科学技術基本計画 第2章 重要政策 2.優れた成果の創出・活用のための科学技術システム改革 7.科学技術振興のための基盤の整備

(1)施設・設備の計画的・重点的整備

(a)大学、国立試験研究機関等の施設の整備

 教育・研究機関の施設は、21世紀にふさわしい社会資本であり、その整備促進が不可欠である。
 大学等が活発な教育研究活動を展開し、優れた人材と研究成果を生み出すため、安全で効果的に教育研究に専念でき、かつ国内外の優秀な学生や研究者を引き付ける魅力に富んだ世界水準の教育研究環境を確保することが必要である。このため、国は、施設の老朽化・狭隘化の改善を最重要の課題として位置付け、老朽化・狭隘化問題の解消に向けて特段の予算措置を講ずる。
 国立大学等では、必要な整備面積は約1,100万平方メートルに達している。第2期基本計画期間中においては、このうち、大学院の狭隘化の解消、卓越した教育研究の実績がある研究拠点の整備、既存施設の活性化などの観点から、5年間に緊急に整備すべき施設を盛り込んだ施設整備計画を策定し、計画的に実施する。
 その際、施設の効果的・効率的な利用を図る観点から、各部局が共有する総合的・複合的な研究棟の整備を進める。また、学外者による評価も含めた点検・評価を踏まえ、学長のリーダーシップの下に施設利用の弾力化を推進する。また、老朽化施設の改善に向けて、適切な改修や機能向上を図り、既存施設の活性化を推進する。
 また、外部の機関が国立大学、国立試験研究機関等と共同して研究を行うために必要となる研究施設について、研究交流促進法(昭和61年法律第57号)を活用して、外部機関による整備を促進する。
 国立試験研究機関や独立行政法人研究機関等において、効果的に研究を推進し、優れた研究開発の成果を生み出すため、時代の要求に対応した施設の整備・充実を図る。特に、老朽化・狭隘化の進んだ施設について優先して、改善・改修等を早急に行う。

(b)大学、国立試験研究機関等の設備の整備

 大学、国立試験研究機関等の設備については、我が国が重点的に推進すべき分野や今後の大きな発展が期待される分野を中心に、研究発展の牽引力となる大型研究装置等の先導的な設備は共同利用を前提として、重点的整備を進める。さらに、研究遂行上必要な設備については、陳腐化によって研究効率が低下しないよう計画的な更新を進めるとともに、特に高度・大型の特殊な装置・設備について、その安定的運転や維持管理のための経費及び人員を確保する。

(c)私立大学等の施設・設備の整備

 私立大学等では、社会的要請の強い研究プロジェクトを推進するため、研究施設・設備の整備に対する補助を充実するとともに、長期・低利の貸付事業や、老朽施設の改築に対する利子助成事業を推進する。
 また、公立大学についても、教育研究条件の向上のための支援の推進を図る。

(2)研究支援の充実

 研究支援業務は、研究開発に重要な役割を果たすものであり、その体制の充実を図る。その際、研究分野などにより必要とされる具体的な研究支援業務が多様であること、また研究環境の整備もより競争的に行われることから、全ての研究分野において一律に目標を掲げるのではなく、研究支援業務については研究費の中で適切な手当をすること等の対応を行う。この際、労働者派遣事業の活用、専門的業務の外部化等アウトソーシングが可能なものは積極的に活用することとし、個々の研究及び必要とされる支援業務の実情に応じた対応を図る。また、研究機関で共通的な支援業務や特に高度な技能を要する支援業務については、競争的資金の獲得により得た間接経費の活用等により研究機関内に集約して配置された者が共通的に行う方式や、特殊法人が所要の人員を提供する方式等により、確保する。

(3)知的基盤の整備

 解決すべき課題が増大し、研究対象が複雑化・高度化する中、我が国における先端的・独創的・基礎的な研究開発を積極的に推進するとともに、研究開発成果の経済社会での活用を円滑にすることが必要である。このため、研究者の研究開発活動、さらには広く経済社会活動を安定的かつ効果的に支える知的基盤、すなわち、研究用材料(生物遺伝資源等)、計量標準、計測・分析・試験・評価方法及びそれらに係る先端的機器、並びにこれらに関連するデータベース等の戦略的・体系的な整備を促進する。

  • 現在整備が進められつつあるこれら4つの領域の知的基盤については、2010年を目途に世界最高の水準を目指すべく、産業界や公的研究機関等において早急に整備を促進する。その際には、中立性・公共性の高いもの、戦略的観点から支援が必要なものは国主体で整備し、民間活力を利用し市場形成し得るものは民間主体で行うこととするなど、官民役割分担について十分留意することが必要である。
  • 利用者にとっての利便性を向上させ、各種の知的基盤が統合的に運用できるよう、所在情報等の提供や利用者のニーズが整備に反映される仕組みを構築する。また、計量標準等の整備に係る国際的取組に主導的に参画する。
  • 今後の重要科学技術分野の研究開発の進展に伴って、新たに整備が必要となる知的基盤については、時機を失せず効果的に整備されるよう、研究開発プロジェクトの中で得られた研究成果(データや知見)も有効に蓄積・整備していく。
  • 国は、機動的対応を可能とするため、データや知見の提供と利用に関し、知的財産権その他の法的問題に関する基本的ルールを整備する。
  • 知的基盤整備への取組を今後の研究者・技術者の評価の観点の一つとして位置付ける。

(4)知的財産権制度の充実と標準化への積極的対応

 知的創造活動を促進する観点から、知的財産権の適切な保護は極めて重要である。従前より知的財産権保護のための国際的議論、制度整備が行われてきたが、引き続き以下のような取組を行う。

  • 国際的に通用する専門サービスの提供の促進、紛争処理機能の強化を図る。
  • 日米欧における共同先行技術調査・審査等に関する協力を進めるとともに、アジア諸国への知的財産権制度一般に関する支援を行う。特に、バイオテクノロジー、情報通信技術等先端的技術の適切な特許保護のための運用の明確化と国際的調和に向けた取組を強化する。

 また、研究開発成果の普及等には、新たに開発された技術の市場化のための手段としての標準化への積極的な対応が必要となる。特に、ネットワーク社会の進展、異業種融合分野の拡大等から、国際標準を制するものが市場を制する時代ともなっており、また研究開発の成果を具体化した製品等に係る基準認証制度が国際的に同等なものであることが国際競争の中で極めて重要な要素となっている。このような状況にかんがみ、ISO(国際標準化機構)、IEC(国際電気標準会議)、ITU(国際電気通信連合)等における国際標準化活動に積極的に寄与するとともに、経済活動のグロ-バル化に対応した国際ルールの整備への積極的貢献を図る。さらに、アジア・太平洋諸国との戦略的な標準化協力関係を構築する。これらと併せて、標準化を意識した研究開発を実施するとともに、公的研究機関の標準化活動への参画を促進する。

(5)研究情報基盤の整備

 高度情報化の急速な進展の中で、研究開発の現場は先陣を切って研究情報基盤の整備を進めてきた。特に、各研究機関におけるコンピュータの配備やLANの整備、研究機関間のネットワーク整備と高度化、ネットワークを活用した研究情報の共有、大学図書館等における電子図書館的機能の整備が進められている。
 今後も、情報通信技術の急速な進展に対応して引き続き研究情報基盤の整備を進めるとともに、これらの基盤の一層の活用を図り、研究開発情報の収集、発信を通じて、我が国の研究開発の高度化・効率化を図る。具体的には、各種研究ネットワーク及び研究機関内のLANについて、世界的動向も踏まえた上で、新技術の導入による高度化・高速化を含めた計画的な整備を推進する。また、研究機関に蓄積された研究情報の利用環境の高度化を図るため、研究成果、研究資源等の研究開発情報のデータベース化、学協会が発行する雑誌等の電子化及び大学図書館等における電子図書館的機能の整備を引き続き推進する。

(6)ものづくりの基盤の整備

 最近、我が国の製造等を巡り、技術継承の不足による高品質基盤喪失の危惧、製造業軽視の風潮及び相次ぐ事故の発生により、従来我が国が得意としてきた品質管理を含むものづくり能力に関し、深刻な疑念が存在する。このため、ものづくり能力の維持・向上のため、以下の体系的取組を行う。
 ものづくりを担うのは「人」であり、かかる人材を養成・確保するため、幼い頃からものづくりの面白さに馴染み、創造的な教育を行うこと、高等教育機関や公共職業能力開発施設等において、創意工夫を活かしたより実践的な教育・訓練を実施することや、インターンシップを促進することが必要である。加えて、広く国民がものづくりの重要性を理解し、尊重する社会の実現が必要である。このため、卓越したものづくりに関する能力を有する個人及び企業を対象とする「内閣総理大臣賞」をはじめとする表彰制度の創設の検討などの取組を推進する。さらに、プロジェクトの複雑化、製造現場の自動化等が進展する中で「技術のブラックボックス化」を回避するため、プロジェクト全体のスコープやコスト、品質、リスク等の適切な管理のための知識・手法の体系化を行い、高いプロジェクトマネージメント能力を有する技術者を養成する。
 熟練技能者が保有する高度な技能のデジタル化・データベース化・ソフトウェア化を行うことにより、再現性のある技術へ転換し、現在熟練技能者が有する技能の実質的な保全・継承を行う。また、設計段階で精緻なシミュレーションを行うことにより製品開発・製造の高度化・効率化を実現する、情報通信技術を活用した次世代の設計・製造技術の基盤の整備に努める等情報通信技術(IT)と製造技術(MT)の融合による新たな生産システムを構築する。
 技術革新をより加速していくためには、技術者がより知的な作業に集中できる環境を整え知的生産活動を支援する仕組みが必要である。このため、設計・製造プロセスに係る要素技術や過去の成功・失敗事例、公的機関等の技術指導事例などを、知識或いはデータとして蓄積し体系的に整理し広く提供していく。また、20世紀後半に生み出された人工物質・素材等が、環境への影響、安全性の評価を欠いたまま利用され、後に生命や地球環境に重大な悪影響を及ぼしたことを真摯に受け止める必要がある。これに対する反省に立って、その開発や利用・導入の前には、長期的な安全性についての評価や社会生活・自然環境に対するリスク・アセスメントを徹底するとともに、その情報を公開し、不断の見直しを図る。

(7)学協会の活動の促進

 学協会は、公的研究機関等と並んで幅広い人材と知識が集約されていることから、日進月歩に進展する科学技術に関する情報を広く社会に発信し、産学官及び外国との研究者レベルの交流を促進し、科学技術政策への提言を行うとともに、研究システム改革を推進する役割を果たすことが期待されている。このため、国としてもこれらの活動が活発に行われるよう、学協会を積極的に支援する。
 今後、社会や研究者のニーズに応えることが期待される非営利の民間団体についても、情報流通、技術移転、研究交流、研究支援等の活動を拡大することが期待されており、国としても必要な環境整備を行う。

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科学技術学術政策局計画官付

(科学技術学術政策局計画官付)

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