科学技術基本計画 第2章 重要政策 2.優れた成果の創出・活用のための科学技術システム改革 2.産業技術力の強化と産学官連携の仕組みの改革

 研究開発の成果は、市場原理に基づく競争的な環境の中で、現実に利用可能な財・サービスの形で広く社会に普及していくこととなるが、産業技術の役割は、このような知的創造活動の成果の国民生活・経済社会への橋渡しに貢献することである。産業技術力の強化に対しては、科学技術システムの改革が大きな効果を持つが、そのうち特に産学官連携の仕組みの改革は不可欠である。このため、産学官のセクター間にある「見えない壁」を取り除き、産学官の各セクターの役割分担や各研究機関の特性を踏まえつつ、成果が産業界に活用されるとともに、産業界のニーズ等が公的研究機関へ伝達されることにより、産学官の有機的な連携を促進し、革新的な財・サービスが次々と生まれる技術革新システムを構築する。

(1)産学官連携の強化のための情報流通・人材交流の仕組みの改革

 産業界が基礎的な研究開発をアウトソーシングする動きが活発化し、その相手となる研究機関を国の枠を越えて選択する傾向のある中、これまで以上に産学官連携を強化し、産業界と公的研究機関の共通認識の醸成を図ることが不可欠である。このため、産業界は積極的にニーズを提案し、公的研究機関はそれを踏まえた研究開発を推進する。具体的には、

  • 公的研究機関における研究組織・体制及び研究成果等の研究情報や人材情報を提供するデータベースを充実させ発信機能を強化する。
  • 公的研究機関においても、産業界等からの人材を積極的に登用するなど、経済社会におけるニーズが適切に研究開発課題に反映されるよう人的交流を通じた連携を促進する。また、最新の研究動向や研究開発に対するニーズについて、産業界と公的研究機関の者が定期的に議論できる場を設けたり、産学官連携を促進する人材の養成・確保を進める。また、共同研究センターや技術移転機関においても自由闊達な交流の場を創出していくこと等を通して、経済社会ニーズと公的研究機関における研究シーズのマッチングを促進する。
  • 公的研究機関への委託研究や公的研究機関との共同研究における実施体制、費用の算定、成果報告等を、産業界から見てより分かりやすくかつ利用しやすい形とすることで産業界の意欲を高める。また、産業界から公的研究機関に提供される研究資金についても、産学官連携のインセンティブを強化するため、間接経費を全て研究の実施に当たる研究機関に還元すべきであり、これを目指す。
  • 競争的資金についても、研究課題選定や中間・事後評価への産業界の人材の参画の拡大、産学官連携による共同研究における産業界の人材の研究責任者への登用等により、経済社会のニーズを研究開発に適切に反映する。
  • 国際標準についての経済社会ニーズが極めて高いことから、実用化を目指したもののみならず基礎的な産学官連携プロジェクトについても、標準化戦略を意識してその推進を図る。

(2)公的研究機関から産業への技術移転の環境整備

(a)技術移転に向けた公的研究機関における取組の促進

 公的研究機関からの産業への技術移転を進めるため、産学官連携のための組織的取組を強化することが重要である。特に、大学の共同研究センターについて、学部・学科等の枠を越えた最適な専門要員・人材の配置等により、一層の機能向上を図る。また、公的研究機関の研究活動の成果の事業化のために技術移転機関の活用促進を図るなど、技術移転に向けた各機関の主体的取組を促進するための支援等を行う。また、産学官連携の活動実績を、機関、研究者等の評価の基準の一つと位置付ける。

(b)公的研究機関が保有する特許等の機関管理の促進

 公的研究機関において、有用な研究成果を実用化に結びつける仕組みを整備する。このため、以下のような施策を推進する。

  • 第1期基本計画においては、自らの研究成果を伴って研究者が流動できるとの観点、及び研究者個人へのインセンティブを向上させる観点から、職務上得られる特許等について個人への帰属を導入し、活用促進を図ってきた。しかし、当該特許等の個人帰属は増加したものの、その実施という観点では必ずしも増加に結びついていない。研究開発成果の活用をより効果的・効率的に促進するため、個人帰属による活用促進から研究機関管理を原則とする活用促進への転換を進める。
  • 研究機関は、研究機関管理に必要となる特許等の取得、管理、展開の機能を整備する。技術移転機関は、研究機関のこれらの機能を支援する活動を促進する。
  • 研究機関管理への転換に当たって、発明者である研究者に対するインセンティブの一層の向上を図る観点から、実施料収入からの個人への十分な還元が行えるよう制度を整備する。なお、研究者が異動する場合における発明者インセンティブの継続についても十分に留意することが必要である。

 これらの改革は、まず、自主的な運営の中で特許等の活用が可能となる独立行政法人研究機関等において取り組み、大学等、他の研究機関については、今後検討する。なお、研究成果の特許化を進めるに当たっては、特許を取り巻く環境がグローバル化しつつある状況にかんがみ、公的研究機関においても、国内での取得のみならず海外における特許化を促進する。

(3)公的研究機関の研究成果を活用した事業化の促進

 公的研究機関と企業等との共同研究や、企業等から公的研究機関への委託研究によって得られた研究成果の企業等への移転を促進し、企業等が共同研究等を推進する意欲の高揚等を図り、公的研究機関の研究成果の事業化を促進する。したがって、共同研究や受託研究により得られた研究成果の関与した企業等への移転、とりわけ、

  • 企業等に対する国有特許等の譲渡及び専用実施権の設定による活用
  • 技術移転機関への国有特許等の譲渡及び専用実施権の設定による活用の拡大
    等を進める。特に、このため、関与した企業や大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律(平成10年法律第52号)により認定されたTLOへの随意契約による譲渡、TLOへの延べ払いでの譲渡契約の実施などにより、事業化を促進する。

 また、人材面においても、公的研究機関の研究者は、研究成果を活用する民間企業等の役員等への兼業制度及び休職制度等を積極的に活用する。国は、民間企業等における研究、指導等への従事に係る兼業許可の円滑な運用を図る。これらにより、公的研究機関の研究人材が社会全体で活躍できるようにし、公的研究機関から民間への技術移転、事業化を促進する。

(4)ハイテク・ベンチャー企業活性化のための環境整備

 我が国におけるベンチャー企業活性化のための環境整備については、これまでにも資金・人材面等において行われてきたところであるが、起業家精神の称揚が十分でないことに加えて、設立初期のリスクマネーの確保が引き続き困難であること、失敗時の個人リスクが大きいこと等にかんがみ、なお一層の充実を図る。具体的には、

  • 大学においても、起業家、ベンチャーキャピタリストを招いた授業科目を開設するなどにより、起業家精神に富んだ人材の養成・輩出に努める。また、大学院においては、専門大学院の充実を図るとともに、例えば、資金調達、法制度についての実践的な能力を向上させる。さらに、共同研究センター等を活用し、ベンチャー企業との共同研究を推進する。
  • 地域に存在する公的研究機関については、産学官連携窓口としての機能強化、研究人材の流動性の確保、連携プロジェクトの更なる推進等を通じて、地域のベンチャー企業に対してより開かれたものとしていく。
  • 中小企業に対する技術開発費を重点的に配分して技術開発・起業を促進するため、国は中小企業技術革新制度(SBIR)の積極的な活用を図り、制度を充実させる。
  • ストックオプション制度や株式制度等の企業法制の見直し、倒産法制の見直し等制度面からの対応を進める。

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-- 登録:平成21年以前 --