国立大学法人東京工業大学の平成20年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 東京工業大学は、世界最高の理工系総合大学を目指すことを長期目標に掲げ、目標達成に向け、平成20年度は教育・研究等14項目の重点方針を定め、学長主導の戦略的マネジメント体制を強化しつつ、積極的な活動を展開している。
 業務運営については、長期目標を具体化する指針として、今後約10年を見据えた将来構想を「東工大ビジョン2009」として取りまとめているほか、人材獲得及び人材開発の指針として「東工大事務職員キャリアマップ」を策定し、事務職員像の目標を全職員に周知するなど、事務局機能のパワーアップを引き続き推進している。
 財務内容については、部局ごとの外部資金に関するデータの開示等の取組により、継続的に、外部資金の拡充に成果を上げている。
 一方、随意契約見直し計画の実施状況が計画通りに実施されていないことから、着実な取組が求められる。
 自己点検・評価については、Tokyo Tech OpenCourseWare(OCW)をリニューアルし、講義ノートの公開数が着実に増加してきているほか、学内での講義支援システムの機能を持つOCW‐iの運用をあわせて開始している。
 その他業務運営については、年度計画で掲げている、配信される映像等を簡便な手順で保存できるシステムの導入、契約フォーマットの策定及びCC(Creative Commons)に関しての学内の啓発について取組が十分でないことから着実な対応が求められる。
 教育研究の質の向上については、博士後期課程学生への経済的支援の実施、キャリア多様化のためのプログラムを実施するプロダクティブリーダー養成機構の設置、海外オフィスと連動した国際連携体制の充実等、大学の特色を活かした理工系人材の育成に積極的に取り組んでいる。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  長期目標を具体化する指針として、今後約10年を見据えた将来構想を「東工大ビジョン2009」として取りまとめている。
  •  学長裁量経費6億2,909万円(対前年度比892万5,000円増)を確保し、学長主導の重点施策(安全、対外解決必須問題、全学が困る問題、教育緊急措置、学生・産業界・社会の吸引力増進、研究緊急措置、環境整備)に配分したほか、別枠として大学改革のために重点施策実施経費28億8,373万円(対前年度比3億5,195万円増)を重点配分している。
  •  学長裁量ポストを活用し、環境及び安全教育、保健管理、情報基盤の充実等のため教授4名、准教授3名を配置したほか、定年退職教員14名を非常勤教員等として採用し、若手教員を研究教育に専念させるなど人的資源の効果的配置を推進している。
  •  特定業務企画組織として、男女共同参画に係る推進策の企画等を行う男女共同参画推進センター及び創立130周年記念事業の企画立案等を行う創立130周年事業統括本部を整備し、マネジメント体制の強化を図っており、その成果が期待される。
  •  業務運営の合理化に向けて事務組織の改編を行い、国際部の設置による国際業務の強化、外部資金支援課の設置による研究支援業務の強化、グループ制の導入による組織のフラット化等を実施している。
  •  人材獲得及び人材開発の指針として「東工大事務職員キャリアマップ」を策定し、事務職員像の目標を全職員に周知するなど、事務局機能のパワーアップを引き続き推進している。
  •  自宅等の学外から研究活動等に参加できるWEB会議システムやソーシャルネットワーキングサイト(SNS)の運営等、仕事と育児等の両立を支援する取組がなされている。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載34事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  部局ごとの外部資金に関するデータの開示等の取組により、継続的に、外部資金の拡充に成果を上げており、平成20年度は171億2,314万円(対前年度比7億1,207万円増)の外部資金を獲得している。
  •  報奨金規則を新たに制定し、外部資金、寄附金等により1,500万円以上の間接経費を獲得した教員へインセンティブとして報奨金を付与しているほか、個人研究プロジェクト2件に対し、学長裁量スペースの配分を行っている。
  •  毎月の電力使用量については平成19年度と比較したデータをグラフ化し、役員会で報告するとともに、ウェブサイトへの掲載を行うことにより周知・公表を行っている。また、省エネサポーター(学生)による大学の建物等の点検及び確認等の省エネルギー対策を推進し、平成19年度から平成20年度にかけて、電気使用量については3.3%、ガス使用量については15.3%、上下水道使用量については10.0%、それぞれ削減している。
  •  附属図書館において、電子書籍(e‐Book)を本格導入している。e‐Bookの導入により、従前と比べ、約550万円の削減につながっている。
  •  中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。

 平成20年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。

  •  随意契約見直し計画の実施状況が計画通りに実施されていないことから、着実な取組が求められる。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載15事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  Tokyo Tech Open Course Ware(OCW)をリニューアルし、平成20年度末の講義ノートの公開科目数が387件に達したほか、67%の講義のシラバスを登録している。また、学内での講義支援システムの機能を持つOCW‐iの運用を開始している。
  •  学内の情報基盤を利用して、中期目標・中期計画・年度計画等を管理する「大学情報データベースシステム」を核として評価作業の効率化を進めている。
  •  海外主要学術誌へ年4回記事広告を掲載しているほか、主要学術論文データベース収録論文等質の高い論文を執筆する世界中の研究者を対象に英文メールニュースを配信することを決定し、平成21年3月にトライアル版を発信するなど国際的な情報発信を推進している。
  •  小中高校生へ向けた情報発信を継続的に実施しており、平成20年度には、新たに「高校生バイオコン」の開催や女子高校生向けの広報誌「Happy! Tokyo Tech Girls!」を刊行している。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載7事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

 1. 施設設備の整備・活用等、2. 安全管理

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  配分した学長裁量スペースのさらなる有効活用を図るため、全学長裁量スペースに企画担当理事・副学長による立入り調査を実施して、使用状況の確認を行い、一部のスペースを返還、再配分することとしている
  •  バリアフリー化対策計画を策定し、保健管理センター及び大学食堂で車椅子利用に対応した多目的トイレの設置や、玄関部分の段差解消及び自動扉等の整備に取り組んでいる。

 平成20年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。

(法人による自己評価と評価委員会の評価が異なる事項)

  •  「平成19年度までに整備された「遠隔講義システム」を活用し、配信される映像等を簡便な手順で保存できるシステムを導入する。また、「遠隔講義システム」で導入された機器に障害が発生した場合に、速やかに対応できる体制を整備する。」(実績報告書56頁・年度計画【125‐5】【126‐5】)については、配信される映像等を簡便な手順で保存できるシステムの導入について、検討した結果、既設AV機器を活用することで対応可能と判断しているが、同時記録することは可能であるものの、簡便な手順で保存することに関しては新システムで予定していたレベルの機能までは対応していないことから、年度計画を十分には実施していないものと認められる。
  •  「OCWコンテンツに関しての本学と本学教員との間で結ばれるべき契約のフォーマットを策定する。」(実績報告書58頁・年度計画【126‐7】)については、著作権処理についての全学的仕組みに課題が残っており、契約フォーマットを策定するまでには至っていないことから、年度計画を十分には実施していないものと認められる。
  •  「CC(Creative Commons)に関してのセミナー等を企画し、学内の啓発に努める。」(実績報告書58頁・年度計画【126‐8】)については、CCに関してのセミナーは企画されているものの、開催し、啓発するまでには至っていないことから、年度計画を十分には実施していないものと認められる。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けておおむね順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載40事項中36事項が「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められるが、4事項について「年度計画を十分には実施していない」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

評価委員会が平成20年度の外形的・客観的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

  •  萌芽的研究を活性化するため、若手教員の独創的・萌芽的研究成果を検証する「東工大挑戦的研究賞」の要項を改定し、受賞者数の上限を上げており、平成20年度は10名を表彰し、総額2,417万円の研究費の重点配分を行っている。
  •  附属図書館のほか、大学の学術情報を発信するという同じ目的を持った5組織が連携し、効率的に事業を行うアーカイブ推進機構を平成21年4月に設置することとしている。同機構は、史・資料の収集、蓄積、公開のための情報の共有及び分析、並びにそれらに関する技術の開発を行い、広く学内外へ向けた教育研究支援及び社会貢献に寄与することを目的としている。
  •  私立大学との学生交流に関する協定に基づき、副専門制度及びジョイントディグリープログラムの実施要項を策定し、平成21年4月から実施することとしている。
  •  統合研究院において、再生可能エネルギーを利用した電気自動車向けインフラシステムの研究(RE‐EVプロジェクト)を開始し、業務用として、実証試験用の電気自動車「i‐MiEV」を走行させるなど全学体制で支援している。
  •  これまで行ってきた機械工学系リテラシー教育を基盤とし、継続的に内容の進化を試み、創造性育成実習教育の構築を目的として、「新入生科目『機械工学系リテラシー』の革新」を実施している。
  •  国費外国人留学生等を除き、原則として全ての大学院博士後期課程学生に対して、リサーチアシスタント(RA)・ティーチングアシスタント(TA)として授業料相当額を支援することとし、平成20年4月入学・進学者から適用している。
  •  世界的な金融危機や急激な円高に伴う経済状況等を踏まえ、私費外国人留学生に対して、緊急支援策として一律5万円の学資金を支給している。
  •  研究シーズの事業化、海外企業での活躍、異分野へのチャレンジ等を志向する若手研究者(博士後期課程学生及び学位取得後5年以内のポスト・ドクター)を支援するため、プロダクティブリーダー養成機構を設置し、キャリア多様化のためのプログラムを実施している。
  •  海外拠点を活用して、国際大学院等へ入学希望の学生に対して、募集案内及び留学説明会を実施している。
  •  非営利研究機関バテル記念研究所(米国)と連携を進める一方、国際的共同研究の創出に尽力し、16件の国際共同研究の実績を上げている。
  •  タイの海外拠点オフィスにおいて、テレビ会議システムを利用して、大学院等入学希望の9名の学生の海外面接を実施している。

全国共同利用関係

  •  全国共同利用の附置研究所である応用セラミックス研究所では、研究者コミュニティに開かれた運営体制を整備し、大学の枠を越えた全国共同利用を実施している。研究所では共同利用・共同研究の採択において、企業研究者等を大学の研究者と同等に受け入れており(平成20年度受入:16名)、CPD制度に基づくコンクリート診断士資格取得等社会人の人材養成に協力している。

お問合せ先

高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成22年02月 --