国立大学法人筑波大学の平成20年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 筑波大学は、先端的・独創的な知の創出と個性輝く人材の育成を通じて世界に貢献することを使命として、法人化後の成果と課題を踏まえ、法人運営の質の充実を図りつつ、学群教育の充実と大学院教育の高度化・実質化への取組強化、施設整備の効率的推進と広範な重点施策を中心に経営基盤の強化と教育研究の高度化に取り組んでいる。
 業務運営については、男女共同参画の推進に係る基本理念と基本方針の制定、戦略的経営体制を担うための本部任用教員制度を活用するほか、業務改善提案に基づいた納品検収所の集約等、業務の簡素化・効率化の推進に取り組んでいる。
 財務内容については、他の同規模大学との比較分析を行い、契約方法の改善、全学的な省エネルギー対策等の節減化方策に取り組んだ結果、一般管理費比率が削減するなど効果が現れている。
 一方、年度計画に掲げている共同研究の件数の増加を図ることについては、産学連携体制の強化等に取り組んでいるものの、平成19年度から平成20年度にかけて共同研究の件数が減少していることから、着実な取組が求められる。
 その他業務運営については、教育研究活動中の不慮の災害・事故補償のため、保険料を大学が全額負担し、全学生が学生教育研究災害傷害保険に加入している。
 教育研究の質の向上については、国際的な活躍に必要な英語力とコミュニケーション能力の育成、大学院教育における幅広い視野を持った専門家の育成を目的とした大学院共通科目(48科目)の開設等に取り組んでいる。また、積極的な技術移転及び大学発ベンチャー創出の支援により、大学発ベンチャー企業が順調に増加している。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.総人件費改革、5.事務等の効率化・合理化

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  男女共同参画の推進に係る基本理念と基本方針を定めている。また、常勤職員及び非常勤職員を対象に、教育・研究・就業と家庭生活との両立支援とワークシェアリングの観点から、育児のための「短時間勤務制度」を導入している。
  •  戦略的経営体制を担う要員等を確保するため、本部任用教員制度を導入し、国際部長を兼任する本部任用教員を外部から登用している。
  •  財務内容の改善によって捻出した財源の活用により、大学改革・改善推進経費、教育支援重点経費について対前年度比8億円を増額し、老朽化した施設の改修、省エネルギー対策、留学生支援、ティーチング・アシスタント(TA)・リサーチ・アシスタント(RA)経費等に充当している。
  •  教育研究業績等を重視した国籍や性別にとらわれない人事を維持しつつ、外国人教員率の拡大に資するよう諸条件の整備を推進することが期待される。
  •  総合事務センターを整備し、学内の各部局の定型的業務の集約化を図り、各部局の業務負担の軽減と業務の効率化を促進している。
  •  大学会館及び各宿泊施設について、受付業務を一元化するとともに管理等業務を集約化して外部委託契約を行い、受付時間の延長及び料金徴収方法の改善等サービスの向上・合理化を実現している。
  •  業務改善の全学的重点施策アクションプログラム及び業務改善提案に基づき、ウェブサイトでの勤務時間記録システムの導入(出勤簿等の廃止)、納品検収所の集約等を実施しており、業務の簡素化・効率化の推進に取り組んでいる。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載75事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  科学研究費補助金の申請・採択率の一層の向上を図るため、全学説明会及び部局別説明会を開催するとともに、より大型の研究種目獲得のため、ステップ・アップ支援制度により支援を行っている。
  •  他の同規模大学との比較分析を行い、契約方法の改善、全学的な省エネルギー対策等の節減化方策に取り組んだ結果、一般管理費比率が3.8%(対前年度比0.3%減)となるなど効果が現れている。
  •  「総合評価落札方式活用の手引き」及び「企画競争に関する契約事務の取扱いについて」等を策定し、契約の適正化に努めている。
  •  決算データにより資金運用状況を把握し、学内の資金運用体制の整備を進めた結果、7,200万円(対前年度比50%増)の運用益を確保し、教育研究の高度化、学生支援の充実に活用している。
  •  中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。

 平成20年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。

(法人による自己評価と評価委員会の評価が異なる事項)

  •  「2.学内シーズの発掘、企業ニーズとのマッチング等を推進し、共同研究及び受託研究の件数の増加を図る」(実績報告書38頁・年度計画【292】)について、産学連携体制の強化等に取り組んでいるものの、平成19年度から平成20年度にかけて、共同研究の件数が減少していることから、年度計画を十分には実施していないものと認められる。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けておおむね順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載12事項のうち11事項が「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められるが、1事項について「年度計画を十分には実施していない」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び情報提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  全教員の約9割が研究者情報システムのデータを登録・公開し、研究成果の社会還元、組織及び教員の評価等に活用している。引き続きデータ入力率の向上に向けた取組が期待される。
  •  既存の広報誌を見直し、速報性のある情報等をウェブサイトに集約するとともに、学内コミュニケーションの促進と構成員のアイデンティティの確立を目的とする新広報誌「Tsukuba Communications」を創刊している。
  •  ノーベル賞受賞者、オリンピックメダリストの記念品等を展示した常設の筑波大学ギャラリーを広報拠点として活用し、つくばサイエンスツアー等、地元自治体と連携した体制により訪問者が増加している。また、教育研究施設等を巡るキャンパスツアー実施により延べ約8,000名(対前年度比20%増)の参加者が訪れている。
  •  「研究者・研究グループマップ」を作成し、研究科ごと及び科学研究費補助金の分野分類によるグループ活動の状況、様々なデータによる大学の現状分析結果等を整理している。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載10事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用等、2.安全管理

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  総合研究棟及びその移転跡スペース等を中心に、約33,000m2の全学共用スペースを確保し、活発な活動を行う教員や組織に優先配分している。
  •  共用スペースのうち公募スペースからは使用料及び光熱水料を利用者負担として徴収しスペース使用料2,900万円を使用して、教育研究施設の改善工事等を実施している。
  •  エネルギー消費に関するデータを可視化することにより、省エネルギーに関する情報の共有化と意識の定着を図り、全学的に省エネルギー対策を推進・強化している。
  •  温室効果ガス排出抑制等のための実施計画に基づき、CO2排出原単位を対前年度比2%削減する目標達成に向けた取組を強化したことにより、目標を上回る3.9%削減の成果を挙げている。
  •  教育研究活動中の不慮の災害・事故補償のため、保険料を大学が全額負担し、学生教育研究災害傷害保険に全学生が加入している。
  •  危機管理への対応として、安全衛生マニュアル、薬品管理マニュアル等のウェブサイトでの公開、ヒヤリハット事例のデータベース化等に取り組んでいる。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載27事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成20年度の外形的・客観的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

  •  教養教育機構の設置により全学的な企画・実施責任体制を構築するとともに、「筑波大学教養教育の理念と目標」を策定し、教養教育再構築の方針を明確化している。
  •  総合科目の見直しによる「教養コアカリキュラム(コモン・コア)」の開設に取り組み、その一環として、物理学・化学・地球科学・生物学に対する理解を深める科目である「現代人のための科学」の平成21年度開講に向けた取組を行っている。
  •  英語による授業の拡充を推進し、海外実習・海外インターンシップ、協定校との留学生交流等により、国際的な活躍に必要な英語力とコミュニケーション能力の育成を図っている。
  •  大学院教育における幅広い視野を持った専門家の育成を目的とした大学院共通科目(48科目)を開設している。
  •  計算科学の基礎的な知識・方法論から並列計算機の高度利用のための知識・プログラミングまで身につける「計算科学リテラシー」及び「計算科学のための高性能並列計算技術」を大学院共通科目として開設するとともに、学外者も対象としたサマーセミナーを開催している。
  •  成績評価基準の明確化等のため、学群・大学院共通のシラバス作成のためのガイドラインを作成・周知している。
  •  これまでの「ロケット・スタート支援制度」に加え、若手教員に対し「若手ステップ・アップ支援経費」創設による支援を実施し、さらなる研究の発展を促している。
  •  産学リエゾン共同研究センターを中心に、積極的な技術移転及び大学発ベンチャー創出の支援した結果、4社の筑波大学発ベンチャーが新たに設立され、累計75社となっている。
  •  クラス担任や指導教員、学生担当職員等を対象とする「メンタルヘルスFD・SD」を実施し、精神・心理的問題の予防に取り組んでいる。
  •  学生自らが主体的に関わり多様な活動を展開する「つくばアクションプロジェクト(T‐ACT)」を発足させ、学生と教職員が一体となった学生支援を開始している。
  •  多数の留学生を受け入れている環境を活かし、日本人学生と留学生が交流するコスモス・カフェを開設し、日本人学生の外国語によるコミュニケーション能力及び留学生の日本語能力を養成する場を設けている。
  •  留学生支援策として、学生宿舎への新規入学者の希望者全員入居、留学生当たりチューター1名配置の実現、留学生向け文書の日英両言語化等に取り組んでいる。
  •  学術機関リポジトリの充実のため、学術雑誌掲載論文等のコンテンツを新たに登録・公開するとともに、機関リポジトリ横断検索システムを改善し、学術情報へのナビゲート機能の利便性を向上させている。

全国共同利用関係

  •  全国共同利用の研究施設である計算科学研究センターは、研究者コミュニティに開かれた運営体制を整備し、大学の枠を越えた全国共同利用を実施している。東京大学・京都大学と共同仕様策定したスーパーコンピュータ「T2K‐tsukuba」の稼動を開始し、学際共同利用プログラムの下で全国共同利用を開始している。また、計8件のシンポジウム等を開催し、稼動予定のスーパーコンピュータの有効活用に向けた運用体制・利用方法・研究展開等について情報提供を行っている。

附属病院関係

  •  充実した初期臨床研修を提供するために、基本研修科目のすべてを院内で研修できるプログラムを追加し、後期研修プログラムではリハビリテーション養成コースを追加する等、研修医や地域のニーズを考慮した教育体制を整備している。また、陽子線医療機器が医療用具として承認されたことから、先進医療としての治療を開始し治療実績を確実に上げている。診療では、7対1看護体制の導入、集中治療室(ICU)の増床を図った結果、前年度実績を約11億5,000万円上回る附属病院収入を確保している。
     今後、国立大学病院初となるPFI方式での再開発整備や地域医療向上を目的とした水戸地域医療教育センターの運営等、病院独自の魅力ある取組が期待される。
(教育・研究面)
  •  特定非営利活動法人(NPO)卒後臨床研修評価機構による第三者評価の認定を受けている。
  •  大学病院連携型高度医療人養成推進事業(東関東・東京高度医療人養成ネットワーク)により、5大学による循環型キャリア形成システムの構築に向けた準備を進めている。
  •  社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成推進プログラム(女性医師・看護師キャリアアップ支援システム)の実施により、女性医師・看護師の出産後等の復職を支援するための受入れを開始している。
  •  茨城県厚生農業協同組合連合会との緊密な連携と協力、地域医療の向上を目的とした水戸地域医療教育センターを設置する協定を締結している。
(診療面)
  •  先進医療としての陽子線治療では74名の新規患者に対して治療を行っている。
  •  外来化学療法室のベッド数を13床から18床に増床して整備を図るとともに、化学療法のレジメンの登録申請・認定手続と抗がん剤治療計画書の運用計画に関する基本ルールを取りまとめ、抗がん剤治療の安全性の確保に努めている。
  •  外国人患者への診療通訳支援として、中国語、韓国語、ロシア語等について診療通訳者を25名登録しており、患者サービスの充実を図っている。
  •  各病棟の症度に応じた看護師の配置を検討し、7対1看護体制の効率的実施に向けた看護師の配置を行っている。
(運営面)
  •  診療実績に応じて看護師の適正配置を行い、診療体制の向上に向けて病院講師、医員、看護師、コメディカルを増員している。
  •  医療材料調達において、業者あてに手動で行っていた発注業務を、物流システムを利用したオンライン自動発注の実現により効率化に努めている。

お問合せ先

高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成22年02月 --