(議事録)障がいのある学生の修学支援に関する検討会(第5回)

【竹田座長】  本日は,関係者からのヒアリングということで,株式会社ミライロ代表取締役社長,垣内様,広島女学院大学障がい学生高等教育支援研究所所長,山下様にお越しいただいております。お二人より,それぞれ取組等について40分程度お話を頂き,それぞれ15分程度,意見交換,質疑等を行っていただく予定としております。
 なお,本検討会においては,御発言される場合には,必ず挙手した上で,お名前を述べてから御発言いただきますようお願いいたします。
 まず,配付資料について事務局より確認をお願いいたします。

【事務局】  文部科学省学生・留学生課の森山です。本日は,皆様方お忙しいところ,お集まりいただきまして,どうもありがとうございます。株式会社ミライロの垣内様,広島女学院大学の山下様におかれましては,本日,お忙しいところおいでいただきまして,どうもありがとうございます。
 配付資料について確認させていただきます。議事次第を御覧いただきたいと思いますが,資料1から4ということでお配りさせていただいております。
 過不足等がございましたら,議事の途中でも結構ですので,事務局まで遠慮なくお知らせいただければと思います。
 以上でございます。

【竹田座長】  それでは,早速ヒアリングを行わせていただきたいと思います。
 まず初めに,垣内様よりお話を頂きたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

【垣内氏】  皆さん,こんにちは。
 ありがとうございます。株式会社ミライロの垣内と申します。
 本日は,私たちの取組であったり,私たちが考えている障害のある方々の生き方,また,学び方に関してお話しさせていただきたいと思います。40分という短い時間ではありますが,新しい気づきを皆さんにお届けできたらなと思っている次第です。
 本日は,「バリアバリューの創造へ~障害をマイナスからプラスに変える社会~」といった演題で,お話を進めさせていただきたいと思っています。
 バリアバリュー,障害を価値とする社会,そんな社会が今の私たちの社会で求められているのではないか,私たちが実現すべき社会というのはこういった社会じゃないか,と私は考えております。
 バリアフリーという言葉は,皆さん,幾度となくお聞きになってきたことと思います。この言葉は,すごく使いやすいため,私も日常的に使っている言葉ですし,心のバリアフリー,ハードのバリアフリーなど,たくさんのバリアフリーが大切だと考えています。
 しかし,バリアフリーだけではないとも思っているんですね。バリアフリーという言葉は,ちょっと視点を変えてみてみると,バリアは和訳すれば「障害」,フリーは和訳すれば「取り除く」,障害を取り除くのがバリアフリーとなりますが,障害を取り除くだけでいいのかなと私は常々考えてきました。
 例えば,障害者はかわいそうといわれる。障害者は,障害をもっている,障害を抱えているというようにいわれますが,障害というのは,本人に帰属するものではないと思っています。例えば,駅の改札の切符の投入口は右側にあります。なぜなら,日本人のうち9割は右ききだからです。街中には,段差の階段がたくさんあります。なぜなら,歩ける人が多いからです。街中には,点字ブロックがない場所が一杯ある。なぜなら,見える人が多いからです。ただ,大多数の人間に合わせられたこの環境に,少数派の人間が少しの苦労を抱えているだけである。左ききであることが,歩けないことが,目が見えないことが,耳が聞こえないことが,障害ではない。ただ単純に,この大多数の人間に合わせられた環境,仕組み,それらに少数派は苦労しているだけである。だからこそ,その少数派のことも少しずつ考えてもらう必要がありますよと考えているんです。
 少し私の紹介をさせていただきたいと思います。骨形成不全症という魔法にかけられて生まれてきました。骨が弱くて折れやすいという病気です。今日まで,お医者さんに10回ぐらい,手術に十数回,人生の1/5くらいはしょっちゅう病院にいました。だから,例えば小学校のときは,遠足に行けない,運動部に入れられない,修学旅行にも行けませんでした。なぜなら病院にいたからです。小学校の勉強もできませんでしたし,運動会も出られなかった。
 だからこそ,私は,障害をマイナスとしてしか捉えることができなかったんですね。歩けた方がいいに決まっている。車椅子であることが,歩けないことがマイナスだと,そんなふうに考え続けていました。
 そして,中学校のときにその考えを決定付けることが起きました。中学校では,給食当番というものがあり,牛乳パックを配ったり,冷凍ミカンを配ったり,私は私にできることをしていました。でも,あるとき友人とサボって消しゴムとほうきを使って野球をして騒ぎました。そのときに,先生が何と言ったか。周りの友人が何と言ったか。私はサボっていても怒られませんでした。先生が言いました。俊哉君は障害があるから給食当番はやらなくてもいいんだよ,と。先生が言うから周りの友人も言いました。ああ,そうか,と。障害がある子はやらなくていいんだ,と。俊哉君は見ていてくれていたらいいんだよ,と。
 私は,14歳のときには,自身のことを障害者と認識はしていませんでした。ただ,歩けないだけ,車椅子に乗っているだけにもかかわらず,先生が,そして周りの友人が,障害者はしなくていい,サボってもいいというように壁を作ってしまった。
 得てして障害者の障害というのは,本人が作っているものではなく,社会が作っているものにほかならない,そんなふうにとる人がいましたが,私は障害者だから怒られませんでしたが,私は怒ってほしかった。だからこそ,私はすごく居心地が悪くなりました。そして,障害を克服しようとか,障害者と言われることが嫌だとか,もちろん歩けないことは不自由なので歩けるようになりたいとか,そんなことを思って小学校,中学校,高校とずっと過ごしてきました。
 そして,高校生にもなると,学校で学ぶことにいろんな不自由が付きまといました。例えば,小学校や中学校のときには,1階から2階,2階から3階,3階から4階,移動するとき,周りの友人に車椅子を持ってもらうだけ,そして私は階段に手をついて移動していました。ただし,それを高校の思春期にもなると,女の子に見られたくないだとか,そうしたことがあって,私は高校を辞めました。小学校,中学校までは周りの友人に車椅子を持ってもらうことが普通で,先生にも率先してやってもらっていましたが,それもためらうようになりました。でも,高校生になると,思春期もあってか,周りの手を借りられない。自分自身で何一つできないことに,すごくいろいろな不満を抱え,歩けるようになろうという思いで,私は高校を辞めました。岐阜県の出身ですが,大阪に出てリハビリの日々を送りました。
 そんな中で,私はいろいろな現実と向き合いました。例えば,中途で障害を負った方で自ら命を絶ってしまう方がたくさんいらっしゃる。リハビリを一生懸命していたのに,もう少しで病院を出られるのに,でも社会に出てみればどうせ働き先がないからとか,家族に迷惑をかけるからとか,そういった形で自ら命を絶ってしまう人がたくさんいたんです。そして,私自身もそうでした。歩けない,と先生に宣告されて,歩けないこと,また車椅子で学校に行かなくてはいけないのかというようなことから,17歳の6月,17歳の10月,12月の3度にわたり,自ら命を絶とうとしました。でも,死ねなかったので良かったなと今は思えています。私はそのとき死ぬことができませんでした。
 そして,病院の中でいろんなことを考えたので,ここで少し述べさせていただきたいなと思います。病院では,日々,日常的にいろんな方々の死を目の当たりにします。だからこそ,残された時間の中でも,強く考えていかなければとか,せいぜい人間は生きても80年であると,ともすれば時間というのは限られているなというように考えるようになりました。
 そして,17歳の6月,私自身にも残された時間というのがはっきりとわかりました。神経系の病気ですが,脊髄小脳変性症という病気です。この病気は発症すると,ろれつが回らなくなり,また手足が不自由になる病気です。18歳の頃,私は,左のほっぺが引きつって,手も引きつって,まひしていました。今は薬で落ち着いているので,このように手を使って,車椅子をこいで移動できていますが,当時はそういうことはできませんでした。
 そして,病気は私が45歳で発症するであろうと宣告された17歳から45歳まで,9,500日という時間がありました。そして,今日45歳までの日が残り7,905日です。この限られた時間の中で何ができるか,自分にできることって何があるのかと,そんなことを考えて,ようやく死のう,死のうと思っていた毎日,障害をマイナスに考えるような人生をやめて,新しい道を目指すようになりました。
 実は,私のこの骨の病気は,明治の先祖の代からずっと遺伝しています。父親も同じように足が不自由です。私の弟も車椅子に乗っています。この神経系の病気自体も,家系で遺伝しているので,私は生まれた頃には,そもそもしゃべることができなかったですし,父親も,2年前の秋から段々しゃべれなくなってきました。だからこそ,バリアフリーであったり,ユニバーサルデザインであったり,障害者の教育であったり雇用であったり,もっともっと大切なことを考えて日々を送りたいと思うようになりました。
 今でこそ私は,大阪から東京まで,3時間も座っていれば来ることができますが,昔はそうではなかった。明治の先祖の頃は,舗装された道路もない,エレベーターもない。よって,私の先祖は生まれてから死ぬまで一歩も外に出ることなく亡くなったそうです。父親は,幸いにも歩けるので普通に仕事ができています。私は,舗装された道路が一杯広がっている社会に生きているがために,そして,車椅子に乗ることができているために,学校にも行くことができ,幸いにも働くこともできています。
 でも,まだまだ不自由な環境はたくさんある。あとは,この病気は将来の自分の子供にも遺伝します。今奥さんがいれば,将来自分の子供が生まれたときに,もっといろいろなことが学べる社会,働ける社会,御飯も食べられる,遊べる,いろんなことが自分たちの選べるように,そんな社会を作っておきたいなと,そんなふうに思いながら,自分のこれまで感じてきたことや経験を生かして何かしていこう,そんなことを思いながらようやく前向きに生きていくことができています。
 なので,せいぜい80年,私にはあと8,000日ぐらい,人の命なんてはかないものですが,長さは変えられないかもしれないですが,でも幅は幾らでも変えられると思っています。自分の努力であったり,またいろいろな方々が,こういった形でバリアフリー,ユニバーサルデザイン,障害児の教育,雇用について真剣に考えている時代になったら,もっと日本の社会は良い方向に行くんじゃないかな。皆がもっと生活しやすい社会を作っていけるんじゃないかな。そんな形で,私は人生の幅を広げていきたいなというふうに感じています。
 私は,大学は立命館大学に進学しました。また,後からもお話ししますが,立命館大学は,バリアフリーが比較的整っていたので,滋賀のキャンパスに進学しました。それでも,まだまだバリアフリーでない所が多かったがために,入学以降,大学で環境整備というのを随時進めてもらいました。結果的に4年間大学にしっかりと通うことができました。
 一方で,私には一つ下の弟がいますが,私の弟は大学を辞めました。大学に4年間通いきることができなかった。なぜなら,大学の環境面,修学支援の面,通学,一人暮らし,いろんな部分でやはり不自由があります。私は幸いにも卒業できましたが,弟は卒業できなかった。また,進学できない,できていない子たちも一杯います。私だけではないし,私の弟だけではありません。社会全体の問題として,やはり今,障害のある方々の高等教育というのは,もっと見直さなくてはいけないんじゃないかなというのを肌で感じています。
 そして,大学へ入ってからはお仕事してきました。その中で,自分たちでできることをやっていくというところから,大学2回生のときに,障害のある子供たちの教育を事業としてスタートさせ,事業プランについていろいろな方々に応援していただいた結果,2年前,株式会社ミライロという会社を設立しました。今は,従業員9名で,また,たくさんの学生が関わってくれていて,会社の中には肢体不自由が3名,全盲が1名,また,登録スタッフとして考えると,肢体不自由の人がいたり,全盲の方もたくさんいるんですが,健常者,障害者,半々という形になります。
 私たちが考えている障害は,ハンディでもマイナスでも不幸でもない。障害というのは,表裏一体のようなもの,見方次第で,ハンディを感じさせるだけじゃない。例えば,障害というのは,取り柄であったり長所だったり強みになると考えております。それは,受け止めてくれる周りの人,育った時代,環境,いろんな背景が重なってこそ意味がありますが,障害があるから自殺しようなんていうことを思わなくてもいいような社会,それが最低限だと思っています。
 そしてまた,障害があるからこそできることがあると,そんなふうに思える社会,描ける社会というのを作っていきたい。バリアフリーだけじゃなく,バリアバリュー,障害をなくそうとか克服しようとか,それだけじゃない。歩けないと声に出して何かをしよう,目が見えないからこそこんなことができるんだとか,耳が聞こえないからこそこんなことができるとか,こんなことが実現できる社会を作っていきたいと思っています。
 バリアバリューと先ほどからお伝えしていますが,まず最低限は,障害者が自殺しなくてもいいと社会とお伝えしました。私自身は,今の社会に不足しているのは何かと言えば,まずは外出しやすい環境です。バリアフリーの法律によって,交通機関のバリアフリーは著しく進みました。しかしながら,まだ交通機関だけです。私たちの統計では,例えば,飲食店では,私たち車椅子の方が入店できるお店は全体の5%で95%は入れない。まだ5%しか私たちは選べないということです。それは飲食店だけに限りません。例えば宿泊先もそうです。学校もそうです。働く場所もそうです。いろんな環境において,バリアフリーやユニバーサルデザインであったりというのが不足している環境を変えていかなくてはいけない。
 そして,今までは外に出られなかった障害者が,インフラが整ってきたからこそ,進学者数は増えている。やはり障害者が外に出やすくなったということです。ずっと遡れば,うちの明治の先祖もそうですが,もちろん働くことも学ぶこともできなかった社会があったが,今はそうじゃない。バリアフリーが進んできたからです。なので,この環境をもっと良くしていくことで彼らの学びを高めていくことができる。
 例えば,私は,もう15,6年前になりますが,小学校に入学するとなった当時,教育委員会に,普通学校ではもしも骨折したら責任はとれないから特別支援学校に行くように促されました。母親の猛烈な訴えから,結果的にみんなと一緒に普通学校に通いましたが,まだまだ障害をもつ子たちが,自らの志望する選択肢を選べていない状況がある。それは,小学校でもそう,中学校でもそう,高校でもそう,そして大学でもそうです。まず,教育を変えていかなければ,雇用は変わっていきません。障害のある方々の雇用,今問題になっています。例えば大阪であれば,障害のある方々の声を集めてみると,離職率が非常に高いことがわかります。なぜなら,法定雇用率の法律のもとに,義務的な雇用しか広がっていないためです。障害者を戦力として考えない,障害者の雇用を義務としか考えない企業が多いためです。それは仕方がない側面もあるかも知れませんが,これから改善に向かうと思います。私たちの考えでは,環境,教育,雇用のこれらを変えることで,障害のある方が,もっと自分たちの選択肢のもとに社会を作る必要性があるかと思います。
 それでは,ここからは教育についてお話をしていきたいと思います。まず,私たちは大学においては,情報発信が圧倒的に不足しているなと思っています。積極的な大学もありますが,まだまだ取り組めていない大学はたくさんあります。
 先ほどもお話ししましたが,障害のある方々の進学者数は年々増えてきている。やはりそれは,外出しやすくなるとともに,小学校,中学校,高校と学べるような環境が広がってきたからだと思います。今,肢体不自由であれば,みんな普通の学校に通っています。でも,まだまだ選択肢が少ない中で,また,外出しづらい状況にもかかわらず,それでも少しずつ増えてきている現状をみると,障害のある方々の進学者数はこれからもっと増えていくであろうと思われます。それでもまだ,結局全体の0.3%という数字を見ますと少ないなというのが実際の印象です。
 なぜ少ないのか。なぜ増加させようというモチベーションがないのか。それを考えていきたいと思いますが,少し個人の体験からお話をさせていただきたいと思います。立命館大学に入る前,私は東京の大学に進学しました。受験する前の日,車椅子なんですけど行けますか。エレベーターはありますか。スロープはありますか。と問い合わせたところ,エレベーターはありますよ,スロープはあります,通えますよとおっしゃっていただいたので,受けて受かって入りました。確かにエレベーターはありましたが,車椅子では自由に旋回できるスペースがなかった。確かに,スロープはありました。でも,私の力では上り切ることができないスロープでした。担当者の方が悪いとかそういうことを言うつもりはないです。ただ,バリアフリーというその言葉,また障害のある方々が通いやすいという環境については,当事者の視点があってしかるべきで,バリアフリーとはすごく簡単なように見えてしまうことが難しかったりすると思います。私は,バリアフリーですか,としか聞かなかったのがいけなかったなと思いました。大学も,バリアフリーを進めたらいいと表面的に捉えられがちですが,でも,実際のところ,まだまだそうした当事者の視点が不足していたりするからこんなふうに思ったんです。
 その東京の大学を辞めた後,私は,全国の大学28か所ぐらいを私の弟と手分けして巡りました。車椅子で行ける大学はどこだと,パソコンでいろいろ見てもわかりませんでした。電話で問い合わせても不安が残る。だからこそ,いろんな大学に足を運びました。受験期間という限られた時間の中で,交通費をかけていろんな大学を回りました。
 その中で出会ったのが立命館でした。バリアフリーであること,バリアフリーでないこと,これらの情報を発信しないということが,またバリアを作っている。バリアフリーであること,ないこと,これらを発信してほしいなと当時思いました。また,大学によっては,支援にももちろん差があります。そうしたところから,もっともっと発信していかなければいけない。
 今,私たちの会社にいる登録スタッフ,正規雇用も含めて,視覚障害者,全盲もいるんですが,彼らは全員大学を出ています。でも,やはり現地受験であったりだとか,いろんな制約からはねのけられた大学ばかりだったそうです。そして,大学の意識も低く,これらをどう高めていくのか,取組はどうするべきなのかというのをもっと考えなければいけないと思うようになりました。
 まず,私は,やはり大学さんに進めていただきたいと思うのが情報発信です。先ほどもお伝えしました,バリアフリーであること,バリアフリーでないこと,またこのような支援を行っていること,行っていないということ,これらの情報を発信しなければ大学を受けられない。こうした問題があるので,実際にどこに行けるのかというのが非常に分かりにくい。こうしたことから,大学さんには,もっと情報発信をしていってほしいなと思っています。
 障害のある方々には,本人もそうですが,御家族の中に,大学なんて通わせられないとおっしゃる親御さんがすごく多い。一人暮らしさせられないとかという声も一杯あります。そうしたところから,もっと障害のある方々の不安というものを解消していかなければいけない。そのためにも,まずは情報発信していくというところからスタートしていきませんか。
 バリアフリーについても,整備しなきゃいけない,お金がかかる,また,支援室を作らなければいけない,人を配置しなければいけない,だからお金がかかると,そんなふうに思ってしまいがちですが,まずは,お金がかからないところから始めていきませんか,ということを大学さんには伝えていきたいなと思っています。
 例えば,今日は関西の大学さんだけを取り上げていますが,東京大学さんもそうです,早稲田大学さんもそうです,いろんな大学さんが,障害のある方々の支援を行っています,このような形で支援しています,そうしたことを発信していただいています。だからこそ,ようやく,問い合わせてみようかなとか,オープンキャンパスに行ってみようかなと思える。
 でも,発信していない大学の場合には,ここもやっていないのかなとか,問い合わせたら嫌がられるかなとか考えてしまい行くことができませんので,まずは発信しなければいけないということですね。そうしないと,障害のある本人も御家族もわからない。こうした現状があるので,まずはこういった形で,うちは取り組んでいますよということを発信してもらう必要性がある。
 また,これは私たちの事業にも関連することですが,大学の環境状況がもっとわかりやすくなったらいいなというふうに思っています。そうしたところから,今,関東でも,いろいろな大学さんが取り組んでいますが,このような地図を作ったりだとか,校内の中の写真を載せたりだとかすると,実際にオープンキャンパスの2か月前でも大学の構内状況がわかる。そうすれば,行けそうだな,ちょっと無理かもな,一回聞いてみないとわからないなとか,そうした判断ができる。でも,まだまだ大学の環境はどのようになっているかというのはわかりづらい。だからこそ,情報発信をしていくことが大切ですよということを,大学さんにお伝えしています。
 そして,今は,大学側の問題点を少しお話ししましたが,障害者本人にも問題があると思っています。障害者本人,そして家族にも問題があるというふうに思っています。どういうことかといいますと,まず,外的要因でもお話ししましたとおり,大学の環境の問題,あとは,支援体制,点字受験できないとか,受験対応ができていない。修学支援,そうした支援体制が不足し,またすごく問題になりがちなのが,特に肢体不自由であれば一人暮らし,私も弟もそうでしたが,私たちが知っている肢体不自由の方々は,アパート探し,マンション探しに,すごく手間がかかります。私で言えば20か所以上回りました。私の弟も,田舎の大学に行って30か所以上行っても見つからなかったので,バルコニーを改修してまで,一人暮らしの環境を整備する必要があった。
 そして,通学手段もそうです。私は,立命館大学の滋賀のキャンパスですが,最寄り駅は南草津駅という駅でした。この駅から大学までは車で2~30分かかるので,駅からバスに乗って通学するわけですが,ノンステップバスは混んでいるため乗車拒否されることがありました。乗車拒否については,昨年の秋,バス会社さんが業者処分を受けたので,今は大分変わってきてはいます。しかし,実際,京都でも滋賀でも,乗車拒否はまだまだたくさんあります。仮にノンステップバスが通っていたとしても,そのような状況です。今,タクシーの乗車拒否というのは大分減りましたので駅からタクシーで通うこともありました。結局,私は,最寄りの駅に駐車場を借りて,市の車で4年間通学できましたがまだまだ通学には問題がある。大学の中のバリアフリーを守っていたとしても,最寄りの駅であったり,そうした通学手段と,点と点が結ばれていないというのが問題であるということですね。そうしたことで,通学手段で困っているというようなことも実際にはあったりします。
  以上が外的要因です。しかし,外的要因だけではない。私たちが考えるところ,大きな問題をはらんでいるのがこの内的要因だと思っています。障害のある方々の学力,目的,やる気,お金というふうに書いていますが,障害のある方々の学びの環境というのは大分良くなってきました。
 例えば,私は高校を辞めたので,予備校に通っていました。しかしながら,行ける予備校というのは限りがあるわけです。なぜか。階段しかなくエレベーターがなかったからです。学校以外の学びの場で自分を高めようと思っても,そういう理由で学びの場が少なかったりしました。
 私の場合,高校を辞めたので予備校に通わなければいけなかったのですが,私の弟は留年したので,やはり同様の予備校に通わなければいけなかった。でも,結局のところそういう場がなかったんですね。そういうわけで,学力が少し低いというところがあったりする。それは,私に限らず,例えば難聴の方がよく言います。うちにも今,聴覚障害の生徒というのを何人かもっていますが,学校の授業で先生が黒板に書いていることは分かると,でも結局は,言葉から伝わってこないので分かりづらい。塾に通っても,結局はそういった理由で分からないということ,そうなると何が起こるかというと,学ぶことに対してのモチベーションが下がるということです。理解できない,テストの点数が上がらないというところから,学力の問題が生じるわけです。
 そして,目的,やる気というふうに挙げています。そして,お金というふうにも挙げています。先ほど,障害のある方々は離職率が高いと申しましたが,例えば,私も常に財布に入れて携帯していますこの障害者手帳は,等級にもよりますが,二十歳を超えたら,8万,9万円というお金が毎月口座に届いて入ってくるわけです。障害者年金ですね。このお金があるために,働かなくてもいいよと,どうせおれは実家で暮らしているし,御飯を作ってもらえる,風呂にも入れる,だから働かなくていいというふうにして,働くモチベーションがすごく低い人がいる。また,企業に入ってからやめてしまう人もいる。上司とうまくいかない,仕事が面白くない,年金があるからいいかと,そういった形で,働くことに対するモチベーションが低かったりします。
 働くことに対するモチベーションが低いというだけでなくて,どうしても悲観的になってしまうという人もいる。今,私たちは,いろんな障害があるお子さんと接点をもたせていただいていますが,障害のあるお子さんも,親御さんも,どうしても働くところがないんだとか,つい暗くなってしまうということで,進学に対してポジティブになれない,前向きになれないということがあったりします。
 今,私たちは,障害のある方々の進学というのは,やはり,目的であったり本人のやる気というのを育んでいかなければいけないと考えています。例えば,なぜ大学に入りたいのか,大学で何をしたいのか。障害のある方々,私たちがいろんな形でいろいろな大学で学ばせていただくと,障害のある方で何となく大学に入ったという方も結構多かったりします。目的がなく入ってしまうと,結果的に何年もいることになり,結局大学を出てからも就労先がなく働けないわけですよね。そうしたところで,大学に入る意義というものも,もっと考えなくてはいけないなというのを思っています。
 私自身もそうでした。大学に入っても,どうせ働く場所はないだろうと思っていました。また,うちのスタッフで全盲のスタッフも,大学に入る意義がわからないと言っていました。それから,自分がこれを行いたいと思っているけど,大学は選べなかったりするという現状もあります。あそこはすごく田舎だしなとか,すごく遠いしなとか,大学での学びで,私たちが問題視しているのは,例えば大学に入ってからどうやって一人暮らしするのか。大学に入ってその先に何が見えるのか。大学4年間で就職活動をどうやってやっていったのか。仮に,車椅子でも,目が見えなくても,耳が聞こえなくても,4年間でどうやって学べるのか,それらがイメージしづらい。特に中高生や,その親御さんには,なぜ大学に入らなきゃいけないのか。どうせ大学に入っても勉強はまともに受けられないでしょうとか思っている方もいらっしゃいます。
 でも,そうではない。私自身もそうです。全盲の方でも,たくさんの方たち,みんな大学に入って修学しています。どうやって4年間という時間の中で学んできたのか,一人暮らしをしたのか,就職までつなげたのか,それらをもっと障害のある方々に知ってもらう必要性がある。大学に入る目的であったり,大学4年間で得られることであったりとか,その先にみえる就労までどうやってたどり着くのか,それらがイメージしづらかったために,大学という進路を選びづらい,選ばない家庭がすごく多い。
 だからこそ,私たちは,今後,是非皆さんと取り組めたらいいなと思っているのですが,障害のある学生さん,たくさん卒業生とかを集めて,私たちはこうやって修学しましたよとか,どういった形で就労活動はやっていきましたとか,そういった形で周りの学生にサポートしてもらいながら4年間通うことができましたとか,いろいろな事例を,もっと中学生,高校生,障害のあるお子さん,また御家庭に知ってもらわなければいけない。そもそも,まだ大学進学という選択肢を持ってない方がすごく多い。
 例えば,私はよく障害のあるお子さん,御家庭の方々に,「垣内さんは,だって障害者の中でエリートじゃないですか」と言われますが,障害者の中でエリートでも何でもないです。ただ,私は大学進学について,いろいろな情報に出会えて,いろんな形でサポートしてくれる人たちに出会ったからこそ,大学にも行けただけです。よって,大学進学についてもっと知ってもらう,そんな取組をしていかなければいけないということはずっと思っています。
 私たちは,昨年,大阪府の教育委員会さんに講演の話を頂いて,障害のある中高生のために,大学進学について考えるイベントというのを行い,総計120人くらいの障害のあるお子さん,親御さんに来ていただきました。そのときは,関西圏の大学さんだけでしたが,大阪大学さんの団体ですとか京都大学さんであったり,障害学生支援室を設けられている大学の方々にもお越しいただいて,うちの大学はこんな取組していますよと,こういった形で,障害のある学生,4年間学んで卒業していっていますというようなことを,中高生の方々に発信していただくというイベントをもたせていただいたんですね。
 なので,DO-ITさんとかの取組がすごくいいなと思いますし,そうした取組を,もっと増やしていけたらいいと考えています。あと,今後,大学や行政が,もっと勉強しながら,情報を届けるということ,大学に進学する意義,大学に進学して何ができるのか,大学を卒業した後のこと,そういう情報をもっと届けていかなければいけないと思います。
 そして,最後に挙げるのが,支援における大学間の格差です。大学間の格差,これを一つ挙げたいと思いますが,私たちは関西圏の大学さんにアンケートをとらせていただきました。これは今年で3年目になります。関西圏の大学110校に,どういった形で障害のある方々の支援を行っていますか,障害のある方々,卒業後どのようにされていますかというような内容のアンケートをとらせていただいていると,やはりまだ取組というのには差があることがわかりました。
  どんどん波及はしていっており,少しずつですが広がってきていますが,まだまだ格差があったりするので,これから障害のある方々の修学支援は,学生数が多いから進めるとか,ネームバリューがあるから進めるとか,そういうものではなく,バリアフリーやユニバーサルデザインや障害のある方々の修学支援,また周りの方のサポート,それらが当然なような仕組みを作っていかなければいけないと思います。その際に,どういった形でその仕組みがもっと作られていくのかと考えると,やはり大学さんには,もっと横並びを気にしてもらわなければいけないなと思っています。
 例えば,日本学生支援機構さんで取り組まれていることは,すごく意義があると思っています。拠点校という形で,バリアフリーに触れ,障害学生支援に触れるという形で動いています。でも,この拠点校,まだまだ少ないと思いますし,認知は広がっていないなということがアンケートの中でもありました。
 なので,もっと今,障害のある学生の支援について,大学の環境整備において,情報発信において,例えば,情報発信してもらいたいようなもっといい事例をまとめて,大学さんに本でも出してもらいたいな,とか思っていたんですけど,障害のある方々の支援について,一杯いいモデルはあるのに,それらを知らない大学がすごく多い。アンケートをしたり,いろんな大学さんと仕事をもたせていただきながら思ったんですね。いいモデルとなるような大学さんのことをもっと知っていただきたいな。実際,まだ知らないところが多いというのが私の感じなので,もっとそういうのを出していきたいと思っています。
 そして,教職員の方々というのも,まだまだ理解が進んでいないと思います。例えば車椅子の学生の場合は,教室であれば一番前の席に座ったりします。実際,私は,1年間と4年間はそうでしたが,車椅子の提示があると一番前の席に座ります。一番前には,ほかの学生のたくさんのレジュメが積まれています。先生は,私が座るということに気づいておらず,私が座ったことも気づいていなかったりする。なので,私はレジュメをどかしたりしなければいけなかった。
 また,最近では,発達障害の方,授業中に叫んでしまっただとか,又は精神障害の学生さんが叫んでしまったということがあって,先生は,何も知らないがために,強烈に怒ったりする。その結果,余計に状況が悪化してしまうというようなことがいろいろな大学さんで起きています。もっと先生たちが,ちょっとだけでも知っていたらいいのに,知らないがために,すれ違いが起こってしまうというような,そんな大学さんも一杯出てきました。だからこそ,大学さんの中にいる教授陣の方々に対して,こんな形で障害のある学生は困っているんですよ,こういった形で取組をされると,負担をかけずに生きていけますよというような情報を,もっと大学に発信していかなければいけないなと思っています。
 時間も押しているので,これにて以上とさせていただきたいと思いますが,今後,私自身は,もっと大学と大学とのつながり,また大学と行政のつながり,そしてまた民間のつながりを大切にして,そして,さらにもう一つ私が付け加えたいのは若者とのつながりです。大学,行政,民間,そして若い人たち,私たちは,今,大学のバリアフリーの調査だったりとか,あるいは地図を作ったりだとか,障害のある学生の支援だったりというのに,大学生のインターンをかき集めて取り組んだりしています。そうすることで,何が良いかといえば,障害のある方々が,どんなことに困っているか,どんなことが必要なのかということを学んだ若い人たちが社会に出ていくと,結果的に,もっといろんな制度,サービス,製品というのが考えられていくんじゃないか。障害のある方々のことを知った若者が社会に出ていくことで,もっと社会がより良くなっていくだろうと思いますね。なので,若い人たちに,もっと取り組んでいただきたい,知っていただきたいなと思っています。
 例えば,私は,いろいろな大学で,非常勤講師みたいな形で,バリアフリーであったり障害のある方々の支援を行い,障害のある方々の旅行に関することであったりとか,そういったことをまた大学の授業でオフィシャルな講演などを持たせていただいているんですけど,障害のある方々の支援というのは大人だけがすることじゃない。若い人たちも実際に考えていることなんですよ。皆で行っていくことができたらいいなというのを思っています。
 そうすれば,大学だけが良くなるだけじゃなく,社会全体が良くなっていく。大学だけが頑張るんじゃない。業者だけが頑張るんじゃない。民間だけが頑張るんじゃない。若者も一緒に巻き込んでやっていく,そんなことができるんじゃないかなというふうに思っています。
 これで,私の話は以上とさせていただきますが,この後,中学校で授業をする機会があるんですけれども,すばらしいなと思いますし,それぞれの活動で,障害のある子の進学,修学,そして就労のサポートをすることで,こうした思いや考えがどんどんつながっていっている。なので,当事者としてはすごくうれしく感じますし,こうした取組がもっと進めば,障害をもつ方々の学び,そして就労,生きるということがより良くなる,そんな社会を作っていければいいなと思って,今回こういった形で,同じような考えをもっていただいている皆さんと,このような時間をもてたことはすごくうれしく思います。
 貴重な機会を頂きましてありがとうございました。御清聴,ありがとうございました。

【竹田座長】  垣内様,どうもありがとうございました。大変貴重なお話を頂きました。それでは,委員の皆様,御質問等がございましたら,よろしくお願いいたします。
 渡辺委員,お願いいたします。

【渡辺委員】  福祉大学の渡辺です。非常に興味深いお話,ありがとうございます。
 1個,質問なんですけど,個人の体験からということで,3つの気付きをお話しされたと思いますが,その3番目に,自分に適した大学を選ぶには,情報が必要不可欠というお話をされたと思います。いわゆるバリアフリーマップだったり,支援センターのある情報とか,出しているところと出していないところがありますが,その中でも,例えば,御自身の体験からこの情報がある,ないというのが,最も障害のある学生が進学する上で役に立つとか,最終的には一回,大学とかオープンキャンパスに行くことは大事だと思うんだけれども,事前情報として,障害のある学生が大学に行ってみようかなと思うことがあれば教えてください。

【垣内氏】  私自身の観点では,まずは環境面だったんですね。車椅子で通えるのかどうか,また,駅からどのように通学すればいいのかどうか,それらがまず私には必要だったんですが,それだけではなくて,私以外の学生さんでいえば,実際に,例えば全盲の学生が過去に入学したことがあるかとか,どういった形で4年間学んでいったのか,そんなことを特に注目している人が多かったりするんです。
 あとは,例えば学部によっても建物が違ったりする,また障害学生の支援を学部によって行っているところももちろんまだ中にはあるので,そうした部分で,例えば私が理工学部にいきたいとすると,理工学部で4年間通い切った人がいるのかどうか。
 例えば立命館であれば,滋賀と京都では,滋賀の方が通いやすいんですね。京都は通いづらい。通学手段もそうですが,キャンパス内でもそうなので,京都のキャンパスで4年間過ごした人はどうやって過ごしたのか,滋賀ではどうだったのかといった形で,個々人のモデルというのがしっかりと明らかになっているといいなというのは思います。でも,まだまだそうした部分で発信できているところというのは少なかったので,だからこそ私どもが行ったのは,大阪大学さんとか京都大学さんとか,過去にどういった形で学ばれていったのか,4年間についての情報を発信していただきたいと思っています。その大学に,4年間,どのように通学して学んでいったのか,そういった報告を知りたいと思っている学生さんがすごく多いと思います。
 あと一つは,さっきも実際挙げていたんですけど,障害学生支援室があるかだとか,どういった形で取り組んでいるかという大学の姿勢,それが見えないと不安があるというところですね。やっぱり何もしていないのかと思うのと,何かしているんだなと思うのでは,雲泥の差がある。例えば,マップがあるだけでも考えているんだなと思ったりする。だからこそ,一度電話して聞いてみようかなと思ったりもする。そうした形で,どういった取組をしようと思っているのか。うちの大学はこういった姿勢で取り組んでいますよ,といった大学さんの姿勢そのものも少し気になるところではあります。

【渡辺委員】  ありがとうございます。今の話,非常によくわかりました。実際に学んだ子のモデルケースがあれば,それがわかるといいなということと,今の印象的だったのは,本人が,4年間通うことができるという見通しを本人が立てられるような情報があるというのが,一番要るんだなということがよくわかりました。ありがとうございます。

【竹田座長】  ほかにいかがでしょうか。
 吉永委員,お願いします。

【吉永委員】  富山大学の吉永でございます。貴重なお話,どうもありがとうございました。
 一つ教えていただきたいのですが,御社がバリアフリーマップを作られる際に,何か気をつけていることとかポイントだとか,こういうことを起案したいと思っているとか,そんなことを何でもいいので教えていただけませんか。

【垣内氏】  私たちのバリアフリーの地図というのは,取り組み方の問題だと思うんですけど,教学的意義は持たせたいというのを一番思っていまして,大学の授業の一環として取り組んだりとか,学生の中でバリアフリー調査隊みたいなものを設けて,実際に通われている障害のある学生や大学生と一緒に調査する。そうした中から,実際に通われている学生の皆さんに,バリアフリーとはこういうことなんだなとか,そうした視点を持ってもらうための取組としてやることが一つです。
 もちろん,私たちは,ユニバーサルデザインのプロフェッショナルとして,みんなが見やすい,できる限りの人がしっかりと判別できる文字,ロゴを使ったりしていますので,中には,大学さんのロゴも作っちゃってよみたいな形で投げられるケースもあるので,ほかも作ったりするんですけど,業者がぱっと作ってぱっと納品してという形では面白くない。是非学生の方々に学んでいただきたいと思っているので,学生の方への教学的意義をも持たせて取り組むのが一つ。
 そして,やはりバリアフリーの情報というのは,できれば当事者の方々の視点をもっと広げてあげたいと思っています。例えば,京都大学さんはすごくいい事例だと思うんですけど,砂利道,坂道,傾斜がきつい道だとか,障害のある方々が移動しやすいように,校舎同士の目線というのをすごく盛り込んで作られています。大学によっては,例えば多目的トイレだけ,ぽんと載せているだけだとか,当事者の求めている情報がほとんど載っていなかったりする地図とかも多かったりするんですね。だから,調査の段階で,当事者に訴えたとか,特にマップをしっかり検証することも,すごく大切にしていきたいところであります。バリアフリーのマップを作りましたといっても,全く使えない物というのも実際はあるので,しっかり当事者の目を通すようなことも大切にしています。

【吉永委員】  どうもありがとうございます。

【竹田座長】  殿岡委員。

【殿岡委員】全国障害学生支援センターの殿岡です。垣内さん,ありがとうございました。はっきりしたのは,御社ミライロの姿が本当に生き生きと浮かび上がってくるようないい講演だったと思います。御指摘のとおり,大学進学を諦めていた。この内的要因にも書かれていたことは,成長していくほど障害者が実感していく部分だと思うんですけど,先ほど進路相談支援室,進路相談イベントの紹介もありましが,やはり進学しようと思う最初の一歩に対してどうアプローチしていくか,どう寄り添っていくかということが,進学へのきっかけになるというふうにお考えでしょうか。

【垣内氏】  まず,一つは,障害のある方々の内的要因という部分でお話しましたが,結局,親御さんが,大学進学に関して諦めているケースがすごく多いんですね。私がいろいろな障害のあるお子さんと触れ合っていく中で,本人が行きたいと言っているのに,どうせうちの子はとか,一人暮らしは怖くてさせられないとか,通学が怖いとか,親御さんが諦めてしまうという結果,諦めているケースがすごく多かったんですね。
 なので,まずは,私たちが大切にしていることは,親御さんに,大学に進学してこういった形で学べますよだとか,こういった形で修学している人たちも一杯いますよという情報を提供して,親御さんに見通しを持たせてあげなければいけないと考えています。幸い,私は車椅子の方とのつながりがあったので,こういった形で一人暮らしできるんだなとか,こういった形で就職もできるんだなということについて,私にも両親にも見通しがありました。だからこそ大学進学というのが選択肢の中に入っていましたが,それらの見通しがない場合に,大学にやれないという方が多いので,まず親御さんにそういった見通しを持たせてあげることが重要かと思います。
 そして,本人には,大学に進学して学ぶ姿についてかっこいいなだとか,楽しそうだなとか,そうした部分をもっと見せていかなければいけないと思います。働くのもかっこいいなとか,私たちがいろんな障害のあるお子さんと触れ合っていく中で,どうしても将来を不安視しているお子さんがすごく多いことを感じます。働けるのかとか,大学に4年間行って周りの友達としゃべれるかなとか,そんなところから,まず彼らの不安がスタートしているんですね。
 でも,4年間行った中で,こういった形で友人関係は築けますよ,こういった形で学べます,こういった形で将来働くこともできると,そうした姿を見せることで,本人に大学に行きたいだとか,学びたいとかということで,まず楽しそうだな,かっこいいな,やってみたいなと思わせなければいけない。でも,それらを知る術がない。そうしたところが,問題だと思うので,まず,やはり一つは知ってもらうことを大切にしたいなと思っています。

【殿岡委員】  ありがとうございます。

【竹田座長】  それでは,お一方だけ,巖淵委員,お願いします。

【巖淵委員】  DO-IT Japanの巖淵です。貴重な講演,どうもありがとうございます。
 途中で,大学の横並びというお話があったかと思いますが,ほかの大学を巻き込んでいく,その辺りの仕組みを是非聞きたいと思います。例えば,相談イベントを開催されていて,2010,2011年と続けて,また続けていかれるのかなということと,その際に,幾つかの例を挙げていらっしゃいましたけれども,我々もこういう取組というのは格差を痛感しておりまして,そこに私たちの大学も入らなきゃとか,ここに,このイベントフェスタにと参加することにこういう魅力あるとか,そういう辺りの仕掛けについて,更に続けていくだけじゃなくて拡大していく,その辺りで工夫されたことなどがあれば,是非教えていただきたいと思います。

【垣内氏】  私たちが最初に取り組んだ年というのは,実際,2,3校の大学さんにしか参加していただけなかったんですね。実際,いろいろな大学さんの思いがそれぞれにあるので,まず取り組んでいただきやすいところからでいいというところから,御賛同いただけたら来てくださいみたいな形で進むというのが良いと思います。大学さん同士の間にもそれぞれつながりがあるので,支援されている方々も,ミライロのイベントに行ってきたけどいろんな障害のある学生さんが来ていてすごくいい時間だったよだとか,そんな情報が広がって,2年目はたくさんの大学さんに来ていただいて,今こういった形で少しずつ広がってはいます。それでも,参加いただくことができない要因の一つには,それらに対して敷居が高いということがあります。バリアフリーをしていないと,そういうイベントに出られないだとか,障害のある学生の支援をしていないと,こうしたイベントに来られないとなってしまう。
 それから,参加したがために,障害のある学生はウエルカムだよみたいなふうに,見られたら困るみたいなところになってしまう。なので,そうじゃなくて,私は,例えばリクルートさんとかもそうですけど,いろんな形で大学進学の説明会とかはされているじゃないですか。その中で,ちょっとでもいいです,1ブースでもいい,障害のある学生さんのことを発信する場があってもいいんじゃないかなとか,各大学さんもちょっとだけそういったことも発信していただくような,そんなことで十分だと思うんです。
 大学さんはどうしても100点満点を目指そうとするので,説明会には参加できないとか,情報発信はできないというふうになってしまいがちです。でも私たちは,20点,30点でもいいと思っているんです。まず,その姿勢,考え方だけでも発信してほしいなと思っているので,もっとフランクな感じで情報発信ができてもいいのかなと思っています。現在,今年のイベントも企画しているんですけど,今年は全部学生に任せています。学生が運営主体となって,それぞれの学生が,こういったイベントやるから来てくださいという形で,それぞれの大学の職員の方にお願いするという形をとっています。学生と大学の職員さん,みんなでそういったことを考えるというような,もう少し敷居の低いイベントにすることで,その中に,興味や関心をもっていない大学さんも来ていただくとか,また中高生にも来ていただくとかいうことを考えています。私たちは,取り組むという風土を作っていくことが大切なのかなと思っていますので,100点満点じゃなくて,20点,30点からやっていけることなんですよと,来てくださいと,そんなところから私どものイベントはスタートしています。
 あと,私たち,ずっと思っていたんですけど,是非DO-ITさんとコラボレートしていきたいということはずっと思っていましたし,私自身も,DO-ITさんという団体を見させていただいたときに,自分が大学進学をするときに参加したかったなとわくわくしたんですよね。
 私どもが,さっきお話ししていたんですけど,障害のある方々,まだまだ将来のことを不安視している人も,こういった形で学べる機会や,また考えられる機会があるということは,それが当然というような風土,文化というのは,少しずつだとは思うんですけど,広がっていってくれないかなというふうに思っています。明確な答えになっているか,わかりませんが。

【竹田座長】  ありがとうございました。まだ御質問はあるかと思いますが,最後にまた全体を通しての質問の時間はとらせていただきますので,そのときによろしくお願いいたします。
 それでは,次に移らせていただきます。
 次は,広島女学院大学障がい学生高等教育支援研究所長の山下様よりお話を頂きます。どうぞよろしくお願いいたします。

【山下氏】  広島女学院大学から参りました山下と申します。本日はよろしくお願いいたします。今回,こういう場で発表させていただける機会を与えていただいたということに対して,心から感謝を申し上げます。
 先生方の参考になるかどうか,非常に不安も高く,また今,垣内先生のすばらしい御発表の後で,更なる不安を増大したというような状態ですが,先進的な取組はしていない大学が,今始めようとしていることは何なのかと,そういう実態を知っていただくという,そういうチャンスだというふうにお考えいただければと思います。
 まず,女学院大学の概要ということで,ここに書いておりますが,学生数は1,813名,これは今年の5月現在です。2学部5学科ございますが,今年度,全学改組いたしまして,2学部4学科になる予定です。教員数は特別任用と言われる退任後の先生の雇用等を含めて69名,職員数は嘱託も含めますと66名です。正式雇用の職員というのは,この半数の33名というふうになっております。
 建学の精神は,キリスト教主義による人間教育ということで,プロテスタントのキリスト教の学校でございます。教育理念のところは,本学は,女子大学ということで,キリスト教主義に基づいて,女子の霊性,知性,徳性の円満な発達を図るというようなところで,学則上は出しております。
 立地ですけれども,JR広島駅から普通のバスで約15分,シャトルバスを出しておりまして,それだと約10分のところにあります。
 私どもの大学では,学長も言うのですけれども,地方にある女子大で,しかもキリスト教主義大学という三重苦を背負っているというふうにいつも話しているのですが,私から言わせると,その三重苦よりは,むしろこのキャンパスが非常に斜面にへばりついて建っておりまして,先ほどバリアフリーは第一の条件とか言われて逃げ帰りたい気持ちです。実際に,非常に斜面が多いところに,また無計画に建物を乱立といいますか建てておりまして,非常にバリアフルでございます。
 坂道はあり,階段はあり,おまけに校内を川が流れておりまして,この川は国土交通省の管轄なので,大学は勝手にいじれず,勝手に柵をしてはいけないというふうなことをいわれております。一度,教諭の車が川に落ちましたが,やはり柵はさせてもらえないというような,非常に立地ということでいえばバリアフルな大学でございます。
 それにもかかわらず,平成23年度の文科省の私立大学戦略的研究基盤形成支援事業という長い名称のところに,障害者のための高等教育支援開発研究というのを出したいと,これは構想調書からとっているんですけれども,これは,学長が,本学はキリスト教主義の大学であるから積極的に障害者を受け入れたいと,そういう熱い思いを語りまして,申請することになりました。
 これまでも障害のある学生を私どもはずっと受け入れてきた経緯はあるのですが,先ほどの立地条件もありまして,積極的にというようなことまでは言えないのではないかというようなことがありました。しかし,例えば,広島は広島大学が拠点校になっておりまして,障害学生の支援において先進的な大学があるんですね。ところが,国立大学ですので,いわゆる偏差値が非常に高くて,ハードルが高いのですが,私どもの思いとしましては,成績は余り良くないけれども,大学で勉強してみたい,大学に行ってみたいと,そういう学生さんたちは受け入れたいという思いです。大学で学ぶ機会を私たちが提供して,学ぶことの喜びというのを感じてもらうことによって,人生を豊かに送ってもらうことができるのではないかということが根底にあります。
 このプロジェクト名ですが,これは,特に障害者を積極的に受け入れたいという思いから,こういう名称になっておりまして,大学の特色を生かした研究,何の特色かというとキリスト教主義というところです。3年間ということで申請いたしました。
 研究テーマ調書というのも出しておりますけれども,私たちは,障害種別,何か一つの障害に特化してやるというふうなことは最初から考えておりませんで,どういうところに困難を感じているのかというようなところで,学生さんの困難に向かい合った支援したいと,そういう思いでこの研究テーマ調書も書いてあります。大学教育のユニバーサルデザインを構築することを目的として,とありますが,先ほどのお話を聞いた限りでは恥ずかしくてこの辺は飛ばしますが,そんなことを考えておりました。
 構想調書の方からですが,研究プロジェクトの意義・目的として,まず一点目は,愛と平等と平和ということで,キリスト教主義にのっとり,全ての学生に教育支援を行うということ。二点目に,教育システムを構築しようということで,多地点接続テレビ会議システムとか文字判読音声化システムとか音声認識システムを導入したいということと,三点目に,教育ネットワークの構築ということで,広島の近くの近隣大学との連携によって,教養科目や専門科目,お互いに得意な分野を担当し合ってやることはできないかと,そういうことを考えました。
 研究内容ですが,私たちは,障害をもつ学生は,特別なニーズをもつ学生というふうに捉えており,その学生の特性理解が一つ目で,それから,そういう特別なニーズに対応する学内環境について,立地は非常に厳しいのですが,私どものところで引き受けるからにはどういうふうに環境を整備すればよいのか,そこを考えたいというのが二点目で,三点目は,教材や教授法,カリキュラムの開発です。これは,何も障害のある学生のためだけというわけではなくて,全ての学生にとって有効であろうと思われるので,全ての学生を対象にと考えています。さらに,入学から卒業までの支援と社会への参画に関する研究と,この四つを研究しようと考えています。
 私は,今年度から,研究所所長という肩書をもらっていますが,もともとは学部に所属する教員です。個人的には,長い間,学内で学生相談活動をしており,私自身は,学内での学生によるピア・サポート活動を10年ほどやっております。それから,特に障害といっても,見えない障害の学生さんの方で,精神障害の学生さんとか発達障害の学生さんとか,そういう学生さんの個別的な支援も行ってきました。そういう私が4月から所長という名前にはなっております。
 平成23年度の申請なんですけど,22年度までに私どもがどのように学生に対して支援してきたかということですが,基本的に本学では,障害のある学生さんを断った歴史は一回もございません。キリスト教大学ということで,相談に来られる方も,多分女学院なら受け入れるのではないかというようなことを想定して相談に来られます。
 相談者は,保護者が圧倒的に多くて,あとは高校の先生です。大学に電話か何かで問合せされるんですけれども,この相談窓口が一定ではなく,小さな大学ですので,電話をとった者がまず対応するようになっており,入試課がとったら入試課がずっと支援していくというようになります。ほかの課は,必要に応じてみんなで支援していくということで,聞こえは良いのですが,要するに責任の所在はありません。
 その後,面談と書いてありますけど,面談なしに入試まで来られる方もいらっしゃるし,面談ということで保護者と本人がいらっしゃる場合もあります。特に面談ということになる場合には,身体に障害のある学生さんの場合だと,どの程度支援を受けられるかとか,私どもはどういうふうに支援させてもらったらいいのだろうか,というような御相談があるので,それで面談になります。
 今,私学はどこもそうかもしれませんが,私どもの大学では,志願者集めが非常に厳しい状況にありまして,入試自体はさほど問題にはなりません。多様な形態の入試を用意しておりますので,勉強が苦手なら面接でとか,いろいろな入試方法がありますので,入試はバリアにはなっていないということです。
 今までにお受けした学生さんは,聴覚障害のある学生さん,車椅子使用の学生さん,精神障害のある学生さんなどが中心で,あと視覚障害は,弱視の学生さんが何人か御卒業されています。聴覚障害のある学生さんの支援例としては,ノートテイカー,これは学生の有償ボランティアにしまして,大学が費用をもっております。
 あと,講義内容のプリント配付,特にテキストを使わないと言われるような先生の授業の場合は,講義内容をプリントし,それはその授業を受けている全学生に配付してもらいました。このプリント配付は,意外に教員自身にも学生さんにも非常に好評でして,教員の方は,自分が何を教えたとか,よくわかっていいというふうにおっしゃって,学生の方はふだんから,先生の言っていることをただひたすらノートに書き,理解する時間がなかったけれども,このおかげで助かったというようなところはあります。
 あと,手話通訳をつけるときは,いろいろな学内行事では全てつけますし,学外の先生のお話を聞くというようなときも,必要に応じて手話通訳はつけます。ただ,聴覚障害の学生さんがいなくなったらこういうのも消えていきます。
 身体的機能に障害のある学生さんの支援例ですけれども,いろいろあります。車椅子を利用されている場合もあるし,歩行器を使用されている場合もあるし,あと見かけではよくわからないけれども歩くのがとてもしんどいとかいろいろあるのですが,講義棟などいろいろ建物が乱立しておりますので,それぞれに応じて各建物に休憩室を設置したり,学内移動用に電動自転車みたいなものを用意させてもらったり,送迎用の駐車場はふだんはとめてはいけないところに車椅子専用というマークをつけて設置したりするなどしております。
 精神障害のある学生さんへの支援としては,主にカウンセリングルームや健康管理センターによる支援と,あと,大学院生による修学支援,これは,発達障害の疑いのある学生さんに対するレポート作成などのお手伝いをしてもらったり,ピア・サポーターによるサポート活動もしておりますので,ピア・サポーターによる生活支援,あと学外医療機関との連携などをしておりました。
 就労支援として学外機関と連携し,就労は割とスムーズにいっております。女子ということですので,ずっと勤め続けるということではないのでうまくいくのかもしれませんが。あと本学の職員として,正職員ではありませんが雇用してきました。
 入学前に相談のなかった事例に関しては,チューターやゼミ担当教員らが,本人や保護者などから入学後に御相談があって,いろいろな課が,その場その場で支援を開始していき何らかの支援をやろうとするのですが,全体的には見えてこないというような状況でありましたが,小さい大学なので何となくこれでやってきたという感じはあります。
 また本学の特徴としては,平成22年度までの相談内容などをまとめますと,今,問題になっているのは,コミュニケーション能力に非常に困難がある学生が多いということがあります。例えば,ゼミでのプレゼンができない,卒業論文とか単位修得に課題がある,低学力など,そういうことが相談内容としては挙がってきています。
 特に,ここ数年は,発達障害,疑いも含むんですけれども,発達障害の学生さんへの修学支援が増加していて個別対応してきたわけですが,教員により温度差がある。また,学力がある程度ある場合には余り問題はありませんが,学力に問題がある場合は卒業論文で苦労することになります。
 全般的に,障害の有無にかかわらず,学生の学力というか授業への積極的参加の減少,授業中の私語・携帯使用は,資料には“一部の学生だけ”とは書きましたが,実際には多いため問題になっています。出席さえすれば単位が出るとか,講義形式のような一方向の授業の在り方について検討が必要であるということが全般的な教員の感想です。
 これまでいろいろやってきて,例えば,聴覚障害のある学生さんのときに,ノートテイクをやっていた学生から,自分は一生懸命ノートをとっているのに,隣で聴覚障害のある学生が寝ているとむなしくなってしまうというような相談がありました。やはり,聞こえない中での一時間半の講義はとても耐えられないのではないかということで,結局,私どもの方では居眠りせずにというような注意は行わず,授業担当者に,もっと眠くならないような授業をしてくれとお願いするようにいたしました。この辺りが,やはりキリスト教主義ですのでそういう対応を行うのです。私たち教員も変わらなくてはいけない。それは,一部の学生のためではなくて,全ての学生のためなんだと,そういう発想です。そういうわけで,平成23年度の申請をしたわけです。
 ところが,平成22年度の末,3月に東日本大震災がありまして,私どもは,こういう国難のときに,私どものような小さい取組は恐らく無理だろうと,それよりは,まず東日本に予算が付くだろうと考えておりましたので,ほとんど諦めかけてやれることからやっていこうかというふうに模索し始めました。
 ところが,23年度に入って6月でしたか,文科省の方から採択の通知を頂きました。私たちはとても喜んで,本当に今こういう時期に私たちにこういう機会を与えていただいたということに感謝ということで,学長がいろんなところで言い回り新聞が大きく取り上げてくれました。
 この広報というものはすごく大事だなと思いました。といいますのも,それまで一回も相談の事例のなかった特別支援学校から,すぐに相談のお電話がかかってきたのです。御相談内容は,全盲の高校生の生徒さんがいらっしゃるのですが大学進学を希望されていて,どうですかという内容で,是非私たちに勉強させてくださいということで大学とつながりました。
 大学の方も,変わらなくてはならないということで,対応窓口を一本化しようということで,学長,副学長が,これは名目上だけではなくて,本当に学長・副学長が第一の窓口になりました。相談にこられた電話は,全てこの二人のどちらかが対応しております。
 あと,学内の事務組織を改編しました。この辺は私学なのでできることなのですが,いきなり学生課,教学課はなしにして,全部含めてCLC共通教育センターにするというふうに言われました。それでいろいろなごたごたはあったのですが,一本化しようということで,事務組織を改編し,そのために職員も在学生も迷いまして,平成23年度は非常に学内がごたごたした,そういう年です。
 また障害学生高等教育支援研究所という組織を作ろうということで,これはどこにも所属しておらず,学長,副学長がすぐ私の上司になりますので,ある意味やりたい放題ということもあります。それをやろうということで,面談とか相談に来られた方とのいろいろなやりとりだとか,あと学校訪問ということで,私どもが依頼のあった特別支援学校や高校にお伺いして,いろいろな話を伺いました。オープンキャンパスにも何人かの志望者がいらっしゃいましたので,その保護者と本人には,まずは来ていただいて,どういうところを私たちは変えればいいのかというようなことも教えていただきたい。だから,私たちは,バリアフリーで,全て準備して待っていますというようなことではなくて,一緒にユニバーサルデザインを作り上げてくれますかというお願いをしたわけです。入試についてですが,もちろん全盲の学生さんに対しては点訳いたしました。
 23年度は,そうやって遅れて始まっていますので,なかなかすぐに整備はできませんでしたが,この研究所が入る総合学生支援センターの整備をしようということで,これも,全部,新しく作った名前ですが,建物は昔からある建物を改装して使うため,当時そこに入っていた事務組織は全て放り出されました。
 次に,多地点接続テレビ会議システムを構築するということで,これはもう既に終わっております。教育ネットワークの構築というところは,エリザベト音楽大学と協力し合おうという包括協定を結びました。学内環境の調査については,卒業前の4年生全員に調査を実施しました。その結果,いろいろありますが,やはり移動に関連した項目での評価が非常に低く,先ほど申し上げた立地条件を見事に反映しており,この坂道を何とかしないといけないということがわかりました。
 ここからは,今年度の大学案内とパンフレットからとっております。私学ですので,このように,これはやっているんだということを大々的に宣伝するわけです。こうやって宣伝することで,障害者のために何かやっているんだなというようなことを思ってもらえればいいのかなと思っているんですが。これはモデルを使っておりますが,1階の入ったところの様子で,壁に赤土を使って人に優しい健康に配慮した内装にしております。
 これもパンフレットに載せているものです。私たちはどういう立ち位置で学生を支援していくかというところで載せております。「「環境が人を育てる」“ユニバーサルデザイン”の教育実現へ」,これも大学案内のパンフレットの中にあるもので,大体ここに出ているデザインどおりに改装は終わっております。写真をもう少しうまく撮れればよかったんですが,これはパンフレットに載せているもので,まだ何も机とかは入れていないような状況ですが,写真では分かりづらいのですが,蛍光灯は非常にストレスフルだそうですので,照明は全て間接照明にするとか,壁が息をしているというようなそういう土を塗ったりですとか,そういうことをやっております。
 そうやって24年度に入りました。そうすると,CLC共通教育センターという全学生を包括的に支援するワンストップ型組織を作りまして,事務組織を大幅に改編しております。支援学生は,ともかくCLCに行けば何とでもなるというふうにはなっています。ただ,チューターとかゼミ担当教員とか健康管理センターとかカウンセリングルームが絡むこともありますが,全てを掌握しているのはこのCLC共通教育センターです。
 そこに小さく障害学生高等教育支援研究所と書きましたけれども,これはCLCと同列ではなく全くの別組織ですが,一応,学長,副学長のすぐ下の組織となっており,職員1名を配置してもらいました。ただ,職員については,まだ現在はアルバイトというような形ですので,来年度は正式職員を狙っております。
 先ほど全盲の学生が入ってきたと言いましたが,視覚障害のある学生さんに対する学習支援ということで,これはほかの一般の学生と変わりはないんですけど,この共通教育センターというところが全てを担っておりますので,ここが知らない情報はないということになります。
 CLC共通教育センターの方から,例えば,先生の授業にはこういう支援を必要としている学生がいますよというような授業配慮の通知が行きます。授業担当教員は,そこで使用する教科書,教材等々,点訳の必要があれば共通教育センターの方に持ってきてもらいます。そうすると,私どもの方で点訳して渡して授業に行ってもらう。例えば,こういうところは,もっとこうしてほしいとかいうことを学生からヒアリングするようになっております。
 あと,CLC共通教育センターから,「特別なニーズをもつ学生に対する授業配慮について-2012年度版」を作成し,全教員に配付しました。だから,本学はこういう取組をするということは,職員もそうですけど全教職員で共有するという作業を行っています。
 その結果,いろいろなことが分かりました。私たちは語学教育を特に心配していたのですが,語学教育には全く問題はなく,むしろコンピューターに関することが問題になったんですね。情報関連科目は必修なのですが,これがほかの学生と一緒ではなかなか難しいということが分かってきまして,やはり,情報教育は非常に大事なので,卒業された特別支援学校の先生と相談の上,個別指導を行うことにいたしました。広島市福祉協会から専門の講師の方を派遣していただいております。もちろん有償ですので全部大学が負担しております。試験については,時間延長とか,別室受験とか,本人が希望されるところに合わせております。
 ほかにも,まだいろいろな学生がおりますので,私どもは,半期の間,毎週1回昼休みを利用して支援ミーティングを開きました。出席者はそこに書いてあるところですが,学長はいろいろと飛び回っておりますので,副学長が必ず出席し,あとCLCと私どもと,あと事務局と,ボランティアセンターがありますのでそこが出席し,あと当該学生のチューター,ゼミ担当教員,授業科目担当教員が出てきます。なかなか時間を共有するのは難しいのですが,水曜日は,私どもの大学の教授会の曜日で,全教員がそろう日なので,その昼休みは絶対出てきているというところで,逃れられないようになっています。
 次に,ピア・サポート活動ですが,私たちはキャンパス・サポーターというふうに呼んでいる学生さんの活動なんですけれど,その一環として学内動線の見守り調査を実施しました。これは,複数名の障害学生,一人は車椅子,一人は全盲ですが,その学生さんが,授業と授業の間にどのように移動しているのかというようなことを見守りながら調査しました。5月に1週間から2週間,7月に1週間から2週間,見守って,例えば周りの学生がサポートしていれば,見守っているだけですけれども,サポートがなければ,サポーターが支援するというようなやり方をしています。
 あと,ボランティア活動への積極的参加を支援とさせていただきましたが,これは,どういうことかというと,障害のある学生にボランティア活動に出てもらうということをしました。やはり,人は誰かのために役に立つという体験が非常に重要だと考えておりますので,障害のある学生にも何回かボランティアに出てもらいます。そのために必要となる支援ですが,例えば車椅子でそこまで行けるかどうかということですが,本校はシャトルバスを持っておりますので,車椅子の学生さんも行きましたし,視覚障害の学生さんも行きました。
 あとは,学内におけるシャトルバスの発着場所の変更ということで,これも,先ほどお話しした川の川沿いに学生が並ぶような形でバスを待つようになっており,これは危ないということで,川はいじれないのでシャトルバスを移動させて,安全なところで乗り降りができるようにというのに変更しております。今,視覚障害のある学生さんはシャトルバスを利用しておられますし,車椅子の学生さん,今はまだ保護者の方の送迎ですけれども,以前は車椅子で利用されていた,そういう実績もありますので問題はないと思います。
 教育システムの構築ということですけれど,授業に出られないけれども授業を受けたいというような学生が,別室で授業をリアルタイムに受けることはできないだろうかということから,いわゆるテレビ会議システムを利用して遠隔授業をやろうということでシステムを導入しました。特に,授業で撮影されたものを編集,保存して,授業のアーカイブみたいなものを作って,全学生が,例えばあのときの授業をもう一回聴きたいと思ったら,それを聴くことできるようなシステムを今作ろうとしています。この予備実験はしましたが,幾つかいろいろ問題が出てきまして,例えば,ホワイトボードへの板書が,カメラの角度によってはよく字が判読できないとか,ここに想定される対象学生を書いておりますけれども,例えば,集団が苦手な学生が別室で受けるようにしているのに,システム上仕方ないのだと思うのですが,教室の方で見ている人に,その学生のコマ撮りが映ってしまうんですね。隠す手だてはあるのですがそれがどうなのかとかいろいろあります。これからやっていきます。
 もう一つ,今,準備中でやっているのが,音声認識装置システムの導入です。これは,今,教員個別の音声プロファイルの作成をしております。授業をリアルタイムに音声認識して,字幕ディスプレイで表示できるようにすると,聴覚に障害のある学生さんでも授業をもう少し楽しめるのではないかということで,個人の教員,各個人の音声プロファイルを作るということを今やっております。この文字をデータ化して,授業終了後に,テキストデータを編集,保存しまして,点訳などもすれば,視覚障害の学生さんにも利用できるのではないかということを考えております。想定される対象学生としては,聴覚障害の学生さん,あと発達障害の学生さんです。
 問題点と今後の課題ですけれども,まず,特に今,私たちが抱えている問題点は,教育システムの運用です。この教育システムを導入するときに,予算の関係もいろいろありまして,学内の全ての教室で利用できるわけではなく,教室が限定されてしまい,システムの利用できる授業とそうでない授業が出てくるという問題があります。実際の授業ではまだやっておらず予備実験の段階ですが,授業によって使えたり使えなかったりするという問題と,あと,事前準備はかなり必要で,授業実施者の負担はかなり増えるであろうという問題があります。特に教材は工夫してもらわないといけないし,板書の仕方など,かなり注意深くやってもらわないと余り効果がないというようなことも分かってきています。これも課題です。あと,リアルタイムでの質疑応答ができるということで,積極的な学習姿勢を育むことをねらっているわけですが,利用する学生のニーズと合わない可能性もあるだろうと,そういうことを考えています。
 次は,支援を必要とする学生に関する問題点です。今回,私たちは障害という名称を前面に出しました。今までは余り障害という言葉を使っていなかったのですが,そうすると,発達障害の疑いがあり学習支援を受けていた学生で,自分は障害ではないというように,障害という言葉に対して非常にネガティブなイメージを持たれて支援を受けづらいと,そういう思いをする学生が出てきました。あと,ほかの人に自分の障害を知られたくない場合もあり,軽度の難聴の方だとか,あと弱視の学生さんとかは,支援を受けることに非常に消極的なんですね。だから,一人一人の思いは大事にしたいので,ほかの学生には知らせないけれども担当の先生にお知らせしてもいいかどうかということから確認して,担当の先生には,例えばプリントの字は大きくとか,あと座席指定であれば見えづらい人はだれでも前に出てきなさいというような配慮をしていただくというようにしております。やはり,学生が支援を必要としていることを言いやすい環境作りが,今後私たちに課せられた課題ではないかというふうに考えます。
 お聞きづらい点があったかもしれませんけれども,今,私たちはこういうふうにやってきていて,先ほどのお話で情報発信が大事とか言われて,全然,情報発信していないんじゃないかと思うので情報発信はしていこうと思いますので,いろいろな先進的な取組をここで勉強させていただいて,是非大学に持ち帰り,今後のユニバーサルデザインの具現化に向けて頑張りたいと思います。先生方,どうぞ御指導をよろしくお願いします。
 どうもありがとうございました。

【竹田座長】  山下様,どうもありがとうございました。
 非常に御謙遜されていますが,多くのヒントを得たようなお話だったのではないかなというふうに思いますが,委員の皆様,いかがでしょうか。御質問等がございましたらよろしくお願いします。
 高橋委員の方から,先によろしくお願いします。

【高橋委員】  信州大学の高橋と申します。詳しい実践の報告,どうもありがとうございました。
 質問ですが,支援の対象となる学生の範囲についてと,そして,支援の内容の範囲と言いますかどこまでやるかという点について,その2点に関して少しお教えいただければと思います。特に,発達障害,精神障害の学生を念頭に置いた場合の質問なのですが,お話の中で発達障害の疑いの学生に対するレポート作成の支援といったようなお話もありましたので,診断の有無等が条件になっていないのかなとは思いますが,支援対象ということで言えば,要するに本人のニーズがあれば,皆支援の対象なのかなということで,確認的な質問です。では,1点目お願いします。

【山下氏】  対象は本人のニーズなので,支援の根拠は必要がありません。今,グレーゾーンといわれる学生が多くて,これまで何の相談機関にもかかっていない学生が多いので,今更行って何かメリットがあれば行ってもらいますけれども,メリットがなければこのままでという感じです。

【高橋委員】  それでは,その障害の有無にかかわらず,例えば学力の問題ということもお話があったんですけれども,何しろ単位が取れなくて困っているということであれば,できる限りのことはしますというスタンスでよろしいんでしょうか。

【山下氏】  はい,そうです。

【高橋委員】  あと,それにも関連しますけれども,どの程度まで支援するか,例えば卒論が書けませんという学生に対して,どこまでやって卒業させるのかというようなことについて,教員の間でコンセンサスみたいなものがあるのでしょうか。温度差というキーワードもありましたけれども,そういった辺りに関して,どの程度学内でコンセンサスを得て対応しているのかということについてお話しいただければと思います。

【山下氏】  そこは,一番話しづらいところですよね。本学は,私学でございますので,できるだけ卒業していただくということが,まず第一にあります。あと,学力の問題からいえば,非常に低学力で入ってくる学生がかなりおります。ただ,もちろん,卒論を丸々書くというようなことはしませんし,基準を落とすということもしません。例えば,文献の探し方等を最初は一緒にやってあげて,次からは一人でやってみて,時々その流れをみてあげるというような,そういう丁寧な対応しているということになります。
 教員による温度差については,やはり中には非常に厳しい先生がいらっしゃって,自分のところでは,これができなければ卒業させないとかおっしゃる先生はもちろんいらっしゃるのですが,お話をさせていただくと努力させればできるのではないかということで厳しい態度で出られる先生が多いので,努力の限界があるということでその辺りは納得は頂いております。一応のコンセンサスはあると思うのですが,今回,このプロジェクトを入れることで,教職員がかなり勉強しましていろいろなことが分かってきていまして,授業が分からないということは学生が悪いとするのではなくて,まず自分の教え方を振り返ろうという空気が出てきたということは言えると思います。

【高橋委員】  ありがとうございました。

【竹田座長】  それでは,殿岡委員,お願いします。

【殿岡委員】  殿岡です。御講演,ありがとうございました。
 情報発信が足りないというような話もありましたが,少なくとも私は全くそう思っていません。広島女学院さんは,私どもの大学における障害学生の受入れ状況に関する調査に,最初の94年から全て回答し,資料を公開している数少ない大学の一つです。ですから,広島女学院の回答を全部追っていきますと,これまでの受入れ状況の変化がわかるというぐらいきれいに回答を頂いている。ですから,情報提供は自信をもっていただきたいと思っていますし,女学院さんは,特に人的支援において,誰が実施者で,誰がコーディネートしていくか,これは倫理支援の基本ですが,ここがやっぱりしっかりと積み上がっている。ノートテイカーを誰がやって,誰がコーディネートするかという中に,本人が含まれていまして,それが成長していったその結果が,多分今回の採択につながったんだと僕は思うんです。その実績は評価されるべきだと思うし,得てして大きな大学が評価されがちですが,こういう女学院さんみたいな学校の評価がもっと上がっていいんじゃないかなと思いました。また,先ほどの垣内さんの話にもあった関西近畿地域というのは,日本でも屈指の障害学生支援の盛んな地域ですが,それと並んで,広島地域も国立は広島大学,私立では女学院さん,修道大学さん,広島国際さんなど,それぞれのペースで着実に歩んでいる学校が並ぶ地域で,そういう地域だと障害学生支援も発展するんだなと改めて感じました。まとまった感想にならないんですけどすばらしい講演でした。ありがとうございます。

【竹田座長】  そのほか,いかがでしょうか。
 広瀬委員,お願いします。

【広瀬委員】  今日,お二人の垣内先生,山下先生のお話,当事者の声,現場のリアルな声は,大変勉強になりました。ありがとうございました
 それで,つくづく,我々全体の問題にもこれから関わってくることを提示されたなというふうに思ったのは,聴覚障害者,視覚障害者,また車椅子の学生について,もちろん垣内先生のお話にもあるように,まだまだではありますがある程度サポートのある意味の道筋が見えているものはいいんですけれども,これからは高橋先生の御意見にもあったように,発達障害の学生さんがたくさん増えてくる。
 そのときに,それについては,まだ我々にとっては未知の領域のサポート体制というのが求められてくるわけですけれども,その中で,今日垣内先生がおっしゃったように,障害者という言葉を言われたときに,御本人たちがとてもそこで限定された状況になったと,それからまた,山下先生がおっしゃったように,障害者ということであると自分でサポートを求めにくいということがありますね。
 私も,実は20年来こういった研究をする中で,障害者支援と書くべきか,あるいは多様な学生への支援と書くべきか,どっちが研究費がとれるかとか,あるいは学内でより大切に扱ってもらえるかということで悩んできました。そのときに,例えばアメリカの大学ですと,ディスアビリティー・サービスはしっかりありますが,その横に,例えばホモセクシャルあるいはシングルマザー,それから妊婦さんあるいは留学生などのサービスを行う部屋が必ずそばにあるんです。そうすると,ディスアビリティー・サービスを核に,そういったいろいろな人たちが来ている。
 だから,もちろん我々が,この検討会で名前がついているのは障害者支援ということで,それは障害者といった方が絶対強いと,私も実はこの20年来思ってきました。多様なというといいんだけれど,結局一体何なんだみたいなことになるので,お金をとるときは障害者の方がいいんだと思っていたんですね。
 でも,現場の大学では,多分,障害者という言葉よりも,ひょっとするとスチューデント・ウィズ・スペシャル・ニーズとか,多様な学生とか,そういった方が入りやすい。あるいは,広島大学はボランティアサポート何とかという名前をつけたり,その辺の工夫をうまくしていかないと,特にこれから発達障害,精神障害が入ってきた場合に,ディスアビリティー,障害ということでいってしまうと,本当にグレーゾーンの人たちは,とてもタッチーな問題になると思うんですね。だから,それは我々がこれから報告書を作る場合も,現場とそれからお金をとるという,そういうところとをうまくやっていかなければいけないなという気がいたしました。いかがでしょうか,それについて。

【垣内氏】  ちょうど私も同じようなことを思っているのでお伝えさせていただきたいんですが,私たちは,教育機関以外にも,バリアフリー,ユニバーサルデザインの支援に取り組ませていただいているんですね。それは,レジャー施設,USJさんやディズニーランド,スーパー,結婚式場,ホテル,又は全く異業種,パチンコのマルハンさんなんていうのも,今,バリアフリーの取組はしていただいていますけど,これは,障害者のためにスタートしたかというとそうではなく,できるだけ多くの人たちのためにという切り口からスタートしているんですね。障害者という言葉を使った瞬間に,取り扱いづらい,わからない,どうせやっても来ないなどの理由で,みんなもうブロックに入るんですよ。
 なので,やっぱりお金をとりやすいとかいうふうにいうと,障害者と強くいうことがあるのですが,企業さんとか大学さんが最初の一歩を踏み出すには,障害者というよりは,できる限り多くの人たちのために何ができるか考えていきませんかというエントランスから入っていかないと進まないなというのが,こういったことを活動していく中で思っていることです。

【広瀬委員】  ありがとうございました。山下先生はいかがでしょうか。

【山下氏】  私どもは,今回,初めて障害者というのを前面に出しましたが,メリットは非常にありました。やはり,特別支援学校とつながったということに私たちはとても感謝しています。今までわからなかったことがとても多く,そういうことを勉強させてもらういい機会になったと思います。
 それから,障害ということになると,新聞社がすぐ来てくれるので,そういう意味でもとても良かったです。こういう取組を行っているということを広めていくには,言葉というのはすごく大事なんだろうなと思いました。
 ただ,視覚障害とか聴覚障害の学生さんは,障害という言葉にそれほど敏感ではないのですが,精神障害の学生さんは非常に敏感で,やはり同じ障害であっても,与える印象がかなり違うと思います。
 そういうことを考えると,私どもは特別なニーズというふうにやっておりますけれども,私どもの障害学生高等教育支援研究所という名前は,英訳では,ユニバーサル・デザイン・リサーチセンターというふうに,全く障害という言葉は入れておりません。この言葉はどういうところで使うかというと,本学は,ネイティブの先生方も多いので,外国人の先生方にも理解していただくための文書を配付しており,授業概要も全部英訳しておりまして,そういうところでは,余り,ディスアビリティーとかそういう言葉は使ってはおりません。
 ただ,学生からいうと,「余り障害者と言うのは。」という感じがあるのではないかと思います。特に,精神障害の場合には,例えば統合失調症はどこの大学さんでも多いと思うんですけれども,精神障害者と言われることを嫌います。健康管理センターがついて治療はしておりますけれども,全ての学生が手帳を取っているわけではなく,取っていない学生が多いということはありますので,障害の種別によって違うのかなという気はします。

【広瀬委員】  ありがとうございます。

【竹田座長】  そのほか,いかがでしょうか。
 白澤委員,お願いします。

【白澤委員】  筑波技術大学の白澤です。お話どうもありがとうございました。
 お話をお聞きしていて,お隣に広島大学さんという大きな拠点校があるというのもあるのかもしれないのですが,わからないから勉強させてくださいと言える大学のその姿勢がすばらしいなと思いました。先ほど垣内さんのお話の中で,大学というのは100%を求めたがる,100%じゃないからうちは出せないということで情報公開したがらないし,まだ支援体制ができていないから障害学生を受け入れたくないという大学は非常に多いと思うんです。
 そうじゃなくて,おっしゃるとおり,これから勉強させてください,だから一緒に大学の中を改善させていくために協力してくださいという形で,多数の障害学生さんに呼び掛けていくという,そういうやり方はすごくいいやり方だし,これから我々が障害学生支援を一般の大学にも広めていくときにも使える方法なのかなというふうに非常に感じました。
 その際に,是非教えていただきたいのは,そういう境地に至ったきっかけとか経緯みたいなものがあればということと,あとほかの大学,そういう受入れに怖がっている大学はたくさんあると思うんですね。そういう大学に対して,同じような形で,これから一緒に勉強しましょうというふうに働きかけていくために,こういうことが必要なんじゃないかというアプローチのポイント等で何か思い付くものがあれば教えていただけませんか。

【山下氏】  まず,きっかけということですけれども,もともと私どもはキリスト教主義なのでそういう風土があります。できれば一緒に勉強したいという思いはみんなもっていると思います。
 ただ,障害がある学生の支援をやるときに,教職員の中で非常に不安が強かったのは事実ですし,しっかりサポートできない環境なのにそういう学生さんを引き受けて,その学生さんの学びを妨害してしまうのではないかというような,そういう消極的な意見があったことは事実ですけれど,だからこそ本人にも,ここはこうして,ああしてというようなことを教えてもらいながら一緒にやっていきましょうということで合意は得たと思います。
 私どもにとって,一緒に勉強していこうというふうにいうことについては,私たちは無知で本当に何もかも勉強していなくて分からなくてというのが正直なところでしたので,別にそこはそれほど問題にはなりませんでした。私どもの大学は正直なので,そこは隠してもしようがない。あのキャンパスを見られたら,皆さん,これでバリアフリーをどう実現させるかと思われると思います。
 そこのところを,今,近隣の特に女子大学が幾つかあるのですが,競合しているんです。本学は彼らに負けている負け組の方ですので,あんなことまでしてみたいな目で見られているのは確実だと思います。しかし,このプロジェクトを旗上げして,ハンディをもった学生さんに,生き生きとした学生生活を送ってもらえれば,それから,私たちはYMCAといろいろつながりがあるので,働ける場所をいろいろ用意できるというところもあり,就職まで考えていますので,そういう人を社会に出していければ,よその大学さんも女学院でできるならうちは絶対できるというような自信になるのではないかと考えています。
 だから,うちの大学のように,大学自体が本当にすごくハンディが多いんですけれども,ハンディが多い大学がやっていって,生き生きとした大学生活を送れるような,そういう環境作りができるということを示したい。それが,回り道のようだけれども近隣大学と最終的には手をつなぐ道筋ではないかというふうに考えています。相手方はどう考えているかわかりません。

【竹田座長】  ありがとうございました。時間がきておりますけれども,あと5分ほど頂きまして,今日のヒアリングでは貴重な御意見を頂きまして,全体を通じた御意見や,あと今後合理的な配慮について,引き続いてこういったヒアリングの情報をもとに委員の皆さんに御検討いただくわけですが,合理的配慮を検討するに当たっての御意見等も含めて,5分ほど,お一方かお二方ほど,御意見がありましたらよろしくお願いします。
 それでは,石川委員からお願いします。

【石川委員】  静岡県立大学の石川といいます。とてもすばらしい御報告をありがとうございました。とても先進的でチャレンジングな試みをそれぞれされていらっしゃると思います。
 広島女学院大学では,今,人的なサポートと,それから技術を生かした支援はうまく組み合わせようとされているというふうに感じまして,特にアーカイブの利用であるとか,それからリアルタイムの音声認識,教員一人一人の音声プロファイルを作って音声認識すると,この辺りの音声認識の特性を十分理解された上で,少しでも成果を上げようとされているという感じがしまして,とても他大学の参考になるというふうに思いました。
 その音声認識についてですが,これは確認ですが,一方でノートテイクのサポートを提供しつつ,先ほど眠ってしまうというお話がありましたが,どのようなことを話しているのかということをある程度リアルタイムで理解できている,つまり,補助的な意味で使われていると理解していいのか,場合によってはこれだけでいけるかもしれないというような,そういう見通しでやってみようとされているのかというのを教えていただければと思います。
 以上です。

【山下氏】  字幕システムに行く行くは特化したいというふうには考えておりまして,ノートテイカーをやめにしてしまうということはないのですが,できればリアルに字幕で文字が映っていくようにとは考えています。ただ,そこに行き着くまではとても難しい。大体,教員全員のプロファイルが要るわけですから,まずは幾つかの講義から,特にやりやすい授業のタイプとそうでないタイプがあると思いますので,いろいろ組み合わせながらということを模索していくというような段階でございます。

【竹田座長】  それでは,中野委員,お願いします。

【中野委員】  今後の進め方についてなんですけれども,もう残りの回数が非常に少なくなっている中で,非常に興味深いお話,先進的なお話をたくさん聞くことができるのは,我々にとっては勉強になってうれしいのですが,このままでいくと議論が進まない。どこに落としていくかというのが我々の中で議論できないまま,もう次の議論を踏まえた上で,あと残りの3回で報告を書くという段階にはとてもいけないのではないかというふうに危惧しています。是非とも議論ができる時間を確保していただけるように,今後の進行について強くお願いいたします。

【竹田座長】  事務局の方,何かコメントをお願いいたします。

【事務局】  今後は,12月まであと4回ぐらいでヒアリングも考えてはいますが,もし先生方から,むしろこういう形でのヒアリングをすべきなのか,あるいはもうちょっとヒアリングをなくして議論すべきなのかという点は,先生方の御議論の中で決めていただければ,いかようにでも私どもの方でやらせていただきたいと思います。
 あと,報告書も,3回で一応原案をまとめるとしていますが,今回,近藤先生にメーリングリストも作っていただきましたので,その中で報告書を議論していただくとか,あるいは先生方の中でタイトルを決めてもらって,報告書についてはある程度議論した形で執筆を分担していただいて議論にのせるとか,これは先生方の御判断で決めていただければ,私どもとしてはいかようにでも柔軟に対応させていただきたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。むしろ,時間をとるということであれば,そういった案件もさせていただきますのでよろしくお願いいたします。

【竹田座長】  本日,ヒアリングが1回目ということで,ヒアリングもやはり非常に貴重な,我々が知っているようで知らない現場の声あるいはそれぞれの取組は,非常に今後の原案等を作成していく上で参考になるものであると思います。はい。

【事務局】  1点だけよろしいでしょうか。次回,もし可能であれば高大連携と言いますか,今回もいろいろとお話があった,高校から上がってくるところの部分についてのヒアリングだけはしていただいた方がよろしいかなと思っております。あと報告書については分筆するなど,いろんなやり方がありますので,また座長ともいろいろ相談させていただければと思います。

【竹田座長】  石川委員。

【石川委員】  すみません,石川です。
 内閣府の障害者政策委員会委員長の立場でお願いがありまして,本年度中に新規の障害者基本計画のための意見具申をまとめる,つまり内容的にも形式的にもそのまま基本計画にしていただけるぐらいの内容と形式のものをまとめるということで作業を始めておりまして,教育分野については各論として9月と10月に3回の小委員会を開くことになっており,9月10日から10月15日というのが大体その期間に当たっております。
 教育分野については,初等教育,中等教育とともに,前回の高等教育における障害学生支援についても,せっかくこの検討会メンバーが集まってやっているわけですから,その成果を是非基本計画の中に盛り込めるように,基本計画,正確には基本計画の意見具申の中に盛り込めるように,この会議の成果が間に合わせられると有り難いなというふうに思っているんですけれどもいかがでしょうか。

【竹田座長】  事務局の方からいかがでしょうが。時間的にはかなりタイトではありますが。

【事務局】  時間的にはタイトでありますけれども,例えばもし精緻なものができていなくても,ある程度,方向性だけでもそれまでに間に合えば,そのエッセンスをというのはあり得るかもしれませんので,よくスケジューリングを考えてやっていければというふうに思います。

【竹田座長】  その辺りは,できるだけ取り込めるのが一番いいかなと思いますが,事務局と調整してできるだけ早くできればと思います。
 では,福永委員。

【福永委員】  個別の質問をしようと思ったのですが,議題が詰めていまして,メーリングリストの議論は非常に大切だと思うのですが,非常にたくさんのメールが来るので,皆さん,ついていけないかもしれません。やはり最終的には,きちんと顔を突き合わせて話をしないと,それは見ていませんでしたとかいうことがあるので,それらをみ見ないで終わるわけにはいかないのではないかなというふうに思いますので,それは是非御配慮いただきたいというふうに思います。

【竹田座長】  じゃ,広瀬委員。

【広瀬委員】  今の御意見に賛成です。2時間はいかにも短い。やっぱり最低4時間ぐらいないと。つまり今2時間終わって,これからじゃないですか。ここから2時間欲しいです。そこで,もっといろんな意見が欲しいので,皆さんお忙しいとは思いますが,何とか時間を作っていただけないでしょうか。せっかくこれだけのメンバーが集まっているのでと思います。

【竹田座長】  殿岡委員。

【殿岡委員】  私も同感でもう少し長く欲しいと思います。障害者政策委員会の話が出ましたけれども,メーリングリストでも出しましたが,差別禁止部会では既に原案が出てきておりますし,あれも本当ならもう時間はないのですが,そのうちに事務局の方を呼んで,早く学習会してみたいと思っています。
  先ほど石川先生がおっしゃった障害者計画に載るということは,障害者政策委員会は,批准した場合に,国内モニタリング機構としての役割を果たすわけです。ここにしっかり高等教育に関してもアタッチして,状況は,国内から世界,世界から国内へ流れていくような道を作ることがすごく重要だと思って,そういう点で高大連携も非常に重要な課題だとは思うのですが,次は合理的配慮そのものに対する本格的な議論をできたらいいなと思っています。これはやっぱり肝になると思うので,そう危惧しております。
 以上です。

【竹田座長】  ありがとうございました。スケジュールについて,いろいろ多くの御要望いただきましたので,今後のスケジュール等につきまして,最後に事務局の方から御説明をよろしくお願いします。

【事務局】  次回以降,一応,資料の4で指定はとります。日程だけ,一応こういう形にしておきますけれども,もし時間をもっと延ばすということであれば,延ばすことも可能でございます。ただ,そうなると,逆に我々は問題ありませんが,先生方で移動時間が長い先生とか,出られる時間帯,出られない時間帯等々がございますので,少し長めにして,出られない先生は早めに切り上げていただくとか,そういった柔軟な対応でよろしければそういった対応をさせていただきたいと思います。
 それから,一応この資料の4で,12月18日,取りまとめと書いてございますけれども,我々は当初予算とどう絡むかということを考えておりました。ただ,一方で,合理的配慮についての議論は,予算とそんなにリンクしない部分もございますので,もし時間が必要であれば,それに併せてリスケジューリングすることも可能でございます。
 平成25年度の予算については,私どもがどういった形で考えているかということを次回御報告させていただきたいと思います。今,シーリングが出たばかりでございますので,奨学金の問題であるとか,あるいはネットワーキングをどうしていくとか,いろいろと出していきたいと思っておりまして,それについては来週御報告させていただければと思っています。そこと必ずしもリンクさせる必要もないので,もし,もうちょっと時間が要るということであれば,合理的配慮については12月を越えた形でもよろしいかとは思っています。また座長とも御相談させていただいて,とりあえず次回以降,9回までの日にちは,これで押さえていただければ有り難いというふうに思っておりますので,よろしくお願いいたします。

【竹田座長】  いかがでしょうか。各回の時間について若干修正させていただく可能性と,あと最終取りまとめの期限というのも,場合によっては延ばさせていただく可能性もあるということを含めて,私と事務局の方に御一任させていただいた上で,説明は新たにさせていただくとそういう格好でよろしいでしょうか。それでは,スケジュールは調整させていただきまして,できるだけ多くの先生が,多くの時間をとれる時間帯でお集まりいただこうと思います。また,御集合については別途連絡差し上げます。
 それでは,以上で障がいのある学生の修学支援に関する検討会第5回を終了いたします。
 どうもありがとうございました。

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-- 登録:平成26年02月 --