事項のうち11事項が「年度計画を十分に実施している」と認められるが、1事項について「年度計画を十分には実施していない」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  各組織が行う点検・評価及びそれに基づいた改善結果の内容を確認できるよう、学長室において全学的視点から四半期単位で年度計画及び実行計画の進捗状況を分析・再評価するとともに、その結果を学長が確認するシステムを確立している。
  •  大学独自のバランス・スコアカードの手法を活用した「広島大学目標管理シート」の共通フォーマットを作成し、年度計画の進捗状況管理にも用いるなど評価作業の効率化に取り組んでいる。
  •  広島大学ウェブマネジメントシステム(WMS)による全ての部局サイトの整備を完了し、ウェブサイトへのアクセス数が対前年度比1割増の2,740万アクセスとなるなど広報体制を充実した効果が現れている。
  •  プレスリリースを積極的に行うとともに、英国及びタイにおける広報活動や東京リエゾンオフィスを活用した首都圏での記者会見等の広報活動を実施している。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載11事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  施設整備基本計画の見直しを行い、東広島キャンパス施設整備グランドデザイン、霞キャンパス施設整備グランドデザインを策定し、それに伴う個別具体的な整備計画、サインガイドライン等を策定している。
  •  稼働率の低い講義室の他用途への転用も視野に入れた「講義室の利用実態調査‐東広島キャンパスの講義室の有効活用に向けて‐」を作成し、施設の効率的な活用に取り組んでいる。
  •  これまでの危機管理マニュアルを見直し、危機管理基本マニュアル及び危機管理個別マニュアルの改訂版を作成している。また、新たに緊急時電子メール連絡網を整備し、緊急時電子メール連絡訓練を実施している。
  •  研究費の不正使用の再発防止策として、平成20年度から納入検収を行う職員を各部局へ合計36名配置している。また、学長が教授会でファカルティ・ディベロップメント(FD)を行い、研究費等の適正使用の呼びかけや研修会の開催、啓発ポスターの作成を行っており、再発防止に向けた取組が期待される。
  •  平成19年度評価結果において評価委員会が課題として指摘した、薬品管理システムが全学に拡大導入されていないことについては、システムのデータ処理及び会計支援システムとの連動に関する改良を行い、先行している研究科に加え、平成21年2月から全学導入を実施するなど指摘に対する取組が行われている。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載25事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成20年度の外形的・客観的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

  •  学生自らが知的好奇心を喚起し、21世紀の市民に求められる現代の教養を身につける手がかりとなる読書案内書『新版 大学新入生に薦める101冊の本』を刊行している。
  •  学士課程において副専攻プログラムは他の主専攻プログラムの基礎又は概要等を学習するものとして位置付け、66の主専攻プログラムのうち、52のプログラムの基礎又は概要等を副専攻プログラムとして平成21年度入学生から適用するよう取り組んでいる。
  •  新入生の進路・職業選択に関する意識調査、卒業・修了予定者の進路選択・就職内定状況等に関する実態調査を実施し、その分析結果を平成19年度に実施したアンケート分析結果と併せて、総合的・体系的なキャリア支援策の企画・運営に反映させている。
  •  各学部各プログラムにおいて、当初の想定のとおり動いているかどうか、到達度評価が機能しているかどうか、他学部のプログラムも参考にしながら検証し、成績評価と到達度評価の分布等のデータをグラフ化して提供している。
  •  緊急医師確保対策に基づき、将来広島県の医療を担う人材を育成するため、広島県と連携し医学部医学科推薦入試「ふるさと枠」を実施し、5名の合格者を決定している。
  •  大学独自の奨学制度として、入学料・授業料全額免除に加え毎月10万円の奨学金を給付する「広島大学フェニックス奨学制度」を導入している。
  •  学生と大学・地域社会との双方のボランティア・ニーズを結びつけるため、学生によるボランティア連合体を設立し、効果的な実施体制を整えている。
  •  学生宿舎の改修にあたり、既存棟にモデルルームを作成した上でアンケートを実施し、その結果を踏まえ改修整備の仕様を変更するなど学生等利用者の視点に立った改修に取り組んでいる。
  •  広島弁護士会との連携のもとに毎週1回の無料法律相談を実施するなど、広島市域における法的サービスのニーズに応える社会貢献事業を展開している。
  •  産学官連携拠点として、米国、タイに加え、新たにスイス(ジュネーブ)に拠点を設置し、コーディネーターを配置し国際的な産学官連携の活動を推進している。
  •  大学院教育の国際化を目指し、国際共同修士プログラムを欧州5大学と共同開発・実施、韓国及びオーストラリアの大学とINUダブルディグリープログラムを開始している。
  •  平成19年度から準備を行ってきた広島県大学共同リポジトリを平成20年4月に公開するとともに、他大学との連携プロジェクトを開始し、他の地区での共同リポジトリの普及活動を行っている。

全国共同利用関係

  •  放射光科学研究センターでは、研究者コミュニティに開かれた運営体制を整備し、大学の枠を越えた全国共同利用を実施している。

附属病院関係

  •  臨床実習教育研修センターにおいて、臨床研修到達目標に到達するように研修セミナーや指導医養成講習会等に取り組んでいる。また、研究助成事業を実施し、18件の中から8件を採択し研究助成金を交付して、基礎研究等への研究支援を行っている。診療では、クリニカルパスの増加を図り、昨年度から19種類増加させ定着を推進するとともに、診断群分類包括評価(DPC)分析を行い、診療科等への説明と指導を行っている。
     今後、被ばく医療に関する実績を引き続き発展させるとともに、地域の医療機関とも密接な連携を図りながら、基幹病院として救急・がん診療等の質の高い医療体制の構築に向けたさらなる取組が期待される。
(教育・研究面)
  •  受託研究においては、社団法人日本医師会の大規模治験ネットワークを通じた治験の応募を推進した結果、新規受託件数は30件、受託症例数は153症例で年度当初に定めた目標を達成している。
  •  臨床実習教育研修センターにおいて、歯科領域の卒後臨床研修カリキュラムを実践するとともに、研修医が出向中の協力型・協力施設の指導医と大学病院指導医が連携を密にして円滑な研修実施を目的としたチューター制度を実施している。
(診療面)
  •  医療安全部門における、財団法人日本適合性認定協会による品質マネジメントシステム(ISO9001)について、病状説明書・同意書等の様式改定や感染症対策マニュアルの改定を行うなど、安全な医療提供に向けた取組を行っている。
  •  病棟メディカルクラークにおいて、診療報酬請求支援に係る業務比率を増加させるとともに、クラーク研修会を開催してスキルアップを図り、診療報酬請求漏れの減少に努めている。
  •  緊急被ばく医療推進センターを中心に、各地域で開催された被ばく関連の協議会・講習会等へ講師を派遣、また、救急被ばく医療セミナーを開催するなど、我が国の緊急被ばく医療体制の確立に大きく貢献している。
(運営面)
  •  病床管理担当看護師の下に、各病棟の理解と相互支援の意識を高め、原則として全床共通病床管理及び午前退院・午後入院の徹底周知を継続し、高い病床稼働率(92%)を維持している。
  •  「地域連携室」を「患者支援センター」に改組し、在宅緩和ケアコーディネーターの看護師長を配置、紹介元医療機関への情報提供、「妊娠と薬情報センター」の受付窓口を設置するなどの取組を行った結果、患者紹介率は71.2%(対前年度比4.4%増)となっている。

お問合せ先

高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成22年02月 --