第1章 基本理念 3.科学技術政策の理念と政策目標

(1)第3期基本計画の理念と政策目標

 第2期基本計画で掲げられた目指すべき国の姿(3つの理念)は、誰もが共有でき、時間を通じて普遍性の高い概念である。またこれら3つの理念は全体として科学技術政策を網羅しており、今後の科学技術政策においても適切である。
 他方、こうした一般性の高い理念だけでは、多様な政府の研究開発投資の国民への分かりやすい説明や、具体的・個別的な政策への方向付けとしては十分ではない。社会・国民への説明責任の徹底と科学技術成果の還元という視点からも、理念の実現のために科学技術政策が目指すべき具体的な政策目標を明示し、官民の役割分担を考慮した上でその目標に向けた施策展開を図るとともに、施策効果の評価を行っていくことが望ましい。
 したがって、第3期基本計画においては、第2期基本計画の掲げる3つの理念を基本的に継承しながら、科学技術、経済、社会をめぐる国内外の情勢変化と今後の展望等を踏まえて、3つの理念を実現するため、科学技術が何を目指すのかという、より具体化された政策目標を設定する。すなわち、以下のとおり、6つの大目標と、その各々を構成する12の中目標である。なお、理念、目標を掲げる順序は重要度を示すものではない。これらは我が国が目指すべきものとして等しく価値を持つものである。また、その目標達成のために科学技術政策の役割は重大であるが、科学技術政策以外の政策の成果や、民間企業等政府以外の活動の成果なしには達成しえない部分を含むものである。

理念1 人類の英知を生む
-知の創造と活用により世界に貢献できる国の実現に向けて-

◆目標1 飛躍知の発見・発明-未来を切り拓く多様な知識の蓄積・創造

(1) 新しい原理・現象の発見・解明

◆目標2 科学技術の限界突破-人類の夢への挑戦と実現

(3) 世界最高水準のプロジェクトによる科学技術の牽引

 人類の英知を創出し世界に貢献できる国の実現のためには、飛躍的な知を生み続ける重厚で多様な知的蓄積を形成することがまず求められる。新しい原理・現象の発見や解明を目指す基礎研究を中心とした知識の蓄積の上に、近年原子・分子レベルで急展開する生命科学や材料科学等において探求されているような非連続な技術革新の源泉となる知識への飛躍が期待されている。このような飛躍への知識の蓄積については、いまだ我が国は、欧米諸国に比肩しうる十分な厚みを有するには至っていない。
 また、世界最高水準のプロジェクトにより科学技術の限界へ挑戦し、人類に貢献することも科学技術政策が追求すべき目標である。いまだ人類が見ることや知ることができずにいる領域の情報を得ること、極限的な環境でのみ出現する現象を発見することなど、国際的な知の創造の営みにおいて世界をリードすることが求められる。

 これらの実現のためには、知的創造の経験を情熱を持って追い求める意欲的な研究者の育成と活躍の促進が不可欠である。なお、世界的にも認められる優秀な研究者の輩出は、後に続く人材の目標となり、新たな挑戦の意欲をかき立てるものでもあることから、第2期基本計画においては、国際的科学賞の受賞者を欧州主要国並に輩出することを目指して、50年間にノーベル賞受賞者30人程度を輩出することを掲げたが、第3期基本計画の科学技術政策がその実現に貢献するものとなるよう、人に着目した考え方に立って基礎研究等を推進していくことが求められる。

理念2 国力の源泉を創る
-国際競争力があり持続的発展ができる国の実現に向けて-

◆目標3 環境と経済の両立-環境と経済を両立し持続可能な発展を実現

(4) 地球温暖化・エネルギー問題の克服
(5) 環境と調和する循環型社会の実現

◆目標4 イノベーター日本-革新を続ける強靱な経済・産業を実現

(6) 世界を魅了するユビキタスネット社会の実現
(7) ものづくりナンバーワン国家の実現
(8) 科学技術により世界を勝ち抜く産業競争力の強化

 人口減少・少子高齢化や地球温暖化・エネルギー問題といった制約を克服しつつ、激しい国際競争の下で持続的な発展を可能とする国を実現するためには、国力の源泉としての科学技術に取り組むことが不可欠である。その際、日本経済の繁栄を確保しつつ、国際約束である2012年までの我が国の温室効果ガス排出の1990年比6パーセント削減をいかに達成するかということが大きな政策課題となる。また、国民の科学技術への期待が大きい環境の分野では、自然と共生し環境と調和する循環型社会の実現も科学技術が取り組むべき大きな政策課題である。
 一方、中国、韓国等のアジア諸国の台頭で熾烈な競争に直面している我が国産業が競争力を確保するためには、我が国発の付加価値の高いイノベーションを生み続ける科学技術に取り組むことが重要な政策課題である。そのために、世界を先導・魅了するユビキタスネット社会を築くこと、我が国の強みであるものづくりで世界をリードすること、さらには科学技術により世界で勝ち抜く産業競争力を確立することが政策目標となる。
 また、このような国際競争力ある新産業が創造されれば、質の高い雇用が生まれるとともに、所得が増加することが期待される。これと同時に、温室効果ガス等の環境負荷の最小化を実現することは、環境と経済の両立のために科学技術が挑戦すべき重大な課題である。

理念3 健康と安全を守る
-安心・安全で質の高い生活のできる国の実現に向けて-

◆目標5 生涯はつらつ生活-子どもから高齢者まで健康な日本を実現

(9) 国民を悩ます病の克服
(10) 誰もが元気に暮らせる社会の実現

◆目標6 安全が誇りとなる国-世界一安全な国・日本を実現

(11) 国土と社会の安全確保
(12) 暮らしの安全確保

 第2期基本計画期間中において、国民が最も身近に科学技術への不安を感じるとともに期待が強いのは、健康と安全の問題である。この間、SARS(サーズ)(重症急性呼吸器症候群)、BSE(牛海綿状脳症)、鳥インフルエンザ等国境を越えた感染症の発生、これらも契機とした食の安全性に関する不信感の高まり、花粉症等免疫疾患の深刻化、地震・津波・台風等による大規模自然災害や列車事故等の大規模事故の発生、米国同時多発テロ以来複雑化した国際安全保障環境、情報セキュリティに対する脅威の増大、依然として厳しい治安情勢等、国の持続的な発展基盤である安全と安心を脅かす事態が次々と生じた。その一方で、細胞・分子レベルでの進歩が著しい生命科学による画期的な治療法、予防医学や食の機能性を活用した健康な生活の実現、地震等の自然災害、事故・犯罪等に対する先端科学技術の最適な活用など、健康と安全を守る科学技術への期待は高まっている。
 このような状況を受け、子どもから高齢者まで国民を悩ます病を克服し、誰もが生涯元気に暮らせる社会を実現すること、さらには国家・社会レベルから生活者の暮らしに至るまで、安全が誇りとなり世界一安全と言える国を実現することを科学技術政策の目標に位置付ける。

 こうした3つの理念の下での政策目標を実現していくためには、政府の行う研究開発について、より具体的な個別政策目標を設ける必要がある。総合科学技術会議の主導の下、関係府省はその研究開発について、12の中目標の実現に向けた個別政策目標を定め、総合科学技術会議がこれを取りまとめる。また、個別政策目標については、政策ニーズに対する情勢変化等に適切に対応して必要な見直しを行っていく。
 このように政府研究開発投資全体について、理念、政策目標、さらにはそれらの実現につながる研究開発の体系を整理することにより、(イ)何を目指して政府研究開発投資を行っているのか、どこまで政策目標の実現に近づいているかなど、国民に対する説明責任が強化されるとともに、(ロ)個別施策やプロジェクトに対して具体的な指針や評価軸が与えられ、社会・国民への成果還元の効果的な実現に寄与する。

(2)科学技術による世界・社会・国民への貢献

 新たに具体化された政策目標に向けた投資運用や施策展開が行われることを通じ、今後地球規模で深刻化する人口問題、環境問題、食料問題、エネルギー問題、資源問題や我が国で急速に進展する少子高齢化に対しても、科学技術が貢献を強める。すなわち、上記1から6までの政策目標の達成により、

(世界への貢献)

  • 人類共通の課題を解決
  • 国際社会の平和と繁栄を実現

(社会への貢献)

  • 日本経済の発展を牽引
  • 国際的なルール形成を先導

(国民への貢献)

  • 国民生活に安心と活力を提供
  • 質の高い雇用と生活を確保

を図っていくこととする。
 日本の研究者コミュニティを代表する日本学術会議は、第3期基本計画の策定に当たって、科学技術政策の要諦についての議論を声明として取りまとめたが、上記のような基本姿勢、理念、政策目標に基づき、以下に述べるような政策を展開することによって、こうした研究者コミュニティの期待にも応えられるものと考えられる。

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科学技術・学術政策局政策課

(科学技術・学術政策局政策課)

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