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「火道掘削工事開坑式を実施」[第233号]

‐第233号‐
平成15年1月29日

「雲仙火山:科学掘削による噴火機構とマグマ活動解明のための国際共同研究」
(研究代表者:独立行政法人産業技術総合研究所 宇都浩三グループ長)

 科学技術振興調整費による総合研究「雲仙火山:科学掘削による噴火機構とマグマ活動解明のための国際共同研究」は、平成14年度より雲仙岳の火道掘削を実施する。その開始に先立ち、平成15年2月13日に開坑式を実施する。
 同研究では第1期研究(平成11年度~平成13年度)において、雲仙岳山麓で2本の山体掘削(USDP‐1・ISDP‐2)を実施し、雲仙岳50万年の噴火の歴史を明らかにしてきた。またパイロット掘削(USDP‐3)、バイブロサイス人工地震探査による火道位置推定、火道掘削の具体的プランの検討を行い、火道掘削に向けての準備を進めてきた。
 平成14年度より開始する火道掘削(USDP‐4)においては、噴火活動後間もない火山の火道の様子を直接見ることを目指しており、世界的でも例のないプロジェクトである。これまで間接的な方法でしか分からなかった火山内部の様子を直接調べることにより、火山噴火のメカニズム等について大きな知見が得られることが期待される。

問い合わせ先
文部科学省研究開発局海洋地球課 原田智史 電話: 03‐5253‐4146(直通)
03‐5253‐4111(内7726)

(同時発表 長崎県政記者室・島原記者クラブ)

補足説明

1.第1期の成果概要

1.1 山体掘削による雲仙火山噴火史の解明

 雲仙火山は、山体の中央部分が雲仙地溝と呼ばれる沈降帯の中に位置し、多数の正断層により切断されており、噴火による成長と断層運動による沈降を複雑に繰り返しながら成長した火山である。雲仙科学掘削プロジェクトの第1期研究では、雲仙火山噴火史の全容解明のために北東山麓の島原市千本木地区(USDP‐1:掘削深度752メートル)と東側山麓の深江町大野木場地区(USDP‐2:1457メートル)の2カ所において山体掘削を実施した(図1)。2本の掘削により、雲仙火山の50万年間の噴出物および雲仙火山形成前の火山噴出物が95%を越える高回収率で得られ、それらの試料を用いて地下に埋もれた過去の噴火史の解析が行われた(図2)。その結果、雲仙火山が50万年前に活動を開始した時の地表は、地溝帯の中心部では地表から1200メートルもの地下に存在することが分かった。また、50万年間の噴火史を通して火砕流噴火が繰り返して発生したこと、形成初期には軽石を放出する大規模な爆発的噴火が頻発したが、成長とともに爆発力が衰えたことも判明した。雲仙火山の山体中心部の地表部に分布するのは、溶岩流や溶岩ドームが主体であり、山麓の広い扇状地を構成する物質は主に土石流堆積物であると従来考えられてきた。そのため、火砕流をあまり発生しない火山と考えられてきた。しかし、科学掘削および新たな地表地質調査の結果、山麓の扇状地を構成しているのは、1990~95年噴火によりもたらされたのと同様な火砕流堆積物およびそれに派生する土石流堆積物であることが明らかになった。火砕流が繰り返し発生することで広大な扇状地を形成しながら成長したという、雲仙火山の噴火成長史に対する新しい知見が得られた。
 また、20~30万年前の火砕流堆積物およびマグマ水蒸気爆発の堆積物が厚く分布しており、この時期、急激な断層運動と大規模な火山活動が連動して起こったことも明らかとなった。

図1 雲仙火山の地形と科学掘削地点(写真提供:アジア航測)
図1 雲仙火山の地形と科学掘削地点(写真提供:アジア航測)

図2 山体掘削(USDP‐1および‐2)のコア柱状図
図2 山体掘削(USDP‐1および‐2)のコア柱状図

1.2 制御震源を用いた火道探査実験

 平成2年から平成7年まで続いた雲仙普賢岳(平成)噴火では溶岩ドームの崩落により火砕流が発生はしたものの、粘性の高いマグマの噴火としては、非爆発的な噴火で始終したことが大きな特徴である。ここでは、この非爆発的な噴火の機構解明と、噴火時の観測研究にもとづいて提案された噴火モデルを検証するために、マグマが通過してきた通路(火道)の上部を直接掘削し調査研究する。このため、火道の位置を含む火山体の微細な構造を明らかにすることによって火道掘削の通過点や坑跡を決定する判断材料とすること、および、平成噴火におけるマグマ移動の仕組みや地下構造を明らかにすることを目的に、制御震源を用いた構造探査実験を平成13年に実施した。この探査では、大型バイブレータ3台を同期させて発震し、地下で反射して戻ってくる地震波を、雲仙火山の山体上に約25メートル間隔で並べた総計580個の地震計で受振して、地下構造を推定した。
 反射法解析により得られた深度断面を図3に示す。深度断面図には多数の地震波反射面(図中の縞模様)が認められるが、これらの反射面は、盆状の形状を示し、複数の正断層で切断されていることから、これらの特徴は雲仙地溝の構造を表していると考えられる。また、海面下3000メートル付近にある顕著な反射面は、平成噴火中に水準測量によって推定された圧力源(B Source)の位置にほぼ一致することから考えて、マグマ溜りの上面を反映している可能性が高い。さらに、山体中央部の海水準付近から海面下3000メートル付近まで、反射波強度の弱い領域がほぼ鉛直に筋状に伸びているのが確認された。図3では、噴火が始まった1990年以降の震源分布も重ねて表示しているが、3キロメートル以浅の地震は今回得られた反射波強度の弱い領域に沿って発生していることがわかる。これらのことから、この領域はマグマ溜りから溶岩ドームへ至る火道に対応しているものと考えられる。
 このような地震探査や噴火中の観測の結果、および、地質学的な証拠から、平成新山の火道は厚さ数十メートル、幅約200メートル程度の岩脈状(板状)で、溶岩ドームから西に向かって傾斜しており、海水準付近では溶岩ドームから西に水平距離で約1キロメートル離れた地点を通過していると推定される。

図 3 制御震源を用いた反射法地震探査で得られた雲仙火山の深度断面(南北断面)とその解釈。
図 3 制御震源を用いた反射法地震探査で得られた雲仙火山の深度断面(南北断面)とその解釈。図中の小さい○(丸)印は平成噴火中に発生した地震の震源位置を示す。

2.火道掘削のプラン

 火道掘削のサイトは、環境影響、掘削作業の効率・安全性などを考慮しつつ、いかに科学目標を高く達成するかという観点から、普賢岳の北斜面上部を選定した(図1)。また、火道掘削のターゲットを以下のように設定した。(1)海水準以浅(火口から約1.3 キロメートル以浅)において複数深度で火道を貫く。(2)連続コアは火道を含んでの長さ200メートル以上を採取する。それ以外は少なくともカッティングス(掘屑)を確保する。(3)火道近傍で流体サンプルを採取する。(4)温度、坑壁画像、音波速度、電気抵抗を含む坑内計測を実施する。普賢岳の北斜面からは岩脈状火道に対して垂直に掘り進むことになるため、高い確率で火道を貫くことができる。
 火道掘削を実現するために、第1期においては、国際掘削技術ワークショップを開催するなど、種々の技術的課題について検討した。図4に示すように、火道を目的深度で貫くためには水平に近い高傾斜掘削が必要になる。また、火道周辺では割れ目や断裂が多く発達していることが予想され、坑壁崩壊防止、逸泥対策、坑跡制御などの技術が必要である。火道中心部の温度は現在でも650℃以上の高温と見積もられるため、火道掘削時において、掘削ビット(刃先)の効率的冷却、火山性ガス突出防止を含んだ高温層掘削技術の導入が不可欠である。これらの技術的課題の解決に加えて、山岳地帯にある掘削サイトへのアクセス道路と掘削用水の確保などの掘削に付帯する作業も必要である。
 ここでは、新設計の特殊ケーシングや掘削泥水及び電磁波伝送式MWD(Measurement While Drilling)などを用い、掘削中における坑内におけるトラブル防止・回復を図るとともに、葛根田深部地熱資源調査において使用されたトップドライブシステム(TDS)冷却法を応用し、最新機材も駆使しながら世界最高地層温度の深層掘削を実施する。
 なお、火道掘削は国際陸上科学掘削計画(事務局:ドイツ)との共同事業として実施される。

図 4 坑跡断面図(南北断面)。
図 4 坑跡断面図(南北断面)。火道掘削の本坑(USDP‐4)は普賢岳の北から掘り始め、次第に増角し、水平に近い状態で火道を通過する。本坑の枝掘り坑(サイドトラック坑USDP‐4a)ではさらに浅部を目指す。火道の温度は600℃を越すと考えられる。

3.火道掘削のスケジュール

 火道掘削の工程は、掘削に付帯する作業と掘削そのものの作業に大別できる。付帯作業として、平成14年7月に掘削サイトに接近する既設林道の補修拡幅工事から着手し、昨年度末までに、既設林道終点から掘削サイトまでの林道新設、掘削サイト造成、掘削用水確保のための水井戸掘削の作業を行った(表1)。現在は、平成15年2月中旬の完成を目指し掘削機材の搬入組立と給水用パイプライン敷設作業を行っている。
 本坑(USDP‐4)は2月中旬に掘削開始し、平成15年8月頃には火道を通過する予定である。火道通過後は坑内計測を実施し、火道やその周囲の科学的情報を取得する。本年度掘削では主にカッティングスが採取される。本坑掘削後は、次年度に予定する枝掘り坑(サイドトラック坑;USDP‐4a)掘削において、本坑で達した場所よりも浅部で火道とその近傍の岩石の連続コア採取が可能になるように、掘削中に得られた種々のデータと火道に関する科学的情報をもとに、サイドトラック坑の掘削工法について最適化を図る。サイドトラック坑掘削は平成16年6月頃から開始し、約2ヶ月後に火道を再通過し、火道とその周囲の岩石の連続コアを採取する。本坑と同様にサイドトラック坑においても、掘削後に坑内計測を実施する。坑内計測終了後は、掘削機の解体搬出、掘削サイトの原状回復を行って同年秋に全工事が終了する予定である。

表1 掘削工程表
表1 掘削工程表

4.火道掘削により期待される成果

 火山噴火において、マグマ中のガス成分の脱出(脱ガス)の仕方が噴火様式を左右する。普賢岳噴火において、大きな爆発的噴火が起こらなかったのはマグマ中のガス成分が火道の最上部において効果的に脱出(脱ガス)したためであると考えられる。低周波地震の発生した場所や小爆発の圧力源の位置でそのような脱ガスが起きていたと考えられる。しかし、現在の火山学では、火道における脱ガスの仕組みはほとんど分かっていない。今回行う火道上部のボーリングによって、火道に残ったまま固まった溶岩試料を採取するとともに、火道やその周囲の構造を坑内計測によって調査する。すなわち、火道の構造およびその内部を埋める溶岩の物性や組織に関して、できるだけ空間的変化を明らかにすることによって、効率的な脱ガスを起こした要因が何であったのか、どのように起きたのかを探り出す。また、構造や溶岩の組織や化学組成を細かく追跡することによって、これまで提案されている地下モデル(図5)の検証が可能となる。
 雲仙火山では成長の初期には爆発的噴火を起こしたが、成長とともに爆発度が衰えたことが第1期の成果として明らかになった。何故、成長とともに脱ガス効率が変化してきたのかという疑問にも、今回の火道掘削によって高脱ガス効率の原因を突き止めることによって答えることができると期待される。また、世界で起こる火山災害の多くは、雲仙火山を作ったマグマと似た組成を持つマグマの活動によって引き起こされている。雲仙の火道掘削を手がかりに、爆発的噴火と非爆発的噴火の違いを引き起こす基本的な要因について火山学的な理解を確実に押し進めることができ、将来、世界中で起きうる火山噴火災害の軽減に大きな寄与をすることができるものと考えられる。

図 5 溶岩ドームと火道の予想断面図。
図 5 溶岩ドームと火道の予想断面図。地下から上昇してきたマグマは火道上部で泡立ち、泡中の火山ガスがそこから効率よく脱出した。火道掘削ではマグマから火山ガスが逃げ出す深さの地質や構造を調べ、溶岩や流体サンプルを採取する。

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