‐第228号‐
平成14年1月28日
(委託先:財団法人日本経済研究所)
本調査は、科学技術振興調整費により、平成12年度に実施されたものである。
目的:我が国の有する科学技術のポテンシャルを発揮していく上で重要な役割を果たす民間企業に焦点を当て、技術を生かす枠組みが産業界で機能しているかどうかを検討し、機能させるための課題を把握し、今後の科学技術政策を検討するための基礎資料とすることを目的とする。
本調査ではまず、我が国が科学技術水準では世界中で米国に次ぐ高い評価を受けながら、経済パフォーマンスにおいて米国より劣っているとの問題意識にもとづき、日米の産業に関し定量的な検討を行った。その結果、近年の米国では、技術の経済に対する寄与が相対的に大きいこと、その寄与は特定の産業(パソコン産業)によって成されていることを明らかにした。
続いて、日本企業が何故、80年代に家電や自動車のイノベーションに成功しながら、90年代にはパソコン産業では振るわなかったのか、今後主役となるであろうポストパソコン産業ではどうなのかを明らかにするために、アーキテクチャの視点を導入しつつ各種ケーススタディを実施した。ここで言う、アーキテクチャとは、ものを作るときに組み合わせる部品の取扱のルールのようなものである。主に、統合型とモジュラー型に分けられる。統合型とは、構成要素の相互関係を積極的に取り入れる作り方をするのに対して、モジュラー型は、要素間の干渉を排除し、単純な組み合わせによって全体を構成する方法である。例えば、自動車は典型的な統合型アーキテクチャの製品で、エンジンや車体などをトータルで設計して、全体の性能(走行性やデザイン、乗り心地)を発揮している。これに対して、パソコンなどは、各構成要素のインターフェイスを規定することでCPUやDVDやCDなどの各種ドライブなど個別に開発し、それぞれを組み合わせて製品が出来る。
ケーススタディからは、パソコン産業に技術的には類似する、ゲーム産業、携帯電話、デジタルカメラ、カーナビ等、情報家電のプロトタイプとみられる製品群につき、日本企業が成功をおさめつつあること、そしてその要因は自動車が成功を収めたのと同じ理由(統合型アーキテクチャ)であることが明らにされた。また、パソコン産業に日本企業が適わなかった要因として、日本企業のモジュラー型アーキテクチャへの不適合が推察された。さらに、IT機器の主なユーザー層が企業(仕事向け)から個人(娯楽向け)へ移行しつつあること、それにあわせてユーザーニーズが単なる性能からデザイン等の感性的な部分を重視する方向性にあることが観察され、モジュラー型から統合型へ主力製品が移行する可能性が指摘された。
企業が国の研究機関に望むことは、知のバックヤードである。日本企業が得意とする統合型アーキテクチャにおいて、研究機関の知を企業内に取り込むためには、研究機関と企業との緊密なコミュニケーションが必要である。各組織には固有の文化があり、同じ言葉が異なった意味で用いられる場合もある。また研究機関と企業では、研究成果に対する着眼点が異なっている場合も多い。従って、研究機関の成果は、企業が必要としている情報に翻訳される必要があるが、それらは、人材によってなされる部分が大きい。よって、企業から研究所への人材の派遣や、研究所から人材を企業へ派遣するインターン制など、人材の交流等が、生産現場の活性化に必要である。
問い合わせ先
科学技術・学術政策局 計画官付 神門 電話:03‐5253‐4049(直通)
03‐5253‐4111(内7243)
科学技術・学術政策局計画官付
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