第3章 科学技術システム改革 2.科学の発展と絶えざるイノベーションの創出

 科学技術に関する資源を効果的に機能させ、科学の発展によって知的・文化的価値を創出するとともに、研究開発の成果をイノベーションを通じて社会的・経済的価値として発現させる努力を強化し、社会・国民に成果を還元する科学技術を目指す。その際、研究開発システムの改革のみならず、円滑な科学技術活動と成果還元に向けた制度・運用上の隘路の解消に取り組むことが重要である。

(1)競争的環境の醸成

 競争的資金については、第2期基本計画において目指すこととされていた倍増には至らなかったものの、その拡充が相当程度進むとともに、制度改革の進捗ともあいまって、競争的環境の醸成に向けた取組には着実な進展があった。今後、より多様な局面で競争原理を働かせることにより研究活動を活性化させるためには、更なる取組を進める必要がある。

1 競争的資金及び間接経費の拡充

 研究者の研究費の選択の幅と自由度を拡大し、競争的な研究開発環境の形成に貢献する科学研究費補助金等の競争的資金は、引き続き拡充を目指す。競争的資金を獲得した研究者の属する機関に対して研究費の一定比率が配分される間接経費については、全ての制度において、30パーセントの措置をできるだけ早期に実現する。
 間接経費は、研究の実施に伴う研究機関の管理等に必要となる経費に充てるものであり、機関の自主的判断のもと活用されることが基本であるが、その中でも、競争的資金を獲得した研究者の属する部局等の研究環境の整備や、当該研究者に対する経済面での処遇、研究者による円滑な申請等を支援する事務体制の強化などに活用することが期待される。

2 組織における競争的環境の醸成

(競争による研究活動の活性化)

 競争的資金は、研究者間の競争促進はもちろん、間接経費の措置により、研究者の属する組織間の競争を促す効果を持つ。これにあわせて、人材に係る競争性・流動性を高め、大学等の人材確保に係る競争を促進することも必要であり、これらがあいまって、研究活動の一層の活性化が期待される。
 世界一流の研究機関で行われているように我が国においても、大学等は、魅力ある研究環境の構築や研究者の処遇に努めることにより優秀な研究者を確保しつつ、これら優秀な研究者が獲得する競争的資金の間接経費等を研究環境の改善等に充当し、優秀な研究者を惹きつけるという好循環が形成されることが望まれる。

(大学における基盤的資金と競争的資金の有効な組合せ)

 我が国の大学においては、基盤的資金(国立大学法人運営費交付金、施設整備費補助金、私学助成)が教育研究の基盤となる組織の存立(人材の確保、教育研究環境の整備等)を支えることに重要な役割を果たすとともに、競争的資金が多様な優れた研究計画を支援するという研究体制が構築されている。このように、基盤的資金と競争的資金にはそれぞれ固有の機能があり、それぞれ重要な役割を果たしている。
 このため、政府研究開発投資全体の拡充を図る中で、基盤的資金と競争的資金の有効な組合せを検討する。
 なお、国立大学法人運営費交付金は、その全てが各大学の教員数等に比例して配分されるべきものではなく、また配分された経費については各大学の自主的・自律的な学内配分を尊重しつつ、学長裁量配分なども含め、競争的環境の醸成等の観点に立って、競争的資金や外部資金とあいまって最も効果的・効率的に活用されることが重要であり、国はこのような取組を促進する。

3 競争的資金に係る制度改革の推進

 各競争的資金制度の効果を最大限に発揮させるため、それぞれの制度の趣旨や目的を明確化するとともに、研究費の規模、研究期間、研究体制、評価方法、推進方策等が、その制度の趣旨に応じ最適化されるよう、制度改革を進める。

(公正で透明性の高い審査体制の確立)

 競争的資金の配分に当たっては、研究者の地位や肩書きによらず、申請内容と実施能力を重視した公正で透明性の高い研究課題の審査が不可欠であり、審査体制の抜本的強化に取り組む。各制度においては、審査業務の合理化を図りつつ、審査員の増員、研究計画書の充実、審査基準の見直し等の改革を進める。特に審査員の増員については、研究者コミュニティが自らの責務として積極的に協力することを期待する。また、各制度においては、多様な観点からの審査による公正さを担保するため、若手研究者や外国人研究者などを審査員に登用するよう努める。

(審査結果のフィードバック)

 審査結果の内容や審査の際の意見等をできる限り詳細に申請者に伝えることは、審査の透明性を確保し研究の質を向上させるとともに、若手研究者をはじめとする研究者の資質向上に寄与すると考えられ、競争的資金に係る各制度において、審査結果が研究者に適切にフィードバックされるよう、その詳細な開示を推進する。

(配分機関の機能強化)

 競争的資金の配分機能を独立した配分機関へ移行させることを基本とし、方針が定まっている制度は着実な移行を進めるとともに、方針が定まっていない制度は実態を勘案しつつ早期に結論を得て適切に対応する。
 各制度を支えるプログラムオフィサー(PO)、プログラムディレクター(PD)について、制度の規模に見合う人数で、これらの職に適切な資質を備えた者を確保できるよう、処遇に配慮する。また、大型の制度を中心として、できるだけ早期にPO・PDを専任へ転換していく。さらに、PO・PDが研究者のキャリアパスの一つとして位置付けられるよう、研究者コミュニティ全体が、PO・PDの職務経験を適切に評価することを期待する。
 配分機関においては、PO・PDのみならず、その活動を支援するための調査分析機能や、審査・交付・管理等に係る実務機能の充実・強化が不可欠であり、競争的資金の一定割合を確保すること等により、着実にその体制整備を行う。また、配分機関において、海外研修、国内セミナー等を充実させ、優秀なPO・PDの養成に努める。
 なお、競争的資金の配分に当たっては、年度間繰越や年複数回申請など競争的資金の効率的・弾力的運用を可能とするため、競争的資金の趣旨・目的を考慮しつつ適切に予算措置を講じる必要がある。

(2)大学の競争力の強化

 新たな知の創造と活用が格段に重要性を増す時代においては、大学の国際競争力の強化が極めて重要であり、世界の科学技術をリードする大学を形成する。また、地域における大学も含め、国公私立を問わず、個々の大学が、その個性・特色を活かして競争力を強化していくことが不可欠な時代になっている。このような認識の下、教育研究の基盤を支える基盤的資金は確実に措置する。

1 世界の科学技術をリードする大学の形成

 国際競争力のある大学づくりは、大学間の健全な競争なしには成し遂げられない。このため、国公私立を問わず、大学における競争的環境の醸成や人材の流動性の向上等を一層推進する。
 また、世界に伍し、さらには世界の科学技術をリードする大学づくりを積極的に展開するため、世界トップクラスの研究教育拠点を目指す組織に対して、競争原理の下での重点投資を一層強力に推進する。
 現在、国公私立大学を通じた大学の構造改革の一環として、21世紀COEプログラムが展開されているが、この評価・検証を踏まえた上で重点化を図り、より充実・発展した形で更なる展開を図っていくことが適当である。その際、大学の本来的使命としての優れた研究者育成機能の活性化や基礎研究水準の向上等の視点を確保することが重要であり、特定の研究領域等に偏するのではなく、基礎研究の多様性の確保や新興領域の創生等の観点から、幅広い学問分野を範囲とするとの基本的な考え方は維持することが適当である。
 このような基礎研究の多様性の確保等を旨とする施策を展開する一方、イノベーション創出に向けては、世界を先導しうる研究領域を生み出すとの視点から、産業界の協力も得ながら、特定の先端的な研究領域に着目して研究教育拠点の形成のための重点投資を行うことも極めて有効であり、その具体化を図る。
 これらの取組等を通じて、我が国の大学において、研究活動に関する各種評価指標により、世界トップクラスとして位置付けられる研究拠点、例えば、分野別の論文被引用数20位以内の拠点が、結果として30拠点程度形成されることを目指す。

2 個性・特色を活かした大学の活性化

(地域に開かれた大学の育成)

 地域における大学は、国公私立を問わず地域にとって重要な知的・人的資源であり、地域に開かれた存在として地域全体の発展に一層寄与すべきである。また、地方公共団体等は、このような大学をパートナーとして捉え活用していくことが地域再生に不可欠と認識し、積極的に支援していくことが期待される。例えば、地場産業・伝統産業の技術課題や新技術創出に大学が取り組む地域貢献型の産学連携や、それら産業と連携した人材育成の推進など、地域が大学と連携し、国の支援とがあいまって、地域の大学を核とした知識・人材の創出と地域活力の好循環を形成していくことが望ましい。
 地域の大学の活性化・活用による地域再生の一環として、文部科学省、地域再生本部、総合科学技術会議等が連携し、大学と連携した地域の自主的な取組に対する支援措置や環境整備を盛り込んだ「地域の知の拠点再生プログラム」を推進する。

(私立大学の研究教育機能の活用)

 私立大学は、これまでも独自の建学の精神に基づき、多様で特色ある教育研究活動を展開してきたところであり、国としても私立大学の有する人材育成機能、研究機能を一層活かしていくことが、我が国全体の科学技術水準の向上や多様性の確保の観点から不可欠である。一方、世界的研究教育拠点を目指す私立大学であっても、その研究環境が人的にも施設・設備的にも国立大学に比して不十分なところもあり、これを改善していく必要がある。
 このため、このような私立大学については、研究機能を強化する観点から重点的に助成の充実を図るとともに、競争的資金の運用に当たって、まず全ての制度について間接経費30パーセントの措置をできるだけ早期に実現した後、更に私立大学に対する間接経費を優遇するなど私立大学への配慮に努める。また、多様な民間資金の導入を促進するための所要の条件整備を行う。

(3)イノベーションを生み出すシステムの強化

 大学や公的研究機関等で生み出される優れた基礎研究の成果をはじめとする革新的な研究開発の成果をイノベーションに次々と効果的につなげていくため、産学官が一体となって、我が国の潜在力を最大限発揮させるべく、イノベーションを生み出すシステムを強化する。

1 研究開発の発展段階に応じた多様な研究費制度の整備

 研究開発の発展段階や特性に応じて、各研究費制度の趣旨、期待する成果、評価方法、推進方策等を一層明確化し、基礎研究からイノベーション創出に至るまでの多様な制度を適切に整備・運用する。

(基礎研究におけるハイリスク研究への取組)

 これまでの競争的資金制度の改革等により、基礎研究を支える制度は質・量ともに充実しつつあり、研究水準は着実に向上している。基礎研究を支える競争的資金制度においては、いわゆるピアレビュー審査が基本であり、その改善を徹底する。
 一方で、ピアレビュー審査を画一的に運用するのみでは、ハイリスク研究(研究者の斬新なアイディアに基づく革新性の高い成果を生み出しうる研究)は見いだしにくい恐れがある。このため、基礎研究を支える制度の一部において、研究者個人のアイディアの独創性や可能性を見極めて柔軟に課題選定を行う仕組みを設けること等により、ハイリスク研究に配慮する。

(イノベーション創出を狙う競争的研究の強化)

 社会・国民への成果還元を進める観点から、基礎研究で生み出された科学的発見や技術的発明が、単に論文にとどまることなく社会的・経済的価値創造に結びついていくよう、革新的技術を生み出すことに挑戦する研究開発を今後強化する必要がある。これには、研究者の知的好奇心の単なる延長上の研究に陥ることのないよう適切な研究のマネジメントが必要である。
 このため、新たな価値創造に結びつく革新的技術を狙って目的基礎研究や応用研究を推進する競争的資金については、例えば、イノベーション志向の目標設定や研究進捗管理等を行う責任と裁量あるプログラムオフィサー(プログラムマネージャー)を置くなどにより、マネジメント体制を強化する。

(先端的な融合領域研究拠点の形成)

 イノベーションは新たな融合研究領域から創出されることが多いが、そのような領域は経済社会ニーズに基づく課題解決に向けた積極的な取組により効果的に形成される。
 このため、国は、産業界の積極的な参画を得て、我が国が世界を先導しうる先端的な融合研究領域に着目した研究教育拠点を大学等において重点的に形成する。この拠点(先端融合領域イノベーション創出拠点)の形成に当たっては、1 真に産学協働による研究拠点、人材育成拠点であること、2 実用化を見据えた基礎的段階からの研究を実施すること、3 国の内外に開かれた拠点であること、4 研究資源の提供など産業界の明確なコミットメントがあること、5 これらを円滑にする斬新な組織運営やシステム改革を行うことなどに留意する。

(府省を越えた研究費制度の改革)

-多様な制度に応じた適切なマネジメントの強化-

 多様な研究費制度に応じて適切なマネジメントを行ってこそ、国民の目に見える成果を生み出していくこととなる。
 このため、国は、競争的資金やプロジェクト研究資金など各種の研究費制度について、対象となる研究開発の発展段階や特性に応じて、期待する成果を踏まえた適切な制度設計や運営がなされているかどうかを確認し、成果を創出するためのマネジメント強化を推進する。

-府省を越えて優れた研究成果を実用化につなぐ仕組みの構築-

 各府省の研究費制度や産学官の研究機関における研究開発は、基礎的段階から実用化段階まで広範にわたっているが、優れた成果を出しつつあり、かつ、イノベーションの創出へ発展する可能性がある研究について、制度や機関を越えて切れ目なく研究開発を発展させ、実用化につないでいく仕組みの構築に努める。総合科学技術会議は、このような各府省の取組を促進する。
 次の段階へ研究をつなぐことが期待される研究費制度においては、研究終了前の適切な時期に評価を実施し、優れた課題は切れ目なく研究が継続できる仕組みを導入する。
 さらに、研究費制度や産学官の研究機関間の連携に、府省を越えて取り組む。具体的には、各研究費制度における中間評価・事後評価結果の迅速な情報発信と他制度・機関での活用、配分機関や研究機関の間でのワークショップ等の開催を通じた先端研究動向・成果や研究開発戦略・ロードマップ等についての情報共有、成果の応用可能性の情報を抽出・集約したデータベースの構築、配分機関や公的研究機関において研究開発の立案時に広く他の研究成果を調査する機能の強化などの取組を促進する。

2 産学官の持続的・発展的な連携システムの構築

 厳しい国際競争の中、独自の研究成果から絶えざるイノベーションを創出していかねばならない我が国にとって、産学官連携は、その実現のための重要な手段であり、持続的・発展的な産学官連携システムを構築する。

(本格的な産学官連携への深化)

 今後、より本格的な産学官連携へ深化を図るべきであるとの観点から、大学等の優れたシーズを活かした従来型の共同研究や技術移転に加え、産学官が研究課題の設定段階から対話を行い、長期的な視点に立って基礎から応用までを見通した共同研究等に取り組むことで連携の効果を高めていくような戦略的・組織的な連携を促進する。そのような連携の一環として、産学官連携の下で世界的な研究や人材育成を行う研究教育拠点の形成を目指す。
 また、地域の競争力向上や大学や公的研究機関の地域貢献の促進の観点から、中小企業を含めた地域産業の技術課題や新技術創出に大学等が取り組む地域貢献型の共同研究を促進する。
 これらの取組を通じ、大学等における民間企業からの研究費受入額の大幅な増加を目指す。

(産学官連携の持続的な発展)

-産学官の信頼関係の醸成-

 持続的な産学官連携のためには、企業及び大学等の相互理解が不可欠であり、例えば、共同研究成果の帰属、企業ニーズへの柔軟かつ迅速な対応、守秘義務に対する認識の徹底、共同発明に係る不実施主体である大学等の特性への配慮などについて、双方が立場の違いを理解した上で十分に話し合い、問題の解決を図り、信頼関係を醸成していく必要がある。国は、双方が対話する場や成功事例情報等を提供するとともに、必要に応じてガイドライン等を示し自主的ルール作りを促す。
 なお、大学や公的研究機関において、企業との共同研究や委託研究に関して必要となる間接経費は、双方の十分な話し合いのもとに、当該研究費の中で確保されることが重要であり、国は適切に措置されることを促す。

-大学等の自主的な取組の促進-

 大学等は、産学官連携を含めた社会貢献を教育や研究とともに重要な使命として捉え、産学官連携活動をそれぞれの運営方針の中に適切に位置付けるとともに、自ら主体的に連携活動に取り組むことが望まれる。また、大学等は、産学官連携活動に積極的に取り組む研究者の業績を適切に評価することを期待する。なお、連携活動の進展に伴い生じる、いわゆる利益相反状態を適切にマネジメントする仕組みの整備も併せて行うことが必要である。国は、産学官連携活動に積極的に取り組む大学等へのインセンティブ付与に努める。

-大学知的財産本部や技術移転機関(TLO)の活性化と連携強化-

 産学官連携活動が十分な成果をあげていくためには、大学知的財産本部やTLOの活動を一層活性化し、効果的なものとすることが必要である。
 大学における知的財産の戦略的な創出・管理・活用を行う知的財産本部は、研究成果の社会還元という大学の使命を果たす上で極めて重要な存在であり、国は大学の主体性及び経営努力を求めつつ、その取組を支援する。また、民間への技術移転事業を実施するTLOについては、国はその立ち上げ支援を行うとともに、優れた実績をあげているTLOの成功要因の普及を図ること等によって、他のTLOや大学等の技術移転体制の強化を図る。
 大学は、自らの知的財産本部とTLOとの関係を明確にし、対外窓口の明確化を進めるとともに、TLOに蓄積された技術移転に関する知見・ノウハウを最大限活用する観点から、知的財産本部とTLOとの連携を一層強化する。

-知的財産活動の円滑な展開-

 大学等において、特許出願経費などの知的財産活動のための費用が、機関内で適切に確保されるよう機関の取組を促す。その際、競争的資金における間接経費の積極的な活用が期待される。また、国は、大学等で生まれる研究成果の社会還元を促進するための競争的な研究開発支援を充実するとともに、我が国の国際競争力強化の観点からも海外特許出願経費を適切に支援する。

3 公的部門における新技術の活用促進

 公的調達を通じた新技術の活用促進は、公的部門の活動の機能の充実や効率性向上等のみならず、研究成果の社会還元の促進の観点からも重要である。
 このため、安全に資する科学技術分野や先端的機器開発等の研究開発において、公的部門側のニーズと研究開発側のシーズのマッチングや連携を促進する。安全に資する科学技術については、研究情報等のネットワーク構築に努める。
 また、低公害自動車の導入等に見られるように、技術的要求度の高い新技術や市場規模が小さい段階にとどまっている新技術について公的部門が先進的な初期需要を創出することは、各部門の政策目的に資するのみならず、新市場を形成し民間のイノベーションを刺激するなど意義が大きい。公的部門は、透明性及び公正性の確保を前提に総合評価落札方式等の技術力を重視する入札制度を活用すること等により、新技術の現場への導入を積極的に検討することが期待される。
 なお、研究開発型ベンチャーにとって、製品等が公的部門によって調達されることは、企業の信用力を高めるとともに創業段階での収入確保のためにも重要であり、公的部門の新技術導入においては研究開発型ベンチャーからの調達に配慮する。

4 研究開発型ベンチャー等の起業活動の振興

 大学発ベンチャーをはじめとする研究開発型ベンチャーは、イノベーションの原動力として、新産業の創出や産業構造の変革、大学等の研究成果の社会還元に重要な役割を担うべき存在である。このため、起業活動に係る環境整備を推進するとともに、技術面、資金面、人材面、需要創出面など包括的な研究開発型ベンチャー支援策の強化を図る。特に、大学発ベンチャーについては、その創出支援を引き続き行うとともに、創出されたベンチャーが成長・発展するよう競争的に支援する。
 また、研究開発型ベンチャーは新事業への挑戦意欲が高く発注側の要求にも機動的に対応できるため、イノベーション創出を狙う競争的資金により行う研究開発や、国や公的研究機関が委託等により行う研究開発においては、能力ある研究開発型ベンチャーの活用を積極的に検討する。
 さらに、ファンド出資を活用した創業支援型ベンチャーキャピタルの育成、エンジェル税制の活用拡大など個人投資家の投資活動の促進、政府系機関の出資制度の効率化などを通じて、ベンチャーへのリスクマネー供給の円滑化に努めるとともに、ベンチャー支援者間のネットワーク形成を支援する。
 なお、我が国の起業家精神が国際的に見ても弱いとの指摘があるが、本質的な起業活動の振興には、挑戦する意欲や事業化への道筋を構想しうる人材(いわば潜在的な起業家)の分厚い層の形成が不可欠である。このため、大学において、学生等の起業活動の支援、人的交流による起業機会の創出、起業関連科目等の質の向上といった起業活動振興の取組を促進する。

5 民間企業による研究開発の促進

 研究開発や産学官連携の成果から新しい製品等の形で市場価値を創造し、最終的にイノベーションの実現につなげていくのは民間企業であることから、民間の研究開発を活性化させることが重要である。国としても、民間の自助努力を基本としつつ、その意欲を高めるため、研究開発活動促進に資する税制措置の活用や、事業化に至るまでの研究開発のリスクを軽減する技術開発制度の充実を図る。なお、我が国の産業競争力の基盤を支える中小企業については、財政基盤・経営資源の脆弱性も勘案した上で、ものづくり技術の強化や高度化に向けた取組を支援する。
 また、外部の研究開発能力や成果を活用し自社製品等を作り出す傾向が高まる中、国全体としてイノベーション創出を加速するため、民間企業には、長期的視点から大学や公的研究機関をイノベーションのパートナーと位置付け、相互に持続的に発展していく協働関係の構築が求められる。

(4)地域イノベーション・システムの構築と活力ある地域づくり

 地域における科学技術の振興は、地域イノベーション・システムの構築や活力ある地域づくりに貢献するものであり、ひいては、我が国全体の科学技術の高度化・多様化やイノベーション・システムの競争力を強化するものであるので、国として積極的に推進する。また、地域住民の安全・安心で質の高い生活の実現や、創造的で魅力ある地域社会と文化形成などにも寄与するものとして、広がりのある活動を振興する。

1 地域クラスターの形成

 地域クラスターの形成には、産学官連携による研究開発だけでなく、金融の円滑化、創業支援、市場環境整備、協調的ネットワーク構築などの様々な活動が必要であり、地域の戦略的なイニシアティブや関係機関の連携の下で長期的な取組を進める。
 国は、地域のイニシアティブの下で行われているクラスター形成活動への競争的な支援を引き続き行う。その際、クラスター形成の進捗状況に応じ、各地域の国際優位性を評価し、世界レベルのクラスターとして発展可能な地域に重点的な支援を行うとともに、小規模でも地域の特色を活かした強みを持つクラスターを各地に育成する。

2 地域における科学技術施策の円滑な展開

 地域科学技術施策の推進に当たっては、地方公共団体が積極的役割を果たすことを期待するとともに府省間の縦割りを排し府省連携を強化する。
 地域における産学官連携の推進には、コーディネーター機能の強化が重要であり、その支援体制の充実やコーディネーター間のネットワーク形成等を支援する。また、インターンシップなど地域の大学と地域産業との連携による人材育成を促進する。また、地域における国の公的研究機関は、自らシーズを創出・発信するとともに、地域の大学等と連携しつつ、地域産業のニーズにも対応していくことが期待される。地方公共団体の公設試験研究機関は、地域産業・現場のニーズに即した技術開発・技術指導等を行っているが、これまでの活動成果の検証等を踏まえて、それぞれの特色や強みを活かした業務への選択と集中、さらには地域間の広域的な連携等を図りつつ、地域の産学官連携に効果的な役割を果たすことが期待される。

(5)研究開発の効果的・効率的推進

1 研究費の有効活用

(研究費配分における無駄の徹底排除)

 研究費配分の不合理な重複や、研究者個人の適切なエフォート(研究に携わる個人が研究、教育、管理業務等の各業務に従事する時間配分)を超えた研究費の過度の集中は、排除を徹底する必要がある。
 このため、電子政府構築計画に基づき、できるだけ早期に、府省横断的に競争的資金制度間で情報を共有し重複等のチェックを実施するため、研究者自らによるデータ入力が可能となる応募受付等の業務も含めた府省共通の研究開発管理システムを、競争的資金制度を核として、研究資金制度全般に適用できることを考慮に入れた上で構築する。
 一方、競争的資金以外も含めた研究費全体の配分状況について、全体像を把握し、重複排除等の効果的・効率的な資源配分に資するため、総合科学技術会議は、政府研究開発データベースを構築し、プロジェクト研究資金などの競争的資金以外の研究費についてもデータ整備を進める。府省共通の研究開発管理システムと政府研究開発データベースとは、十分な調整を図った上で、府省横断的な活用を推進する。各府省は、その活用により重複等のチェックを実施し、配分決定に係る説明責任を適切に果たす。
 なお、研究費の不正受給や不正使用については、研究者に申請資格の制限を課す等厳格に対処する。

(大学や公的研究機関による研究者のエフォート管理)

 大学や公的研究機関は研究者のエフォートを管理し、研究者が外部から獲得した研究費による研究開発の実施に割く時間を確保すべきであり、特に、世界的研究教育拠点を目指す大学等においては、適切なエフォート管理の早期の定着に努める。また、競争的資金やプロジェクト研究資金等の研究費制度の申請において、機関の了解の下で研究者のエフォートを申請書に記載することを徹底する。

2 研究費における人材の育成・活用の重視

 研究開発に携わる中で人材が育成されることの重要性や、研究開発の重点化に伴い人材の重点化も進むべきことに鑑みれば、競争的資金等の研究費において、人材の育成や活用を行うことが一層重視されるべきである。
 したがって、各研究費制度において、研究費が人材の育成・活用に充てられるよう努めることとし、必要な制度改善を行う。これにより、博士課程在学者への生活費相当額程度の支給により若手を育成することや、ポストドクター・研究支援者・外部研究人材等への人件費の措置によって若手研究者が自立して研究組織を編成すること等を促進する。
 同時に、汎用の研究機器の共同利用を前提にした申請を徹底することや、共用スペースの利用を促進することなどにより、全体として施設・設備の有効活用を極力進める。

3 評価システムの改革

 研究開発評価は、国民に対する説明責任を果たし、柔軟かつ競争的で開かれた研究開発環境の創出、研究開発の重点的・効率的な推進及び質の向上、研究者の意欲の向上、より良い政策・施策の形成等を図る上で極めて重要であり、大綱的指針及び大綱的指針に沿って各府省等が評価方法等を定めた具体的な指針等に則って実施する。
 なお、更に我が国の評価システムの一層の発展を図る観点から、研究開発評価の実施状況等を踏まえ、必要に応じ大綱的指針の見直しを行う。

(改革の方向)

 創造への挑戦を励まし成果を問う評価となるよう、評価の観点として、評価が必要以上に管理的にならないようにすることや、研究者が挑戦した課題の困難性も勘案し意欲喚起を図ること、独創的で優れた研究者・研究開発を見いだし育てることのできる資質を持つ評価人材を養成・確保すること等に努める。
 世界水準の信頼できる評価となるよう、評価の実施に当たって、評価対象や評価時期、評価目的等に応じて適切な調査・分析法及び評価法を選択すること、評価手法の開発・改良を進めること、若手を含む評価人材(評価に精通した個別分野の専門家、府省や機関等の職員、評価を専門分野とする研究者等)の養成や評価能力の向上を図ること等に努める。
 活用され変革を促す評価となるよう、評価が戦略的な意思決定を助ける重要な手段であることを十分認識し、誰がどのように評価結果を活用するかをあらかじめ明確にした上で、評価目的を明確かつ具体的に設定すること等に努める。
 なお、評価対象の観点からは研究開発施策の評価について、実施時期の観点からは追跡評価について、その実施状況に鑑み、一層の定着・充実を図っていく。

(効果的・効率的な評価システムの運営)

 評価の不必要な重複を避け、評価の連続性と一貫性を保ち、全体として効果的・効率的に評価システムを運営していく観点から、研究開発を実施する府省や機関等は、評価システムの運営に関する責任者を定め、評価の相互連携・活用や評価のための体制・基盤の整備等を行うことにより、評価システムの改善を図る。その際、評価のための予算の確保、評価人材の養成・確保、データベースの構築・管理等を進める。

(政策目標を踏まえた評価の推進)

 評価は、研究開発の特性に応じて、適切な評価項目及び評価基準を設定し実施するが、その際、社会・国民への成果の効果的還元が図られるよう、当該研究開発に係る政策目標を踏まえた評価項目・評価基準の設定に努める。

(6)円滑な科学技術活動と成果還元に向けた制度・運用上の隘路の解消

 科学技術の振興に当たっては、人材の活発な交流、研究活動の円滑な実施、産学官連携の促進、さらには研究成果の社会への円滑な還元などを支える制度的な環境を整備することが、科学技術に対する人的・物的投資の効果を高める重要な鍵である。これまでも研究交流制度、研究者の任期制、独立行政法人制度、国立大学法人制度、知的財産制度など各方面において顕著な進展が見られたところであるが、いまだ様々な制度的隘路が存在しているとの指摘は多い。例えば、外国人研究者の出入国管理、出産・育児における女性研究者の勤務環境、異動に伴う年金・退職金の扱い、研究費の繰越明許の活用促進、治験薬の臨床研究環境、研究支援者等の雇用環境、研究機関の資金調達環境などが考えられる。
 このため、総合科学技術会議は、今後科学技術政策と他の政策との境界領域への関与を積極的に深めることとし、科学技術の振興上障害となる制度的隘路の解消や研究現場等で顕在化している制度運用上の諸問題の解決のため、関係府省や審議会等と連携してこれに取り組む。また、必要に応じ意見を具申し、その実施状況についてフォローアップを行う。

お問合せ先

科学技術・学術政策局政策課

(科学技術・学術政策局政策課)

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