‐第229号‐
平成14年3月25日
文部科学省科学技術振興調整費「北太平洋亜寒帯循環と気候変動に関する国際共同研究」(SAGE:Subarctic Gyre Experiment)が5年間の研究期間を終了し、その成果を一般にも公表するため、SAGEシンポジウム(推進委員長 花輪公雄東北大学教授)を開催します。この中で、多くの亜寒帯循環に関する重要な成果が発表されますが、その中の一つに、大洋横断型観測によって中・深層の十年以上の時間スケールの水塊変化を明らかにした研究(研究代表 深澤理郎JAMSTEC主幹)があり、高く評価されています。
1999年(P1)、2000年(P17N)に北太平洋横断型の精密観測(図1)を、みらい(JAMSTEC)、開洋丸(水産庁)、J.P.Tully(カナダ)を用いて行った。同観測線での精密観測は米国が1985年と1993年に行っており、この10年程前の精密観測結果と比較することによって、十年規模の中・深層の水塊変化を検出するとともに、その原因を調べた。
[中層での変動] P1で1985年と1999年の差を取ると、高温化、低温化が交互に現れた(図2)。これは、観測前々年からの風の変化によるものであり(図4)、モデルでも再現することができた(図5)。また、同様の原因による低温化がP17Nでも観測された(図3)。
[深層での変動] P1の海底上1000メートルで高温化が発見された。その規模は0.005℃と小さいが、深層ではこれまでに知られていなかった変化である。これは、南半球から北太平洋に流れ込む深層水のもっとも冷たい部分が、P1で減少したことによる。同様のことがP17Nについても見いだされ(図6)、精密観測が存在する北緯24度でも、南半球から深層水が流入する西太平洋で、高温化がみつかった(図7)。
中層の変化は、風による湧昇の変化が現れたものであり、数年間持続する可能性がある。亜寒帯での湧昇は、深層の栄養塩を上層に供給するため、上層での生物活動にも影響を及ぼす。
深層での変化は、「海水のコンベアベルト」に変化が生じていることを初めて検出したものであると同時に、その変化がこれまで信じられていたよりもかなり早く生じることをも示している。海洋の中での熱の分配は地球温暖化をはじめとする気候変動に大きく関与していることから、今後も同様の観測を通じて深層の水温変化をモニターしていく必要がある。
問い合わせ先
研究開発局海洋地球課 松本良浩 電話: 03‐5253‐4146(直通)
03‐5253‐4111(内7728)
水産総合研究センター 東北区水産研究所 混合域海洋環境部
伊藤進一 電話:022‐365‐9928
日時:平成14年3月31日(日曜日) 9時30分~18時
場所:東京水産大学
主催:SAGE研究推進委員会 共催:日本海洋学会
コンビーナー:花輪公雄(東北大:SAGE推進委員長)、深澤理郎(JAMSTEC:SAGE研究代表者)
道田 豊(東大海洋研)、安田一郎(東大院理)、津田 敦(北水研)、永田 豊(日本水路協会MIRC)
SAGE推進委員長挨拶 花輪公雄(東北大)
趣旨説明及びSAGE成果の概要 深澤理郎(JAMSTEC)
座長:深澤理郎(JAMSTEC)
コメント予定者:若土正暁(北大低温研)、石坂丞二(長崎大)、竹内謙介(地球観測フロンティア)
Gordon(1986)とBroecker(1987、1991)によって提唱された全球規模の海洋循環像。グリーンランド付近で沈み込んだ北大西洋深層水が南極海を経て、インド洋、太平洋に流れ込み、表層に湧昇し、表層の流れによって再びインドネシア多島海、アフリカ大陸南端を経て、大西洋高緯度まで戻る循環。
風などが作る流れが上層で発散することにより、下層から水が供給され形成される上昇流。
科学技術・学術政策局計画官付
-- 登録:平成21年以前 --