施策目標 (1)環境分野の研究開発の重点的推進

主管局 研究開発局
関係局 研究振興局
基本目標

総合科学技術会議の環境分野推進戦略を受け、地球環境問題に関する現象を科学的に解明し、適切な対応を図るための研究開発を推進する。

1.衛星による地球観測及び海洋観測の推進

達成目標

 陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)(平成18年1月打上げ)、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)(平成21年1月打上げ)、地球環境変動観測ミッション・水環境変動観測衛星(GCOM-W)(平成23年度打上げ予定)、全球降水観測/二周波降水レーダ(GPM/DPR)(平成25年度以降打上げ予定)等の地球観測衛星により、地球環境変動予測に不可欠な観測データを取得・提供する。
 また、第3回地球観測サミット(平成17年2月)で承認された全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画に貢献するため、地球環境変動に関する科学的理解の向上に向けて、全球地球観測システム(GEOSS)を構築する上で優先度が高いとされる領域に関し、我が国が先導すべき技術革新、我が国がリーダーシップを発揮すべき国際観測ネットワークの形成にターゲットを絞って技術開発及び観測研究を推進する。

達成目標の
達成度合い

 「だいち」の運用を継続し、災害状況把握や地図作成等に資するデータを提供した。また、米国の人工衛星に搭載した我が国のセンサPRやAMSR-Eの運用を継続し、気候変動等の研究に資するデータを提供した。さらに、「いぶき」による初の観測データを取得した。加えて、GCOM-W、GPM/DPR等の地球観測衛星の研究開発を継続した。
 アルゴ計画の平成19年度の進捗状況については、世界22カ国とEU、世界気象機関(WMO)、政府間海洋学委員会(IOC)の協力の下に、国際アルゴ計画の実施に参画しており、地球変動予測の実施に不可欠な海洋データを全地球規模で収集する。19年11月に世界の稼動フロート数は当初目標の3000基に達した。
 また、北極海多年氷海域で新型の氷海観測用システムによる観測を始めるなど北極域観測を推進し、近年の北極海の太平洋側における急激な海氷減少が、太平洋から暖かい水が流入し海洋が温暖化したことによるものであることを明らかにした。さらに、北ユーラシアから東南アジアにかけ、陸面・流域気象水文観測、大気観測等を行い、水循環変化による急激な凍土融解およびインドネシアでの豪雨や突風に関して新たな知見を得た。なお、海洋地球研究船「みらい」等の研究船、海洋観測ブイシステム、アルゴフロート等による観測データは、品質管理を行った上で公開を行い、多くの研究者、現業機関の利用に供している。
 加えて、「地球観測システム構築推進プラン」の下で、地球温暖化・炭素循環、アジア・モンスーン地域の水循環・気候変動、及び対流圏大気変化に関する技術開発・観測研究・技術開発を推進した。地球温暖化の解明に必要な大気・海洋間の炭素循環に関する観測研究においては、海洋二酸化炭素センサーの性能試験、漂流可能な小型センサーの設計・製作等を行うとともに実証観測を開始した。また、アジア・モンスーン地域の水循環・気候変動に関する観測研究においては、大気・海洋現象の観測・解明のために必要なブイシステムの開発・改良・運用及びセンサーの精度評価等を行うとともに実証観測を開始した。さらに、対流圏大気変化に関する観測研究においては、対流圏の大気汚染ガス・エアロゾルの測定装置の改良、東アジア地域における観測網構築等に着手し、概ね順調に進捗している。

今後の課題

 「だいち」、PR、AMSR-E、「いぶき」の運用及びデータ提供を継続するとともに、GCOM-W、GPM/DPR等の地球観測衛星の研究開発を着実に継続する。
 加えて、国際アルゴ計画(3,000基のフロートによる全球海洋観測網)を維持・発展させるとともに、アルゴフロート観測網を用いた観測研究を引き続き進める。アルゴ計画(投入フロート3000基)に貢献するため、中層フロート観測網を用いた観測研究を引き続き進めることが必要である。さらに、引き続きアジア・太平洋・インド洋を中心とした地域で、海洋観測ブイシステムによる観測、陸上での気象水文観測や、大陸間縦・横断観測等の海洋観測といった、海洋・陸面・大気の観測研究を継続的に進めていく。 また、データの公開を行うにあたり、引き続きデータの精度を向上させる。  
 「地球観測システム構築推進プラン」については、温暖化予測の不確実性要因の減少、観測の空白域での観測の強化に寄与する地球温暖化・炭素循環、アジア・モンスーン地域の水循環・気候変動、及び対流圏大気変化に関する観測研究・技術開発並びに大気・海洋観測データ取得のためのシステム構築を着実に実施するとともに、開発したセンサー等の普及に努める。また、観測網の充実により得られたデータ等の成果を温暖化予測モデルへ提供することで予測の高精度化に貢献する。

2.南極地域観測第7期計画に基づく南極地域観測事業の推進

達成目標

 地球温暖化、オゾンホール等の地球規模での環境変動の解明に資するため、南極地域観測第7期4カ年計画に基づき、南極域での環境変化の研究・観測を行う南極地域観測事業を推進する。
 (南極地域観測は,昭和51年に統合推進本部が定めた「南極地域観測事業の将来計画基本方針」に基づき,4~6か年を1単位とする観測計画を策定)。

達成目標の
達成度合い
  1. 昭和基地における温室効果気体のモニタリングについて、高精度連続観測及び大気サンプリングが順調に進められた結果、温室効果気体であるメタン濃度が急上昇していることが明らかになった。
  2. 8つの外国基地と連携して計40回のオゾンゾンデ・マッチ観測を行った結果、大気の流れに乗って動く空気塊のオゾン破壊量の観測に成功した。
  3. 光化学反応の舞台となる極成層圏雲に関する情報、一連の化学反応に関与する大気微量成分の観測を実施した結果、多層の薄い極成層圏雲の出現に対応してオゾン層破壊が始まることを示す観測データを得た。
今後の課題

 オーロラの微細構造解明のため、昭和基地において地上観測データを取得し、「れいめい」衛星の観測データと組み合わせて解析を行う。また、オーロラによる大気加熱を実証するため、光時間分解能のOH大気光観測を実施する。

3.地球シミュレータの活用による地球環境変動予測研究の推進

達成目標  気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書へ科学的根拠を提供できる確度の高い予測モデルの開発を行うことで、気候変動予測研究の充実を図るとともに、地球環境分野における国際的な枠組み等に貢献し、各種政策決定に寄与する。
達成目標の
達成度合い
 地球温暖化予測研究については、平成25~26年に策定する計画のIPCC第5次評価報告書に貢献するため、地球シミュレータを活用した「21世紀気候変動予測革新プログラム」を実施しており、300年程度先までの長期予測、30年程度先までのより詳細な予測を目指した近未来予測、台風や集中豪雨等の極端現象に関する予測などを中心とした地球温暖化予測研究を行っている。予測モデルの物理過程改良やモデルの高解像度化、データ同化、アンサンブル手法の見直しや、現在気候再現実験、海面水温アンサンブル実験と不確実性の評価等を行い、達成目標について概ね順調に進捗している。
 エルニーニョ現象のインド洋版であるインド洋ダイポールモード現象(IOD)の予測に世界で初めて2年連続で成功した。 また、水平分解能数キロメートルの全球雲解像モデルを用いて、熱帯の大規模擾乱(マッデンジュリアン振動)の再現実験を行い、組織化した積雲クラスターの詳細構造を世界で初めて再現した。さらに、全球3次元海洋生態系モデルに炭素循環過程を組み込んだ経年変動実験により1970年代の気候シフトを再現し、気候シフト後、海面水温の低下や生物生産の増加とともに二酸化炭素の海洋への吸収量が増加したことを示した。その他、新しい動的全球植生モデルを用いて、異なる種子分散条件において温暖化シミュレーションを詳しく行った結果、これまで全球植生モデルでは考慮されることのなかった種子分散が将来の全球炭素収支に大きな影響を与えうることが予測された。
今後の課題

 脱温暖化社会の構築のための政策立案及び対策の確立を推進するためには、健全な意思決定のための科学的基礎の構築が必要とされており、より精緻な予測モデルの開発と高い信頼度を有する予測情報の創出が急務であり、IPCC第5次評価報告書をはじめ、まだ不確実である予測の精度を高め、より確かな科学的根拠を付与できるよう「21世紀気候変動予測革新プログラム」の推進を行う。
 さらに、引き続き、現象と過程に関する研究を行い、各種モデルの開発を進め、それらのモデルを用いた数値実験や計算結果の解析を行いながら予測精度を向上させる。また、実際の大気・海洋諸現象のメカニズム解明とその予測を高精度で実現するシミュレーションプログラムの開発を進め、信頼のおける技術を確立する。

4.環境分子科学研究の推進

達成目標

 環境分子科学研究として、生分解性ポリエステルを効率よく生物生産するバイオプロセスの開発研究、生分解性プラスチックの成型加工技術および物性制御技術の開発研究、高効率・高選択的な物質変換プロセスの開発研究、高効率なエネルギー直接変換を可能とする太陽光エネルギー変換システムの開発研究、内分泌撹乱物質などをオンサイトリアルタイムで高感度かつ迅速に検知・計測・評価する環境情報分析システムの開発研究、微生物による内分泌撹乱物質の効率的な分解除去技術の開発研究をそれぞれ行う。

達成目標の
達成度合い

 平成19年度においては、新たな生分解性高分子であり機能材料として期待されるポリ(β-アスパラギン酸)の酵素合成法を確立し、分子鎖末端が表面に偏析する特性を利用し、分子鎖末端修飾によるバイオポリエステルの分解抑制技術の開発に成功した。
 また、微生物による有害物質の分解・無害化に関連して、放線菌のダイオキシン類分解酵素遺伝子群の転写制御因子を解析し、発現制御機構を解明した。さらに、バイオマスの有効利用に関して、シロアリ共生微生物において、クリーンエネルギーとして期待される水素の効率的な生体機構を解明することに成功するなど、目標達成に向けて有効な成果を上げている。

今後の課題

 高強度、高耐熱性、生分解性を兼ね備えた生体由来機能性高分子の合成法や成型加工技術を開発するとともに、得られた高分子やその他の環境分子を生分解する酵素の機構解明・改良等を行う計画の下、引き続き、目標達成に向けた取組を行う。

5.地球観測・地球環境変動予測データの統合の推進

達成目標

 衛星観測や大気・海洋・陸域観測から得られる多様なデータを蓄積し、気候変動予測結果や社会経済情報等と統合し解析することで、科学的・社会的に有用な情報に変換して提供する情報技術基盤を実現する。

達成目標の
達成度合い

 データ統合・解析システムについては、期間中に構築を予定しているペタバイト級の処理空間のうち約700テラバイトのハードディスクアレイによる処理・解析容量を整備した。さらにIPCC第5次評価報告書作成作業や気候変動影響評価に貢献するため、我が国が行う「21世紀気候変動予測革新プログラム」等の最新の気候予測データを国内外に提供する情報提供用装置の整備に着手した。これまでに「だいち」などの衛星データや地上・海洋観測データ等を利用ニーズに基づいて投入するとともに、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書に使用された世界の20以上の数値モデル等のデータを蓄積した。さまざまな地球観測データや気候変動予測の数値モデルの出力などから地球温暖化・水資源・生態系分野に必要な情報に変換して提供するため、多様なデータの相互流通性を実現するための情報技術や季節単位で気候予測を得るための機能開発、地球規模での大気中温室効果ガス濃度分布や土壌中水分・窒素分布の把握、アジアの寒冷圏・熱帯域での水循環の科学的解明、国内の河川管理や効率的な農作物生産・水産資源管理、生態系保全活動などの支援に関する各種実証モデルの構築を実施している。

今後の課題

 引き続きデータ統合・解析システムの構築を目指すとともに、開発中のプロトタイプシステムを用いて、各種実証モデルの成功事例を蓄積し、さらに、GEOSSへの貢献の一環として、当該システムのアジア・アフリカ地域における水資源管理や洪水・渇水被害軽減への有効性についても取り組む。

お問合せ先

大臣官房政策課

-- 登録:平成22年04月 --