科学技術基本計画 第1章 基本理念 5.第1期科学技術基本計画の成果と課題

 第1期基本計画は平成8年度から平成12年度の5年間の計画として、平成8年7月に閣議決定された。同基本計画では、社会的・経済的ニーズに対応した研究開発の強力な推進と人類が共有し得る知的資産を生み出す基礎研究の積極的な振興を基本的方向とし、これらを実現するために、新たな研究開発システムの構築、望ましい研究開発基盤の実現、科学技術に関する学習の振興と幅広い国民的合意の形成について講ずべき施策を取りまとめた。また、政府研究開発投資については、5年間の科学技術関係経費の総額の規模が約17兆円必要とされる一方、厳しい財政事情を勘案することが必要とされ、これらの状況を踏まえ、毎年度の予算編成にあたって、第1期基本計画の推進に必要な経費の拡充を図っていくものとされた。
 第1期基本計画の期間中の施策の進捗状況及び課題は以下のとおりである。
 競争的かつ流動性のある研究開発環境の整備については、競争的資金はほぼ倍増し、若手研究者を対象とした研究資金も大幅に増加した。ポストドクター等1万人支援計画は、数値目標が4年目において達成され、我が国の若手研究者の層を厚くし、研究現場の活性化に貢献したが、ポストドクター期間中の研究指導者との関係、期間終了後の進路等に課題が残った。また、任期付任用制度、産学官連携の促進のための国家公務員の兼業緩和等の制度改善を行ったが、現在までの人材の流動性の向上は必ずしも十分ではない。
 研究開発評価は、「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」(平成9年8月7日内閣総理大臣決定)(以下、「研究開発評価に関する大綱的指針」という。)を策定し、研究機関や研究課題についての評価を本格的に導入した。大学については、自己点検・評価を義務化し、評価の一層の促進が図られた。しかしながら、評価結果の資源配分・処遇への反映や、評価プロセスの透明性は未だ不十分であるとされており、評価の実効性の向上が課題となっている。このため、評価の在り方や方法、結果の公表について、早急に改善が必要である。
 また、産学官連携の推進のため、例えば、国の委託研究開発に係る特許権等の保有、民間企業から国への委託研究の弾力的受入れ等を可能とするなどの制度改革や公的研究機関における体制等の整備を行うことにより、研究成果の活用・企業化に向けた環境整備を行った。公的研究機関からの特許申請数や民間企業との共同研究の数は着実に増加しており、それらを産業に結びつけるための法律に基づく技術移転機関も全国各地で活動を始めた。また、国以外の者が国立大学等と共同して研究を行うために必要となる共同研究施設を国立大学等の敷地内に整備することを促進するための法改正を行った。
 一方、施設、研究支援者数については十分な改善を行うことができなかった。特に、国立大学の施設については、大学院学生数が大幅に増加したこともあり、5年間で1兆円を超える資源を投入したものの、施設の老朽化・狭隘化問題の解消は全体として進んでいない。研究支援者の確保は、国立試験研究機関については若干の改善が見られたのみである。国立大学については、研究支援者数はむしろ減少傾向を示しているが、研究プロジェクトへの大学院学生の参画等により、研究支援体制の改善を図った。
 また、第1期基本計画においては、策定時の時間的制約もあり、国として重点的に取り組むべき科学技術の目標について必ずしも明確に示し得なかったが、第2期基本計画においては、国家的・社会的課題に対応した研究開発の目標を分かりやすく定め、それに向かって戦略的・重点的に取り組むことが必要である。
 平成8年度から12年度までの間の科学技術関係経費は、厳しい財政事情下にあっても、補正予算を含めて、必要とされた17兆円を超える額を実現した。
 実質的に4年間しか経過していない現時点で投資の効果を十分に評価することは困難であるが、第1期基本計画に基づく上記の制度改善等の進展により、研究開発の現場は活性化されつつあると認められる。この期間中に、白川英樹博士が導電性高分子に関する独創的な研究を認められてノーベル化学賞を受賞したことをはじめとして、世界最高水準の科学雑誌へ発表される我が国の論文の占有率は増加傾向にあり、また、スーパーカミオカンデでの物質の起源に迫る研究成果やガン細胞の自殺機構の解明など基礎科学や人類未踏の分野で世界最高水準の成果が上がっている。
 一方、投資の拡大に伴い、これまで以上に関係機関が適切な責任分担と連携の下で、質の高い研究開発をより効果的・効率的に進めていくことが求められてきている。
 以上を踏まえ、今後は、第1期基本計画に盛り込まれた改革を更に継続するとともに、第1期基本計画の期間中に明らかとなってきた課題に適切に対処する必要がある。

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