障害児の大学進学における問題点に関する考察(垣内氏資料)

  ミライロでは、障害のある子供に向けた家庭教育、または長期入院する子供に対して、専門の先生を派遣するという教育事業を行なっております。事業を行なっていく中で、保護者の親御さんや、特別支援学校の先生、そして障害のある子供たちから多くの声を聞いてきました。
 また、代表の垣内の経験を基に、大学の施設改善のコンサルティングや、バリアフリーマップ制作等も事業として行なっております。障害のある学生が快適に生活出来る大学環境作りや、障害学生に向けた情報発信のあり方を変えていく事を目指しております。
 「障害のある子供の自立」に向けて、現在の大学進学における問題点とその解決策について、ここでは検討していきます。

【問題点1.】大学の環境や支援体制に関する情報発信の不足

 日本の大学における障害学生の在籍率が0.3%程に留まっている原因の一つとして、障害のある学生や、その家族に適切な情報が行き届いていないために、進学という道を選択しづらいという事が挙げられます。
 例えば、障害のある学生が進学を考える際に、主に下記のような情報が必要となります。

  • 大学のバリアフリー環境(エレベーター、スロープの設置の有無など)
  • 障害学生への支援体制(ノートテイク、点字翻訳の有無など)
  • 受験時の配慮の有無
  • 通学方法

 上記以外にも、障害に応じて、様々な情報を必要としています。大学によっては、バリアフリーマップを制作する事によって大学環境の情報を発信したり、大学ホームページ内に支援室のページを設けて、支援体制に関する情報を発信している大学もあります。しかし、そのような大学は少数であり、多くの大学では、未だ障害のある学生に向けた情報発信は行われておりません。
 そのため、解決策としては、

  • 障害学生支援の取り組みに関する情報公開を仕組み化
  • 障害学生を支援する担当部署の設置義務化と担当部署のホームページを開設
  • バリアフリーマップの制作や施設情報の分かる情報の公開

 上記のような取り組みにより、障害のある学生や学校教員が、まずは、インターネットにより簡単に情報を取得出来る事が大切です。その後、詳細に関して知りたい場合には、適切な担当部署に問い合わせを出来るようにしておく事が、最低限必要な情報公開であると考えます。

【問題点2.】障害のある学生自身の内的問題

 進学への障壁は、大学だけの問題ではなく、障害者自身にもあります。障害のある学生は、家庭や学校以外での社会的経験が少ないことが多いために、何故大学進学を選ぶのかといった目的が欠如している学生も多く、本人の進学に対するモチベーションが低いです。また、進学する意欲と学力を持っていたとしても、卒業後の就職に対する不安から、進学指導よりも就労支援に力点を置く特別支援学校を選択している学生も少なくありません。
 社会的に、障害のある学生とその家族が、大学進学や、将来について考える場が圧倒的に不足している事が問題
であり、障害のある学生自身が目標を見つけたり、将来について考えるための情報提供となる場を作る事が大切です。弊社でも、一昨年より障害のある学生とその家族のための進路相談イベントを開催しております。イベントには、高校や大学の職員、専門家、大学に在学する障害のある学生等にお越し頂き、障害のある子供やその家族が、様々な相談を出来る場を提供しております。進学に関する不安や疑問点を解消出来る他、進学という選択肢を諦めていた、または考えていなかった家庭に対しても、将来の選択肢を広げるきっかけとなるイベントになっています。今後は同様のイベントが全国にも波及していく必要性があると考えており、障害のある子供とその家族が、進学という選択肢を諦めない風土作りを社会全体で行なっていく必要があると考えます。

【問題点3.】大学間における支援体制の格差の拡大

 一昨年より弊社では、関西圏の大学を中心に独自のアンケート調査を行なっています。支援体制に関する各大学の問題点を分析すると、支援が非常に整っている大学もあれば、一方ではノウハウが全くない大学もあるという大学間での支援体制の格差が生まれています。そのため、日本学生支援機構が制作している『教職員のための障害学生就学支援ガイド』のような、既に提供されているノウハウがあるという事の認知を大学職員に広めていく必要があります。また、同じく日本学生支援機構が実施している障害学生修学支援ネットワーク事業に関しても、他校から相談を受ける拠点校が全国に9校設置されているにも関わらず、大学関係者への認知度は低く、効果を発揮しているとは言い難いです。
 障害学生支援に関する経費は、私学助成は2011年度に特別補助から一般補助に、国立大学運営費交付金は2012年度に特別経費から一般経費に移行しました。これにより、大学のスタンスや大学経営者の理解度に応じて、取り組みに、より一層の格差が生じる可能性が高くなったといえます。
 今後、上述した支援体制に関する情報を提供している日本学生支援機構の取り組み等の認知を広げると同時に、各大学は支援担当者や支援室を設置することで、いかに継続的にノウハウを持ち続けて、適切な支援を行う事が出来るようにするかが大切です。

お問合せ先

高等教育局学生・留学生課

-- 登録:平成24年11月 --