重要分野における研究開発の産業・社会への波及効果に関する調査[第220号]

(委託先:株式会社三菱総合研究所)

‐第220号‐
平成13年8月27日

1.調査の概要

 本調査は、科学技術振興調整費により、平成11年度から平成12年度にかけて実施されたものであり、今回は平成12年度の調査結果について報告するものである。

 目的:我が国経済における「技術」の果たす役割の重要性がより一層高まりつつあるが、同時にその効果的活用と投資の重点化が課題である。研究論文の特許への波及状況の分析については、米国特許ではサイエンスリンケージの分析が可能であるが、我が国の特許では研究論文の引用が不要なため、両者の関連の分析には新たな手法の開発が必要である。このため、研究開発の産業経済への波及効果や分野間のつながり(技術連関)を測るための定量的評価手法の確立・実施可能性について、調査・分析検討を行うことを目的とする。

2.調査結果

 本調査では、「人工知能」、「液晶」、「バイオテクノロジー」の3分野について、研究開発の産業・社会への波及効果に関する試行的な取り組みとして、概念検索手法を用いて、研究(論文)と産業技術(特許)の類似性検索を行い、技術連関分析を試みた。

(1)論文と特許の推移傾向の分析

  • 3分野ごとの技術分類に関する論文発行件数と、論文の概要と類似した特許出願件数の時系列推移を比較検討した。その結果、論文と特許の推移傾向が非常に似ている技術分類として、第五世代コンピューター、有機EL、ヒト成長ホルモン、モノクロナール抗体等であった。
  • 論文発行件数のピーク時における主な研究テーマを選び、それに対する類似特許を抽出し、その件数が最も多い年を特許のピーク年として、論文と特許のピークのズレを検証したところ、そのズレは、エンドルフィン(8年)、ヒトインターフェロン(2年)、ドットマトリクス(2年)、エキスパートシステム(1年)という結果を得た。いずれも、論文より若干の遅れを伴うリニアモデル型となった。

(2) 技術分野の広がり分析

 対象3分野ごとの技術分類ごとに、他の技術分野との類似及び時系列変遷を検証し、技術分野の広がりを分析した。その結果、

  • 人工知能に関して、80年代の後半に鉄鋼業で類似連関する特許が出願されていることが浮かび上がった。この時期には、鉄鋼業では人工知能を活用して高炉プロセスの自動化に関する特許をまとめており、人工知能が情報技術分野だけでなく、他の分野へ活用されていることを示している。
  • 関連する国際特許(IPC)分類をコア技術、サブコア技術、周辺技術に分類し、技術分類ごとに整理を行った。その結果、コア技術とサブコア技術の特許件数の差が非常に大きいエンドルフィン等は応用範囲が狭いか、または周辺技術へ広がる前段階であると推察することができる。逆に、すでに研究段階のピークを過ぎてしまった技術分類(ドットマトリクス等)では、周辺技術の件数比率が相対的に高いことが分かった。

3.結論

 平成11年度及び平成12年度に亘る調査の結果、以下のような結論を得た。

  • 本調査は、論文と特許を用いた技術連関分析を試行的に行ったものであるが、今後、他の重要技術分野にも拡大・適用し、技術分野横並びの比較・評価を行うなど、さらに利用可能性について検討する必要がある。
  • 本調査で用いた概念検索を用いた技術連関分析手法については、経験を積むことにより分析手法のノウハウを高めれば、我が国特許の分析にも活用できる有用なツールとして、利用可能性が期待される。

お問合せ先

経済産業省産業技術環境局産業技術ユニット技術評価調査課技術調査室

宗像 保男
電話番号:03‐3501‐1366(直通)、03‐3501‐1511(内3364~3366)

(科学技術・学術政策局計画官付)

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