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生体組織を利用したバイオニック光センサーの試作に世界で初めて成功‐バイオ・電子工学分野への道を拓く‐[第242号]

-第242号-
平成16年3月17日

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)光技術研究部門【部門長 渡辺 正信】、東京理科大学【学長 岡村 弘之】、東京大学【総長 佐々木 毅】、静岡大学【学長 天岸 祥光】、東京工業大学【学長 相澤 益男】らの研究グループは、文部科学省科学技術振興調整費の先導的研究等の推進「バイオ共役光受容ナノマテリアルの創生【中核機関 産総研 光技術部門】(平成14~16年度)」の一環として、生体組織と半導体素子とを組み合わせ、光を電気に変換するバイオ光センサー(バイオ・光電子変換素子)の開発に世界で初めて成功した。
 今回新たに開発したバイオ・電子変換素子は、温泉に生息する藍色細菌から抽出した生体の光受容タンパクと新たに有機合成により作製した電子を導きやすい金ナノ微粒子を付けた分子配線とを組み合わせたものを半導体素子であるFET上に集積し、バイオ・光電子変換素子としての動作を確認したものである。
 本成果は、2004年3月17~19日の期間に、東京国際展示場「東京ビッグサイト」(東京都江東区有明)で行われるnano tech 2004国際ナノテクノロジー総合展・技術会議の、産総研ブースで公開される予定である。

問い合わせ先
 研究振興局 基礎基盤研究課 材料開発推進室長 佐藤 透
電話:03-6734-4100(直通)

生体組織を利用したバイオ光センサーの試作に世界で初めて成功 -バイオ・電子工学分野への道を拓く-

平成16年3月17日
産業技術総合研究所産業技術総合研究所

ポイント

  • 生体をコンポーネント(部品)として用いた全く新しい光センサーを開発
  • 赤色光に対して、ほぼ100%の光電変換の量子収率を有する生体組織を利用することにより、発熱が極めて少ない光電変換が可能
  • 超省エネルギー型バイオ・電子撮像素子への道を拓く

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)光技術研究部門【部門長 渡辺 正信】、東京理科大学【学長 岡村 弘之】、東京大学【総長 佐々木 毅】、静岡大学【学長 天岸 祥光】、東京工業大学【学長 相澤 益男】らの研究グループは、生体組織と半導体素子とを組み合わせ、光を電気に変換するバイオ光センサー(バイオ・光電子変換素子)の開発に世界で初めて成功した。
 本研究開発は、文部科学省科学技術振興調整費の先導的研究等の推進「バイオ共役光受容ナノマテリアルの創生【中核機関 産総研 光技術部門】(平成14~16年度)」における研究の成果である。
 光センサー(光電子変換素子)を集積したものを撮像素子と呼ぶが、これまでの撮像素子は、CCDを代表とする半導体電子デバイスが主流を占めており、その最小のものは1素子あたり1μm角(1マイクロメートル:100万分の1メートル)のサイズに達している。しかし、このように超高集積化した電子デバイスでは、集積化に伴う発熱や、これに伴う熱雑音のため、集積度を高くしても感度の向上が難しいという問題があり、新たな技術的解決策の模索が行われている。当研究グループはその解決策の1つとして、生体組織を撮像素子に応用するためのキーテクノロジーであるバイオ・光電子変換素子の開発に成功した。
 今回新たに開発したバイオ・光電子変換素子は、温泉に生息する藍色細菌から抽出した生体の光受容体タンパクと新たに有機合成により作製した電子を導きやすい金ナノ微粒子を付けた分子配線とを組み合わせたものを半導体素子であるFET上に集積し、バイオ・光電子変換素子としての動作を確認したものである。
 今後は、本手法を用い高集積化したバイオ・撮像素子への展開を図る予定である。また、発光デバイスなどに適用することにより、バイオ・電子産業技術としての確立を目指すと共に、新たな材料科学としての展開を図る予定である。
 なお、本件は、2004年3月17~19日の期間に、東京国際展示場「東京ビッグサイト」(東京都江東区有明)で行われるnano tech 2004国際ナノテクノロジー総合展・技術会議の、産総研ブースで公開される予定である。

_は別紙【用語の説明】参照

バイオ光センサーの模式図

 バイオ光センサーの模式図。光受容体に照射された光により電子が発生し、この電子を人工的に組み込んだ分子配線により光受容体から取り出して、FETの金フローゲートに導くことにより外部に信号として取り出す。

研究の背景

 半導体産業は、CPUやメモリなどに代表されるように超高速・超高密度化を追い求める技術であると言っても過言ではないが、技術的限界が次々と現れてきており、これを解決する技術として、ナノテクノロジーが次世代産業を切り拓くキーテクノロジーと言われている。一方で、分子、超分子をベースに合成的手法を用いた全く新しい技術でデバイスの超高速・超高密度化を実現しようとする動きがある。
 現在は、生体材料や分子を利用する技術は初歩の段階ではあるが、この技術が実現すると、半導体技術では実現できなかった超高密度で省エネルギー型の新しいタイプのデバイスの実現が可能になると考えられている。

研究の経緯

 本研究開発は、文部科学省科学技術振興調整費の先導的研究等の推進において、産総研光技術研究部門が中核機関となり、東京理科大学、東京大学、静岡大学、東京工業大学らと「バイオ共役光受容ナノマテリアルの創生」を推進している。本プロジェクトは、生物から光合成に関係する部位を取り出して「生体コンポーネント」として利用してデバイス化までを可能とするような新規材料を創生するものである。

研究の内容

 今回は、バイオ・電子デバイスの実現の第一歩として、光変換素子の開発に的を絞り、吸収された赤色光に対して、ほぼ100%の高い光電変換の量子収率を有する藍色細菌の光電変換部位をそのまま取り出して利用することにより、発熱が極めて少ない光電変換を可能とした。本バイオ・光電子変換素子開発にあたっては、生体コンポーネントの作製を1.生体班(東京理科大学)が行った。即ち、耐熱性藍色細菌から取り出した光化学系複合体(光受容体)のコンポーネント単離を行った。これと平行して生体コンポーネントを接続する分子配線と金ナノ微粒子を2.分子合成班(東京大学)が合成した。また、3.半導体班(静岡大学)はフローティングゲートを有する高感度FETを準備した。1.生体班と2.分子合成班の共同作業により、得られた生体コンポーネントと金ナノ微粒子を分子配線で結合した。この結合体を1.-3.が共同してFETのフローティングゲートに接続し、バイオ共役ナノマテリアルとしてのバイオ・電子光変換素子を構築した。これらが設計通りに構築されたことの確認は、4.ファーフィールド計測班(東京工業大学)及び5.ニアフィールド計測班(産総研)により、時間分解分光法および電気化学的手法により確認し、世界で初めてバイオ・光電子変換素子の開発に成功した。

今後の予定

 今後、この手法を用いて高集積化したバイオ・撮像素子への展開や、受光素子以外の発光デバイスなどに適用することにより、バイオ・電子産業技術としての確立を目指すと共に、新たな材料科学としての展開を図る予定である。

用語の説明

バイオ共役光受容ナノマテリアル

 共役という言葉は、2つの事象が強く相関している場合に用いられる。本プロジェクトの場合、生物学が、化学・電子工学と強い関わりをもっているような受光材料であるので付けた命名である。植物から取り出した光受容体タンパクと化学合成により作製された分子配線と半導体微細加工技術により作製したFETを繋いだものを一体として“バイオ共役光受容ナノマテリアル”と名付けている。
 (参考:http://unit.aist.go.jp/photonics/project/b-cpn/kasinhi/index.htm)(※外部のウェブサイトへリンク)(※別ウィンドウで開きます。)

撮像素子

 デジタルカメラの受光部の素子で、CCDなどに代表されるもの。最近のものは高密度に集積化されており、素子数も100万画素(1メガピクセル)を超えている。画素数は分解能の目安となり、大きい程きめの細かな画像が撮影可能となる。

CCD

 CCD(Charge Coupled Device)は電荷結合素子と訳されるイメージデバイスで、FAXやデジタルコピー機、イメージスキャナ、デジタルビデオなど、画像をデジタル信号で扱う製品に広い範囲で利用されており、デジタルカメラのほとんど(数十万画素から数百万画素クラス)に搭載されている。動作原理は、入力した光の強度に応じて蓄積電荷容量が変化する受光素子の性質を利用して、光を電気信号に変えている。画素数に相当する受光素子が集まって、1つのデバイスとしてのCCDが構成されている。

熱雑音

 電子デバイス内の原子や電子の熱運動に伴う不均一性が原因となる。撮像素子の高密度化に伴い、素子内部に蓄積された熱の除去が難しくなりノイズ発生源として問題となっている。高感度測定を行う際は、-40℃以下に素子全体を冷却することが有効となる。

藍色細菌

 藍色細菌は葉緑体やミトコンドリア、ゴルジ体などの細胞小器官をもたない原核生物の仲間で、系統的にはグラム陰性細菌などとともに真正細菌の一員である。しかし、光合成細菌と異なり、植物と同様に酸素発生型光合成を行うために、古くから植物あるいは藻類の一員として扱われ、藍藻の名称が使われてきた。生命の歴史で藍色細菌をみると、30~35億年前に地球上に出現したといわれ、地球大気の形成に大きな役割を果たしてきたと考えられている。もっとも身近にみられる藍色細菌は夏の湖沼で水の華を形成し、悪臭や毒を形成するいわゆるアオコである。種によっては、高温の温泉中に適応しているものも知られている。

分子配線

 電子を出す側と受け取る側の分子の間に適当な分子を挟む(結合する)と、電子が空間を飛び移るよりずっと速くなる。その速さは、挟む分子の構造で変わる。たとえば電話に例えると、「大声で叫ぶ」のが空間を伝わる場合、「糸電話で話す」のが、炭素-炭素の単結合からなるアルキル鎖で話し手と聞き手を繋げた場合、「電話で話す」のが導電性高分子(白川先生のノーベル賞で有名)と呼ばれる炭素-炭素二重結合と単結合の組合せからなる分子(π共役鎖)でつなげた場合といった感じである。したがって、空間よりも電子を速く移動させることができる分子の鎖は「分子配線」である。

FET (Field Effect Transistor)

 トランジスタは小さな電流で大きな電流を制御する、電流-電流動作と呼ばれる仕組みで動作するが、FETはトランジスタとは異なり電圧で電流を制御する、電圧-電流動作をする。これはトランジスタが発明される以前に増幅器として使われていた真空管と同じ動作。電流を制御するゲートになにもつないでいない場合、ドレインとソースとはN形シリコンで直接つながっているためにドレイン-ソース間には電流が流れる。ゲート-ソース間に逆バイアスをかけるとPN接合のところに空乏層ができ、ドレインからソースに流れようとする電流がこの空乏層に通路を狭められるので、流れにくくなる。つまり、ゲート-ソース間の逆バイアスのかけ方で、ドレイン-ソース間を流れる電流の制御が出来る、要するに増幅作用が出現する。

超分子

 分子が多数集まって、さらに大きな集合体を形成したもの(巨大分子)。天然にも存在するが、合成的手法により様々な超分子が合成されている。

量子収率

 光化学反応において、実際に化学反応を起こした分子の数と吸収された光(量)子の数との比をいう。

時間分解分光法

 生じている現象の機構を解明する際に有効となる分光法。短時間だけ電気刺激や光照射をして、その後の応答を長時間にわたって時間経過として測定する。例えば、1ミリ秒(千分の1秒)間だけ光を照射して、その後の1秒間吸収量などの変化を計測する。

本件問い合わせ先

独立行政法人 産業技術総合研究所

関西センター
光技術研究部門
副研究部門長 平賀 隆   〒563-8577 大阪府池田市緑丘1-8-31
電話:072-751-9530 FAX:072-751-9637
E‐mail:hiraga-t@aist.go.jp


【プレス発表/取材に関する窓口】
独立行政法人 産業技術総合研究所 関西センター
産学官連携センター  担当 松岡 邦治
(電話 072-751-9606)

(グラフ)ISFET 電流―電圧特性
バイオ光センサーに光を照射した時のFETの電圧変化
赤矢印と青矢印の大きさの差が、実効的な電圧変化

お問合せ先

研究振興局基礎基盤研究課材料開発推進室

(研究振興局基礎基盤研究課材料開発推進室)

-- 登録:平成21年以前 --