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宇宙開発利用

(2) H-Ⅱロケット

第三章 日本の輸送系技術の発展3.H系ロケット

1.実施に至った経緯

 H-Ⅰロケットは準国産の主力衛星打上げロケットとしての地位を確立し、その後継には800kg級の打上げ能力(静止軌道)を持つ改良型のH-Ⅰbが予定されていた。
 しかし1984年(昭和59年)改訂の『宇宙開発政策大綱』でH-Ⅰbの開発は中止され、自主技術による純国産の大型衛星打上げロケットの開発が目指されることになった。
 開発は1985年(昭和60年)に開始され、1992年(平成4年)の打上げが目指された。途中、LE-7エンジンの開発難航により計画は大きく遅れ、また日本の宇宙開発史上初めての死者を出すなどの困難もあったものの、1994年(平成6年)には種子島宇宙センターから1号機の打上げに成功した。

2.プロジェクトの目的と目標

 打上能力は、静止軌道へ約2t、宇宙ステーション軌道(高度約250km)に約9t、月・惑星探査用には約2.5t程度が目標とされた。また、1t程度の衛星なら2個同時の打上げが可能である等、柔軟な打上げ能力を持つのが特徴である。
 これはN-Ⅰロケットのおよそ15倍にあたる性能であり、一方、重量当たりの打上げコストは6分の1 (N-Ⅰロケットが1kgあたり5400万円であったのに対し、H-Ⅱロケットでは950万円)に低下することを目標としていた。

3.実施内容

 H-Ⅱロケットは全段自主技術による2段式液体ロケットである。

  • 第1段は液体水素・液体酸素を推進薬とし、メインエンジンとして新たに大推力のLE-7エンジンが開発された。このLE-7エンジンは、プリバーナと呼ばれる燃焼室で液体水素の全量と液体酸素の一部を燃焼させ、発生したガスでターボポンプを駆動して残りの液体酸素とともにもう一度燃焼させるという「2段燃焼サイクル」方式を採用している。これは米国のスペースシャトルのメインエンジンで採用されているのと同じ方式で、これによって海面上86t、真空中110tの大推力を発揮することができる。誘導制御用にノズルの向きを油圧で動かして推力方向を変化させる推力偏向制御が採用されている。
  • このLE-7エンジンの開発は1984年(昭和59年)から開始されたが、困難を極めた。LE-7はLE-5Aに比べて約10倍の真空中推力を持つため、エンジン内部は最高300気圧に近い高圧下で、20Kの極低温から3,000Kを超える高温にまで達する厳しい環境に置かれている。この開発に当たり、原型、実験型(その1)、実験型(その2)、実験型(その3)と4つのモデルにわたって合計16台の試作エンジンが制作されたが、このうち3台は爆発事故によって失われている。また燃焼器の燃焼試験後に行われた気密試験では日本の宇宙開発史上初となる犠牲者も出した。こうした困難に直面しながら、合計15,000秒(合計281回)もの燃焼試験を実施し、1994年(平成6年)に開発を完了した。
  • 第2段には、LE-5Aエンジンが搭載される。これはH-Ⅰロケットの2段目として開発されたLE-5エンジンを改良した液体水素・液体酸素ロケットで、推力は約12t。誘導制御は推力偏向制御と姿勢制御用ガスジェットの噴射によって行う。
  • 固体ロケット(SRB)はLE-7エンジンの補助用として第1段左右に装着される。作動時間は約93秒で、2本合計で約316tの推力を発揮する。誘導制御用にノズルを油圧で動作させる推力偏向制御技術を採用している。
  • 衛星フェアリングは、打上げ前段階では衛星の清浄度維持に、打上げ時には空力加熱や音響などから衛星をまもる役目を果たす。H-Ⅱでは衛星の形態・サイズに合わせて4種類のフェアリング(4S型、5/4D型、5S型、4/4D型)が用意されており、柔軟な運用を可能にしている。
  • H-Ⅰロケットで我が国初のロケット搭載用慣性誘導計算機(IGC)が実用化されたのに続き、H-Ⅱロケット用IGCの開発も1985年(昭和60年)から開始された。これはさらなる高性能化と同時に、小型化、コスト低下、部品レベルでの完全国産化などを目指すものであった。この結果、H-Ⅱロケット用IGCはリング・レーザ・ジャイロを使用したストラップダウン慣性誘導システムとして開発され、2段目に搭載された。これによってロケットは地上からの指令によることなく自動的に誤差を修正しながら目的の軌道を飛行することが可能となった。
  • 2段式
  • 全長:50m
  • 外径:4.0m
  • 打上げ能力:低軌道 約5t、静止軌道 約2t

1号機

 1994年(平成6年)2月4日 H-Ⅱロケット性能確認用ペイロード「みょうじょう」(VEP)軌道再突入実験機「りゅうせい」(OREX)の打上げ成功。

2号機

 1994年(平成6年)8月28日 技術試験衛星Ⅵ型「きく6号」(ETS-Ⅵ)の打上げ成功。(ただし、アポジエンジンの不調で結果として超楕円軌道にしか入らなかった)

3号機

 1995年(平成7年)3月18日 静止気象衛星5号「ひまわり5号」(GMS-5)宇宙実験・観測フリーフライヤ(SFU)の打上げ成功。

4号機

 1996年(平成8年)8月17日 地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」(ADEOS)アマチュア衛星3号「ふじ3号」(JAS-2)の打上げ成功。

6号機

 1997年(平成9年)11月28日 技術試験衛星Ⅶ型「きく7号」(ETS-Ⅶ)熱帯降雨観測衛星(TRMM)の打上げ成功

5号機

 1998年(平成10年)2月21日 通信放送技術衛星「かけはし」(COMETS)打上げ失敗。
 第2段の打上げ後1,410秒目から開始された二回目の点火で、本来であれば1,598秒まで燃焼するところを1,457秒で燃焼を終了してしまった。このため、本来であれば近地点250km、遠地点35,975kmの静止トランスファ軌道に投入されるはずであったところが、実際には遠地点は1,902kmと低くなってしまい、所定の起動に投入することには失敗した。
 第2段のLE-5Aエンジンの燃焼ガスが漏えいしてエンジンコントロールボックス(ECB)の配線が切断され、主弁が閉まったことが原因と考えられている。
 LE-5Aからのガス漏えいの原因としては、燃焼室再生冷却部スロート下流のチューブ間ロウ付け部が、

  • 窓部中央に内面のみのロウ付け部があり、領収燃焼試験(2回目)での低圧燃焼で、亀裂が外側から進展し、フライトでの初回燃焼の停止時に亀裂が開口し、第2回燃焼中に微小漏えいが発生し、これが燃焼中に拡大した。
  • 外筒とチューブ背面間にロウ付けがされてない箇所において、燃焼の繰り返しによりチューブ形状の不整量が増えてゆき、第2回燃焼中に管群の座屈が発生し、内面のみのロウ付け部が開口した。

 のいずれかによって破損したためとみられている。

8号機

 1999年(平成11年)11月15日 運輸多目的衛星(MTSAT)の打上げ失敗。1段目に搭載されたLE-7エンジンが何らかの理由で停止したため、所定の軌道に衛星を投入することができなかった。
 事故後、海洋科学技術センター(JAMSTEC)による残骸の引き上げが行われ、エンジンに燃料を送るターボポンプのインデューサ翼の破損が原因であると推測された。その後、インデューサ単体の水流し試験及び残っていたH-Ⅱロケット7号機用LE-7エンジンの燃焼試験などを行った結果、

  1. 飛行中のタンクの減圧制御により、液体水素ターボポンプのインデューサの翼端で通常より激しいキャビテーションが発生し、設計予測より大きな変動応力が生じた。
  2. 激しいキャビテーションが発生した場合には、強い渦を伴う逆流が、インデューサ直上流にある入口エルボの整流ベーンと干渉し、運転中のインデューサ翼の固有振動数近傍の変動圧力により、翼が共振し、変動応力を発生した。
  3. 8号機特有の条件により、変動圧力が増加し、上記の応力が増加した。これらの応力が引火される箇所に加工跡が存在し、この応力集中により、インデューサ翼に亀裂が発生した。
  4. 疲労亀裂が進展し、インデューサ翼に不安定破壊が発生し、ストールを伴うエンジン急停止に至った。
  5. 破断したインデューサ翼の衝突及びインデューサの接触による温度上昇、圧力上昇により、ケーシングAが破損し、液体水素が外部に漏えいするとともに、エンジンからの逆流が発生した。
  6. これらに引き続きエンジン各部が破損した。

というシナリオで事故が発生したものと推測された。

4.成果

 H-ⅡAロケットの開発に当たり、H-Ⅱロケット5号機及び8号機の教訓として以下のような対策がとられた。

(a)設計に関するもの

 従来のLE-7エンジンでは大物部品は板金加工した部品を溶接して製作していたが、LE-7Aでは鍛造機械加工に、配管エルボはチューブ材の曲げ加工に設計変更するなどして、溶接部品点数の削減を行い、品質の向上を図っている。また配管の溶接も自動溶接に変更し、表裏ビードの形状の適正化や溶接ミスマッチの低減など溶接品質の向上を図っている。
 ノズルスカートに使用しているロウ付けについては、接合率など定量的な判定を行うために、マイクロフォーカスX線検査機を導入して検査を行うことになった。

(b)開発試験に関するもの

 H-Ⅱロケットには設計に加え、開発段階での確認にも不十分な点があったと考えられたため、H-ⅡAロケットでは信頼性向上策として、燃料ターボポンプ(FTP)の水流し試験とエンジン燃焼試験での変動圧等の計測、FTP単体の限界NPSH確認試験を追加すること、エンジン全系シミュレーション解析ツールの充実を図り、高酸素インターフェイス圧力試験などリスクのある試験については事前にシミュレーション解析を行い、より確実な開発に資することなどが主に8号機の教訓として盛り込まれた。

お問合せ先

研究開発局参事官(宇宙航空政策担当)付

(研究開発局参事官(宇宙航空政策担当)付)

-- 登録:平成23年02月 --