関東地方における1999年春のスギ・ヒノキ科花粉の予測について[第186号]

‐第186号‐
平成11年2月1日

 「スギ花粉症克服に向けた総合研究」はスギ花粉症に苦しむ人たちの花粉症の症状軽減と、有効な予防法の確立を目的として、科学技術振興調整費生活社会基盤研究(生活者ニーズ対応研究)において平成9年度より実施されている。
 この度、本研究では、これまでの過去の気象条件と花粉の飛散量の相関関係から予測を行う従来の手法に加え、実際のスギ雄花の観測値に基づく予測手法を開発し、これとともに関東地方における1999年春のスギ・ヒノキ科の花粉の予測を行った。これによると、1999年春の関東地方のスギ・ヒノキ科花粉の量は、昨年と比較してかなり少なくなる見込みであること、また、飛散開始時期はほぼ平年並みとなる見込みであることが判明した。

1.研究の概要

 本研究の第3班はスギ花粉の生産と飛散に関する予測の高度化を目的とし、関東地方をモデルとして研究を行っている。具体的には、関東地方におけるスギ、ヒノキの森林調査によって花粉源の分布を詳細に把握することから始まり、花粉を放出するスギ雄花の生産量調査および予測手法の確立をおこなう。さらに気象条件との関係などによる花粉飛散量の総合的な予測手法、スギの休眠から開花にいたる生理条件の解明による花粉飛散開始時期の正確な予測法の確立を目指す。そして、スギ林で放出された花粉がどのような気象条件によって都市部に輸送されるかをモデル化することで、最終的には特定の地点(例えば東京都心や杉並)での花粉飛散量の時間変化まで予測可能となることを見込んでいる。
 研究は現在継続中であるが、この度、研究班ではこれまでに得られた成果をもとに関東地方における1999年春のスギ・ヒノキ科の花粉の予測を行った。従来は夏の気象条件と翌年春の花粉の飛散量との相関だけから予測が実施されていたが、本研究では従来の手法に加えて、実際にスギ林で生産されたスギの雄花(スギは雄花と雌花に分かれており、花粉を放出するのは雄花である)の量の観測値を考慮して予測を行った。

2.飛散花粉量の予測

 1999年春における関東地方のスギ・ヒノキ科花粉の量は昨98年に比較して25%から多くても80%程度となることが予想され、平年との比較では20%から50%程度とかなり少なくなる見込みである。各地で予想される花粉数は以下(表‐1)のとおりである。

表‐1 関東地方における99年春の花粉予想(ダーラム・個・平方cm・シーズン)

99年予測 98年花粉数 平年値
東京 550~950 1900 2450
横浜 400~950 1500 1800
船橋 350~900 1150 1750
筑波 1800~3150 4200 6400
宇都宮 1300~2300 2850 3450
前橋 700~1200 1450 2800
坂戸 1150~1850 4450 4900

 花粉が少ないと予想される理由は1998年の7月の気象条件にある。スギの雄花の細胞が分化し成長を始めるのは7月から8月上旬であり、とりわけ7月中旬から下旬の気象条件が大きな影響を与えることが研究によって明らかになった。関東地方においては98年のこの時期の気象条件が雄花の生育に極めて悪い条件になったためである。表‐2は東京における7月上旬から8月上旬の気温や降水量と平年との比較であるが、7月の上旬は真夏を思わせる思わせるような気象であったが、中旬からは一転して冷夏になった。特に7月中旬の気温は最高気温、平均気温ともに平年より3度以上も低くなった。7月下旬から8月上旬にかけても気温は平年より1度近く低い状態が続き、日照時間は30時間あまり少なくなっている。さらに7月下旬には100ミリを越える雨が降り、スギは雄花を成長させるためのエネルギーを十分に得ることができなかった。実際に関東南部におけるスギの雄花の着き具合は昨年に比較して20%から30%程度の所が多くなっていた。雄花の着き具合は地域によってかなり差があるために98年に比較して非常に少ない所からやや少ない所まで予想にばらつきはあるが、関東地方においては全体として98年よりはかなり少なく、平年に比べても50%以下になるのはほぼ間違いないと考えられる。

表‐2 1998年7月上旬から8月上旬の気象(平年差)

最高気温(差) 平均気温(差) 日照時間(差) 降水量(差)
7月上旬 32.1(プラス5.3) 28.2(プラス4、8) 50.0(プラス18、6) 32.0(マイナス24)
7月中旬 25.1(マイナス3、7) 21.9(マイナス3、3) 24.3(マイナス12、6) 20.5(マイナス22)
7月下旬 29.6(マイナス1、0) 25.7(マイナス0、9) 39.3(マイナス30、3) 104(プラス77)
8月上旬 30.7(マイナス0、6) 26.8(マイナス0、6) 25.3(マイナス36、0) 18.0(マイナス26)

3.飛散開始時期の予測

 関東地方においてスギの花粉が連続的に飛散するようになるのはほぼ平年並みになり、南部で2月中旬、北部で2月下旬の前半になる見込みである。
スギの雄花は前年11月ころには完成して、その後休眠に入る。冬の低温を経た後に開花して、花粉を放出するが、開花する時期は12月末から1月の気温の状況に大きな影響を受ける。東京における、1999年1月の最高気温の平均は上旬が9、7度でほぼ平年並みであった。また、中旬は平年よりやや高くなっている。このため、スギ花粉が連続的に飛散を開始する時期は関東南部で平年並み(2月16日)の2月中旬と予想される。また、北部では2月下旬前半になると予想される。なお、地域によってはこれ以前に少量の花粉が飛散することが多いので花粉症の患者は早めの対応が必要になるであろう。

(参考)科学技術振興調整費「スギ花粉症克服に向けた総合研究」第3班構成員

  • 村山 貢司 日本気象協会気象情報部(班長)
  • 佐橋 紀男 東邦大学薬学部
  • 金指 敏郎 森林総合研究所
  • 家原 敏郎 森林総合研究所
  • 新田 裕司 国立環境研究所
  • 鈴木 基雄 日本気象協会調査部
  • 横山 敏孝 森林総合研究所
  • 高橋 裕一 山形県衛生研究所
  • 中北 理 森林総合研究所
  • 有沢 雄三 日本気象協会情報処理部

お問合せ先

科学技術庁研究開発局ライフサイエンス課

電話番号:03(3581)5271(内線446)

日本気象協会気象情報部

村山 貢司
電話番号:03(5958)8188

(科学技術庁研究開発局ライフサイエンス課)

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