国立大学法人信州大学の平成20年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 信州大学は、信州の豊かな自然と文化の中で、優れた教育研究を達成することによって、自然環境の保全、人々の健康と福祉の向上、産業の育成と活性化、新しい文化の創造等、大学に求められている社会的使命を果たすことを理念として掲げ、この理念の下に、教育、研究、地域貢献、国際交流の4分野について、基本目標を設定している。この理念・目標の実現に向けて、長期ビジョン「信州大学ビジョン 2015/信州発飛翔プラン」を策定している。
 業務運営については、長野県内7大学とともに「高等教育コンソーシアム信州」を発足させ、大学間相互の授業実施、ファカルティ・ディベロップメント(FD)活動、学生支援イベントの共同開催等の推進を図っている。また、長野県内の高等教育機関19校の基幹校として「信州産学官連携機構」の設立に携わり、高等教育機関間の連携による組織的な産学連携活動を推進している。
 一方、法曹法務研究科において、平成16年度の法科大学院設置計画書の虚偽申請問題により、平成18年度から入学定員40名のところ、募集人員を30名として入学者選抜を行っているという事情があるものの、大学院専門職学位課程について平成18年度から平成20年度にかけて一定の学生収容定員の充足率を満たさなかったことから、今後、速やかに、定員の充足に向けた取組、特に入学定員の適正化に努めることが求められる。
 また、教職員の給与改定については、経営協議会において審議すべき事項であるが、報告事項として扱われていることから、適切な審議を行うことが求められる。
 その他業務運営については、岡谷市に超微細加工技術者人材育成コース(諏訪圏サテライトキャンパス)として学外研究スペースを設置するなど、地域の自治体や企業との連携を図っている。
 教育研究の質の向上については、成績優秀学生を対象とする授業料免除を、平成20年度後期から実施し、115名を成績優秀学生に認定し、総額約3,100万円の授業料免除を実施している。また、全学士課程に共通する「信州大学 学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)」を策定し、この方針に沿った教育改善の取組を全学的に実施している。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  長期ビジョン「信州大学ビジョン 2015/信州発飛翔プラン」を実現するための行動計画である「アクションプラン」を策定している。
  •  長野県内の7大学とともに「高等教育コンソーシアム信州」を発足させ、大学間相互の授業実施、ファカルティ・ディベロップメント(FD)活動、学生支援イベントの共同開催等の推進を図っている。
  •  平成21年度から導入される教員免許状更新講習制度に対応するため、「教員免許更新支援センター」を設置し、予備講習を実施する等、長野県教育委員会及び長野県内の他大学と連携し、同制度の本格実施に向けた取組を行っている。
  •  中期計画において女性教員比率の数値目標を設定するほか、人材育成基本方針に女性を積極的に登用する旨を明記し、女性教員採用の人件費を学長裁量経費により確保するなど、女性教職員の採用・登用の促進に向けた取組がなされている。
  •  平成19年度評価結果において評価委員会が課題として指摘した経済・社会政策科学研究科イノベーション・マネジメント専攻と総合工学系研究科との連携に基づくダブルディグリー化については、「信州大学経済・社会政策科学研究科イノベーション・マネジメント専攻におけるグリーンMOTジョイント・ディグリープログラム実施要項」を策定して選抜試験を行い、入学者が決定しており、指摘に対する取組が行われている。

平成20年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。

  •  法曹法務研究科において、平成16年度の法科大学院設置計画書の虚偽申請問題により、平成18年度から入学定員40名のところ、募集人員を30名として入学者選抜を行っているという事情があるものの、大学院専門職学位課程について、学生収容定員の充足率が平成18年度においては85%、平成19年度から平成20年度においては90%をそれぞれ満たさなかったことから、今後、速やかに、定員の充足に向けた取組、特に入学定員の適正化に努めることや、入学者の学力水準に留意しつつ充足に努めることが求められる。
  •  教職員の給与改定については、経営協議会において審議すべき事項であるが、報告事項として扱われていることから、適切な審議を行うことが求められる。
【評定】 中期目標・中期計画の達成のためにはやや遅れている

(理由) 年度計画の記載47事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められるが、大学院専門職学位課程において学生収容定員の充足率が90%を満たさなかったこと、経営協議会による適切な審議が行われていないこと等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  平成19年度の科学研究費補助金の申請率の実績が70%未満の部局に対し、その理由を聴取するなどして申請率向上に取り組んだ結果、平成20年度の申請件数は1,016件(対前年度比156件増)となり、申請率も87.9%(対前年度比15.1%増)となっている。
  •  産学官マッチングイベント等への積極的な参加、信州産学官連携機構の活用等を行い、外部資金の積極的な獲得に取り組んだ結果、38億200万円(対前年度比1億8,200万円増)を獲得している。
  •  定期預金等による資金運用により獲得した4,100万円の運用益を活用して、大学ラウンジの整備や大学ウェブサイトの再構築等を行うなど、教育研究環境の充実を図っている。
  •  中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載21事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  広報誌「信大NOW」の内容を充実し、企業からの広告協賛を受注開始した。この広告協賛収入を活用して「信大NOW全県拡大版」をオープンキャンパス時等に地元新聞にカラー広告として掲載して効果的な広報活動を行っている。
  •  ユーザビリティの視点及び作業効率化の観点から、ウェブサイトの再構築を行い、全学ウェブサイトの他、各部局のウェブサイトをリニューアルして充実を図るとともに、個別に設置していたウェブサーバーを統合し、コスト削減、サーバーの安定稼働、セキュリティの高度化を推進している。
  •  専用のテレビチャンネル「信州大学テレビ」を全キャンパスにおいてウェブサイト上で閲覧できる配信システムを導入して充実を図っている。
  •  「高等教育コンソーシアム信州」のプロジェクトのもと、信州大学を含む長野県内8大学にそれぞれ遠隔講義室を1部屋設置し、大学間における相互授業の利便性を確保している。また、長野県教育委員会等によるネットワーク(広域WAN)と大学ネットワークとの間を接続し、公立特別支援学校の教諭に対する教員免許状更新講習の遠隔講義が可能となっている。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載7事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  全学的な環境推進組織として、環境マインド推進センターを設置し、環境問題に関する学生及び教職員の啓発活動や、エコキャンパス構築に向けた取組を推進している。
  •  会議室等の一括管理による効率的な利用を図るため施設予約管理システムによる試行を行い、その結果により、一括管理の仕組みについての問題点の検討を開始している。また、工学部、繊維学部、医学部の校舎改修の際に、スペースの再配分を行っている。
  •  岡谷市に超微細加工技術者人材育成コース(諏訪圏サテライトキャンパス)として学外研究スペースを設置する等、地域の自治体や企業との連携を図っている。
  •  インフルエンザ等の感染症に罹患した際の就業制限に係る基準を策定し、各事業場に周知している。
  •  全教職員を対象に、公的研究費の不正使用に係る調査を行うとともに、内部会計監査において、業者への発注状況や旅費・謝金の実施状況について、聞き取り調査を実施している。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載20事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成20年度の外形的・客観的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

  •  「高等教育コンソーシアム信州」を発足させ、信州大学を含む長野県内8大学が連携し、教育の質向上に資することとしている。
  •  全学士課程に共通する「信州大学 学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)」を策定し、この方針に沿った教育改善の取組を全学的に実施している。
  •  成績優秀学生を対象とする授業料免除を、平成20年度後期から実施し、115名を成績優秀学生に認定し、総額約3,100万円の授業料免除を実施している。
  •  遠隔講義システム「信州ユビキタスネットワークシステム(新SUNS)」の安定運用を図り、同システム用の教室の拡大、システムの整備を行っている。さらに、「高等教育コンソーシアム信州」の加盟大学との遠隔講義の実施体制を整備している。また、e‐ラーニングに関する教材開発支援、各種研修会等を行っている。
  •  「信州産学官連携機構」を設置し、「ナノテク・材料、IT」、「ライフサイエンス」、「地域ブランド」の3分野において産学連携活動の推進や知的財産等管理の連携・充実を図っている。
  •  佐久市との包括連携協定を締結するなど、自治体等と連携協定等を締結し、産学地域連携の活動を推進している。
  •  長野県との協定を締結し、医学部に寄附講座として「地域医療推進学講座」の設置を決定している。同講座では、「医師が不足する診療科における即戦力医師等の養成・供給に関する研究」を実施し、地域医療の人材確保に資することとしている。
  •  附属長野小学校の規模を見直し、平成20年度から、新1年生の学級数を3学級から2学級へ変更している。また、この学級数の減少による諸問題について、保護者への入学説明会の開催、教員減による研究体制の見直し等を実施して対応している。

附属病院関係

  •  医学部と附属病院の共催により、「信州医療ワールド夏季セミナー」を開催し、初期・後期研修の説明を行い、医療従事者の確保につなげる取組を行っている。また、初期臨床研修では、新たに5つの特別コース(内科、外科、小児科、産婦人科、救急)を設けて質の高い研修プログラムの提供を行っている。研究では、骨再生医療、軟骨再生医療が先進医療と認められ、顎骨再生医療を新たに申請するなど、先端医療の開発に積極的に取り組んでいる。診療では、国立大学初となる「胸痛センター」の設置や肝疾患診療連携拠点病院の指定を受けるなど、地域医療の発展に貢献している。
     今後、大学本部との密接な連携を図りつつ、救急・がん診療等の診療体制の質を向上させ、病院機能改革の推進に向けたさらなる取組が期待される。
(教育・研究面)
  •  先端医療教育研修センターにおいて、看護師復帰支援プログラムを作成し、医療現場から離れていた看護師を対象とした復帰支援講習会を3回開催している。
  •  大学病院連携型高度医療人養成推進事業(関東・信州広域循環型専門医養成プログラム)及びがんプロフェッショナル養成プランにより、魅力的な専門研修の実現、医療人育成の充実を図っている。
  •  地域医療における人材確保のために、長野県と協定を締結し、「地域医療推進学講座」の設置を決定している。
(診療面)
  •  新生児集中治療室(NICU)を6床から8床に増床し、医員以上の医師17名を診療科等から高度救命救急センターに配置して、幅広い診療体制を構築するなど、社会的な課題に対して院内体制の基盤強化を図っている。
  •  96名の看護師の採用や、看護師の勤務実績及び患者の看護度の調査、集計等を行った結果、7対1看護体制を取得している。
  •  患者数の増加に伴い、がん総合医療センターの通院治療室を20床から24床に増床し、看護師も2名増員して安全な医療を提供している。
(運営面)
  •  役員会の下に「病院経営健全化推進室」を発足(理事、病院担当副学長を中心としたメンバー)させ、経営状況のモニタリング、経営改善のための方策を検討しており、大学全体で附属病院の経営基盤強化に取り組んでいる。
  •  外部から病院経営専門家を診療特任教授として招き、経営健全化を図るための体制を構築している。
  •  平成21年度から電子カルテ化の導入に向けて、「外来スキャンセンター」を設置することを決定し、既存のカルテ、心電図等のスキャンニングを開始している。
  •  虚血性心疾患の地域連携クリティカルパスを作成し、松本市を中心とする周辺4医師会の開業医約100名が登録し、運用を開始している。

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高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成22年02月 --