国立大学法人旭川医科大学の平成20年度に係る業務の実績に関する評価結果

1 全体評価

 旭川医科大学は、医療の質の向上、地域医療への貢献を推進するため、高い生命倫理観を有し高度な実践的能力を有する医療職者を育成するとともに、生命科学に関する先端的な研究を推進し、高度な研究能力を持つ研究者を育成することを目指している。そのために、「スピード」、「先取り」、「共有」をキーワードに大学改革の方向性を示し、学長のリーダーシップの下で改革を進めている。
 業務運営については、「旭川医科大学復職・子育て・介護支援センター(略称:二輪草センター)」を設置し、復職支援研修プログラム等に取り組み、その結果、女性医師・看護師が復職するなどの成果が現れている。
 財務内容の改善については、附属病院において、診療科ごとに目標値を設定するとともに、当該目標の達成状況について、毎月開催の病院運営委員会等に報告し、達成状況が思わしくない診療科には、改善方策等について適宜協力要請を行うなど、収入の確保に取り組んでいる。
 一方、年度計画に掲げている文部科学省科学研究費補助金の申請については、各教員1件以上申請が行われるまでには至っていないことから、今後、積極的な取組が求められる。
 また、平成19年度評価結果において評価委員会が課題として指摘した、検体の目的外使用等に関する事例について、一定の取組が行われているものの、検体の目的外使用に関する再発防止に向けた体制整備等の取組が不十分であるため、引き続き再発防止に向け徹底した取組を行うことが求められる。
 教育研究の質の向上については、市内4大学・1短期大学・1高等専門学校の高等教育機関及び旭川市と連携して、地域活性化を目指す「旭川ウェルビーイング・コンソーシアム」を設立し、地域の協働戦略として人と地域の健康度が高められるウェルビーイング社会(住民の身体的・精神的・社会的な健康)を達成するよう活動を行っている。

2 項目別評価

1.業務運営・財務内容等の状況

(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標

1.運営体制の改善、2.教育研究組織の見直し、3.人事の適正化、4.事務等の効率化・合理化

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  初期臨床研修医の待遇改善を図るため、道内企業からの寄附を活用し、研修終了後の一定期間を大学が定める地域医療機関において診療に従事した場合には、研修資金の返還を免除する「研修資金貸与制度」を新設し、貸与を開始している。
  •  「旭川医科大学復職・子育て・介護支援センター(略称:二輪草センター)」を設置し、復職支援研修プログラム等に取り組み、その結果、女性医師・看護師が復職するなどの成果が現れている。
  •  北海道との「地域医療支援医師派遣に関する協定」に基づいた委託費を活用し、大学が直接医師を雇用する「診療助教」制度を創設している。
  •  非常勤職員の雇用契約の更新に当たっては、業務の必要性、職員の能力等を考慮するとともに、医師等の専門性の高い職種や業務に精通した職員を活用する観点から、原則3年としていた雇用期間を5年とするなど、就業規則を改正している。
  •  教育研究基盤校費の配分に当たり、教育・研究・診療・社会貢献に関する活動状況について貢献度評価を行い、その結果に基づいて傾斜配分を行っている。
  •  事務局職員の組織運営に対する積極的・能動的な関与の促進やモチベーションの向上等を目的として、課長補佐及び係長の登用について、公募制を導入している。
  •  学長がマニフェストとして掲げた「病院運営の改革」にあるグランドデザインの策定等に向け、学長特別補佐として登用した学外コンサルタントを、病院経営にも参画させることで、病院運営の効率化と財政基盤の強化を図っている。
  •  平成19年度評価結果において評価委員会が課題として指摘した、大学院博士課程における学生収容定員の充足率が90%を満たさなかったことについては、奨学金制度創設等の取組を行った結果、93.3%となっており、指摘に対する取組が行われている。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載11事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(2)財務内容の改善に関する目標

1.外部研究資金その他の自己収入の増加、2.経費の抑制、3.資産の運用管理の改善

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  診療科ごとに設定した目標値について、その達成状況を毎月開催される病院運営委員会等に報告し、当該達成状況が思わしくない診療科には、病院長から改善方策等について適宜協力要請を行うとともに、7:1看護体制取得のための全学的な取組等により、病院収益は、対前年度比で10億1,000万円増となっている。
  •  「医工連携総研講座」、「心血管再生・先端医療開発講座」の寄附講座を新たに設置している。
  •  中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。

平成20年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。

(法人による自己評価と評価委員会の評価が異なる事項)

  •  「競争的資金獲得のため、文部科学省科学研究費補助金の申請を各教員1件以上行う。」(実績報告書20頁・年度計画【105‐1】)について、各教員1件以上の申請が行われるまでには至っていないことから、年度計画を十分には実施していないものと認められる。
【評定】 中期目標・中期計画の達成のためにはやや遅れている

(理由) 年度計画の記載6事項中5事項が「年度計画を十分に実施している」と認められるが、1事項について「年度計画を十分には実施していない」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標

1.評価の充実、2.情報公開等の推進

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  これまで実施した教員評価について検証し、評価対象期間の単年度化、活動目標の事前設定、事務局が保有する基礎データの提供による教員の負担軽減等の改善を図っている。
  •  病院の運営状況(外来・入院患者数、病床稼働率、在院日数、手術件数等)や患者向け薬品情報提供データ等をウェブサイトに掲載している。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載5事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。

(4)その他業務運営に関する重要目標

1.施設設備の整備・活用、2.安全管理

 平成20年度の実績のうち、下記の事項が注目される。

  •  総合研究棟(基礎臨床研究棟)改修工事に伴い、共用スペース(改修面積の約20%)を確保している。
  •  職員宿舎E棟の一部を転用して「緑が丘書庫」を設置し、図書館の資料を移動することで、図書館に約13,900冊分の新たな配架スペースを確保している。
  •  災害対策マニュアルについて、その後の病院再開発等による現状を踏まえ改訂版を作成し、学内に周知している。
  •  病院福利厚生施設のあり方検討プロジェクトチームにおいて、利用者(患者・職員等)に対するアンケート調査の結果等を踏まえ、一般食堂及び職員食堂を備えた福利厚生施設棟を新築することとしている。

平成20年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。

  •  平成19年度評価結果において評価委員会が課題として指摘した、検体の目的外使用と個人情報の漏洩に関する事例について、利益相反に関する講演会の開催や臨床検査・輸血部内に倫理管理者を配置するなどの取組は行われているが、検体の目的外使用に関する再発防止に向けた体制整備等の取組が不十分であるため、引き続き再発防止に向け徹底した取組を行うことが求められる。
【評定】 中期目標・中期計画の達成に向けておおむね順調に進んでいる

(理由) 年度計画の記載9事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められるが、平成19年度の評価結果で評価委員会が課題として指摘した検体の目的外使用に関する件について十分には実施されなかったこと等を総合的に勘案したことによる。

2.教育研究等の質の向上の状況

 評価委員会が平成20年度の外形的・客観的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。

  •  学生による授業評価の抜本的見直しを行い、評価内容の大幅な改訂、評価結果の学長への報告、評価点の低い教員に対するファカルティ・ディベロップメント(FD)行事等への参加推奨を盛り込むなど改善を図っている。
  •  「教育改革のグランドデザイン」との整合性を考慮しつつ、これまでの医学科の実習から医学科と看護学科の合同実習とするなど、カリキュラム改正を行っている。
  •  より地域医療に関心を持つ受験生を増やすため、「高大連携推進部会」を設置し、地域の高等学校への出前授業や道内高校での説明会を行うとともに、高大連携の枠を越えた高大病連携合同シンポジウムを開催している。
  •  看護学科の学生に対し経済的な支援を行うことを目的として、卒業後直ちに、大学附属病院に常勤の看護職員として勤務した場合は、勤務月数に相当する月数分の返還を免除する「奨学資金貸与制度」を創設している。
  •  募金により運営されている学術振興後援資金を用いて、若手研究者に対する「研究活動助成事業」、若手研究者が国際学会に参加することを支援する「国際学会等派遣事業」、私費外国人留学生を支援する「留学生支援事業」を実施している。
  •  専門家を客員教授として登用するとともに、リエゾンオフィスに知的財産マネージャーを配置し、研究シーズ発掘等のための研究室訪問等や知的財産ポリシーの策定に着手するなど、知的財産管理体制の整備・充実を図っている。
  •  市内4大学・1短期大学・1高等専門学校の高等教育機関及び旭川市と連携して、「旭川ウェルビーイング・コンソーシアム」を設立し、地域の協働戦略として人と地域の健康度が高められるウェルビーイング社会(住民の身体的・精神的・社会的な健康)を達成するよう活動を行っている。
  •  「道北ドクターヘリ」を誘致し、格納庫や給油施設等を提供するとともに、自治体や地域医療機関との連携を推進しているほか、身近な医療についての講演会や、医学に関する古文書の一般公開等、地域貢献に取り組んでいる。
  •  遠隔医療センターをキーステーションに、自治体や病院等複数の会場をインターネット回線で結び、双方向による講演会「北海道メディカルミュージアム」を開催し、地域の医療従事者や住民に向け、身近な医療に関する知識や情報を提供している。
  •  「アジア・ブロードバンド計画」の一環として、G8主要国首脳会議「北海道洞爺湖サミット」の開催に先立ち、遠隔医療センターを介した、手術の高画質立体動画の伝送実験「3D‐HDバーチャル眼科シンポジウム」を国内外メディアに紹介し、国際遠隔医療の先端的取組事例として注目を集めている。

附属病院関係

  •  医師の資質向上のために、初期臨床研修コースにモデル事業として、5つの特別コース(内科、小児科、外科、眼科、麻酔科・蘇生科)を新たに設定し、初期臨床研修教育の充実を図っている。また、「腹腔鏡下子宮体がん根治手術」が先進医療に認定され、高度先端医療の提供に努めている。診療では、7対1看護体制の導入、診療助教制度の創設、コメディカルスタッフ等の増員を行い、診療体制の充実を図っている。
     道北ドクターヘリの誘致にも成功していることから、今後、地域医療の拠点病院として救急医療等の充実や、また「旭川医科大学病院グランドデザイン」の着実な実行、より良い成果が得られるような取組が期待される。
(教育・研究面)
  •  「大学病院連携型高度医療人養成推進事業(自立した専門医を育むオール北海道プラス1)」により、後期臨床研修の充実を図っている。
  •  卒後臨床研修センターにおいて、指導医のFDの一環として、指導医ワークショップを開催し、質の高い臨床研修の遂行に努めている。
(診療面)
  •  呼吸器内科、呼吸器外科及び腫瘍外科等からなる呼吸器センターを設置し、先進かつ専門性を有する呼吸器診療の充実に取り組んでいる。
  •  緩和ケア専用病床を2床確保して、診療機能の向上に努めるとともに、患者へのメンタルサポートやチーム医療によるアプローチ、また「旭川緩和ケア講座」を開催するなど、医療の質の向上に取り組んだ結果、地域がん診療連携拠点病院に認定されている。
  •  安全な医療提供のため、看護師勤務体制の見直し、看護師の増員等を図り、7対1看護体制を導入している。
(運営面)
  •  安定的な病院運営を図るため、「旭川医科大学病院グランドデザイン」を策定し、附属病院収入の増収、大型機器の導入等の方策に取り組んでいる。
  •  国立大学病院管理会計システム(HOMAS)のデータを基に、特定の部門や患者の収支分析等を実施し、コスト意識改革を図っている。
  •  後発医薬品の新規採用及び使い分けの徹底(1,755万8,000円)、特定保険治療材料の費用削減(約7,000万円)を図り、大幅な医療費削減に取り組んでいる。

お問合せ先

高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室

(高等教育局国立大学法人支援課国立大学法人評価委員会室)

-- 登録:平成22年02月 --