‐第238号‐
平成15年5月1日
平成14年度科学技術振興調整費
「免疫システム構築・作動の分子機構とその制御技術の開発」
(粘膜免疫、自然免疫の分子機構と制御のための基盤技術の開発)
白血病や重度の免疫不全症などの根治療法として骨髄移植が実施されているが、非血縁者からの骨髄移植ではしばしば急性の移植片対宿主病(aGVHD)を発症し、死を招く場合もある。本研究班はこのaGVHDの発信源が生体内で最大の第二次リンパ組織である腸管粘膜のパイエル板であることを明らかにした。この成果はNature Immunology 4:154‐160(2003)に掲載された。
急性移植片対宿主病(acute graft‐versus‐host diseases; aGVHD)は、ドナーの骨髄細胞中に存在するT細胞が宿主細胞の主要組織適合抗原を認識して分化成熟したドナー由来の宿主を攻撃するキラーT細胞によって引き起こされることが知られているが、移植後宿主のどの組織でドナー由来T細胞が宿主抗原で刺激されるかは不明であった。この問題は、石川博通教授(慶應義塾大学医学部)によって松島綱治教授(東京大学医学部)との共同研究で解明された。
すなわち、確立されたマウスaGVHDモデルを追究した結果、移植後ドナー由来のT細胞の多くが宿主のパイエル板に集積し、しかもその殆どのT細胞がCD8陽性T細胞で、ケモカイン受容体CCR5とインテグリンα4β7を発現し、分裂していることが明らかとなった。ケモカイン受容体CCR5を欠損したドナー由来のリンパ球を移植した場合にはパイエル板でのCD8陽性T細胞の集積は認められず、またaGVHDの発症も認められなかった。次に、インテグリンα4β7のリガンドに対する抗体を宿主に前投与すると、リンパ球移植後のCD8陽性T細胞のパイエル板への集積は認められず、またaGVHDも発症しなかった。最後に、パイエル板のみを欠損し、それ以外はまったく正常な宿主マウスを妊娠後期の母親にインターロイキン7(IL‐7)受容体に対するモノクロナール抗体を投与して作製したが、このパイエル板を欠損する宿主にはaGVHDの誘導は認められなかった。以上の結果から、パイエル板がaGVHDの発信源であることが明らかとなった。パイエル板は食物質や腸内細菌などの外来抗原にさらされ続けるリンパ組織であり、常に免疫応答が活発に働いているために、aGVHDなどの、骨髄移植療法にとって障害となる免疫病変の発信源となり易いと考えられる。
さらに、この新知見によってヒト骨髄移植療法の障害となるaGVHD病変を回避する新しい手段の開発が見込まれる。一例として、インテグリンα4β7のリガンドに対するヒト型抗体投与によって、ドナー骨髄細胞中に存在するT細胞の宿主パイエル板への流入が阻止され、aGVHD発症を抑制することが十分考えられる。
本研究は、平成12年度から科学技術振興調整費により実施している総合研究「免疫システム構築・作動の分子機構とその制御技術の開発(第1期)」(研究代表者:東京大学医科学研究所 高津聖志教授)における研究の一環として行われたものである。
問い合わせ先
【研究内容】平成14年度科学技術振興調整費
「免疫システム構築・作動の分子機構とその制御技術の開発」
(粘膜免疫、自然免疫の分子機構と制御のための基盤技術の開発)
慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室 教授 石川博通
電話 03‐5363‐3766
【事務局】文部科学省研究振興局ライフサイエンス課 担当者 安達恒介
電話 03‐5253‐4106
研究振興局ライフサイエンス課
-- 登録:平成21年以前 --