21世紀におけるハイテクベンチャー企業支援のあり方に関する調査[第178号]

‐第178号‐
平成10年9月10日

 本調査は、まず、我が国におけるハイテクベンチャー支援関連機関が実施している支援プログラムの効果と課題・問題点について分析を行い、国内の主要なハイテクベンチャー企業の設立経緯と事業内容、直面した課題、支援プログラムの活用状況について整理・分析を行った。次に、日本と比較するために、米国、イギリス、ドイツ、台湾、シンガポールにおけるハイテクベンチャー企業を取り巻く風土・土壌を整理した上で、海外諸国における主要なハイテクベンチャー企業支援プログラムの内容、成果、課題等について整理・分析し、これらを参考としつつ、日本におけるハイテクベンチャー支援プログラムの課題整理等を実施した。
 本調査は、今後の科学技術政策立案のための基礎資料を得ることを目的として、科学技術振興調整費により平成9年度から平成10年度にかけて実施しているものである。今回は、平成9年度の調査結果について報告する。

1.調査目的

 ハイテクベンチャー企業に関する日欧米の事業環境の差異、各地域におけるハイテクベンチャー育成支援策とその成果を明確にすることにより、21世紀の我が国におけるハイテクベンチャー企業支援のあり方に資することを目的として調査を行った。

2.調査方法

 本調査は、通商産業省中小企業庁より株式会社野村総合研究所に委託して実施した。

1)我が国におけるハイテクベンチャー企業支援プログラムとその効果

(1)通産省が実施するハイテクベンチャー支援プログラムの特徴

 既存文献の資料調査や関係担当部署へのインタビュー等を通じて、通産省が実施しているハイテクベンチャー支援プログラムについて類型化を行い、その特徴を整理した。

(2)全国のベンチャー支援関連機関が実施しているハイテクベンチャー支援プログラムの効果と課題・問題点

 全国の主要なベンチャー・ビジネス支援財団、科学技術財団、主要なテクノ財団等を対象として、文献調査やこれまでになされた調査結果について分析するとともに、実際の効果、課題・問題点についてインタビュー調査を実施した。

2)国内のハイテクベンチャー企業の経営課題と支援プログラムの活用状況

 野村総合研究所のベンチャー企業データ、VC(ジャフコ等)の協力、VECが保有する情報を活用し、ハイテクベンチャー企業の設立経緯と事業内容、直面した課題、支援プログラム・事業の活用状況についてインタビュー調査を実施した。

3)海外諸国におけるハイテクベンチャー企業支援プログラムとその効果

(1)海外諸国ハイテクベンチャー企業を取り巻く社会経済的環境の整理

 米国、欧州(イギリス、ドイツ)、アジア(台湾、シンガポール)におけるハイテクベンチャー企業の位置づけを明確にするため、文献調査やこれまでになされた調査結果等について、ハイテクベンチャー企業の役割や風土・土壌、ベンチャー企業の事業活動を規制する要因、支援策の基本理念について整理した。

(2)海外諸国における主要な支援プログラム提供主体へのインタビュー調査

 公的プログラム、民間等の支援事業について、文献調査やこれまでになされた調査結果について分析するとともに、現地インタビュー調査を実施した。

4)ハイテクベンチャー企業支援策に関する課題整理

(1)産業界・学識経験者等へのインタビュー調査

 国内および海外諸国におけるハイテクベンチャー企業支援策に関する情報収集、調査全体に対する総合的なアドバイス等を得た。

(2)産業界・学識経験者及び海外要人等によるディスカッション

 これまでの調査結果を基に、野村総合研究所及び中小企業庁においてディスカッションを実施するとともに米国KTEC(ベンチャー企業支援機関)の代表者との意見交換を実施した。

3.調査結果(概要)

 我が国のハイテクベンチャー企業支援を取り巻く課題・問題等について、「日本のハイテクベンチャー企業支援プログラムから導き出される課題・問題点」、「日本のハイテクベンチャー企業インタビューから導き出される課題・問題点」、「ハイテクベンチャー企業を取り巻く社会経済的事業環境の国別比較から導かれる問題点」、「海外諸国におけるハイテクベンチャー企業支援プログラムとの比較」の各項目毎に整理すると以下の表のようになる。

日本におけるハイテクベンチャー企業支援を取り巻く課題・問題点のまとめ表

  国内支援プログラムから導かれる課題・問題点 企業ヒアリングから導かれる課題・問題点 社会経済的事業環境の国別比較から導かれる課題・問題点 海外諸国からの示唆
人材関連事業
  • 起業家育成プログラムの受講対象層の引き下げが必要であること
  • 研究公務員に対する創業インセンティブ措置が十分でないこと
  • ベンチャー支援プログラム実施担当者に支援を行うためのノウハウが蓄積しにくいこと
  • ビジネスノウハウを有する起業家支援者をうまく活用できていないこと
  • 大手・中堅企業からのスピンアウトが困難であること
  • 日本の雇用慣行に由来する特徴として、労働力の流動性が低いこと
  • ベンチャー企業支援層が未成熟であること
  • 小中高校生を対象とした起業家教育が普及していること(米国)
  • ビジネスノウハウを有するプロフェッショナルによる支援が行われていること(米国)
  • 公的な試験研究機関からの組織的スピンオフをする仕組みがあること(台湾)
技術関連事業
  • 研究開発の成果をビジネス化するための支援スキームが確立されていないこと
  • ベンチャー支援機関の組織形態がビジネス化を生みにくい構造にあること
  • 特になし
  • 特になし
  • 明確に商業化を目的とした段階型支援プログラムがあること(米国)
資金関連事業
  • ベンチャー・キャピタルに対する間接投資方式を利用するインセンティブが小さいこと
  • ベンチャー財団に投資案件を発掘するノウハウがないこと
  • 間接投資先に対するフォローアップが欠けていること
  • 製品化に対する公的補助金がないこと
  • スタートアップ企業に対する減税措置が十分でないこと
  • 政府資金を活用した投資事業にはベンチャー企業の経営サポートが義務づけられていること(ドイツ)
インキュベート関連事業
  • 技術面での支援にウェートが置かれ、経営面での支援が不十分であること
コーディネート関連事業
  • ビジネス・ノウハウを有するコーディネート機能が未熟であること
  • ビジネスノウハウを有するプロフェッショナルによる支援が行われていること(米国)
その他
  • 支援プログラム間のリンケージがないこと
  • 支援プログラムの各種審査方法に対する改善要求が多いこと
  • 実績重視主義がベンチャー製品の販売を阻害していること
  • 公的支援プログラムに関するPRが十分でないこと
  • 日本国民の体質の一つとして、同質性を好み、横並び志向が強く、異端なものを排除するという傾向が高いこと
  • 類似するプログラムが統廃合され効率的となっていること(イギリス)

4.結論

 以上の結果を踏まえ日本のハイテクベンチャー企業支援策について課題を整理すると下記のようにまとめることができる。

(1)創業支援の拡充・強化

1)起業家教育の拡充

a.起業家教育の対象範囲の拡大

 今日の起業家育成プログラムは、大学生や社会人等を対象としたものであるが、創業意識は幼少時代からの環境に左右されることが多いことを考えると、対象範囲を広げ、米国のように小中高校生に対しても導入していくことが必要と考えられる。

b.事業計画作成能力の向上のための支援措置の拡大

 今日、公的支援やベンチャーキャピタル等の機能強化に当たって、対象となる技術や事業内容に対する評価ノウハウの不足などが言われているが、一方で起業家側においても自分の技術内容や事業内容を第三者に対して明確に表明できない場合も多い。このため、事業計画作成能力を向上させるための支援措置の拡大が必要と考えられる。

2)研究公務員の創業機会の拡大

a.国立研究所等における事業化プロジェクトによる組織的スピンオフの検討

 ハイテク分野に関するノウハウを有する人材に創業機会を与えるために、台湾で実施している「工業技術研究院のスピンオフ方式」のように、国で事業化プロジェクトを立ち上げ、組織ごとスピンアウトさせるような事業を検討・実施することが必要と考えられる。

b.研究公務員に対するムーンライト・プロジェクトの許可の検討

 研究公務員に対し、例えば勤務時間外は、事業化プロジェクトに参加する許可を与え、プロジェクトが軌道に乗った際にはスピンオフする事が可能な環境を整備することを検討することが必要と考えられる。

3)大手・中堅企業からのスピンオフ促進

a.退職金制度、年金制度の改革

 終身雇用制・年功序列賃金等のこれまでの雇用慣行を前提とする退職金制度や年金制度が足かせとなり、転職をすることが昇進や賃金上昇だけでなく、受給する退職金や年金の面でも不利益をもたらし、労働力の流動性を低下させている。したがって、大手・中堅企業からのスピンオフを容易にするためには、退職金制度や年金制度の改革を図ることが必要である。

(2)ベンチャー企業支援層の拡充・強化

1)コーディネーターの育成

a.技術系コーディネーターの育成

 研究開発テーマを設定するとともに、彼の自らの専門能力や人脈・情報ネットワークを活用し、そのために必要となる資金や人材を調達し、自らプロジェクト・リーダーとして研究開発を実施する人材を育成することが必要と考えられる。

b.ビジネス系コーディネーターの育成

 研究開発プロジェクトの成果等を基に、技術シーズの評価や分析を行い、これらのマッチング(突き合わせ)をすること、さらには事業化に必要となる資金や人材等の調達を行い、具体的なビジネス化を支援する人物を育成する必要がある。

2)ベンチャー財団の機能強化

a.ベンチャーキャピタルの投資先企業への経営サポートの義務付け

 間接投資の預託を受けたベンチャーキャピタルは、投資先企業に対して経営サポートを行うことを義務付けることで、ベンチャー企業の経営支援を充実していくことが必要と考えられる。

(3)支援プログラムの実施方法の改善

1)支援プログラムの簡素化

a.類似するプログラムや成果の小さいプログラムの統廃合

 複数の公的機関により類似する支援プログラムがあり、利用者側からみると煩雑で理解しにくい面があるため、各支援プログラムの成果を計測する指標を確立し、成果の小さいプログラムは統廃合することで支援プログラム体系の簡素化を図り、利用者側にとってアプローチしやすくすることが必要と考えられる。

b.統一プログラムに対する公的機関の参加

 簡素化を図った統一プログラムに複数の公的機関が参加することで利用者からみても実施者からみても効率的なプログラムを整備することが必要と考えられる。

2)商業化を目的とした段階性を持った研究補助金の供給

a.政府機関による研究トピックス集の作成・公開

 政府機関の研究開発ニーズについて研究トピックス集を作成し、これを公開することで、ハイテクベンチャー企業に対する事業化ニーズを明確に示すことが必要と考えられる。

b.研究開発から商業化までの段階性をもった支援プログラムの創設

 企業にとって研究開発活動は、商業化のための前提に過ぎないため、支援プログラムも研究開発事業だけを対象とするのではなく、プロトタイプ開発や商業化までを視野に入れた段階性をもった支援プログラムを創設することが必要と考えられる。

3)審査方法・結果の公開

a.審査基準、審査委員、方法、結果等の公開

 企業の技術内容や事業内容に対する審査基準や方法を公開するとともに、応募から審査結果提示までの時間の短縮化を図ることが必要である。例えば、現状の公的支援の審査方法は「誰が」、「何を基準に」、「どのように判断するのか」が明確にし、こうした情報公開をすることが必要と考えられる。

b.応募者に対するコメントのフィードバック

 上記に関連して、審査を行った結果については、その当否の結果や理由について、応募者に対し、フィードバックすることが必要と考えられる。審査基準に満たされなかった理由が判明することで、当該企業の次のステップへの足がかりを与えることにつながるものと期待できる。

(4)その他

1)スタートアップ企業に対する減税措置の拡大

a.スタートアップ企業に対する法人税の減免措置の実施

 新規事業法及び中小企業創造法の認定により、欠損金の繰越期間延長(5年→7年)が認められるが、さらに利益をあげた企業や、創業3~5年間のスタートアップ企業に関しても法人税の減免措置を施すことが必要と考えられる。

 以上に提示したハイテクベンチャー企業支援プログラムが有する課題に対して具体的な解決策を施すことにより、技術シーズ有効活用と創業機会の拡大が行われ、これらによりスタートアップ企業数の底上げが図られ、全体としてベンチャー企業数を増やし、雇用機会の拡大をもたらすものと考えられる。

本件担当:
通商産業省中小企業庁指導部技術課
〒100 東京都千代田区霞が関1‐3‐1
電話 03‐3501‐1511 担当:村松 (内線4451)

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