研究開発を担う法人の機能強化検討チーム中間報告(案)

平成22年4月14日

目次

はじめに
今、なぜ研究開発法人の機能強化なのか
今後、研究開発法人が担う役割等は何か
研究開発法人を巡る制度的な課題
新しい研究開発を担う法人の姿

はじめに

 研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律(以下、「研究開発力強化法」という。)附則第6条、衆・参両院の附帯決議及び民主党マニフェストを踏まえ、研究開発の特殊性、優れた人材の確保、国際競争力の確保などの観点から最も適切な研究開発法人の機能を強化するため、「研究開発を担う法人の機能強化検討チーム」を開催し、有識者からの意見聴取、関係副大臣、政務官の参画を得て討議を行った。
 この中間報告は、その討議の結果を踏まえた研究開発法人の機能強化の在り方をとりまとめたものである。

(第1回~4回までの出席者)

古川 元久 内閣府副大臣(主査)
鈴木 寛 文部科学副大臣(主査)
大島 敦 内閣府副大臣
内藤 正光 総務副大臣
郡司 彰 農林水産副大臣
津村 啓介 内閣府大臣政務官
階 猛 総務大臣政務官
大串 博志 財務大臣政務官
後藤 斎 文部科学大臣政務官
足立 信也 厚生労働大臣政務官
佐々木 隆博 農林水産大臣政務官
近藤 洋介 経済産業大臣政務官
長安 豊 国土交通大臣政務官
大谷 信盛 環境大臣政務官

今、なぜ研究開発法人の機能強化なのか

1.我が国の研究開発法人を取り巻く急激な情勢の変化

 近年、地球温暖化問題をはじめとして、資源・エネルギーの需給逼迫、生物多様性の損失、新興・再興感染症の蔓延、食糧・水資源の窮乏、自然災害、国際的なテロ等、世界各地で深刻かつ重大な課題が顕在化している。このような高度化・複雑化した地球規模課題に対応するため、科学技術とそれによるイノベーションを活用した、国境を越える取組が求められている。
 世界経済の状況に目を転じれば、近年、中国、韓国、インドなどの新興国が急速に躍進しており、これら新興国の台頭により、国際的な競争が激化しつつある。このような中、我が国においては、少子高齢化の進展、失業率の上昇、地域経済の疲弊といった課題が顕在化しているほか、経済不況等の影響が、研究開発投資にも深刻な影響を与えており、世界経済における我が国の相対的地位の低下が懸念されている。
 加えて、現在、イノベーションの在り方が大きく変わりつつある。特に、国際的な産業構造の変化の中で、「オープンイノベーション」といわれる、より開放的でグローバルな水平分業型のイノベーションモデルへの転換が進んでいる。このような世界的な潮流の中で、我が国においても、「中央研究所の時代の終焉」と呼ばれる現象が指摘されているように、民間企業が、基礎研究や長期の研究について国立研究機関や大学等の公的研究機関と協業し、これらの機関へのアウトソーシングを推進する傾向が見られるようになった。また、医薬品分野や半導体分野に代表されるような、最新の科学の成果と製品開発の間が密接な産業(「サイエンス型産業」)が急速に台頭しており、このような産業においては特に、公的研究機関における基礎研究等の活動や研究成果をいかに産業にスムーズに取り込んでいくかが、その産業の盛衰を分かつ鍵となっている。このため基礎研究等とイノベーションの連結を強化する必要性が高まっているが、これに加え、近年、イノベーションの創出において異分野の知識の融合が大きな役割を果たす傾向が強まっていることから、分野融合を促進することも重要となっている。
 研究人材という面では、現在、世界規模の卓越した研究人材の「頭脳循環」(ブレインサーキュレーション)が進展している。このため、卓越した研究者等を我が国に惹き付け、確保することが必要であるが、給与や研究環境・生活環境等、研究者にとって魅力的な受け入れ体制が十分でない面があると考えられることに加え、海外への長期派遣の研究者の減少や国際共著論文の割合の低さなど、我が国の研究者の内向き志向が指摘されている。このため、我が国は国際的な「頭脳循環」から脱落しつつあるのではないかという危惧が抱かれる状況となっている。

 地球規模課題が顕在化する中で、科学技術が人類の生存にかかわる深刻な問題の解決や人間のための経済の発展に貢献するためには、人間の叡智を結集する「人間性のある科学」が必要である。また、我が国が、国民生活の課題に正面から向き合い、「国際競争と国際協調」の要請に答えつつ、「輝きのある国」になるためには、成長を支えるプラットフォームとして、科学技術によるイノベーションが不可欠である。このような中、我が国の研究開発システム(※1)の中で大きな位置づけを占める研究開発法人の機能強化が必要であり、これは、今後の我が国の経済成長や国際貢献の在り方を左右する重要な課題であるといえる。

2.諸外国における研究開発システム改革の動向

 上述のように、世界的な大競争時代に直面した諸外国においては、科学技術によるイノベーションを国家的に重要な課題として認識し、大胆な研究開発システムの改革に取り組んでいる。以下に、そのうち、世界的に顕著に見られる代表的な潮流を示す。

(1)研究開発機関、競争的資金配分機関の強化等

 米国においては、超党派による「米国競争力法(2007)」等により、国立科学財団(NSF)、国立標準技術研究所(NIST)、エネルギー省科学局(DOE/SC)等の国立研究機関や競争的資金配分機関に対する予算倍増計画を打ち出すとともに、「米国再生投資法(2009)」により、総額183 億ドル(約2兆円)を研究開発関連機関に配分している。また、2009年9月に策定された「米国イノベーション戦略(2009)」においては、国全体としての総研究開発投資を対GDP比3%以上とするとしているなど、国立の研究機関や競争的資金配分機関の強化の動きが急速に進展している。
 また、英国においても「科学・イノベーション投資フレームワーク(2004-2014)」において、総研究開発費を2014年までに2.5%に引上げることを掲げているとともに、中国も2020年までに総研究開発費の対GDP比を2.5%以上に引き上げることを掲げている。また、EUの「第7次フレームワークプログラム(2007-2013)」においても研究開発費の増額が打ち出されているなど、研究開発費の増額は世界的潮流となりつつある。
 加えて、全米15万人とも言われるリサーチアドミニストレータ(競争的資金の獲得・管理のみならず、産学連携、法規制対応等を含めた研究の管理を行う高度な研究開発マネジメント人材)の厚い層が研究者を支援しており、これが米国の研究開発を支えていることも無視できない。

(2)競争的資金制度等の改革

 近年、諸外国においては、競争的資金の事務処理の合理化を進め研究者の負担軽減を図るなど、研究資金の使い勝手を改善する動きが着実に進展している。米国においては、会計年度と研究費の使用に係るアワードイヤーの概念が異なっていることから会計年度に縛られることなく研究費を使用できるほか、会計制度の予算繰越し等にかかる煩雑な手続きの排除など、複数年度を前提としつつ、柔軟な資金制度を目指した改革が進展している。また台湾においても、競争的基金について、単年度会計から基金を活用した複数年度会計へと移行し、柔軟な予算執行を可能としている。
 さらに、米国においては、大学等の研究資金の使用側と競争的資金配分機関等が協力してFDP(Federal Demonstration Program)という枠組みを構築することにより、競争的資金制度の改革に向けた忌憚ない意見交換や、それらに基づく制度の改善が行われている。
 これらに加え、ファンディング機関には、審査や高度な研究マネジメントを行うための科学技術系人材が必要である。米国のファンディング機関、高等研究計画局(DARPA)は、インターネットの開発等の成果で著名であるが、定員の枠外で特に優秀と認められる科学技術系人材を採用できる制度を採用しており、この定員外の人材に関しては、上級職以上の基本給で処遇できるなど、卓越した科学技術系人材の獲得等に関して競争的かつ弾力的な運用がされている。
 また、米国においては、「ハイリスク研究※2」への試みが積極的に実施されており、これを可能とする新たな競争的資金への取組が促進されている。米国競争力法でもその促進が規定されるとともに、主に環境エネルギー分野のハイリスク研究に係るファンディング機関であるARPA-E(Advanced Research Projects Agency - Energy)が、エネルギー省に新たに創設された。

(3)技術インテリジェンス機能の強化

 英国においては、科学、イノベーションのネットワーク構築及び情報収集を国際規模で行うため、在外公館等を拠点とするSIN(Science and Innovation Network)を2000年に創設した。SINは、現在、外務省及びビジネス・イノベーション・技能省が中心となって要員約100名程度、25カ国39都市の巨大な科学技術情報ネットワークを構成している。また、シンガポールによる、海外の優秀な人材確保等を目的とした海外事務所の設置(「コンタクトシンガポール」※3)といった取組も著名である。
 このように、世界的な頭脳循環の進展やイノベーションの国際化に伴い、技術インテリジェンス機能の強化が世界的な潮流となりつつある。

(4)公共調達によるイノベーション促進

 公共調達によるイノベーション創出を図る制度としては、米国の中小企業技術革新研究(SBIR:Small Business Innovation Research)制度が著名であるが、英国においても各省庁におけるイノベーション公共調達計画の策定等の取組が進められ、その他オランダにおいても公共調達によるイノベーション創出のための施策が展開されるなど、世界的に、イノベーション創出に公共調達を活用する動きが進展している。

(5)将来の研究開発を担う子どもの才能を見出し伸ばす取組の強化

 前述の米国競争力法においては、大学レベルの授業に対応できる教師を7万人養成するなど、理数系の才能を有する子どもを見出す教育の強化が規定されている。
 東アジア諸国においてもこのような才能教育が盛んに行われるようになっているが、特に韓国においては、2000年に才能の優れた子どもを早期に発掘して、持って生まれた潜在力を啓発するための教育の振興を目的とする「英才教育振興法」を制定するとともに、これに基づき「科学英才学校」を創設するなど、強力に理数系の才能教育を推進しつつある。

3.研究開発法人の重要性の高まりとそれをめぐる我が国の研究開発システムの課題

(1)研究開発法人の重要性の高まり

 研究開発法人はこれまでも、我が国の研究開発活動の重要な部分を占めてきたが、その重要性は、さらなる高まりを見せている。
 前述のとおり、オープンイノベーションの潮流の中、従来、我が国の基礎・基盤研究を相当程度担ってきた民間企業の研究所が、基礎研究や長期の研究を公的研究機関にゆだねる傾向が見られるようになったが、これに加え、昨今の経済状況等により、民間企業における長期的な基礎研究等の実施は、さらに困難となっていると考えられる。また、前述の「サイエンス型産業」の台頭といった観点から、基礎研究等を長期的・継続的に実施する機関への期待がますます増大している。このように、長期性、継続性、非営利性等から民間企業等に委ねることが困難である研究開発等を主として実施する機関として、研究開発法人の重要性が高まっている。
 また、研究開発等から得られた成果の普及を進めるという観点から、大学等の基礎研究等と実用化とをつなぐ橋渡し研究や、技術実証及び標準化等といった取組を研究開発法人が実施する必要性が高まっているほか、行政に密接な技術的課題を解決するという研究開発法人の機能も、依然として重要である。
 諸外国では国際競争力の向上のため、前述のような研究開発システム改革を強力に推進しており、公的研究機関に対して大胆かつ積極的に資金を投入し、その研究開発力の強化を進めている。我が国としてもこのような動きに対応していくため、研究開発法人の研究開発力を抜本的に強化していく必要がある。

(2)研究開発システム改革の必要性

 我が国の研究開発システムは、様々な課題を抱えている。その中には我が国全体の研究開発システム改革の推進を図るために議員立法として成立した研究開発力強化法において、ある程度の解決を見たものもあるが、依然として以下のような解決すべき課題が存在している。
 まず、我が国では科学技術の重要性は認識されているものの、国と地方を合わせた長期公債残高の対GDP比が主要先進国中で最悪の水準にあるという極めて厳しい財政事情の中、官民合わせた研究開発投資の対GDP比は先進諸国と比較して劣っていないものの、政府研究開発投資については、第3期科学技術基本計画における25兆円の投資目標(※4)が達成されておらず、その対GDP比が先進諸国と比較して高い水準にあるとはいえない状況にある。
 また、我が国が国家的に取り組むべき重要な課題数や取組の規模等が増大し、研開発法人による機動的で柔軟な対応が必要になっているにもかかわらず、その制度上の根拠とされている独立行政法人制度は、本来目指していた柔軟な運営が必ずしも十分に確保されていない状況にあり、また、原則として運営費交付金や人件費が抑制されている。米国など諸外国が公的研究機関等に対する研究開発投資を増加させ、研究開発システム改革を推進しているのに対して、我が国はこれに逆行した動きとなっているのではないかと考えられる。 
 その他にも、我が国の研究開発システムにおける問題として、世界規模のブレインサーキュレーションが進む中で国内外における人材流動性が低いこと、分野融合が遅れていること、基礎科学とイノベーションの連結が弱いことなどが挙げられる。また、多様な人材がそれぞれのセンスと眼力でテーマやチームの選択等を行っていくという目利き人材の機能や、前述のリサーチアドミニストレータなどの高度な研究開発マネジメント人材の機能の重要性が増しているが、我が国においてこれらの人材が十分とはいえない状況にある。
 さらに、我が国の研究開発システムにおいて大きな役割を果たしている競争的資金等については、府省ごとに政策課題等に応じて多数の制度が存在し、制度ごとに使用ルールが異なることにより混乱が生じていると現場から指摘されている。また、米国等と比べて使い勝手が悪いといった指摘等も現場からなされており、制度の整理統合に向けた検討の推進、使用ルールの統一化等とともに研究資金の弾力性、柔軟性の向上が必要と考えられる。
 加えて、公的研究資金による科学技術の振興に関しては、説明責任等の観点から、その投資から得られる成果に係る適切な目標設定等を通じ、成果等をより広く国民に伝え、理解を得るとともに、科学技術に対する理解、関心を得るための取組がこれまで以上に必要になっている。

4.研究開発法人改革の今後の方向性

 科学技術及びそれによるイノベーションの創出は、少子高齢化が急速に進展しており、また、天然資源等にも乏しい我が国において、将来にわたる持続的な成長・発展の礎であり、国の生命線である。
 前述のように近年、諸外国においても公的研究機関の強化を含む研究開発システム改革が進められており、世界を舞台とした科学技術を巡る熾烈な競争が繰り広げられている。研究開発水準を向上させ、新たな分野に果敢に挑戦していく諸外国の状況は、大きな脅威であると同時に、真摯に学ぶべき点も多い。
 我が国がこうした諸外国の積極的な研究開発システム改革に対応するためには、研究開発法人が中心となって我が国の研究開発システム改革を先導し、研究開発システム全体を抜本的に『刷新』することが重要である。こうした『刷新』を通じて、世界最高の研究開発システムを構築し、激しい国際競争に打ち勝ち、世界をリードすることのできる研究開発力を獲得することが、我が国にとって不可欠である。
 しかしながら、ここまで述べてきたように、研究開発法人に対する役割と期待が大きくなる一方、研究開発法人はその制度の在り方等に関して様々な課題を有しており、これまで我が国を支えてきた科学技術面での国際的優位性が揺らぎかねないことが強く懸念される。実際に、急速に研究開発力を伸ばしてきた新興国等の特定分野の研究開発水準は、我が国の水準に追いつき、凌駕している点も見受けられる。
 こうした世界の情勢を踏まえ、研究開発法人の抜本的な機能強化を図り、「世界トップレベルの国際的な競争力」と「世界で最も機動的で柔軟な運営」を可能とするための新たな研究開発法人の在り方について、明確に提示していく必要がある。

今後、研究開発法人が担う役割等は何か

1.今後の研究開発法人が目的とすべき事項

 研究開発法人は、主に、我が国の社会・経済にとって大きな波及効果が見込まれるものの、その長期性、リスク、非営利性等から民間その他の主体に委ねることが困難であると同時に、国の財務会計・人事制度等の制約等から国が自ら主体となって直接に実施することも望ましくない研究開発等を、国から与えられ又は自ら得た資源を最大限に活用し、競争的、機動的、弾力的に行うことを基本とする。あわせて、これらを通じた研究開発人材の養成、資質の向上、交流及び流動化等の促進や、成果移転、官民協力等によるイノベーション創出の促進等により、研究開発システム改革を先導する。
 これによって、科学技術の水準の向上及びイノベーションの創出を図り、将来の我が国の成長又は人類の持続的な発展に貢献する成果を生み出すことを最大の目的とする。

2.今後の研究開発法人に期待される役割

 研究開発法人は、トップダウン的な運営(科学技術基本計画や成長戦略等の国家戦略に基づき国が設定したミッションを遂行していくような運営)により研究開発等を行い、その業務の実施を通じて以下のような役割を果たすことが期待されている。

(1)我が国全体の研究開発システム改革を先導する
(2)科学技術による国際競争と国際協調の要となる
(3)大学のみでは供給困難であるような政策的、長期的観点で国に必要な創造的研究人材、高度な人材等を、現場での経験を通じて育成・供給する
(4)研究開発法人の目的や特性に応じて、研究開発等の成果を出口側に結びつけ、イノベーションを創出する
(5)生み出された成果を含めた科学技術に関する情報を積極的に発信すること等により、国民の科学技術への啓発や知識の普及を行う(科学技術リテラシーの向上)
(6)政府の施策と一体となって国民の生活といのちを守るための安心・安全を確保する
(7)最先端の研究施設及び設備の開発・整備・高度化を行い、共用を進めることにより、我が国全体の研究開発等を支え、先導する

3.今後の研究開発法人の制度設計において配慮すべき事項

 今後の研究開発法人のガバナンス、マネジメントの設計の在り方に関しては、以下のような研究開発等の特性等を踏まえて、検討されるべきである。

(1)研究開発や研究開発人材市場は国際競争にさらされている
(2)研究開発は不定型かつ、その進捗や成果は予見不可能であり、不確実性を伴うため、機動的、弾力的な業務運営が必要である。また、研究開発の長期性、専門性等を考慮した業務運営も必要である
(3)イノベーションは、「異との出会い」がきっかけとなって創出されるものであるから他者との連携が不可欠であり、資金提供を含め多様な主体の関わりが必要である
(4)研究開発法人が行う業務として、研究開発・その成果の実用化・普及のための国内外での実証、標準化等、競争的資金等の配分並びに研究開発のための基盤整備(施設の共用、人材育成、情報収集知識   普及等)が重要な機能としてあり、これらが総体として我が国の研究開発システム強化のために機能することが必要である

研究開発法人を巡る制度的な課題

 研究開発等を担う法人は、国の行政改革の一環として、国の機関や特殊法人から、公共上の見地により確実に実施されることが必要な事務及び事業であって国が自ら主体となって直接に実施する必要のないものを効果的、効率的に行わせることを趣旨とする独立行政法人制度に移行した。
 独立行政法人通則法は、様々な性質の事務及び事業を一括りにし、そのような多種多様な事務及び事業を担わせる法人の制度について共通の事項を定め、基本として、国から法人への事前関与・統制を極力排除することで自主性と自律性を確保しつつ、事業の事後チェックへの移行を図り、法人に弾力的・効率的で透明性の高い運営を確保することに眼目が置かれている。また、中期目標期間終了の都度、組織及び業務全般の見直しを行い、必要性が乏しくなった事務及び事業の廃止あるいは民営化を行うことなどが求められている。特に「民間にできることは民間に委ねる」との観点から、独立行政法人の組織及び業務全般について極力整理縮小する方向で見直すこととされているところである。
 以下は、研究開発法人の運営等に関して、このような独立行政法人制度の創設により改善された点、研究開発法人に独立行政法人制度等を適用する上での問題点を述べたものである。

1.独立行政法人制度の創設により、改善された点

 独立行政法人制度の創設により、ある程度、研究開発等を実施する上で柔軟かつ弾力的な業務運営がなされつつある面がある。特に、以下の事項については、研究開発の現場の研究者による活動の自由度を増すものとして評価が高いため、これらについては、引き続き、重要な制度として維持・改善されるべきである。

(1)業務運営の柔軟化・弾力化

 国家行政組織の中にある組織については、内部組織の改組に対しては所管府省による決定が必要となり、研究機関独自の判断で機動的に研究センター等を立ち上げるようなことが困難である。また、職員身分に関しては、国家公務員扱いになる。これにより、給与体系は、一般職の給与に関する法律、人事・服務については国家公務員法の適用を受け、財務は会計法、資産の取扱いは国有財産法といった国家行政組織の一部としての規律が適用されることなる。
 独立行政法人制度においては、法人の長の判断によって必要な研究センター等を柔軟に立ち上げることや、給与体系の弾力的設定、財務面でもある程度自由度が高まり、研究開発等を柔軟に行うことが可能となった。
 特に、独立行政法人の基本的な業務運営に必要な経費として支弁される運営費交付金は、従来の補助金等と異なり、その使途を指定しない、「渡し切りの交付金」として国から交付され、柔軟で弾力的な法人の業務運営を支えている。

(2)定期的な業績評価の仕組み等成果主義の導入、業務運営の透明化

 法人の主務大臣が「中期目標」を策定し、これを受け、法人が「中期計画」を策定し、主務大臣の認可を得るとともに、これに対応した業務実績を評価するという仕組みを導入することで、成果の検証が可能となった。また、法人の業務、財務運営に関する情報の公表が徹底されるなど業務運営の透明化が図られた。

(3)法人の長によるトップマネジメントの導入による組織改革の促進

 各法人の国際的な戦略に基づき、法人の長の裁量によって国内外の優秀な人材の引き抜き等がある程度可能となった。また、法人の長の独自の判断で機動的に「芽のありそうな」研究や必要とされる取組等に対する資源配分を行うことが可能となった。

2.研究開発法人に独立行政法人制度等を適用する上での問題点

 研究開発法人は、通常の行政業務とは異なる前述のような研究開発の特性(競争性、不定型であること、予見不可能性、不確実性、長期性、高度の専門性、分野融合や重複競争の必要性等)にかなったマネジメントが必要である等の特徴がある。
 このため、組織の在り方、評価制度、会計制度及び人事制度という法人制度の根幹に関わる部分を含めて、どちらかと言えば定型的な業務を効率的、効果的に行わせること等に主眼を置いた独立行政法人制度を適用することは、研究開発法人の更なる機能強化に整合しない点があるのではないかと考えられる。
 具体的には、以下のような問題点が指摘されている。

(1)組織の在り方

 国家的に重要な課題等への対応のため、長期的視点で研究開発等を確実に実施する組織であるべきこと、研究開発等において国内外に協力する相手があることから、組織及び業務全般の民営化・改廃を含めた見直しが定期的に行われ、研究開発等の活動に切れ目を生じさせるような制度設計はなじまない。
 一方、長期的かつ不定型といった研究開発等の特性や激しい国際競争に勝ち抜く必要から、研究開発法人は、機動的・弾力的な運用を確保する必要がある。国家行政組織に戻すことについては、研究開発等を行う上での会計、給与、財産処分面等の制約があり、また、行政機構の肥大化を招く観点から、国直轄の機関とすることも困難である。

(2)研究開発法人に対する国の関与の在り方

 研究開発法人が行う研究開発等には、国家的に重要な課題等への対応、国を代表して条約等に基づく国際共同研究(国際熱核融合実験炉計画への参画等)を行うもの等があることから、研究開発法人については、我が国の研究開発システムにおける中核機関であることを明確にした名称や位置付けが必要であるのではないかと思われる。
 さらに、このような観点及び大規模災害や事故等における非常事態時に対応すること、国益につながる国の競争力・外交力の確保・強化、国の安全の確保等の必要性に由来する、国自らが取り組むべき長期的な課題の解決に向けた研究開発を担うこと、個々の施策の遂行上必要となる技術的課題の解決を担うこと等から、その業務は国の事業としての性格が極めて強く、科学技術基本計画や成長戦略等の国家戦略に基づく体制が必要である。そのため、主務省の行政ニーズに基づいた施策の遂行に係る研究開発等を的確に実施するため、研究開発法人と主務大臣との緊密な連携が重要である。
 現行の独立行政法人制度は、国の事前関与、統制を極力排除し、事後チェックに重点を置くため、主務大臣の監督、関与を必要最小限のものとしている。その一方で、これまで給与水準や予算執行などの運用面において、次項(3)に掲げるような制約が与えられてきた。
 研究開発等には、国際共同研究や国家的に重要な政策課題・行政課題として、国の一定の関与や国との緊密な連携の下、確実に実施されるべきものがあり、これらの政策課題等への対応についても事前関与・統制を極力排除する制度は研究開発法人にはなじまないのではないかと考えられる。
 また、与えられた課題を確実に実施するための具体的な手法に関しては、研究開発等の特性を踏まえ、研究開発等の実施主体にゆだねることが合理的であることから、法人の運営面において細かな制約を与えることは、研究開発等の成果の最大化という観点から適切ではないと考えられる。

(3)独立行政法人制度や諸制度の適用上の問題

(柔軟な資源配分)
 研究開発法人は、多数の研究者や技術者等の組織的取組により研究開発等を担っており、また、研究開発等の進展に応じて、必要な資金供給が大きく変動する。
 中期計画に定められている運営費交付金の算定式には、前年度比でその総額を圧縮するための一般管理効率化係数及び業務効率化係数等が設定されている。(ただし、業務の状況等を勘案するための業務政策係数や競争的資金などの重点施策を反映するための特殊係数等が設定されており、毎年度、必要な調整がなされた上で、運営費交付金が支弁されている。)
 特に、業務運営の効率化については、厳格かつ具体的な一般管理費及び事業費の削減・効率化目標を示すことが求められており、例えば、一般管理効率化係数及び事業効率化係数をそれぞれ毎年度、マイナス3%、マイナス1%とするといったように、各法人の中期計画において設定されている。
 また、全ての独立行政法人の人件費の総額について、平成18年度以降の5年間で、平成17年度における額からその100分の5に相当する額以上を減少させることを基本として、人件費の削減に取り組むことが法律上規定されている。(これについては、研究開発力強化法の制定により、若手研究人材等を対象外とするなどの一定の緩和が図られている。)

(中期目標等)
 現行の独立行政法人制度においては、中期目標に定めるべき事項としてその冒頭に「業務運営の効率化に関する事項」が掲げられているが、これは、どちらかといえば定型的な業務をいかに効率化させるかという観点であり、研究開発法人に対して主務大臣が設定する目標としては必ずしもふさわしくないのではないかと考えられる。また、研究開発法人の国際競争力や、業務運営の機動性・柔軟性を向上させる仕組みも必要であると考えられる。
 各々の研究開発等に要する期間は、その性質等によって異なり、中期目標期間を超えて長期間を必要とする場合がある。また、中期目標期間をまたいで研究開発等を行う場合もあるが、現在の中期目標期間は最長5年であり、その短さや中期目標を超える資金の繰越し及び契約が困難であるなどの指摘がある。さらに、社会経済の状況変化に応じた柔軟な対応の必要性を踏まえ、また、各々の研究開発等の特性に応じる必要性から、国の研究開発法人に対する適切なガバナンスの観点にも配慮しつつ、研究開発法人ごとに柔軟に目標期間を設定できるようにする必要がある。

(他機関との連携)
 他の府省との連携や諸外国を含む他機関、民間の機関等との連携の促進が依然として不十分であり、世界的な分野融合の進展の潮流に乗れていないのではないかと考えられる。

(評価)
 研究開発の国際競争力の強化やその国際的水準を客観的に把握する観点から、国際的なベンチマーキング等、専門家によるグローバルな視点を取り入れた評価が必要であるが、現在、その実施が不十分であるとの指摘がある。
 評価を受ける観点からは、研究開発等の長期性にかかわらず毎年度重畳的に行われる評価が、研究者・技術者にとって過度の負担となっているという指摘がある(いわゆる評価疲れ。)。加えて、どちらかといえば定型的な業務を中心に行う他の独立行政法人と同様の観点での評価が実施されるなど研究開発等の内容の評価について、必ずしも専門性が確保されていないのではないかとの指摘がある。
 特に研究開発等に関する評価については、そのパフォーマンスを上げ、与えられた財源の中で成果を最大化することを目的とした評価とすべきであり、その場合、可能な限り、数値目標のような国民に分かりやすく、客観的な指標を設定すべきであるが、現在の評価における論文数や特許件数といった指標は、数を生み出すことが目的となりがちであるといった研究現場からの指摘があることも踏まえ、よりよい評価指標の開発を進めるなど研究開発等の質を評価する手法の改善や、評価結果の活用方法の明確化を検討するべきである。また、研究開発法人の目的や特性に応じた多面的な評価の観点も必要であり、たとえば、研究の出口を踏まえ産業界をはじめとするユーザー等の視点を取り入れるといったことが考えられる。こうした、客観的な評価の徹底は、公的研究開発投資に対する国民の理解を高め、予算執行の透明性を確保することにもつながると考えられる。

(人事給与等の処遇)
 国家公務員等を考慮した役員報酬や社会一般の情勢等に適合させている職員給与等の水準が、創造的研究人材の養成、国内外の卓越した研究者等の確保を阻害している面があるとの指摘がある。また、国内外の卓越した研究者等の確保のためには、魅力的な研究環境を整えることが重要であるとともに、特に海外人材については、家族のケアを含めた生活環境に関するきめ細かなサポート等が必要だが、現行制度において実態上、手当等の処遇についても、国家公務員横並びが求められる傾向にある。また、研究開発システムの改革を推進する上で研究者の交流、流動性を高めることが重要であるが、研究開発等を実施する機関間での退職金の通算の仕組みがない等人材流動性を阻害する課題があると考えられる。加えて、若手人材が任期付研究に対して不安定感を抱くなど、安定した研究者キャリアパスを描けないような状況が生じているのではないかと考えられる。

(研究マネジメント・研究支援体制)
 研究開発戦略の策定など高度な研究開発マネジメントに関わる人材や実験サポート等の研究者を支える研究支援部門も極めて重要であるものの、我が国の公的研究機関における支援人材数が諸外国に比べて著しく脆弱である。このことから、運営費交付金の算定において、効率化努力を行いつつも、所要の一般管理費等を確保する必要があると考えられる。

(外部資金の獲得等)
 イノベーションの創出や分野融合を促進するためには、研究開発法人と外部との関係を密接にする必要がある。このため、府省や官民を超えた連携の強化を通じ外部資金の獲得等を推進することが重要となってくるが、例えば、運営費交付金の算定式では、自己収入が増えても、支出が同額であれば運営費交付金がその分削減される仕組みとなっているため、自己収入を増大しようとする意欲があがらない点には問題があると考えられる。また、外部資金の獲得を促進していくためには、寄附を行った企業や個人に対して税制面で今以上の優遇措置が必要ではないかと考えられる。
 また、外部との関係を密接にし、イノベーション創出を促進するという観点から、基本的にベンチャー企業等への出資等の機能の付与を検討する必要がある。

(予算執行の制約)
 長期的かつ不定型といった研究開発等の特性に応じて、諸外国のグラント制度は予算執行が柔軟で弾力的なものになっているが、我が国では未だ十分に柔軟で弾力的な資金制度となっていない。
 また、中期目標期間を超える予算の繰越しの認定が基本的に困難であり、中期目標期間をまたいだ契約が難しい等を理由として、研究活動に支障が生じているという指摘がある。また、国と横並びの基準の適用によって原則として一般競争入札とされ、随意契約の見直しや1者応札の低減に向けた取組が要請されるなど、研究開発等の特性が踏まえられていない契約業務等がますます煩雑化しており、研究者及び研究支援者の大きな負担となっている。加えて、民間への技術移転やイノベーション創出のための、研究開発法人の調達機能の活用という観点からも、研究開発等の特性に応じた契約の在り方が検討されるべきである。
 また、予算執行の弾力化を引き続き推進するとともに、国民への説明責任確保の観点から、業務運営の一層の透明性、監査機能を確保する必要がある。

(国家戦略との整合)
 これまで国家戦略との整合性については、各主務大臣による中期目標の策定等を通じて図られてきたが、科学技術基本計画や成長戦略等の国全体の科学技術戦略との整合性を保持する必要がある。

(その他)
 現行の独立行政法人制度において、研究開発法人や各府省の裁量に任されているように見える事項であっても、実態上、様々な通知等によって、研究開発法人が研究開発等を実施する上での制約となっている事項がある。研究開発等の成果を最大化するためには、そのような制約を極力排除し、研究開発等の進展に応じた適切な業務運営が研究開発法人において自律的に行われるよう、そのガバナンスを強化する必要がある。

新しい研究開発を担う法人の姿

1.研究開発法人に係る共通の制度の創設等

 これまで、研究開発法人は、独立行政法人制度の下、その業務を遂行してきた。独立行政法人制度は、公共事業執行型、助成事業等執行型、資産債務型、研究開発型、特定事業執行型及び政策金融型といった様々な性質をもった法人を一括りにして制度設計がなされ、具体的には、国の事前関与及び統制を極力排除することによって法人の自主性を担保し、事後評価を徹底させることによってその業務を「効率的かつ効果的に」行っているかを評価した上で、定期的にその業務を継続する必要性についても検証し、継続するかどうかを検討する仕組みが整備されている。
 
 前述したように最近こういった独立行政法人制度が、研究開発法人の活動に支障を及ぼし、研究開発等の成果を最大化する観点からの効果的な運営につながっていないという指摘がされている。これは、独立行政法人通則法があまりにも多くの類型の法人を対象としているが故に、同法に研究開発法人の運営にとって必ずしも最適なものではないスキームが存在するとともに、研究開発等の特性に配慮した同法の解釈・運用がなされていないことによると想定される。

 したがって、研究開発法人に関し、研究開発等の成果を最大化する観点から望ましくないスキームを改善するとともに、その運用を適正化するために研究開発等の特性に配慮した柔軟かつ弾力的な制度としていく必要がある。

 前述の通り、現行の独立行政法人制度は、事実上、国の関与、予算、会計、人事、評価といったその主要な部分において、研究開発等の成果を最大化するためにはなじまない制度となっている。また、研究開発法人は相当数存在することから、その共通的な事項について定める新たな法人類型としての制度を創設することが必要である。その際、特に重要なことは、優秀な研究人材や知的財産の獲得競争が地球規模で熾烈になっている科学技術・イノベーションをめぐる国際環境において、我が国の研究開発法人が諸外国の国立研究機関や大学などの公的研究機関と対等に競争し、そして協調することを可能とする、グローバル標準の運営や研究開発等の特性を踏まえた柔軟かつ弾力的な制度を実現することである。
 このため、国際的な競争環境と協調推進のための的確な研究開発等が推進できるよう、国のトップダウンの意思の反映を可能としつつも、研究開発の特性等を踏まえた国際競争性や機動的、弾力的な運用を確保しうるグローバル標準の運営を可能とするような法人制度とすることが我が国の研究開発システムの強化に不可欠である。同様の観点から、機関や各府省の裁量に任されている事項について、恣意的な通知等による制約により、柔軟かつ弾力的な運用が阻害されることがないようにしなければならない。

 また、新たな法人類型には、国を代表して条約等に基づく国際共同研究等を行うことや国を代表して国家的に重要な政策課題等に取り組むこと、国際会議や専門家会合等の場において、我が国を代表する機関であることの一層の明確化を図る観点から、例えば、「国立研究開発機関」など国家を代表するにふさわしい名称や機能を付与すべきである。

 なお、今後の制度の具体的な検討に関し、研究開発法人を含む独立行政法人については、「独立行政法人の抜本的な見直しについて」(平成21年12月閣議決定)に沿って見直しを行うこととされており、その動きや本年6月を目途に取りまとめられる予定の「新成長戦略」の動きを勘案するものとする。さらに、具体的な国立研究開発機関の機能や範囲等については、研究開発力強化法第2条第8項「研究開発法人」の範囲をベースとしつつ、今後検討していく。

2.基本的な在り方

 前記「今後、研究開発法人が担う役割等は何か」で述べた、研究開発法人の目的、役割、配慮事項等を踏まえた国立研究開発機関制度の創設が求められるほか、新たな制度における国立研究開発機関の基本的な在り方は以下の通りである。

(1)「世界トップレベルの国際的な競争力」と「世界で最も機動的で弾力的な運営」を実現することにより、科学技術の力で世界をリードする。
(2)我が国の経済社会構造の変化に応じるとともに、様々な政策課題に対応するため、科学技術の水準の向上とイノベーション創出の推進を図る。
(3)業務の遂行を通じて、我が国全体の「研究開発システム改革」を先導する(国際的な人材流動性の向上、人材の多様性確保、民間とのイノベーション共創の場の設定等)。
(4)分野融合やイノベーション創出を促進する観点から府省、官民、国境を超える連携を推進する。特に、政府内、官民の縦割りを打破するため、主務省以外の複数省や競争的資金を配分する国立研究開発機関、民間企業等、多様な主体からの資金の受入れ等を促進する。ただし、引き続き、当該行政課題に責任を有する主務大臣との緊密な連携を確保する必要がある。
(5)国内外問わず、明確なビジョンを持った魅力的なリーダーを登用し、トップダウンによる運営を可能とする。
(6)国際競争等に対抗するため諸外国の公的研究機関に関する動向を踏まえ、研究開発等を強化するため、柔軟かつ弾力的な資源配分を可能とし、与えられた財源の中で最大限の成果を上げることを目指す。

3.業務遂行等の在り方

(1)ガバナンスの改革

(第三者の意見の取入れとガバナンスの強化)
 イノベーション創出、国際競争力の向上という観点から、民間人、大学研究者、海外研究者(海外勤務経験者含む)といった、法人外の第三者の意見を取り入れることができるスキームを導入する等、監査機能、戦略機能を含むガバナンスを強化する。
 同時に、予算執行の透明性の確保や国民の理解を得るための説明責任等を強化する。

(評価)
 基本的な評価の観点として、単位時間当たりの業務処理向上といった「業務の効率化」を第一義とした評価ではなく、「研究開発等の成果をどれだけ生み出したか」、「マネジメントが効果的に行われたか」等、あくまで研究開発等の成果の最大化やその成果の社会への貢献を第一義とする評価とする。その場合、可能な限り、数値目標のような国民に分かりやすく、客観的な指標の活用や研究開発等の質を評価する手法の改善等について検討する。
 また、研究開発等の内容に識見のある第三者(専門家)によるレビューを基本とし、研究開発法人の目的や特性に応じ、たとえば産業界をはじめとしたユーザー等の視点を取り入れるなど、多様な視点を取り入れた評価を行うことを可能とする。加えて、研究開発等の国際水準を勘案した評価を実現するため、国に置く評価委員会においては外国人評価者の登用を可能とする等、国内外の専門的知見を結集しグローバルな視点を取り入れた評価を合理的に行うことを基本とするスキームを導入する。
 そのうえで、前述のような「評価疲れ」の問題を解決するため、国立研究開発機関の評価制度の検討にあたっては、「国の研究開発評価に関する大綱的指針(※5)」に基づく評価と機関の評価等の関係の整理等、様々な評価の整理を図ることにより、合理的な評価体制とする。さらに、研究開発等の長期性、専門性、不定型性等の特性を踏まえた長期的な評価や科学技術の専門組織による評価を可能とする。
 また、このような機関の評価の合理化や長期化、専門化とともに、研究開発等の成果を最大化するための中間評価、事後評価を行い、その結果を適切に反映していくことで業務の透明化を確保し、機関の長が緊張感を持って業務を遂行するものとする。

(中期的な業務方針の指示と期間終了時の措置)
 研究開発等の予見不可能性、長期性等の特性を踏まえつつ、主務大臣は、中期的な業務方針を国立研究開発機関に示すこととし、この業務方針の期間はこれまでよりも長く設定できるものとする。国が示した方針に従い、中期的な業務計画の内容については、国立研究開発機関によって確実に実施されるものとする。
 また、中期的な業務方針の指示にあたっては、これまで中期目標期間終了時の措置として「業務を継続させる必要性、組織の在り方」を中心とした検討を行ってきたが、成果を生み出すためには長期にわたり継続的に研究開発等を行わせる必要性があることを踏まえたうえで、「さらなる成果の最大化のためにいかなる業務運営をすべきか」を中心とした検討を行うこととする。

(国家的に重要な研究開発課題等の確実な実施)
 国際共同研究の実施や非常事態時の対応等、国にとって特に重要な業務を確実に実施させるほか、個々の施策の遂行上必要となる技術的課題の解決に係る業務等を必要に応じて確実に実施させるため、主務大臣の関与のスキームを構築する。また、府省や国境を超える取組や研究開発等の成果を出口側に結びつける取組の一層の遂行を図るため、政府における科学技術の司令塔機能との連携等、国全体の科学技術戦略との整合を図る。

(2)マネジメントの改革

(国境、府省を越える連携の推進)
 イノベーション創出や分野融合の進展のため、人材の流動化を図るとともに、国境、府省を超える連携を推進する。このため、政府の科学技術の司令塔機能との連携を図るほか、外部資金獲得や施設の共用を促進し、また、これらの取組に対するインセンティブを付与することを検討する。

(予算執行の柔軟化)
 国際的に複数年度を前提とした研究資金制度が普及しつつあることや研究者の負担を軽減し、その能力の最大発揮を可能とする観点から、中期目標期間をまたいだ研究開発等を円滑に実施するための資金の繰越しに係る制度の改善や合理的な調達等を可能とすることにより、予算の執行等を柔軟にする。特に、研究開発等における物品は、特殊な仕様であるものも多く、必ずしも一般競争入札になじまないものもある。
 そのため、後述の公共調達機能を活用したイノベーションの促進といった観点も考慮しつつ、研究開発等の特性に応じた合理的な調達を可能とするスキームを導入することが重要である。

(国際的な水準を踏まえた給与人事システムの構築)
 海外を含めた機関間の人材流動を促進し、国際的に卓越した研究者等を確保するという観点から、必要に応じ、一部の研究開発法人にて行われているように、そうした者の給与や研究環境・生活環境等の処遇について、国家公務員横並びを打破し、国際的な水準を踏まえたものとし、機関間移動に係る退職金通算スキームや年俸制の導入を検討するなど、研究開発等の目的や特性に応じた人事システムを新たに構築する。
 また、研究開発力のさらなる強化のためには、高度な研究開発マネジメント人材の養成が重要であり、研究開発法人は、このような人材養成の主体となると同時に、養成した人材を積極的に輩出するといった機能をさらに強化することが必要である。

(成果活用の促進)
 研究開発等により得られた成果の普及や活用について、国立研究開発機関が主体的に促進できるような出資機能等の導入を検討する。

4.制度の実現と共に改善されるべき事項

 新たな制度の創設を契機として、共に改善されるべき事項は以下のとおりである。

(1)国立研究開発機関の公共調達機能を活用したイノベーションの促進の検討

 研究開発等の成果として新たに生み出された製品・サービスは、優れたものであっても市場に受け入れられるまでに時間を要するため、このことがイノベーション創出にあたってのリスクとなってしまう。ここで、国が率先的に調達を行うほか、技術上の目利きの機能のある公的研究機関がファーストバイヤーとなって製品・サービスを調達すれば、イノベーションの創出や関連産業の育成が促進される面もあると考えられる。
 このため、前述のような調達の合理化による研究者の負担軽減等とあわせ、諸外国の公共調達によるイノベーション促進の動きも踏まえつつ、このような公的調達機能を活用した製品・サービスのイノベーション促進施策等について、我が国においても積極的に検討する必要がある。このとき、国立研究開発機関による民間への技術移転やそこから提供される新たな製品・サービスの調達を通じ、イノベーション促進等の効果が期待できることに着目するべきである。

(2)世界で最も優れた競争的資金制度の実現

○複数年度契約など柔軟な資金運用が可能な競争的資金の実現(研究開発力強化法第27条規定事項)

 研究活動は、日本の会計年度に関わりなく進展するため、年度を超えた研究費の柔軟な使用が必要だが、国が自ら競争的資金を配分する場合、国の会計制度等によって規律されるため、柔軟な執行が困難となり、研究活動を柔軟に行うには限界があると考えられる。このため、競争的資金については、国立研究開発機関における予算執行を柔軟にした上で、効率的な推進に資すると認められるときはその配分機能を、可能な限り、国立研究開発機関に移管させることが研究者の負担の軽減、効果的な研究費の使用といった観点から重要である。
 なお、この場合においては、基礎研究の振興や特定の政策課題の解決を目指すもの等、それぞれの競争的資金の目的に鑑みて、当該目的が達成できる最適な競争的資金制度を国立研究開発機関において実現できるよう、国の適切な関与の在り方を検討することが必要である。またその際、競争的資金配分機関間の適切な緊張関係と競争環境の醸成等、限りある資源を最大限に活用し、期待以上の実質的成果をあげるための工夫が必要である。

○競争的資金配分機関と研究現場の協議や統一基準の促進(研究開発力強化法第26条規定事項)

 競争的資金制度は、それぞれの政策課題、目的、研究ニーズに応じて精査されて創設されており、競争的な環境の醸成に貢献しているが、各制度の申請等の運用方法が異なっているなど、共通化が十分でない側面があり、研究開発の現場の研究者等の不満につながっている面がある。研究を実施する者の視点に立ち、前述の日本版のFDP的な機能の実現をも視野に入れつつ、統一的な基準や切れ目のない資金供給の在り方を検討する必要がある。

○「ハイリスク研究」の実現等に向けた審査体制の改革(研究開発力強化法第47条規定事項)

 いわゆる「ハイリスク研究」の実現等を可能とするためには、競争的資金の配分において、新たな研究領域の創設の可能性や予期せざる波及効果の有無等を評価するような審査体制をつくることが必要である。このため、高度な審査・研究管理等を可能とする体制が必要であり、競争的資金配分機能を持つ国立研究開発機関の目利き機能や、高度なマネジメントを行うことのできる卓越した科学技術系人材の育成機能をさらに強化していくことが必要である。

 このように、世界で最も優れた競争的資金制度の実現に向けて、競争的資金の配分機能を持った機関を中心に、国立研究開発機関の積極的な取組が重要である。

(3)国際的な技術インテリジェンス(情報収集・戦略立案)機能の抜本的強化

 英国のSINや、シンガポールによるコンタクトシンガポールなどの取組は、グローバル化、ボーダレス化する科学技術・イノベーションの世界において、戦略的に国際競争と協調を進める上で重要性を増している。英国のSINやコンタクトシンガポール等の、我が国における実現をも視野に置きつつ、研究開発法人の海外事務所等を活用し、情報収集拠点の体制を適切に構築することで諸外国の研究開発システムの改革及び研究開発の動向の把握、優秀な研究者の獲得、卓越した評価者の招へい等に積極的に活用していく必要がある。

(4)将来の研究開発を担う子どもの才能を見出し伸ばす取組の充実及び科学技術に関する更なる理解を得るための取組の促進

 卓越した研究開発等の成果は、人の英知、創造性によって生み出されるため、いかに優秀な人材を育成、獲得するかが重要である。諸外国においては、将来のイノベーションを先導する研究人材を確保するため、人材の裾野に厚みを持たせるとともに、子どもや若者の才能を見出し伸ばす取組を進めている。我が国においても、研究開発力を将来にわたって維持、強化するため、子どもや若者が先端的な科学技術に接する機会の充実等を通じ、科学技術への興味・関心を高めるとともに、その才能を見出し伸ばす取組を充実していくことが必要である。
 また同時に、科学技術が国民の文化的な所産として意識されるような環境の整備を継続していく必要がある。特に基礎科学やデータ・資料等の収集・蓄積などの研究基盤の整備は地道な作業であり、必要性の説明が難しいところであるが、研究開発等において不可欠な取組でもある。このため、科学技術の推進にあたり、可能なものについては成果の目標等を示して、その成果を広く国民に伝えることにより、税金の使途としての予算執行の透明化の観点から説明責任を徹底し、国立研究開発機関及び国の情報発信力の強化を進める必要がある。

(5)機動的で柔軟な法人運営の実現や組織・業務の再編等による、徹底した無駄の排除

 公費を無駄なく最大限に活用するため、これまでに掲げてきたような、様々な業務の複雑化、手続き等の煩雑化を解消し、効果的な業務運営を実現する必要がある。特に年度内の予算執行が目的となり、結果として全体が非効率なものとならないよう、研究期間の弾力化や繰越しの合理化等、研究開発等の特性にあわせた適切かつ柔軟な予算執行を可能とすることが重要である。
 また、公的研究機関は公共的見地から確実に実施する必要がある事務・事業を担うものであり、その必要性、有効性等の観点から、関連する組織や業務の再編等も視野に入れ、極めて厳しい財政状況のもと、限られた予算を生かすため、徹底して無駄を排除する。


※1「研究開発システム」とは、研究開発又は研究開発の成果の普及若しくは実用化の推進のための基盤が整備され、科学技術に関する予算、人材その他の科学技術の振興に必要な資源が投入されるとともに、研究開発が行われ、その成果の普及及び実用化が図られるまでの仕組み全般のことを指す。

※2「ハイリスク研究」:研究目標が計画期間内に達成されるかどうかには高いリスクがあるが、成果が出るとインパクトがあり、研究開発領域の進展に貢献するなど非常に大きな影響を与える研究。研究開発力強化法第47条においては「著しい新規性を有し又は著しく創造的な分野を対象とする研究開発であってその成果の実用化により極めて重要なイノベーションの創出をもたらす可能性のあるもの」と規定。

※3「コンタクトシンガポール」:優秀な人材の獲得のため、ボストン、ロンドン、上海、チェンナイ、シドニー等にシンガポールの海外事務所が設置されている。この海外事務所は、在外シンガポール人や外国人向けに、シンガポールへの留学・就職情報や各種ビザの取得方法、住宅事情や子どもの教育についての情報を提供しており、在外シンガポール人の帰国奨励と外国人を招へいする一元的な窓口として機能している。

※4第3期科学技術基本計画期間中に政府研究開発投資の対GDP比率が1%、当該期間中におけるGDPの名目成長率が平均3.1パーセントを前提としている。

※5「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成21年10月31日内閣総理大臣決定)


参考

研究開発を担う法人の機能強化検討チームの検討の経緯

第1回日時:平成21年12月14日17時:18時
 検討の背景、現状認識等に基づき課題の提起
 有識者:理化学研究所理事長 野依 良治 氏

第2回日時:平成22年1月15日13時30分14時30分
 諸外国の研究マネジメント、イノベーションシステムにおける研究開発法人について有識者から発表
 有識者:政策研究大学院大学連携教授 永田 晃也 氏
 東京大学大学院工学系研究科教授 元橋 一之 氏

第3回日時:平成22年2月3日16時30分17時30分
 研究開発法人の長から現状と課題について発表
 有識者:情報通信研究機構理事長 宮原 秀夫 氏
 農業・食品産業技術総合研究機構理事長 堀江 武 氏
 産業技術総合研究所理事長 野間口 有 氏
 理化学研究所理事長 野依 良治 氏

第4回日時:平成22年3月17日16時17時
 中間論点整理メモ(試案)について

第5回日時:平成22年4月14日16時17時
 中間とりまとめ

 

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科学技術・学術政策局政策課

(科学技術・学術政策局政策課)

-- 登録:平成22年04月 --