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新しいプラズマ反応場の開発 ‐パルス変調高周波誘導熱プラズマ‐[第191号]

‐第191号‐
平成11年7月16日

 科学技術庁・無機材質研究所(所長:木村茂行)の先端機能性材料研究センター・石垣隆正主任研究官と金沢大学工学部電気情報工学科・作田忠裕教授(無機材質研究所・客員研究官)らのグループは、新しいプラズマ発生法であるパルス変調高周波誘導プラズマの発生に世界で初めて成功した。

 大気圧付近で発生する熱プラズマは、10,000℃以上の高温と化学的に高活性な状態を有している。熱プラズマの発生法の中で、高周波誘導熱プラズマは無電極放電であるため、不純物の影響のない多様な(酸化・還元・不活性雰囲気の)高温反応場を提供し、多様な材料製造プロセスへの応用が試みられている。

 この高周波誘導熱プラズマに関してその発生形態に注目すると、従来、プラズマ中への原料注入に対し、いかにプラズマの揺動をおさえて安定・定常発生をするかに努力が注がれてきた。この安定・定常発生技術の成熟が、反応場としての大きなポテンシャルをもたらしてきた。これに対し、同グループはプラズマ発生に時間制御の考えを新たに導入し、パルス的に高周波電力の供給をオン、オフすることにより、プラズマの超高温場と低温場をミリ秒の時間オーダーで交互に実現する特異な反応場を実現することができた。この新発生法の開発は、プラズマ温度の時間制御とともに、活性化学種を高濃度に発生できる可能性があるという点から、定常発生プラズマでは見られない物理化学過程を可能にした第一歩であり、現在、特異なプラズマ特性を確認するとともに、その特徴を活かした材料プロセッシングの探索に取り組んでいる。

 本研究は、平成10年度から科学技術振興調整費により実施している総合研究「協奏反応場の増幅制御を利用した新材料創製に関する研究」(第1期:3年間)(研究リーダー:北澤宏一・東京大学大学院工学系研究科・教授)の一環として行われたものである。

1.研究の開発・経緯

 大気圧付近で発生する熱プラズマは、10,000℃以上の高温と化学的に高活性な状態を有している。この特徴を活かして、現在、高融点金属やセラミックスの溶融・球状化、スプレーコーティング、薄膜合成、超微粒子合成など多くの材料プロセスで利用されている。熱プラズマ合成を工業生産技術として確立させるためには、熱プラズマの最大の特徴である超高温の制御が必要である。例えば、薄膜合成では高エネルギーを持った高濃度の気相種が高速に堆積することという長所と、基板あるいは成長中の薄膜への熱的なダメージを与えるという欠点が表裏一体で存在する。従って、熱プラズマプロセッシングの応用分野をさらに広げるためには、熱プラズマ発生に関して、新たな制御法が望まれる。無機材質研究所と金沢大学のグループは、プラズマ温度、プラズマ中の化学種の種類・濃度の制御を目的として高周波誘導熱プラズマ発生に時間制御の考えを世界で初めて導入し、プラズマのパルス変調発生を試みた。図1にパルス変調制御の基本概念を示す。高周波誘導熱プラズマ発生の基本周波数(図では1MHz)にミリ秒オーダーの電力のオン・オフ変化を重畳して変調すると(図では、オン、オフ時間ともに5ミリ秒、従って、パルス変調繰り返し周期は10ミリ秒、繰り返し周波数は100Hz)、熱プラズマの特徴である超高温反応場と、低温場の繰り返し、また2つの状態間の遷移過程を包含した新しい反応場が実現する。この反応場では、熱プラズマの持つ高エネルギー状態を維持しながら、トータルエネルギーを軽減でき(熱損傷の軽減につながる)、高速な状態遷移にともなう高濃度の活性化学種の生成が期待できる。金沢大学は、定常発生している高周波誘導熱プラズマに外部から揺動を与えたときのプラズマの動的挙動について理論的な研究を行い、高周波誘導熱プラズマのパルス変調発生の可能性を示した。そこで、無機材質研究所のグループが高周波電力のパルス出力可能な固体素子インバータ電源を用いて発生装置の開発を行い、世界で初めて、材料プロセッシングに充分な高出力で高周波誘導熱プラズマのパルス変調発生に成功した。ここでは、近年開発された大電力トランジスタ・インバータ電源をいち早く高周波熱プラズマ発生に応用してその優れたスイッチング特性をパルス変調に利用したこと、プラズマへの電力供給効率を高めるための電源回路とプラズマのマッチング特性の改善、供給電力を急激に変化させても電源回路にダメージを与えない変調状態を見いだしたことが新しいプラズマ発生につながった。この成果は、プラズマ化学の分野で最も重要な会議である国際純正応用化学連合(IUPAC)主催・「第14回プラズマ化学国際シンポジウム(ISPC‐14)」('99.8、プラハ)において、招待講演として発表される。

2.具体的な研究成果

 固体素子インバータ電源[周波数1MHz]から、パルス化した高周波出力(オンレベルは、連続発生換算で17KW)をプラズマトーチに導入してパルス変調プラズマを発生させた。アルゴン‐水素混合ガスをプラズマ発生ガスとして、プラズマ反応容器内の圧力は大気圧付近に保った。図2には、図1と同条件、パルス・オンの時間が5ミリ秒、オフ時間が5ミリ秒のときの高周波コイルに流れる電流の時間変化を示した。パルスのオン・オフにともなう過渡的な電力変化によって電源回路がこわれるのを保護するためオフ時の最低レベルを設定したが、このプラズマ発生条件では、オフ時の最低電流レベルをオン時の最高電流レベルに対して48%にまで下げることができた。電力レベルでいうと1/4弱である。すなわち、17kWの高温場と4kWの低温場が繰り返し発生している。また、この低温場の電力レベル4kWは、定常なプラズマ発生を維持できない程に小さなもので、次に述べる特異な状態を有しているためにパルスオフ時のプラズマ状態を維持できる。図3の上図は、RFコイルの中心位置でとったアルゴン原子の発光強度の時間変化である。プラズマ温度は、パルス・オン時で約12,000K(定常発生時のプラズマ温度と同じ)、パルス・オフ時は最低約6,000Kまで降下した。同図には高速ビデオで撮影したプラズマの形態の変化を示したが、光っている高温部分の体積もパルスのオン・オフに対応して変化する様子がわかる。パルス・オン状態の高温場の初期に見られる、定常発生の発光強度を通り越した、オーバーシュートは、オフ時に温度が低くなったプラズマが強電磁界の印可で急速に加熱され、熱的な平衡状態から非常に逸脱した状態になったことを示している。また、パルス・オフ時の励起電磁界がない低温場は、プラズマ発光の減衰が終了していない、エネルギー的にも過渡的な状態にある。結果として、パルスのオン、オフにより本来平衡プラズマである熱プラズマへ非平衡性が導入され、プラズマ温度・プラズマ中の化学種濃度に関して定常発生プラズマでは見られない新しい物理化学過程が実現した。

3.今後の研究の展開

 熱プラズマは材料合成に非常に高いポテンシャルを有することから、多くの合成プロセスに利用が試されてきたが、工業生産技術として確立したものが未だ少ないのが現状である。その原因の一つが、熱プラズマの最大の特徴である超高温がときとして材料合成に負の作用をもたらし、長所と、欠点が表裏一体で存在する。パルス変調熱プラズマでは一万度以上の最高温度を保持しながら、トータルエネルギーを少なくすることができたことから、薄膜合成中では基板、薄膜への熱的なダメージの軽減、粉末合成では特性に影響する粒度分布の制御につながる。またエネルギー消費の軽減にもつながる。さらに、パルスのオン・オフによる非平衡性導入の効果として材料合成で重要な役割を果たすラジカル等の活性化学種濃度の増大も引き起こされ、新材料、特異構造材料の合成が期待される。現時点でも、リチウム二次電池の負極材用炭素材料の新合成法、フラーレンをはじめとする新規クラスター材料合成などへの応用を進めている。当研究グループでは、安定発生条件を拡大する試みと発光分光法による観測結果を検討して、パルス変調プラズマの特異性の解明を進めている。これらの成果を基に、新しい反応場の特徴をいかすことのできる材料合成プロセスの確立を目指している。

語句の説明

高周波熱プラズマ

 大気圧付近で発生する熱プラズマは、1万度以上の超高温を持ち、化学的に活性な化学種を有している。プラズマ密度が高いために、プラズマ中の粒子のエネルギー交換が十分であり、原子・イオンといった重い粒子の温度と、電子温度がほぼ等しいので、平衡プラズマと呼ばれる。代表的な熱プラズマ発生法の一つである高周波誘導法では、高周波コイルを通して、周波数・数MHz、入力・数十kWの高周波を供給して大気圧付近でのプラズマを発生する。高周波熱プラズマの特徴は、酸化、還元、反応といった各種雰囲気のプラズマが発生できるところにあり、材料プロセッシングへの利用に適している。従来高周波誘導熱プラズマのパルス変調発生に関しては、元素分析用の低出力発生に関する報告があるだけで、材料プロセスに用いるのに充分な出力で行なわれた例はなかった。

インバーター

 直流を交流に変換する装置。これまで、大出力の高周波電源には真空管を用いたものが利用されてきたが、近年トランジスタを用いた大出力インバーター電源が開発され利用できるようになった。本発表のパルス変調発生は、トランジスタの優れたスイッチング特性により可能となった。

プラズマ中の活性化学種

 プラズマ中には、分子、原子、イオンのような重い粒子、電子のような軽い粒子が高いエネルギー状態を有して存在している。その中で、不対電子をもつラジカル(遊離基)は化学的に活性で、材料合成において重要な役割を果たす。例えば、プラズマを利用したダイヤモンド薄膜合成では、メチル・ラジカル(・CH3)、水素ラジカル(・H)などが、ダイヤモンドの生成に重要な役割を果たすと言われている。パルス変調高周波熱プラズマでも、特にラジカルの高濃度生成が期待される。

本件に関する問い合わせ先:
(1)科学技術庁 研究開発局総合研究課 材料開発推進室
 担当者:下村 周一
 〒100‐8966 東京都千代田区霞ヶ関2‐2‐1
 電話:03‐3581‐5271(内434)
 FAX:03‐3581‐0779

(2)科学技術庁 無機材質研究所 先端機能性材料研究センター
 担当者:石垣 隆正
 〒305‐0044 茨城県つくば市並木1‐1
 電話:0298‐51‐3354(内509)
 FAX:0298‐51‐4005

(3)金沢大学 工学部 電気情報工学科
 担当者:作田 忠裕
 〒920‐0942 石川県金沢市小立野2‐40‐20
 電話:076‐234‐4842
 FAX:076‐234‐4870

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