第3章 科学技術システム改革 3.科学技術振興のための基盤の強化

(1)施設・設備の計画的・重点的整備

 世界一流の優れた人材の育成や創造的・先端的な研究開発を推進し、科学技術創造立国を実現するためには、大学・公的研究機関等の施設・設備の整備促進が不可欠であり、公共的施設の中でも高い優先順位により実施される必要がある。
 その際、特に大学には次世代をリードする研究者など優れた人材の輩出が要請されていることから、創造的な学問、研究の場にふさわしい環境・雰囲気の醸成が求められる。

1 国立大学法人、公的研究機関等の施設の整備

 国立大学等施設緊急整備5か年計画により、優先的に取り組んできた施設の狭隘解消は計画通り整備されたものの、老朽施設の改善は遅れ、その後の経年等による老朽改善需要とあいまって、老朽施設は増加した。また、平成13年度以降新たに設置された大学院への対応、若手研究者の教育研究活動スペース確保への対応、新たな診断・診療方法の開発に伴う研修・実習への対応など、新たな教育研究ニーズも発生している。
 1960年代から1970年代にかけて大量に整備されてきた国立大学法人等の施設の老朽化が深刻化しており、機能的な観点から新たな教育研究ニーズに対応できないだけでなく、耐震性や基幹設備の老朽化など安全性の観点からも問題があるため、国は、老朽施設の再生を最重要課題として位置付け、長期的な視点に立ち計画的な整備に向けて特段の予算措置を講じる。
 国立大学法人等において必要な整備面積は約1,000万平方メートルに達している。国は、このうち、卓越した研究拠点、人材育成機能を重視した基盤的施設について、老朽施設の再生を最優先として整備する観点から、第3期基本計画期間中の5年間に緊急に整備すべき施設を盛り込んだ施設整備計画を策定し、計画的な整備を支援する。
 また、長期借入金等により整備を進めている大学附属病院や国立高度専門医療センターについては、引き続き、先端医療の先駆的役割などを果たすことができるよう、着実に計画的な整備を進めることを支援する。
 国立大学法人等は、全学的視点に立った施設運営・維持管理や弾力的・流動的スペースの確保等の施設マネジメント体制を一層強化するとともに、産業界・地方公共団体との連携強化、寄付・自己収入・長期借入金・PFI(民間資金等活用事業)の活用など、自助努力に基づいた新たな整備手法による施設整備を推進することが求められる。国は、国立大学法人等のこのような改革への取組を促進するために、必要な制度の見直しを行うとともに、国立大学法人等の取組を積極的に評価した上で、優先的な資源配分を行う。
 独立行政法人等の公的研究機関においても、優れた人材を育成するとともに卓越した研究開発の成果を生み出すため、時代の要求に対応した施設の整備・充実を図る。特に、昭和中期以前に設立された公的研究機関においては、著しく老朽化した施設が多数存在していることから、優先的かつ計画的に施設の再生・改修等を行う。
 また、筑波研究学園都市の公的研究機関のように、今後、同時期に老朽化問題が発生する恐れのある施設を有する公的研究機関は、各機関毎に長期的な整備計画を検討する。

2 国立大学法人、公的研究機関等の設備の整備

 基礎研究の進展等により、実験設備や先端研究設備の重要性が著しく増大し、理論研究面でもその利用が大きな要素となってきているため、国は、国立大学法人等において、長期的な視点で大型設備をはじめとする研究設備が計画的に整備されるよう支援する。
 国立大学法人や公的研究機関等においては、機関内での設備の共同利用等に積極的に努めるなど既存設備の有効活用を進めるとともに、機関の枠を超えた共同利用、競争的資金等による研究終了後の設備の再利用など、研究設備の効果的かつ効率的な利用を促進する。

3 公立大学の施設・設備の整備

 地域における教育研究の拠点として大きな役割を果たしている公立大学の教育研究施設・設備については、設置者である地方公共団体の判断に基づき、財政措置の充実が図られることが望まれる。

4 私立大学の施設・設備の整備

 我が国の研究能力を高め、教育研究の高度化を進める上で、私立大学の研究施設・設備の重点的な整備が重要であるが、私立大学の施設・設備の整備は必ずしも十分とは言えない状況にあることに鑑み、国は、私立大学において研究施設・設備の整備が積極的に進められるよう私学助成の充実を図る。

5 先端大型共用研究設備の整備・共用の促進

 次世代スーパーコンピュータや次世代放射光源のような最先端の大型共用研究設備は、整備・運用に多額の経費を要し、広く共用に供することが世界最高水準の成果の創出につながるものであるため、特定の研究機関の事業としてではなく国が責任を持って整備・共用を推進すべきであり、産学官の様々な組織から最も適した組織を選択し、公平で効率的に整備・共用を実施する。
 このため、共用を促進するための法整備を含めてこれら設備の整備から運用まで一体的に推進するための仕組みを構築する。また、国は、具体的な先端大型共用設備の選定に当たっては、厳格に評価を行った上で、大学共同利用機関等の大型研究施設・設備も含めて優先順位を付け、計画的かつ継続的に整備を行う。

(2)知的基盤の整備

1 知的基盤の戦略的な重点整備

 研究開発活動が高度化し、経済社会活動全体の知識への依存度が高まる中、これら活動全般を支える知的基盤(生物遺伝資源等の研究用材料、計量標準、計測・分析・試験・評価方法及びそれらに係る先端的機器、関連するデータベース等)について、量的観点のみならず、利用者ニーズへの対応の度合いや利用頻度といった質的観点を指標とした整備を行うよう知的基盤整備計画を見直し、選択と集中を進めつつ、2010年に世界最高水準を目指して重点整備を進める。
 なお、先端的機器については、機器開発そのものが最先端の研究を先導する性格を持つことを踏まえ、重要な分野の研究に不可欠な機器や我が国が比較優位を持ちつつも諸外国に追い上げられている機器について、鍵となる要素技術やシステム統合技術を重点開発する。

2 効率的な整備・利用を促進するための体制構築

 利用者の利便性向上や各種知的基盤の統合的運用を目指し、知的基盤の各領域について、公的研究機関等を中核的なセンターに指定し育成することにより拠点化を図る。中核的センターにおいては、利用者ニーズを把握し、知的基盤の整備・運用に反映することが求められ、その共通的な機能としては、関係諸機関との連携、知的基盤の所在や技術情報の集積・発信、知的財産等に関する検討等がある。
 公的研究機関や大学は、知的基盤整備の一翼を担う専任人材の確保等により必要な体制を構築するとともに、研究者・技術者の知的基盤整備への貢献の度合いを評価しうるよう、それぞれの運営方針に適切に位置付けることが望まれる。国は、知的基盤整備に貢献した研究者・技術者への表彰等により、この分野の社会的注目度を高めるよう努める。
 また、公的研究機関や大学は、研究開発成果を蓄積するためのデジタルアーカイブ化や研究用材料の保存等の重要性をそれぞれの運営方針に明確化するとともに、競争的資金等の研究費の獲得に当たっては、これらに必要な経費を含めて研究計画を立案するなど、その計画的な蓄積に努めることが期待される。
 今後、研究用材料等の授受がより頻繁に行われると考えられることから、国は、公的研究機関や大学とともに、知的財産等に関するルール整備に引き続き取り組む。その際、上記の中核的センターは、検討結果を他の機関と共有することを通じて、我が国の知的財産等に関する問題への対応能力の向上に貢献することが期待される。
 また、計量標準等の整備に係る国際的取組に引き続き主導的に参画し、特に、アジアにおける計量標準整備や生物遺伝資源整備に積極的に参加していく。

(3)知的財産の創造・保護・活用

 独創的かつ革新的な研究開発成果を生み出しそれを社会・国民に還元していくためには、知的創造活動を刺激・活性化し、その成果を知的財産として適切に保護し、それを有効に活用する、知的創造サイクルの活性化が不可欠である。我が国の科学技術の振興、国際競争力の強化に向けて、知的財産の創造、保護、活用に関する施策を推進する。

(大学等における知的財産体制等の整備)

 大学等においては、発明等の機関一元管理をはじめ、知的財産に関する体制の整備やルール作りが進められてきた。国は、今後の本格的な知的財産活動の展開に向けて、大学知的財産本部やTLOの体制整備を支援するとともに、知的財産の管理・契約に伴う様々な問題に対応し、迅速かつ柔軟な実務運用を行うための取組を促す。
 また、大学等が関係する知的財産に関する紛争が顕在化しつつあり、こうした紛争の解決に適切に対応できるよう大学等における体制整備を支援する。

(知的財産活動の推進)

 国際競争力の源泉となる優れた研究開発成果は、特に基本特許として国内外で効果的に権利取得し活用することが重要である。
 企業に対しては、質の高い基本特許の取得につながるよう、量から質への特許戦略の転換を促す。大学等は、優れた知的財産について国内外を問わず適切に権利を取得し活用していくことが重要であり、国は大学等の戦略的な取組を支援する。また、質の高い優れた研究成果が得られるよう特許情報等の検索システムの整備を行う。
 また、大学等での試験研究における他者の特許の円滑な使用など、ライフサイエンス等の先端技術分野が抱える知的財産の諸問題について、大学等における研究の自由度との適切なバランスにも配慮した検討を行い、必要に応じて知的財産制度やその運用の整備を図る。

(知的財産による地域の振興)

 知的財産の創造拠点たる大学等は、地域の核として、地域の振興につながる新たな知的財産を生み出すことが期待される。大学等と地域企業、地方公共団体、地域の研究機関との連携強化や、地域における知的財産に関するアドバイザー等の確保、活用を奨励し、地域のニーズにマッチした知的財産の創造や活用を推進する取組を支援する。

(4)標準化への積極的対応

 研究開発成果の普及には標準化への積極的な対応が重要であり、産業界が主体的に標準化活動を担う中で政府をはじめとする関係機関は効果的な支援を行う。
 国や公的研究機関は、研究開発プロジェクトを実施するに際し、研究開発計画の中に知的財産戦略のみならず標準化戦略を明確に位置付け、標準化活動に取り組む。
 また、日本発の国際標準を戦略的に獲得するため、技術的優位にある分野につき国際標準化案の作成等によって主導性を発揮するとともに、国際標準化機構(ISO)、国際電気標準会議(IEC)、国際電気通信連合(ITU)等の国際標準化機関の活動に対しては、関係府省間の連携及び産学官の連携を一層強化し、一貫性を持って迅速かつ効果的に参画する。さらに、国際標準化を目指す際、戦略的に国内規格を国際標準へのステップとして活用できるよう、国内規格の審議の迅速化を図る。
 さらに、国際標準化活動で国際幹事等を担うなど、標準化活動に的確に対応できる人材の重要性が増しており、標準化に関する教材の作成を含めた研修・教育プログラムの整備、公的研究機関の専門家の活用、国際標準化活動への参加支援の充実などを通じて、標準化専門家を養成する体制を強化する。

(5)研究情報基盤の整備

 研究情報基盤は、研究活動に不可欠ないわばライフラインとしての性格を有しており、特に、大型コンピュータや高速ネットワークなどは最先端の情報通信技術や国際動向に常に先行して整備していく。また、研究機関において不可欠な論文誌などの研究情報の体系的収集・保存、効果的発信並びに研究者・研究機関間の連携や協力を促進することにより、研究情報基盤の効果的かつ効率的な運用を進める。
 具体的には、最新技術の導入による柔軟かつ効率的な研究情報ネットワークや使いやすい計算機環境を実現するとともに、国際的な連携を強化する。また、ハードウェアやその有機的連携を強化する基盤的ソフトウェアの整備について、それらを包含する制度の構築や人材確保等を含め、総合的かつ戦略的な取組を進める。
 また、研究情報の利用環境の高度化を図るため、最新の情報通信技術の導入を進めつつ、論文等の書誌情報と特許情報の統合検索システムの整備、論文誌等の収集・保存体制の強化、大学図書館・国立国会図書館等の機能強化や連携促進を進める。
 さらに、我が国の研究情報の蓄積を資産として国の内外に発信できるよう、論文誌等の電子アーカイブ化支援を進める。
 なお、研究者が公的な資金助成の下に研究して得た成果を公開する目的で論文誌等で出版した論文については、一定期間を経た後は、インターネット等により無償で閲覧できるようになることが期待される。

(6)学協会の活動の促進

(学協会の役割)

 学協会は、研究成果の発表、知識の交換、研究者相互及び国内外の学協会との連絡提携の場として、大学等の研究機関を越えて我が国の研究活動を支える存在であり、我が国の科学技術の国際的地位を向上するためには、これら学協会の自助努力による改革を促し、機能を強化する必要がある。
 また、学協会には、その社会的役割を意識しつつ、科学技術に関する社会との積極的なコミュニケーション活動、児童生徒の国際科学技術コンテストへの参加支援、技術者の継続的能力開発への貢献など広がりのある活動が期待され、国としても、これらの活動が活発に行われるよう積極的に支援する。

(学協会の国際競争力の強化)

 論文誌による研究情報の発信・流通がインターネットの普及等により急速にグローバル化し、我が国の学協会は、資本力等で勝る欧米学協会に対し情報発信力が相対的に低下しており、研究成果の発表における国内学協会離れ等が懸念される。
 このため、学協会は、情報通信技術等を用いて研究情報の収集・分析・発信・流通の能力を高めるための基盤整備を行うとともに、海外研究者の招へいなど人材の活発な交流や情報通信技術の利用による情報発信の強化等により、研究集会の活性化を図ることが期待される。さらに論文誌の国際競争力強化の観点から、関連分野の論文誌との統合も含め、自立・発展への自助努力の下、論文誌の編集・査読における国際化や情報通信技術の活用を進めることなどが期待される。国は、これら学協会の改革を促し、その機能を強化するため、競争的かつ重点的な支援を行う。

(7)公的研究機関における研究開発の推進

 公的研究機関は、政策目的の達成を使命とし、我が国の科学技術の向上につながる基礎的・先導的研究や、政策的ニーズに沿った具体的な目標を掲げた体系的・総合的研究を中心に、重点的な研究開発を行う。その際、大学や産業界との連携を強化しつつ、イノベーションを生み出す潜在力を最大限発揮させ、創出された研究成果を効果的に普及・実用化し社会に還元するよう、機能を強化することが求められる。
 多くの公的研究機関が独立行政法人に移行しているが、各法人は、その長の裁量の下、自らの経営努力により、研究資金の柔軟かつ弾力的な運用や、公正で透明性の高い競争的な人事・給与システムの導入など、自律的・自発的な運営・改革に取り組むことが期待される。また、機関の機能を高めるという観点から、競争的資金等の獲得により研究開発を行うことも奨励されるが、機関の使命達成のために必要な経費が運営費交付金等により確実に措置されることがまず重要である。
 さらに、競争的資金の拡充及び戦略重点科学技術の推進を図っていくため、競争的資金の配分機関たる法人や戦略重点科学技術を担うに適切な法人については、独立行政法人であるがゆえに、直ちに予算上の制約が課されることのないようにする。
 筑波研究学園都市や関西文化学術研究都市においては、域内に複数の公的研究機関が集積しているという利点を活かした研究開発の連携や融合に取り組む。

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科学技術・学術政策局政策課

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