1998年10月
「児童の権利に関する条約」は,1989年(平成元年)11月20日に第44回国連総会において採択され,我が国は,1990年(平成2年)9月21日にこの条約に署名し,1994年(平成6年)4月22日に批准を行いました。(我が国については,1994年5月22日に効力が生じています。)
この条約は,世界の多くの児童(児童については18歳未満のすべての者と定義。)が,今日なお,飢え,貧困等の困難な状況に置かれている状況にかんがみ,世界的な観点から児童の人権の尊重,保護の促進を目指したものです。
本条約の発効を契機として,更に一層,児童生徒の基本的人権に十分配慮し,一人一人を大切にした教育が行われることが求められています。
文初高第 149号
平成6年5月20日
各都道府県教育委員会 殿
各都道府県知事 殿
各国立学校長 殿
各大学共同利用機関長 殿
大学入試センター所長 殿
学位授与機構長 殿
国立学校財務センター所長 殿
各公私立大学長 殿
放送大学長 殿
各公私立高等専門学校長 殿
各文部大臣所轄学校法人理事長 殿
文部省各施設等機関長 殿
日本ユネスコ国内委員会長 殿
日本学士院長 殿
文化庁各施設等機関長 殿
日本芸術院長 殿
各文部省関係特殊法人の長 殿
公立学校共済組合理事長 殿
文部事務次官
坂元 弘直
「児童の権利に関する条約」について(通知)
このたび,「児童の権利に関する条約」(以下「本条約」という。)が平成6年5月16日条約第2号をもって公布され,平成6年5月22日に効力を生ずることとなりました。本条約の概要及び全文等は別添のとおりです。
本条約は,世界の多くの児童(本条約の適用上は,児童は18歳未満のすべての者と定義されている。)が,今日なお貧困,飢餓などの困難な状況に置かれていることにかんがみ,世界的な視野から児童の人権の尊重,保護の促進を目指したものであります。
本条約は,基本的人権の尊重を基本理念に掲げる日本国憲法,教育基本法(昭和22年3月31日法律第25号)並びに我が国が締約国となっている「経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(昭和54年8月4日条約第6号)」及び「市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和54年8月4日条約第7号)」等と軌を一にするものであります。したがって,本条約の発効により,教育関係について特に法令等の改正の必要はないところでありますが,もとより,児童の人権に十分配慮し,一人一人を大切にした教育が行われなければならないことは極めて重要なことであり,本条約の発効を契機として,更に一層,教育の充実が図られていくことが肝要であります。このことについては,初等中等教育関係者のみならず,広く周知し,理解いただくことが大切であります。
また,教育に関する主な留意事項は下記のとおりでありますので,貴職におかれましては,十分なご配慮をお願いします。
なお,各都道府県教育委員会にあっては管下の各市町村教育委員会及び関係機関に対して,また,各都道府県知事にあっては所管の私立学校及び学校法人等に対して,国立大学長にあっては管下の学校に対して,趣旨の徹底を図るようお願いします。
記
1.学校教育及び社会教育を通じ,広く国民の基本的人権尊重の精神が高められるようにするとともに,本条約の趣旨にかんがみ,児童が人格を持った一人の人間として尊重されなければならないことについて広く国民の理解が深められるよう,一層の努力が必要であること。
この点,学校(小学校,中学校,高等学校,高等専門学校,盲学校,聾(ろう)学校,養護学校及び幼稚園をいう。以下同じ。)においては,本条約の趣旨を踏まえ,日本国憲法及び教育基本法の精神にのっとり,教育活動全体を通じて基本的人権尊重の精神の徹底を一層図っていくことが大切であること。
また,もとより,学校において児童生徒等に権利及び義務をともに正しく理解をさせることは極めて重要であり,この点に関しても日本国憲法や教育基本法の精神にのっとり,教育活動全体を通じて指導すること。
2.学校におけるいじめや校内暴力は児童生徒等の心身に重大な影響を及ぼす深刻な問題であり,本条約の趣旨を踏まえ,学校は,家庭や地域社会との緊密な連携の下に,真剣な取組の推進に努めること。
また,学校においては,登校拒否及び高等学校中途退学の問題について十分な認識を持ち,一人一人の児童生徒等に対する理解を深め,その個性を尊重し,適切な指導が行えるよう一層の取組を行うこと。
3.体罰は,学校教育法第11条により厳に禁止されているものであり,体罰禁止の徹底に一層努める必要があること。
4.本条約第12条から第16条までの規定において,意見を表明する権利,表現の自由についての権利等の権利について定められているが,もとより学校においては,その教育目的を達成するために必要な合理的範囲内で児童生徒等に対し,指導や指示を行い,また校則を定めることができるものであること。
校則は,児童生徒等が健全な学校生活を営みよりよく成長発達していくための一定のきまりであり,これは学校の責任と判断において決定されるべきものであること。
なお,校則は,日々の教育指導に関わるものであり,児童生徒等の実態,保護者の考え方,地域の実情等を踏まえ,より適切なものとなるよう引き続き配慮すること。
5.本条約第12条1の意見を表明する権利については,表明された児童の意見がその年齢や成熟の度合いによって相応に考慮されるべきという理念を一般的に定めたものであり,必ず反映されるということまでをも求めているものではないこと。
なお,学校においては,児童生徒等の発達段階に応じ,児童生徒等の実態を十分把握し,一層きめ細かな適切な教育指導に留意すること。
6.学校における退学,停学及び訓告の懲戒処分は真に教育的配慮をもって慎重かつ的確に行われなければならず,その際には,当該児童生徒等から事情や意見をよく聴く機会を持つなど児童生徒等の個々の状況に十分留意し,その措置が単なる制裁にとどまることなく真に教育的効果を持つものとなるよう配慮すること。
また,学校教育法第26条の出席停止の措置を適用する際には,当該児童生徒や保護者の意見をよく聴く機会を持つことに配慮すること。
7.学校における国旗・国歌の指導は,児童生徒等が自国の国旗・国歌の意義を理解し,それを尊重する心情と態度を育てるとともに,すべての国の国旗・国歌に対して等しく敬意を表する態度を育てるためのものであること。その指導は,児童生徒等が国民として必要とされる基礎的・基本的な内容を身につけるために行うものであり,もとより児童生徒等の思想・良心を制約しようというものではないこと。今後とも国旗・国歌に関する指導の充実を図ること。
8.本条約についての教育指導に当たっては,「児童」のみならず「子ども」という語を適宜使用することも考えられること。
この条約は、前文、本文五十四箇条及び末文から成り、その概要は、次のとおりである。
児童とは、十八歳未満のすべての者をいう。ただし、当該児童で、その者に適用される法律によりより早く成年に達したものを除く。(第一条)
(1)一般的義務
(2)生命に対する権利
締約国は、生命に対する児童の固有の権利を認めるものとし、児童の生存及び発達を可能な最大限の範囲において確保する(第六条)。
(3)登録、氏名、国籍等についての権利
(4)家族から分離されない権利
(5)意見を表明する権利
締約国は、児童が自由に自己の意見を表明する権利を確保する。児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮される。(第十二条)
(6)表現の自由についての権利
児童は、表現の自由についての権利を有する(第十三条)。
(7)思想、良心及び宗教の自由についての権利
締約国は、思想、良心及び宗教の自由についての児童の権利を尊重する(第十四条)。
(8)結社及び集会の自由についての権利
締約国は、結社の自由及び平和的な集会の自由についての児童の権利を認める(第十五条)。
(9)干渉又は攻撃に対する保護
いかなる児童も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない(第十六条)。
(10)情報及び資料の利用
締約国は、大衆媒体(マス・メディア)の果たす重要な機能を認め、児童が多様な情報源からの情報及び資料を利用し得ることを確保する(第十七条)。
(11)家庭環境における児童の保護
(12)難民の児童に対する保護及び援助
締約国は、難民の地位を求めている児童又は難民と認められている児童が適当な保護及び人道的な援助を受けることを確保するための適当な措置をとる(第二十二条)。
(13)医療及び福祉の分野における児童の権利
(14)教育及び文化の分野における児童の権利
(15)搾取等からの児童の保護
(16)自由を奪われた児童、刑法を犯したと申し立てられた児童等の取扱い及び武力紛争における児童の保護
この条約のいかなる規定も、締約国の法律及び締約国について効力を有する国際法に含まれる規定であって、児童の権利の実現に一層貢献するものに影響を及ぼすものではない(第四十一条)。
締約国は、この条約の原則及び規定を成人及び児童のいずれにも広く知らせることを約束する(第四十二条)。
署名、批准、加入、効力発生、留保等について規定している(第四十六条から第五十四条まで)。
略
大臣官房国際課
-- 登録:平成21年以前 --