高橋委員提出資料

2012年7月20日

「合理的配慮」に関する検討事項と参考資料

信州大学 高橋知音

 

資料の構成

1 合理的配慮に関する検討事項

2 米国ETS社における特別措置申請マニュアルの概要

3 AHEADの合理的配慮認定手続きに関するガイドラインの概要

1 合理的配慮に関する検討事項

(1)合理的配慮の決定における検討事項

 1.障害の定義と認定について
 -手帳、診断、自己報告?
 2.合理的配慮の内容の決定について
 -誰が内容を検討するか?
 3.申請書類と決定の手続きについて
 -どのような情報を求めるか?誰が書類を作成するか?誰が認定するか?

(2) 合理的配慮の決定における「合理性」の判断

 -申請者と認定者の間で合意が得られないとき、合理性を判定する第三者機関が必要ではないか?
 --大学関係者(大学認証機関関連者?)
 --専門家(心理教育アセスメントの専門家、医師、障害・福祉) 
 --法律家

(3) 認定条件に関する検討事項

 1.配慮のレベルによって認定条件を変える必要があるのではないか
 (→JASSOの修学支援ガイド)
 「授業を録音したい」といった申請に、包括的申請書類を求める必要はないだろう。
 しかし、公平性に疑義が出る可能性があるもの、配慮にあたって人的、物理的、経済的コストがかかるものについては、認定条件を別に設ける必要があるのではないか。

 2.成績が低いということを条件にすべきではないだろう
 たいへんな苦労をすることで、「ある程度できている」という状況でも、配慮を認められるようにしたい。

 3.過去の配慮履歴を前提条件にはしない
 授業の内容によって新たなバリアに直面することもある。

2 ETS(Educational Testing Service)社における特別措置(合理的配慮)の認定

ETS社:日本の大学入試センターに相当。大学進学時に用いる能力試験であるSAT、大学院進学の能力試験であるGRE、留学生向けの英語能力試験であるTOEFLなど、公的な学力試験を実施。障害のある受験者向けの各種特別措置を実施しており、障害別にマニュアルが作られている。

ADHDのある受験者向けマニュアルの概要

(1)特別措置認定の基本条件

  • 資格のある専門家による診断がある
  • 証明書類が古くないこと(3年以内)
  • 初等・中等教育時代の記録(自己報告以外の情報が必要)
  • 証明書類は診断の論理的根拠となるものであること
    ・家族に関する情報、生育歴に加え、学業的、行動的、社会的、職業的、医学的、発達的、精神医学的経過についての情報。
    ・ADHDの症状が異なる状況でどのような顕在化していたか。
    ・これまでどのように対処したか、そして、うまくいった点はあったか。
  • 神経心理学的、心理教育的アセスメントの結果は、生活場面での機能障害と結びつけて用いられていること。チェックリストは有効だが、それだけでは十分ではない。
  • 配慮には論理的根拠を含まなければならない。
  • 書類には過去の配慮についての情報を含む。
  • 配慮は診断名によって決まるのではなく、現在の機能障害と結びついていることが必要。

(2)証明書類の構成

 A 子ども時代の機能障害
 B 現在の機能障害
 1 現在の問題
 2 診断的面接の情報
 C 他の診断の可能性
 D 神経心理学的、心理教育的検査結果
 E DSM-IV-TR診断基準
 F 診断名
 G 所見

(3)アセスメントバッテリー

  • 臨床的面接
  • 評定尺度(自己評価・他者評価)
  • 観察による尺度
  • 神経心理学的・心理教育的検査
    ・知能(WAISなど)
    ・注意・記憶・学習(CPT、言語能力テスト、学習能力テスト、WAIS-WMI、WMS)
    ・実行機能(ストループ課題、トレイルメイキング、WCST、)
    ・学力テスト
    ・医学的検査(神経学的検査、睡眠検査)

3 AHEAD(Association on Higher Education and Disabilities)における証明書類に関するガイドライン

(1)証明書類の種類

 一次資料:学生の自己報告
 学生の体験する障害、障壁、これまでの配慮に関する効果の有無などについて、面接もしくは質問紙によって得られた情報。

 二次資料:障害学生支援スタッフの所見
 経験を摘んだスタッフが学生との面接を通して得た印象は重要な情報源となる。

 三次資料:外部資料
 教育機関、医療機関による記録や報告書。IEPや成績表などの教育と配慮の履歴、

(2)証明申請の手続き

 学生に情報を求める理由は、支援者が障害の確認、障害の影響についての理解、配慮についての妥当な決定をするためである。
 個々の学生の教育場面での経験、配慮の利用、それが教育へのアクセスに効果的であったかどうかに関する学生の経験について、支援者が学生とのやりとりを通して理解する。もしその学生が、自身の障害と教育場面での障壁との関連、そして配慮がどのようにアクセスを可能にするかについて明確に伝えることができなければ、教育機関は他機関等にこの関連について証明を求める。
 証明申請の手続きは、その過程自体がアクセス可能なものでなければならない。

(3)合理的配慮の個別性

 ADAによると、障害は「一つもしくは複数の主要な活動に著しい制限を与えるような身体的もしくは精神的機能低下について、そのような記録があること、もしくはそのような機能低下があるとみなすことができること」と定義されている。つまり、その状況が障害かどうかということではなく、その状況がどのように学生に影響を与えているかが重要である。
 配慮は障害の種類で決まるものではない。教育機関は学生の障害、経歴、経験、要求と、その授業、課程の特徴と求められているものの両方を勘案して、その配慮が合理的かどうかを決定する。効果のない代替授業、補助手段、サービスや、本質的変更を伴うものは合理的とは言えない。

(4)常識的判断

 認定の過程は常識的判断に基づいて進められるべきである。障害の影響が明らかな場合は、新たに外部機関による検査を求めることはしない。

(5)申請手続きにおける負担の軽減

 合理的配慮の認定が、申請者にとって過度の負担とならないようにする。

(6)情報の新しさ

 障害は持続するものであるから、以前の証明書類であっても十分な場合が多い。ただし、まったく新しい場面での配慮に関しては、障害の影響と申請された配慮との関連を説明する根拠資料が必要となることもある。

リンク

ETS (Educational Testing Service) 特別なニーズのある受験者への情報ホームページ
Resources for Test Takers with Disabilities and Health-related Needs
http://www.ets.org/disabilities/

The Association on Higher Education and Disability (AHEAD) 配慮の申請書類に関するガイドラインSupporting Accommodation Requests: Guidance on Documentation Practices - April2012
http://www.ahead.org/resources/documentation_guidance

 

お問合せ先

高等教育局学生・留学生課

-- 登録:平成24年11月 --