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宇宙開発利用

国際宇宙ステーション(山中 龍夫氏、池上 徹彦委員)

 対談する山中氏と池上委員

日時

平成21年3月24日(火曜日)14時~16時

場所

文部科学省庁舎 東館18階 宇宙開発委員会 池上委員執務室

参加者

山中 龍夫(元航空宇宙技術研究所 科学研究官、元横浜国立大学教授)

池上 徹彦 (宇宙開発委員会委員)

メインテーマ

国際宇宙ステーション

(敬称略、肩書きは対談時点)

池上:長年の夢であった日本の実験棟「きぼう」も打ち上げられました。これまでの経緯と山中さんの思いについてお聞かせください。

山中:国際宇宙ステーション(ISS)には長い歴史がありますが、井口先生が宇宙開発委員長に就任された2001年(平成13年)以降については、国際宇宙ステーション担当の委員は川崎元研究開発局長※であったと思いますが、こちらに資料が全部あるのではないかと思っております。

※川崎雅弘氏は2001年(平成13年)8月24日から2004年(平成16年)8月23日まで宇宙開発委員会委員を務められ、利用部会の部会長や国際宇宙ステーション利用専門委員会の委員長を務められた。

池上:以前のものも含めて、資料そのものは事務局でとりまとめておりますが、ここでは資料の間を埋めるような、肉づけするような、血が通ったインタビューになればいいと思っています。

山中: 私は今、宇宙航空研究開発機構(JAXA)からの依頼 で「我が国の宇宙環境利用開発制度の構築、参加研究者からの視点での分析、評価、経験と教訓」という文章をまとめています(※1)。後半の部分が大変やっかいで苦労していますが、私が書きかけの文章を見てもらいますと、「5.宇宙環境利用研究においての我が国の方針」で、「宇宙ステーション取付型実験モジュール(JEM)利用の基本方針」とあります。これは宇宙ステーション部会が1992年(平成4年)5月にとりまとめた報告書で、私たちの部会(※2) の前の部会のものですね。この報告書でもって宇宙ステーション部会はクローズドしましたが、この報告書の中には、「汎用的・共通的な実験装置や実験支援装置は宇宙開発事業団が中心となり、一元的に開発整備する」と書かれてあります。
 また1996年(平成8年)改訂の「宇宙開発政策大綱」を見てみますと、「きぼうは我が国初の軌道上研究所として位置づけられる」とし、「軌道上研究所を中核とする総合的な研究体制を構築し、宇宙環境利用の分野における研究と関連技術の開発を進める」「新たな知見の獲得や新しい産業の鍵となる技術の創出に大きく寄与する」としています。研究体制については、「大学、国立試験研究機関、民間等のできる限り幅広い分野からの研究者が参画する研究体制を整備する必要がある」とした上で、「きぼう」の効率的利用や利用拡大に資するため、「宇宙開発事業団を中核とする支援体制を整備し、実験装置の安全性・搭載性の実証、研究成果に関するデータベースの整備、研究機関間の情報ネットワークの整備等を進める」としています。ここまでは我々の部会の前に既に決まっていました。
 それを受けまして、我々の部会でやったのは、宇宙環境利用研究に対する公募地上研究制度を作ったこと、そして、宇宙開発事業団(NASDA)に宇宙環境利用研究システムと宇宙環境利用研究センターをつくりました。立派な研究者であった井口洋夫先生がシステム長をやられましたね。

※1:対談当時、JAXAでは井口洋夫顧問を「取りまとめ代表者」として「国際宇宙ステーション(ISS)計画参画活動史」の編纂活動を進めていた。
※2:1995年(平成7年)~2000年(平成12年)の間設置された宇宙環境利用部会(山中先生は部会長を務められ、池上委員も委員として参画された)

池上:私は、事業団は設備作りとその保守が使命であって、科学研究までやることについては、当時は反対でした。

山中:要するにシステムをつくり、センターをつくる。システムで研究を推進し、センターでそれを支援するやり方です。そのほかに国際公募に参加することや、応用科学研究に関しては、先導的応用化研究を始めることにしましたね。ここで我々の部会は終わっています。

池上:ここに宇宙環境利用部会の懐かしい名簿がありますが、1995年(平成7年)発足のものですね。

山中:1992年(平成4年)に宇宙ステーション部会がとりまとめた報告書を受けて、1996年(平成8年)1月に「宇宙開発政策大綱」が改訂されるよりも前に、この部会はスタートしています。

池上:私はNTTにいたときにこのメンバーになりました。当時の山口開生委員長代理に呼ばれまして、宇宙開発を大学の先生だけに任せておいたらあぶない。おまえ、加われと言われました。何をやるのですかと聞くと、「民間企業を巻き込め」ということでした。「わかりました」ということで、製薬会社等が、乗りやすいような提案をいたしまして、一応、そういう方向に進みました。
 宇宙環境利用部会に出席してわかったことは、「宇宙実験室を活かして使うことはなかなか難しい、イノベーティブな考え方やとんでもない天才的な発想がないとうまく使えない」ということでした。そこで、いろいろ苦労しているわけですね。

山中:それまでに、すでにスペースラブの実験がありますからね。

池上:となると、宇宙環境利用部会は非常に難しいことをやる部会だな、相当頑張らなければいけないと覚悟したことを今でも覚えています。当時、候補としてもいろいろ挙がっていましたが、先生の印象はいかがでしたか。燃焼の問題、流体の問題、当時は結晶成長の問題もありましたね。

山中:これについては、「宇宙環境を利用した物質科学、新材料生成、物理、化学現象の解明に関する研究領域」という添付資料が部会の報告書にあり、いろいろとあって、「こういう研究は意義がある」としていますね。意義があるということをどう解釈するかはまた別の話ですが。

池上:方向としてはいいけれども、具体的なプロジェクトを考えると、大きなインパクトのあるものは少ないという印象は、ございませんでしたか。

山中:私自身はタンパク質絡みですね。今度、クラゲの研究でノーベル賞を受賞しましたが、ああいうような話は、いろいろ見方はありますけれども、ひたすら努力する話ですよね。ところが国際宇宙ステーション計画というのは、スペースラブにしても国際宇宙ステーションにしても、「サイエンス・プロダクティビティー」という表現を使っていますが、本当にいいのかと思うことがあります。
 元々この国際宇宙ステーション計画が始まったときには、スペースシャトルをつくりますよ、ついては、そのコストはロケットの10分の1ですよ。しかも1週間に1回は飛ばしますから、年間300回は飛ばしますよということで、なるほど、安くて何回も実験ができれば、それはサイエンス・プロダクティビティーが上がりますねと思いました。しかも、国際宇宙ステーションのように人間が長くそばにいるなら、場合によってオンボードでやり直しができるのではないかということであったのです。
 ところがNASA(米国航空宇宙局)のこのような明快な話は、少なくとも宇宙ステーション部会が始まる段階では、そういうスペースシャトルを頻繁に飛ばすという話は、消えていて一切ないのです。

池上:そうでしたか。NASAのスペースシャトル利用計画は、1986年(昭和61年)のチャレンジャー号の失敗の後、軍関係はおりた、民間もおりた、あとはサイエンスでやるしかないとなり、そこで国際宇宙ステーション計画を強く言い出した経緯がありました。日本では、サイエンスを目的にしてということではなかったですか。

山中:宇宙環境利用部会で最初に私たちがいただいた課題は、軌道上実験室として運用しなさいということでした。軌道上実験室で何をアウトプットするかと・・・

池上:そこまでは考えなくてつくってしまったということですね。

山中:つくるということに決めた。

池上:確かにまずは器がないとできませんからね。今、NASAに関するレポートを見ていますと、スタートのときから「とにかくつくろうよ」ということが優先していて、その中で、それをどう使うかということは、むしろ科学者のコミュニティー、あるいは産業界にお任せという感じが非常に強かった。当時、それはやむを得なかったのでしょうか。

山中:要するに、1972年(昭和47年)にスペースシャトルをつくるとアメリカが決めた訳です。実際に飛んだのは1981年(昭和56年) ※ ですが、1972年(昭和47年)につくると決めたときに、NASAは『アウトルック・フォー・スペース』という本を出しました。それは何かというと、スペースシャトルを使ってどういうビジョンが描けるかということをまとめています。
 その中には当然、国際宇宙ステーションもありますけれども、一番私が関心を持ったのは、要するに新しい材料ができるのではないかということです。新しい材料ができることによって初めて、産業が生まれたり技術革新がなされたりする。実際にそういう実験はアポロ計画でもやっていますし、スカイラブでは日本の研究者も参加して実施しました。
 そういう認識が、マイクログラビティー(微小重力)を使った材料製造に絡んでいて、その中から新しい技術が展開するのではないかという希望をみんな持ったわけです。よくわかりませんけれども。

※1981年(昭和56年)4月にスペースシャトル(コロンビア号)が初飛行に成功。

池上:私がNTTの研究所の所長をしているときに、そこへの期待はやはり大きかったです。真空については、真空技術のおかげで地上の方がいいということがわかりましたが、微小重力環境で新しい材料が生まれるのではないかということについては、非常に期待していました。第一次材料実験の「ふわっと'92」でガリウム砒素の結晶生成をやりたいという研究者に、やれと、すぐにゴーサインを出しました。

山中:高橋仙之助先生が最初にそういう重いものと軽いものとをまぜてみて、うまく混合できた、重力の影響がないということで、ガリウム砒素など、密度の違ういろいろな化合物半導体ができるのではないかということで、みんな期待していたわけです。

池上:それとやはりタンパク質ですね。

山中:タンパク質はそれからしばらくたってからです。もともとは化合物半導体ですが、そのうちに、要するに巨大分子には可能性があるのではないかということで、そこでタンパク質の結晶化が非常に注目されるようになりました。
 実際、私がJAXAから依頼されている文章の中で一番悩んでいるのは、「参加者、研究者からの視点での分析と評価、経験と教訓」をどう書くかです。

池上:1つは、打上げ計画がどんどん遅れたことが、研究者のやる気を下げたということはありませんでしたか。少なくとも4年間ぐらいで研究成果がでないと、ドクターは論文を書けない。

山中:考えた人が実験できませんからね。跡を継ぐ人ですから、変わってしまっていますからね。ずっと続けて跡を継ぐなら完全に後継者ですが、完全な後継者ではない人が同じ点をやらざるを得ないという状態ですからね。サイエンス・プロダクティビティーと表現しましたが、根本的にそういう問題でギャップができてしまっているのです。

池上: 宇宙環境利用部会のメンバーだった黒川清さんと私は、とにかく優秀な研究者を引きつけておく必要があるということで、相当、努力はいたしました。ところが優秀な研究者が「5年で打ち上がらないのだったらやめた」と抜けてしまう、これは大変だと思いました。

山中:その対策として地上研究や落下施設、飛行機、ロケットなども結構やっていましたね。それぞれいい成果も出しているのですが、いい成果が出ても、「それで何だ?」と言われると困ってしまう。学問的には実験データが得られれば論文が書けるでしょうから、論文はすごい数があると思います。このマイクログラビティー・サイエンスというものができてからの論文は。しかし、「それで何だ?」と言われても。
 例えば私が一番驚いたのは、細胞培養装置がありますが、あれはものの細胞によっては地上の千倍もの生産性が上がったというのです。では1g持っていって1kg持って帰って、そういう量が問題になるのは実際に民間の実業産業の方ですが、「それが何だ?」と言われると、みんなはたと困ってしまうということですね。
 良い結果は、知識、知見としては、たとえ失敗を含めても、それに関する知見は得ているのです。しかし「それで何だ?」と言われて、どうやって評価するのですかと言われると、「目的が書いていない、目標が書いていないではないか。それでは評価ができないではないか」となるのです。確かにどう見ても意義しかないのです。意義だけでどう評価するのだ、となるのです。意義が高い、低いということで満足していただけるなら楽ですが。

池上:私はそれについては割と鷹揚で、他に例をとると、科学技術基本法により基本計画ができまして、第1期、第2期で約40兆円を大学・国研等につぎ込んだことになっています。ではそれに見合うだけの成果が出てきたかと言われると、すぐには答えは出てきませんね。
 それに比べれば、結構成果が出ているのではないかと、私は思いますが。

山中:国際宇宙ステーションに関しては、最近ははっきりと、NHKの解説者までが、「現在まで6千億円以上使っている、これから10年間結構使いますよ」ということを言うようになっています。私などは、それにどうやって答えるのですかと、これは散々今、JAXAの連中と議論しています。

池上:恐らくこれからの問題と今までの問題があって、これからの問題はそう容易ではないですね。できてしまって、10年間どうするのですかということについてとなると、難しい。ただ、これまではそれなりの成果が出てきていると、私は言っていいと思います。

山中:そう言っていいと思います。間違いなく知見は得られていますし、結果も得られています。失敗も1つの知見です。そのときにどうすればいいかという、1つの知見です。知見については、部会報告書の添付資料にある「意義」に沿って、たくさんのことが書けます。
 ただ、「それでどうなのですか。これから毎年400億円、10年間投資して」と言われたときに、それは少なくとも、私どももリタイアして10年以上たっているので、それは私が書く話ではないでしょうね。書くならJAXAさんが書くのでしょう、と言っています。

池上:実際、JAXAの皆さんは中にどっぷり浸かってやっていましたが、もう少し離れた立場でどうだったかということを、この対談では浮き上がらせたいと思います。
 1つ私が言えるのは、地上設備で結構なことができてしまったことではないでしょうか。少なくともタンパク質の結晶について、我々の一番の「敵」は、やはり大型放射光施設(SPring-8)です。小さな結晶でもその構造がわかってしまうわけです。以前は大きな結晶をつくらないとだめだというので、それでは宇宙でつくりましょうという話でした。
 科学技術全体が進んでいる中で、当初、言われていたものがほかの手段でもできるようになったということは、事実としてあると思います。

山中:実は「先導的応用化研究」の関係をまとめたものは、私の手元にもインターネットを開いても全然ありませんので、この結果を何らかの格好でまとめたものを見せてくださいということを、JAXAに言っています。
 しかし、私が見聞きするところでは、タンパク質が小さくても、地上でできないものが結構あります。小さくてもSPring-8にかければ分析できますから、そういう意味で、タンパク質結晶育成に関するすばらしい知見がたくさん得られているわけです。Spring-8は別に敵ではないのです。小さくても相当よい分解能で、SPring-8で解析できると。

池上:実はSPring-8自体は和歌山の例の砒素事件で、砒素の分析で脚光を浴びました。ツールは一般にはなかなか理解されませんが、幾つかの成功例があるといろいろな分野の方も使うようになる、そこでタンパク質についても相当わかるようになった。
 ただおっしゃるように、確かにまだ宇宙環境でないとできないものは当然あるのでしょう。それについては今後の課題であり、アメリカも今、国際宇宙ステーションについても、基礎研究的な貢献はあるだろうということを認めていまして、バイオ関係、タンパク質関係、あるいは材料関係を挙げています。

山中:最近のことは全然わかりませんが。

池上:したがって、それはそれであるのではないかと思います。ただ、過去をふりかえると、微小重力実験はミールでも相当やっているわけです。スペースシャトルの中でも、いろいろできた。そこでなぜ、国際宇宙ステーションをつくったのですかね。

山中:スペースシャトルの実験のレポートを見ますと、やはり「時間が短かった」というのが結構多いです。したがって「結晶が小さい」ということも、時間が短いのである程度加速実験をする、そうするとよくない検証もたくさん出てくるわけです。じっくりやるなら……。

池上:そういう点からすると、今言われたように、今の国際宇宙ステーションでなければできない実験のテーマはまだたくさんあるはずですね。例えば向井千秋さんはメダカをやっていますが、長い時間をかければ複数世代の変化がわかる。浅島さんもカエルをやっていますが、生物の進化まで言えるかどうかはわかりませんけれども、それについてはやはり長い期間でやらなければいけない。これはスペースシャトルではできませんね。

山中:水棲生物実験装置は、日本は大変誇るべきだと思います。

池上:あれはよくできている。

山中:メダカはまさに無重力でも何の影響もなく交代できるのです。ところが金魚や鯉ですと、どうも宇宙酔いをすることがわかってきたわけです。それは非常に重要なことで、ではこれが、世代交代が何代も続いたらどうなるのかということは、大きな課題です。これはわかってくるに違いありません。

池上:それはできますね。先日、「宇宙と人間」というシンポジウムで土井さんが、「形状を見れば、ロシアは潜水艦の技術だ。NASAのあれは航空技術だ。宇宙開発と海洋開発の融合や協力を考えるべきだ。」と言っていました。確かに航空機のような四角い空間です。「船舶技術が進んでいる日本は、有人宇宙インフラでも随分、貢献するのではないか」という言い方をしていましたが、確かに実験装置はよくできていますね。

山中:少なくともミールよりははるかにいい。

池上:私は先日、「きぼう」にとって最初の打上げであるSTS-123に行きましたが、アメリカの連中が、「日本の実験装置はよくできている」と言うのです。少し気になったのは、これは褒め言葉ですけれども、「盆栽あるいは箱庭のように立派だ」と言うわけです。
 私に言わせれば、盆栽、箱庭は地面に根を張っていない、大きな木にはならないなということは気になりますけれども、少なくとも実験設備について言いますと、ベンチャーなどを使いまして、「あれは本当にすばらしいものができている」と、少なくともアメリカの連中は言っています。これはヨーロッパの連中も同じように見ています。

山中:それはマイクログラビティーの成果ということですか。

池上:マイクログラビティーの成果というよりは、実験設備そのものです。

山中:いろいろなベンチャーがありましたね。

池上:「過剰投資」と言われてしまうと、これもまたよくわかりませんが、それはやはり世界のトップクラスではないですか。アメリカなどにはなかなかできないものができています。

山中:実際、NASAやカナダには、私が部会長をやっていたころはそういうベンチャーがたくさんいました。

池上:今になってみると、「日本のベンチャーはさすがだ」と言われるようなものが、宇宙に存在していることは事実です。問題は、それを使って何が出てきますかという話が次に出てくる。

山中:これからの話ですが、私はJAXAの人に、少なくとも今までの成果がある程度まとまっているわけですから、それをもとに少しビジョンを描いたらどうだと言っています。国民に対してどう説得するかということです。今後の10年間でどういう可能性があるかということを描いたらどうですか、という話をしています。JAXAの人はたいてい、「お金がありません」と言う、お金がないと何もできないと思っています。

池上:それはまた後ほど議論したいと思いますが、日本全体で問題がありまして、「お金と設備があれば、それに見合う仕事をする」というのが日本の研究者のマインドです。アメリカの連中は、「金がなくてもやりたいことはやる」という発想があり、そこは少し違うような感じがします。

山中:もう1つ、今度曝露部がつきますね。一番国民に説得力があるミッションであるとすると、太陽から受ける熱、宇宙から受ける熱と、地球が宇宙へ放散している熱を本当にはかってみたらどうだと思います。実はこれは何年ごろか、宇宙開発委員会の最初の長期ビジョンのメンバーになったときに、アウトルック・スペースなどいろいろ読んだときに、NASAがそういう実験をやったのです。
 人工衛星を使って、地球からの熱放射と、宇宙から地球に向かってくる熱放射をはかり、足し算引き算をするというものです。ところが失敗しているのです。失敗だということになっているのですが、私はNASDAの人に、なぜ失敗したかフォローしなさいと言いましたが、やはり「お金がない」とかどうのこうのと。
 あくまで私の想像ですが、熱輻射をはかるのは大変難しい話です。なぜかというと、例えば私がここをはかろうと思っても、私からもここからもたくさん熱が出ています。宇宙でも同じで、人工衛星があって、人工衛星にどういうセンサーをどこにつけたか知りませんが、人工衛星のいたるところから熱輻射は出ているので、それを宇宙からのものと地上からのものとを分別することは不可能です。
 私の想像ではそうだろうから、あの曝露部ではテザーが出せるのではないかと思うのです。テザーでうんと高いところや低いところに離してセンサーを置いてみて、国際宇宙ステーションからの熱放射を何とか避けるようなことを設計してみたらどうだ、そうするとその可能性はあるのではないかと思うのです。
 すると、「お金がないからできません」ということと、もう1つは、「そういう話をしても地球観測の科学者はだれも乗ってくれません」と言うのです。そんなばかなことではだめだ、ちゃんと技術屋がそういうものをつくって乗せなければいけない話だ、という話をしています。
 実際に、地球温暖化、地球温暖化と言っていても、あれをはかっているのはCO2だけです。今度、日本も衛星を上げました※が、CO2は本当に温暖化ですか。冷えるという説もありましたよ。
 例えば1982年(昭和57年)、カーター大統領が出した『10年後の世界』というような本の中に、地球は温暖化するか冷却化するかということを世界中の気象学者を集めて1章書いています。そのときに、当時もCO2が増えることはみんな理解していましたが、50%50%で、意見は完全に2つに分かれたのです。温まるという人と冷えるという人がいたわけですが、実際に測ってみるのが一番いいのです。10年測れば相当マッピングできます。一番人口密度の高い領域を回りますから、それが一番わかるのではないかと言っているのです。例えばの話です。

※温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)。2009年(平成21年)1月23日打上げ

池上:継続的なデータをとるには国際宇宙ステーションはいいですね。

山中:人工衛星は寿命が来ますが、調子が悪かったら戻してまた……ハッブル望遠鏡と同じですよね。スペースシャトルの一番の成果は何かと、世界中の科学者にアンケートを取ってみると、圧倒的にハッブル望遠鏡だといいます。

池上:今もNASAはそうです。一番の成果は、どちらかというと国際宇宙ステーションよりはハッブル望遠鏡ですね。

山中:世界中の物理学者から、「ありがとうございます、どうかやってくれ」と、頭を下げられているのですから。国際宇宙ステーションでしたら、ハッブル望遠鏡と同じように10年間は継続できます。

池上:それは確かにそうですね。CO2ガスの効果の検証に、今、重要なものは継続的なデータです。エアロゾルももちろんそうですし。

山中:それこそまさにCO2に対するデータと比較すれば、もっともっと根本的な長期の気候変動に関する話が積極的にできるのではないですか。

池上:ところで、1999年(平成11年)に開かれた日本の国際宇宙ステーション研究開発に対する評価委員会※についてお話をしたいと思います。NASAのヤングさんが委員長、山中先生は副委員長でしたが、この評価委員会は大変でしたね。部外からの委員として参加した私にとっての驚きは、宇宙開発委員会とは一体何だという議論で、調整機関という話になってしまった。この最終報告書にあるリコメンデーションを見ると、宇宙開発委員会で国際宇宙ステーションについてきちっとしたプランをつくっていかなければいけないとなっている。

※「国の研究開発全般に共通する評価の在り方についての大綱的指針」(1997年(平成9年)8月7日付内閣総理大臣決定)の中で、大規模かつ重要なプロジェクトの評価は、研究開発を実施する主体から独立した組織により実施されることが必要であるとされたのを受け、宇宙開発委員会は国内外の有識者により組織された「国際宇宙ステーション計画評価委員会」による評価を1999年(平成11年)に実施した。山中先生と池上委員は共にこの評価委員会のメンバー。

山中:これは当時の科学技術庁、宇宙開発事業団に向けてのリコメンデーションです。これに対するレスポンスはなく、これは出っぱなしです。

池上:これはある意味では行政に対する批判であって、今になってみると適切な勧告でしたが、それに対して宇宙開発委員会はきちっと答えていないし、現時点でも「国際宇宙ステーションをどうするか」について、一般の方が理解できるような明快な方針は出ていない。

山中:結局、日本が国際宇宙ステーションの計画に参加したときの目標、目的について、いろいろな意義があるようだが、優先順位はどうなっているのだ?と言っているわけですが、それに対する答えはないのです。
 要するに意義として、「宇宙環境利用の意義」、意義があるだけです。これが宇宙開発政策大綱(平成8年1月改訂版)にあります。議論の中では、例えば「知的フロンティアの拡大」などという話があり、部会報告書にもあります。こういう説明ができなければ、なかなか国際宇宙ステーションとは何だという議論はできないのではないかと思っています。

池上:なぜ宇宙開発委員会も明確な方向を出さずに今までやってきたのでしょうか。

山中:結局、宇宙開発委員会は調整機関ですから……。

池上:ポリシー・メーキングではないという議論になってやりましたね。

山中:要するに宇宙開発事業団がこれをやりたい、宇宙科学研究所がこれをやりたい、通産省がこれをやりたいということを調整するという意味です。

池上:結果的には各省庁が言っていることをオーソライズすることになったのでしょうか。

山中:結局、予算で調整されるのでしょうね。大蔵省が調整したということになるのでしょうけれどもね。その参考資料として宇宙開発委員会の議論なり、大綱などは使われてきたでしょうね。

池上:この議論は、少なくとも私個人にとっては非常に役に立ちました。私はこれ以降、他機関の評価委員会の委員長をやっていますが、すべて1999年(平成11年)の評価のやり方をベースにしています。ニューファインディング、リコメンデーション、ニューファインディング、リコメンデーション、私はこのやり方は、未熟な日本の評価システムについて、ひとつのひな形である感じがします。
 日米の発想の違いもあり、例えばHTVについて我々は議論しましたが、そのときに分かったことは、HTVで一番重要なことについて、NASAからの委員は、接近したときに何が起きるか、つまりは安全性が重要であると言うのです。ところが日本では全然そういう意識はなかった、少なくともNASDAにはありませんでした。

山中:私は最近になって初めて知りましたが、実は去年の航空宇宙学会誌11月号にNASDAの人が、技術試験衛星Ⅶ型のランデブー・ドッキング実験、これがいかにすぐれているかという論文を書いています。
 というのは、昨年、NASAとアメリカのエアフォースがランデブー・ドッキング実験を衛星でやるのに失敗をしたようです。それでNASDAの人が、「技術試験衛星Ⅶ型で日本はちゃんとこういうことをやっている、すばらしいことである」という話を書いたわけです。その一番もとを頑張ったのは、アイデアは私が出しましたけれども、斉藤勝利さんが一生懸命NASDAの中で金をつくり、それで頑張っていたのです。
 ところが後でいろいろ読みますと、結局、HTVに至るには、もともと三鷹の航研で始めた研究ですけれども、それに斉藤勝利さんが参加して金をつくったので、三菱電機が参加してくれたのです。そのおかげで、まずSFU※のランデブー・ドッキングに使って、これはうまくいきました。ここで非常に重要なことは、SFUのランデブー・ドッキング実験は、結局、有人仕様なのです。

※宇宙実験・観測フリーフライヤ(SFU)。1995年(平成7年)3月18日にH-Ⅱロケット3号機により打ち上げられ、1996年(平成8年)1月、スペースシャトル「エンデバー号」のSTS-72ミッションにおいて、若田宇宙飛行士のロボットアーム操作により回収された。

池上:それは、知りませんでした。

山中:有人仕様で日本は成功しているのです。その次に技術試験衛星Ⅶ型ですね。それから随分経った去年になって、多分、スペースシャトルも最近は芽が見えないというので、NASAとエアフォースがランデブー・ドッキング実験をしたら、全部失敗してしまった。それで日本はすごいと。
 HTVはちゃんと成功しなければいけませんが、成功したのなら、日本の国民に向かっては、要するに日本の有人技術はこれほどすぐれたものであるということを、ちゃんと宣伝できるのだということを、今私は言っています。

池上:少なくともここの時点では、我々が評価したときは、その辺についてはほとんど議論されていなかった。私にとって非常に印象的だったことは、2日目にヤングさんが、「HTVは日本だけではなく世界中で使えるかもしれない」ということを言っていましたが、1日あけてみたら非常に消極的な発言になったことです。HTVはアメリカも使うかもしれない、世界のいろいろなところがユーザーになるかもしれないという意見をパタッと止めてしまったのです。ひょっとして、NASAに電話をして、「そういうことを言うな」と言われたのかと思うぐらい、突然、発言を変えました。

山中:今はしかし、アメリカ側はNASAもエアフォースも、アメリカの宇宙の主要な部隊は、日本の技術を尊重する立場になりました。

池上:NASAのスペースシャトル関係者が、先日HTVを見学に来ましたが、「フードを運ぶことが一番重要である」といって、HTVに期待していると言っていました。

山中:その技術をやったのが三菱電機です。要するにSFUから技術試験衛星Ⅶ型から今度のHTVまで全部そうです。

池上:日本にはその辺の知識が相当あるのですか。

山中:だから日本はすばらしいのです。宇宙飛行士も、土井宇宙飛行士が例の衛星(※1)をつかまえてちゃんと戻しましたね。アライメントをちゃんと終えてきたことで、彼は非常に高く評価されているはずです。今、上がっている若田さん(※2)も、こちらのロボットでこうやって、あっちのロボットでこうやってと、ちゃんとやっています。彼しかできないから彼だというのでしょう?
 今、有人宇宙を勉強しようということになっていますが、今や世界に冠たる実績を残してきたではないですかと、国民にちゃんと説明できるのではないですか。

※1:土井宇宙飛行士は、1997年(平成9年)11月のスペースシャトル「コロンビア号」のSTS-87ミッションにおいて、日本人初の船外活動を実施し、スコット宇宙飛行士とともにスパルタン衛星(太陽コロナ観測衛星)の回収に成功した。
※2:この対談が実施された2009年(平成21年)3月24日の時点で、若田宇宙飛行士は国際宇宙ステーションに長期滞在中であった。

池上:国際宇宙ステーションをもし日本がやらなければ、日本のプレゼンスは世界の中でなかったかもしれません。もう1つは、おっしゃるとおり私も、今のJAXAの中で一番国際化している人はだれかと言われたら、やはり宇宙飛行士です。向こうの連中と一緒に仕事をして、ある意味では命をシェアしながらやって、彼らの実力がすごいということを向こうの連中は認めています。それが土井さんであり、若田さんです。
 私がよく冗談で言うのは、宇宙飛行士が帰ってきたときにいろいろなところを引き回すよりは、彼らの意見をむしろJAXAの幹部がよく聞いて学ぶべきだと思います。現実ではそうはならなくて、彼らが青い服を着てあいさつ回りさせられていることを、私は少し残念に思っています。

山中:今のJAXAが、ちゃんと評価が定まっている日本の宇宙飛行士のすぐれたところを国民に向かってPRすべきではないですか。1999年(平成11年)の評価報告書でも「広報をちゃんとやりなさい」と書いてあります。特にアメリカなどは有人をスペースフライトの一番の看板にしていますから、「もっと広報しろ」というのはそういう意味です。

池上:それは私も賛成です。日本人が自信を持つためには、日本人宇宙飛行士がアメリカからどれだけ評価されているかを知ることが必要だと思います。

山中:アメリカだけではなく、国際的にも評価されています。

池上:その辺のPRは、まだ十分には…

山中:私はテレビで見るぐらいですけれども、やれ、のれんをかけたとか、何かを浮かしたという話ぐらいで、どちらかというとそういう話は全然出てきませんね。やはりどれほど優れているかという話は、JAXAが広報すべきです。

池上: JAXAは十分にやっているつもりでいますが、少なくとも外からは、残念ながら十分とは思えません。

山中:もっと評価すべきだと思います。この前、宇宙飛行士を取材しましたね、そのときに彼らがいかに優れているかという話をちゃんとしているのです。日本の宇宙飛行士はもう何人飛んで、国際的にはどういう面ですぐれているかということをちゃんと言うべきではないかと思います。
 例えば今、WBCで野球をしていますが、アメリカの野球はとにかくおおざっぱで、日本は緻密な野球をやっていると言われています。同じように土井さんも、きっとああいう状態で緻密な、例えばアライメントをとるという話だと思いますけれども、それは緻密な性格でないとできませんし、若田さんのロボットアームについても、こちらのロボットアームを使って、こちらのロボットアームでもちゃんとしてということは、きちっと緻密でないとできません。
 日本の宇宙飛行士はこういう優れた面を持っているのだという話を、国民に向かって話さないといけないと思います。なぜ宇宙飛行士ですか?という質問を受けて困っていると、地元の連中が言っています。今度の野田大臣が宇宙担当大臣になったときも、国際宇宙ステーションには余り金を出したくない、余りリターンのないものにはということを言っていましたね。けれど何がリターンなのか、定義していないのです。すぐれた宇宙飛行士が活躍していることは、大きなリターンです。そういう認識がないのではないかと思います。

池上:毛利さんや向井さんのお話を聞くと、「自分たちは研究者として乗った」と言っています。ペイロードスペシャリストですね。ところが今は違う、オペレーションもできる人間が乗っているということですね。

山中:第一次材料実験での私の実験※は、実は毛利さんが担当することになっていました。ところがアメリカの女性がやって失敗したのです。不器用なのでしょうね。私の部下がアラバマ州のハンツビルにいるので、上といろいろやってもらって、2回目は毛利さんにやってもらったところ、前の失敗は取り戻せませんでしたけれども、少なくとも私が一番欲しかったデータはちゃんと取ってくださいました。ああいう実験はやはり毛利さんがやってくれないとだめだったなと、今でも思っています。

※1992年(平成4年)9月にスペースシャトル「エンデバー号」により実施された第一次材料実験(FMPT)「ふわっと’92」では、山中先生が代表研究者をつとめた「音波浮遊装置内での液滴の挙動と音波干渉履歴の研究」が実施された。

池上:聞いてみると、最初の日本の宇宙飛行士の3人はNASAから理解されずいろいろ苦労があったようですが、今の皆さんは、彼らがいないとロボットもちゃんとコントロールできないとなり、NASAの心臓部に入っています。国際宇宙ステーションのメンテナンスという点で、アメリカにとって非常に重要なスタッフであることは事実です。これをPRすべだと思います。

山中:ちゃんとそういう話をしていただけば、宇宙担当大臣も違うコメントが出たのではないですか。

池上:これからを考えると、国際宇宙ステーションを維持するのに年間、日本は400億円かかると言われ、アメリカでは1千億円はかかるといわれていますが、そういう中でどうするかという話は、いかがですか。建前上、日本は少なくとも出来てから10年間使う必要がありますから、約4千億円必要になります。既に6千億円かけているとすれば、約1兆円を越えるものが必要になります。それを国民にどう説明したらいいかということですが。

山中:宇宙環境利用部会が1996年(平成8年)7月にまとめた「宇宙環境利用の新たな展開に向けて」という報告書の中では、「知的フロンティアの拡大」という議論がでてきます。この言葉は宇宙開発政策大綱には出てきませんけれども、フロンティアの拡大は重要だと思います。
 前にJAXAの編纂会議※で議論したのですが、かつて「国を発展するにはどうしたらいいか」とマキャベリがメディチ家に問われたときに、「それは正義と力だ」と彼は答えています。彼が言う正義とは、国民をまとめるため、要するに不公平であれば国民は皆、荒れますから、国民が一致するためのもので、もう1つの力は、当然、軍事力です。
 ところが現在、我々はそれをどう言うかというと、正義については、国際的に市民を指導する役割をするものだと思います。もう1つ、力とは何かというと、国の大きさや国民の数、経済力と軍事力などがありますけれども、私は「フロンティアに対する投資力」を考えるべきではないかという話を、前々回のJAXAの編纂会議で言いました。「知的フロンティアの拡大」とはまさにこれです。
 経済力、軍事力では国は大きくできませんし、人間もそう増えません。かつて国際宇宙ステーションを始めるとき、「国際的な先進国の一角を日本も占めるのだ」という話がありましたが、この一角を占めるというのは、まさに知的フロンティアの拡大に日本も挑戦していくということです。
 要するに国の力とは何かと問われた時に、その中にちゃんとこういう活動も入れるような方向付けをしていかなければ、今度はだれが大臣になるかわかりませんけれども、なかなか理解してくれないと思うのです。

※「国際宇宙ステーション計画参画活動史」の編纂会議のこと

池上:今流で言うと、ソフトパワーですね。

山中:まさにソフトパワーです。ソフトパワーの中身を定義して、こういうものが当該国にとっては重要ですよと、こういうものに対する定義をちゃんと常時、国民に知らせておく必要があるのではないですか。そしてその上で、当面、国民にとっては、あの国際宇宙ステーションを10年使って、どういういいことを見せてくれるでしょうか、トライしてくれるでしょうか、ということではないですか。

池上:その通りです。

山中:その遠くに火星があろうが、月があろうが、それはそれとして、とにかくあの舞台、あれは芝居小屋です。どういう芝居をやるシナリオを書いてくれるのですかと。

池上:うまい使い方をしてくれる人がいるかどうかです。国際宇宙ステーションは財政が厳しい米国にとって今や荷物になっている感じがあります。

山中:日本もこのままではある意味ではそうなるかもしれません。
 やめるなら話は別ですが、あそこにああいう芝居小屋をつくって10年運用する以上は、どういうシナリオをつくり、どういう芝居をプロデュースするかにかかっています。

池上:先生、何かアドバイスしていただけませんか。

山中:先程の話で、テザーを使ってちゃんとCO2を測ることも重要であると思います。熱のインプット、アウトプットは物理学の基本ですから、熱をきちっと、地球に対して本当にあるのかないのか、これをやることは今までだれも心がけていませんね。私は、JAXAなら分かるから、何が失敗かちゃんと調べなさいと言っています。私が想像したように、衛星の近くで熱輻射を測るなどというのは、絶対に精度は出ないのです。
 物理工学の杉江先生の講義を聞きましたが、彼が言っているのは、熱輻射を測るほど難しいことはない、学生の卒業研究で測らせるけれども、まずほとんど精度が出ない、と言っているのです。それはそういうことです。NASAがやると言うので行くと、どうもうまくいかなかった。では国際宇宙ステーションでならば可能性はあるのではないのかと思うのです。

池上:かつて、我々がやったように真剣に議論する必要があるのでしょうね。

山中:15年も前の話ではなく、現在いろいろな実験装置がありますから、それをベースにもう一度、ビジョンをつくってみたらどうですかと、はっぱをかければいいのではないですか。それがある程度皆さんに認知していただけるなら、そのビジョンに乗ってできることをどんどんやっていく以外にないのではないですか。

池上:それとプラスαとして、やはりこれからの有人宇宙飛行とのつながりが必要です。生身の人間が宇宙に行く意義ですね。国際宇宙ステーションに若田さんや野口さんが3カ月、6カ月滞在する意義、そこはやはり月に行くことですか。

山中:もう1つ私がJAXAに言っているのは、要するに昔、ヨーロッパは紙の国ですね。エンサイクロペディストが出てきて辞書をつくりましたが、あの辞書はほぼサイエンス&アーツです。サイエンスは当然ですけれども、アーツはテクノロジーです。それでヨーロッパはどうなったか。いろいろな文学者の本を読むと、あれで国民国家が形成されているのです。そのほかに産業革命など、いろいろな知識体系のもとに人類が自由に動き出した、ヒューマニズムが動き出したことの結果が出てきているのです。
 では今度、我々は新しい知見を求めるのだと言っているので、それがきちんと世の中の人に理解できるような辞書というものができたときに、要するに地上のものと違う現象が既にたくさん見つかっているので、その現象の意味をどう考えるか、ということをもう一度見直すべきではないかという話をしています。
 そうすると、かつてエンサイクロペディストたちがやったような仕事が、次の将来に向かっての基盤になるのだろうと思います。エンサイクロペディストが出版してから産業革命が起こるまでに、たしか100年ぐらいかかっていると思います。ところが今や半導体のICが発明されてから今のITが出るまで、ほんの20~30年ですね。ということで、その延長の可能性はないのだろうか。

池上:エンサイクロペディアとなると、啓蒙主義的な発想ですか。

山中:彼らは啓蒙主義者ですが、全く新しい知識体系が、地球上では得られない知識か得られ始めているので、その知識体系を我々は一体どう見直すべきか。それはまさに、我々が宇宙環境利用部会で議論した、知的フロンティアは国力であるというこです。

池上:それは賛成です。

山中:我が国の国力が世界の一角を占めるには、知的フロンティアが十分に拡大することに投資をしなければいけませんよ。その1つのいい例が国際宇宙ステーションの「きぼう」ではないですかというようなことは、少なくとも……。

池上:本気でやるということですね。

山中:それ以外にやることはないのではないですか。電気炉を置いておいて、何をやりますか。

池上:大学の研究者の「論文を書けばいい」という発想になりますと、もっと安易に論文を書くネタはたくさんあります。

山中:大学に期待をするから問題で、もっと若い人たち、例えば中学生、高校生なりが使ってもいいのではないですか、とんでもない実験をやってみると。私も前の長柄さんのときに、古くなっていますねと、その話はしました。とても新しくできませんから、新しい装置が好きな人はだめですが、古いものでも、それでいい実験をしている人もいます。それはまさにアイデアの問題で、広げる以外にないのです。ということは、中学生でも高校生でも大学生でも、いろいろなものの中からピックアップして新しい知見を広げることをやればいいのではないですか。

池上:確かにそこに400億円の1割でもつぎ込めば、相当活性化しますね。あとは「国際協力」ということがありますが、これはいいテーマですね。

山中:まさに国際協力で先進国の一角を占めて、それなりのいい実験施設をつくって、すてきな宇宙飛行士を送っているのですからね。

池上:そこでインド、中国との関係はどう思いますか。彼らはやると思いますが、日本はなかなか中国とは組めないという潜在的な意識がありますが。

山中:中国が初めて有人宇宙をやったときに、私はあるテレビ会社に呼ばれて、どなたかが「日本はお金を出していない」と盛んにおっしゃっていましたが、私は全然別の話をしました。
 なぜかというと、ちょうどその日に来たAVIATION WEEKを見ていましたら、あれは宇宙飛行士がアンテナか望遠鏡か何かを調整しているのです。中国は旧ソ連と同じで、地球観測のセンサー技術がありませんからね。もし中国の有人宇宙活動が旧ソ連のように地球観測のための一手段だとすると、日本の方がはるかに進んでいます。人間が行っても24時間見えるわけではないですし、夜は見えるわけではないので、地球観測衛星をきちっと上げる方が筋ではないかと思います。そのほかに何がありますか、というのは知りません。まさに「このほかに何がありますか」というのが問題です。
 少なくとも、そういう機器がうまくいかなかったときに修理に行けますよということは、大変大きいです。地球観測衛星を1機上げるのに200億円はしますが、これがだめになっても、取りかえることができますからね。

池上:スペースシャトルのミッションの1つに、衛星まわりの修理というのがありましたね。

山中:それでハッブル望遠鏡が高い評価を受けているわけです。

池上:あれは人間でなければ無理ですね。

山中:人間が取りかえています。あれは高い評価を受けています。

池上:あとは観光など、宇宙飛行をやりたいという皆さんは多いですね。私はそのことをかつての利用部会で言ったら、大学の委員にコテンパンにやられたことを今でも覚えています。

山中:今でも1人何十億円ですから、それほど簡単に乗れるものではない。例えばソユーズに乗っても、40~50億円はするのではないですか。

池上:今は値段が変わっていますが、少なくとも20億……。

山中:ある時期16億円という話を聞きました。観光旅行だと言っても、例えば初めて航空機が出きたときに、観光が最初ではないのです。最初の商業飛行は郵便です。

池上:夢という点では、宇宙開発委員となってから「いつ宇宙飛行ができますか」と皆さんに聞かれます。

山中:有人宇宙飛行ですね。

池上:有人宇宙飛行をどうするかについて、現在日本は方向を出していないのです。夢を持てるような、当面の予算とは切り離した方向を日本として持てればいいなと、私個人としては思っています。

山中:有人宇宙活動に関するちゃんとしたビジョン、今後10年間、何をするかということですか。

池上:10年ではなく、20年、30年の話です。

山中:国際宇宙ステーションは今のところ10年です。

池上:国際宇宙ステーションはそうですね。

山中:その先は、月だの火星だのいろいろあるかもしれませんけれども、少なくとも国際宇宙ステーションでこの10年間何をするのかということは、ある程度きちっとやらなければだめでしょうね。

池上:そのためには10年先、20年先の目標を仮決めして、そこから逆にときおこしてきて、これからの10年をもう少し充実させることができるといい。そこは月かもしれないし、できるかできないかは別としても、火星かもしれない。今、議論している地球環境問題は100年、200年のオーダーです。あれに比べたら火星に行く方が早いです。

山中:その辺になると私は議論の外に……とても10年生きていると思わない。

池上:1999年(平成11年)の評価委員会の話に戻りますが、NASAの宇宙飛行士が2人いましたね。彼らと話せたことも、非常に印象的でした。アメリカの連中は、「一体、だれがポリシーを決めているか」ということを盛んに問うていたことも印象的でした。

山中:宇宙開発委員会で最も重要なことは、宇宙開発事業団が研究計画をまとめる、それを承認するのが宇宙開発委員会だと明記していたことです。これは調整ではない。

池上:実際問題今、そのチェックが十分にはできていない。今までの仕組みでは、予算が200億円以上のものしかチェックできないとなっています。

山中:もう1つ言いますと、あの評価委員会は橋本内閣のときのメガサイエンスの評価の1号です。メガサイエンスの評価方針が、新しい産業の可能性となっています。今の総合科学技術会議もまさにそうです。評価の基準が、新しい産業の可能性なのです。
 ここで国際宇宙ステーション計画がスタートして、我々がもらったスタート台では、産業化の話は一切ないのです。応用化を考える、商業化も考えるということで、我々の委員会の議論の中から「先導的応用化研究」が始まったわけです。
 要するに、橋本内閣のときから、メガサイエンスをやるならちゃんと産業化を考えろ、と言ってきているのです。ところがそれより前に始まった国際宇宙ステーション計画は、産業化の話はほとんど出てきませんね。今の総合科学技術会議や野田大臣からすれば、何をもってリターンとするのですか、ということになるのだろうと思います。

池上:私は2007年(平成19年)の1月に宇宙開発委員会委員に任命され、その年の5月にH-ⅡAが民間移管されました。私もNTTが1985年(昭和60年)に公社から民間企業に変わり、その変化の大きさを経験してきましたので、さぞや一大事になっていると思いきや、全くそんな雰囲気はなく、驚いてしまいました。企業に聞いても、「これまでも我々がやってきたので変化はありません」とのことでした。そこで「必ず変化はあります。一年後にもう一度話しましょう」といって別れました。そして今、企業は市場競争力のあるロケット作りについて、官需用とは全く違うことを体験しているようです。最適設計ですむカスタムメイドよりも、タンク等の部品の共通化、あるいは過剰なテストの省略等、努力をしています。産業界の実力が上がってきた現在、JAXAが単なる発注機関ではなく、何をやれば日本に貢献できるかを、日本全体で議論できる舞台がやっと出来てきたと思います。
 H-ⅡAは疑いなく科技庁とNASDAが約10年かけて開発してきた成果です。しかし今や宇宙の技術開発の主役は企業です。一方で、企業では出来ない部分も明確になりつつある。対等な関係が必要であり、プロ意識とともに人材流動も必要でしょう。

山中:私は企業の皆さんとも親しく話せるのですが、宇宙開発事業団の衛星はH-ⅡAでやります、外国から衛星を輸入するときは、部品を全部取りかえるということです。

池上:言っているだけで、実際はそこまでやっていなかった。

山中:その可能性を前提に設計しているということです。

池上:今、私にとってH-ⅡBがうまくいくかどうか心配です。私は、全部が全部、即産業化しろとは言っていません。

山中:産業化というのはプロダクティビティーの話ですから、いつステーションに行くことができるのか、いつ戻ることができるのか、そこで専用で実験をやれるのかという話は一切ありませんからね。自分の実験には専用の人を張りつけたい、という意見が部会でも出ましたが。

池上:私はNTTでやりたい放題の金を使って光通信の実用化をやりました。過剰品質のカスタムメイド品を日本の企業と一緒に過剰投資でやって、いいものができたから、あとで企業はその経験を活かして商品にスペックダウンができるわけです。やはり技術はどこか飛び上がらないと、いい産業のネタにはならないと思います。先ほどの設計のコンセプトではありませんけれども、JAXAで本当に基礎的なことをピシッとやるところがないと、結局は産業化もうまくいかない。

山中:JAXAの宇宙環境利用研究は、もともと井口先生のときに招聘研究員を中心に研究システムから始まりましたから、それは人数といい経験といい、他の研究所に比べれば、とても研究所とは言えないでしょう。

池上:おっしゃるとおり、人数は必ずしもクリティカルマスに達していないですね。国際宇宙ステーションの完成はロシアの都合でどんどんおくれましたが、あのときは先生としてはどのような気持ちでおられましたか。我々は、イライラはしましたね。

山中:そうですか?別に……。

池上:先生は宇宙の状況をよく知っているからであって、我々外から来た人間にとっては、あんなにどんどん延びていくというのは。

山中:アメリカから見ても、日本から見ても、国際宇宙ステーションはまさに外交プロジェクトです。サイエンス・プロジェクトだけと言ったら、これはおかしいのです。外交プロジェクトで、旧ソ連が崩壊して彼らの持っている宇宙技術が拡散することを一番恐れたわけです。世界中が協力して、日本も科学技術庁も協力したはずです。そういう視点での話です。

池上:なるほど、少し違う。

山中:部会レベルで議論するような話ではないです。

池上:そのときの教訓がもっとあってもよかったかもしれませんね。ITER計画という核融合の莫大な計画がありますが、そこの最後の委員会で、委員の一人の元宇宙開発委員会委員が、一言、「我々は宇宙開発で、国際協力の難しさに苦労をしました。それに比べてITER計画は甘いですね」と言いました。

山中:例の核融合研究所をどこに置くかという話ですね。あれはヨーロッパですね。

池上:宇宙の経験から言うともっとほかにやりようがあったのではないか、というメッセージであると、私はとりました。そういう意味では確かに外交という点で宇宙というのは非常に特異な舞台を提供していたのだということは、私も何となく理解できます。しかしそのような背景を知らない者にとっては、打上げの予定がどんどん遅れるということは、一体なんなのだという感じがしました。

山中:サイエンスを前提にしますと、ある時に時代の最先端の技術で実験装置をつくったところで、どんどん時代遅れになります。我々の部会の先生方も、それはどんどんだめになっていくよと指摘していました。だから私も最後のときには、教育に使ったらどうですかと言いました。今日でも、中学、高校、大学生の教育に使ったらどうですか、と主張しています。ただしそういう話をしたらすぐ、NASDAからは、そういうことを言ってもらっては困ると言われます。

池上:それが本当はおかしい。

山中:NASDAの建前だったでしょうし、科学技術庁の建前でもあったのでしょうけれどもね。みんなインフォーマルで表にはできませんけれども、一応、そういう話はしてあります。部会の議論は議事録に残りますけれども、そうではないところで議論しています。

池上: 国際宇宙ステーションでいろいろ実験する費用は、基本的には国が持つべきだという発想ですか。

山中:べきとは言いませんけれども、多分、それほど持ってくれないでしょうという話です。

池上:国が全額支援すべきだ、研空者が一部分担するという発想はよくないという主張もしばしばありました。

山中:いい実験でなくてはだめですよ。

池上:いい実験。

山中:なるほどこれは意義がある、アウトプットに期待できると。それは何のためにかわかりませんけれども、いい実験だというと、そのやる人の状況に応じた支援はすべきでしょう。

池上:良く理解できないことは、一部の官僚の方は、利用者から金を取ろうと言うのです。金を取っても、国が100億円入れて10円、20円どうやって稼ぐかという議論をやっているような感じです。

山中:それは橋本内閣以来の話です。産業化と言ってつくったのだから、何かお金になるのだろうという発想です。

池上:将来返ってくるという、企業の投資的な発想がないのでしょうね。勿論、産業化してもうけがあるのなら別の話ですが。

山中:あくまでもあの実験は知的フロンティアの拡大ですからね。知的フロンティアが拡大されて、それがどう産業化するかという話になると、また全然違う次元の話です。少なくともあの国際宇宙ステーションに毎日何機も行けるのでしたら違ってくるのでしょうが……。
 今、ニューヨークには、安いと往復で10数万円で行くことができますね。それに対して、私はエネルギー計算だけでその10数倍はかかると思っていますが、すると20万の10倍で200万くらいですか。さらにその数倍かかったとしても、1千万円代で往復できるようになったら、プロダクティビティーが全部違うだろうと思います。それをどうしてもっと一生懸命、世界は考えないのでしょうか。

池上:1971年(昭和46年)にスペースシャトル計画をニクソンが認めたときは、そういう発想でしたね。週に1回ぐらい行けると。

山中:週に1回で、かつコストも10分の1だと言っていました。今で言うなら半分ということです。けれど実際は、要するに1千万の話では全然ないのです。人間1人、おおよそ100kgを飛行機で運ぶのに比べて、同じ100kgを国際宇宙ステーションに運ぶのに幾らかかると思いますか。ソユーズで1人40億円とか20億円と話していますが、そういうものでしょう。
 大体、ニューヨークへ行くレンジで宇宙に行くのです。ニューヨークへ10数万で行くことができるのが、ソユーズで行くと20億以上かかるということです。これでは国際宇宙ステーションは話にならない、となりますよね。これが10分の1になったとしても2億です。私は100分の1以下にしろと思っています。これはそういう話ですよ。100分の1以下にすれば産業化の可能性もある。知的フロンティアが拡大するに伴って新しい産業革命が起きる可能性があると思います。
 今、そのようなことに対して一切、どこもナッシングです。ナッシングの状態では産業化の話もナッシングです。産業化以外の話を考えざるを得ないでしょう。

池上:知的フロンティアの拡大、国際宇宙ステーション、いいですね。有人惑星・月探査にもつながります。

山中:それは実験する限りはそういうことです。フロンティアですから、要するに地上でできない実験をするわけです。フロンティアというのは、たしか総合科学技術会議の中にもあるのではなかったですか。

池上:あります。第二期基本計画では、まずは「日本は人類の知のフロンティアに貢献する」と言っています。2番目に「経済の維持・発展」があって、3番目に「安心・安全な社会」と続きます。

山中:しかし、問題は輸送系が高くて頻度があがらない、これでは生産性が、プロダクティビティーがないでしょう。プロダクティビティーを上げるにはどうするべきかということは、全員で検討してほしいと思います。

池上:ありがとうございました。先生の思いを実現させるためにも、「きぼう」完成を機会に、魅力ある利用の活動を深めていきます。

(了)

お問合せ先

研究開発局参事官(宇宙航空政策担当)付

(研究開発局参事官(宇宙航空政策担当)付)

-- 登録:平成23年02月 --