「科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査」平成15年度調査報告[第244号]

平成16年6月9日

 科学技術政策研究所は「科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査」(平成15~16年度)の平成15年度調査報告をとりまとめた。1971年の第1回調査以来、通算第8回目にあたる今回の調査は、次期科学技術基本計画を検討する際の基礎資料を提供するという目的のもと、研究開発投資に関する優先順位付けをはじめとする重点化政策の策定に直接寄与できる調査とすることに力点をおいており、1社会・経済ニーズ調査、2急速に発展しつつある研究領域調査、3注目科学技術領域の発展シナリオ調査、4デルファイ調査から構成される新しい設計となっている。
 既に一部の結果が出ている「急速に発展しつつある研究領域調査」についてはNISTEP REPORT No.82、他の3項目については調査資料No.105として成果を公表する。平成15年度調査のハイライトは別紙のとおりである。
 「急速に発展しつつある研究領域調査」では、引用関係を用いて論文をグループ化し研究領域を見いだす手法を新たに開発した。本手法を用いて、急速に発展しつつある51の研究領域を抽出するとともに、その内容について分析を行った。その結果、51研究領域の約3割が学際的・分野融合的な領域であり、新たに発展しつつある研究領域の相当数が学際的・分野融合的性格を持つことが分かった。また、生物時計に関する研究やニュートリノ研究など植物・動物学や物理学に関する研究領域においては日本が存在感を持っていることが明らかになった。
 詳細については、下記の問い合わせ先まで。

NISTEP REPORT No.82 科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査―急速に発展しつつある研究領域調査―
調査資料 No.105 科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査

問い合わせ先
科学技術政策研究所科学技術動向研究センター
横田、伊神 電話:03‐3581‐0605(直通)

科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査 平成15年度調査報告書

(NISTEP REPORT No.82、調査資料 No.105)

平成16年6月9日
文部科学省
科学技術政策研究所

1.調査の目的

 科学技術政策研究所では、平成15~16年度科学技術振興調整費による「科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査」(以下「予測調査」と記述)を実施している。
 予測調査とは、今後30年程度の期間で重要と考えられる科学技術分野の発展を、専門家に対するアンケートなどにより俯瞰的に予測する調査である。我が国では1970年代の初め、科学技術庁(当時)により、デルファイ法[注1]による大規模な技術予測が開始され、約5年ごとの調査が継続的に実施されている。当研究所は、90年代以降の第5回(1992年)~第7回(2001年)調査の実施機関である。我が国の予測調査は、全技術分野を対象として、大規模かつ継続的に実施されてきた点で、世界にも類を見ないものであり、デルファイ法による予測のデファクトスタンダードとなっている。
 通算第8回目にあたる今回の予測調査は、次期科学技術基本計画(以下「基本計画」と記述)を検討する際の基礎資料を提供するという目的のもとに、総合科学技術会議や文部科学省関係部局における検討と直接的な連携をとりつつ実施されている。
 本調査は当研究所と財団法人未来工学研究所との共同で実施している。調査全体の総括の為に予測調査委員会(委員長:生駒俊明氏)を設置し、調査計画、実施方針など全般的な事項の検討、および調査結果の総合的な検討を行っている。

2.調査計画の全体概要

 今回の予測調査では、研究開発投資に関する優先順位付けをはじめとする、重点化政策の策定に直接寄与できる調査とすることに力点をおいている。
 このため、専門家のコンセンサス形成に重点をおくデルファイ調査のほかに新たな手法も加えて全体として俯瞰性のある調査としている。本調査は図表1に示すように1社会・経済ニーズ調査、2急速に発展しつつある研究領域調査、3注目科学技術領域の発展シナリオ調査、4デルファイ調査の4つの柱から構成される。以下に各項目の概要をまとめる。

図表1 各調査項目の位置付け[横軸は調査対象(科学、技術、社会)、縦軸は調査手法の特徴(客観的・外挿的、主観的・規範的)を表す。]
図表1 各調査項目の位置付け
[横軸は調査対象(科学、技術、社会)、縦軸は調査手法の特徴(客観的・外挿的、主観的・規範的)を表す。]

1.社会・経済ニーズ調査

 過去の予測調査や白書などをもとにニーズの網羅的かつ体系的なリスト(ニーズリスト)の作成を行う。次にニーズリストをもとに、生活者に対するアンケート調査および生活者、産業界など科学技術専門家に限らない多くの人々からなるパネルにおいて優先的に解決すべきニーズの検討(参加型プロセス)を行う。これらの作業をもとに、社会各層におけるニーズの優先度をオプションとして提示する(生活者のニーズ、産業界のニーズなど)。最終的には、得られたニーズの優先度をもとに科学技術の専門家からなるパネルにおいて、科学技術とニーズ項目の関連性の検討を行い、各オプションについて重要となる科学技術領域を提示する。

2.急速に発展しつつある研究領域調査

 論文データベースの分析を用いて、急速に発展しつつある研究領域は何処か、それらの領域の変遷にはどのような傾向があり、また各領域で日本はどの程度の存在感を持つかの客観的な把握を試みる。

3.注目科学技術領域の発展シナリオ調査

 今後10~30年程度を見通した場合に、社会・経済的な貢献が大きい科学技術領域、革新的な知識を生み出す可能性を持つ領域などを50程度抽出し、そのそれぞれについて、卓越した個人の見識にもとづく発展シナリオを作成する。これにより、注目すべき科学技術領域について主観的な視点から発展の方向性を明らかにする。

4.デルファイ調査

 エレクトロニクス、ライフサイエンスなど科学技術の主要分野をほぼ網羅する13分科会で、2020年を中心とした今後30年に重要と考えられる科学技術についての予測課題を作成する。予測課題についてデルファイ法によるアンケート調査を行い、今後の科学技術の発展の方向性に対する専門家集団(3000~4000名)のコンセンサスを明らかにする。

 今回のアンケート調査では過去と比べて以下の2点を大きく改め、次期基本計画検討の際の基礎資料として利用しやすいものとする。

分野と予測課題との間に注目科学技術領域を導入し、大部分の予測課題を、領域を代表する技術等のパッケージとして捉える。これら注目科学技術領域についても、我が国にとっての重要性や日本の水準などを問う。
・ 予測課題ついては、「技術的実現時期」と「社会的適用時期」を問うことで、研究開発政策、イノベーション政策の両方に資するものとする。

 以上で得られる各調査項目の成果を総合的に分析し、2020年を中心とする今後30年間の科学技術の動向を俯瞰的に把握するとともに、重点化の検討のための資料を作成する。平成15年度に実施した項目および平成16年度の予定は図表2のとおり。

図表 2 科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査 全体スケジュール

図表 2 科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査 全体スケジュール

3.急速に発展しつつある研究領域調査のハイライト

 平成15年度調査の成果については、項目毎に進捗状況が異なるため、既に一部の結果が出ている「急速に発展しつつある研究領域調査」のハイライトを以下に示す。

3‐1 論文データベース分析の手法について

 平成15年度はまず、論文データベース分析から現在どのような研究領域が存在しているのかを俯瞰的に把握し、その中から急速に発展しつつあるものを抽出する為の手法開発を行った。具体的には、論文の集合を発見する手段として論文の共引用[注2]の関係に注目し、共引用の関係を用いた論文のグルーピングによって研究領域を見いだす手法を開発した。分析には、1997年~2002年までの6年間に発行された論文の中で、各年、各分野(臨床医学、化学、物理学など22分野)において被引用数が上位1%である高被引用論文(約4万5千件)を用いた。

3‐2 急速に発展しつつある51の研究領域について

 上記に述べた論文データベース分析から679の研究領域が得られた。本年度はその内、研究領域を構成する論文(以後コアペーパ[注3]と呼ぶ)の被引用数が急増を見せている51領域を急速に発展しつつある研究領域として抽出した(図表3参照)。51の研究領域の中で臨床医学や植物・動物学といったライフサイエンスに関連するものが13領域抽出された。また、化学、物理学、工学、材料科学に関連した領域も15領域と多く抽出されている。少数であるが、地球科学、宇宙科学、社会科学に関する領域も含まれている。また、51領域の約3割である17領域が学際的・分野融合的領域となった。新たに発展しつつある研究領域の相当数が学際的・分野融合的性格を持つことが示されている。

3‐3 研究領域における日本の存在感について

 物理学と植物・動物学における研究領域において、日本の存在感が相対的に大きい。
 物理学に関連する6領域で被引用数上位1%における日本論文の比率[注4]が7.0%を超えている。最も日本論文比率が高い研究領域は、「酸化物高温超伝導物質」で比率が33.8%である。この値は51領域中で最も高い。加えて、「ニュートリノ研究」や「金属系超伝導物質と重い電子系超伝導物質」といった研究領域は、日本における研究がブレークスルーとなって発展している研究領域であることが確認された。
 また、ライフサイエンスに関連する領域の中で、特に植物・動物学に関する領域は、すべて日本論文の比率が7.0%を超えている。その中でも特に「生物時計」に関する研究領域では、日本論文比率が17.8%と高い。

3‐4 論文データベース分析の特徴について

 本手法の特徴は、1既存の学問分野にとらわれない研究領域全体の俯瞰的な分析、2統計情報に基づく客観的な研究領域の分析、3時系列分析による研究領域の変遷の把握の3点が可能な点である。
 近年、学際的・分野融合的な研究領域が重要との認識が高まっているが、これまで、どのような研究領域がこれに該当するのかを定量的に見分ける方法は無かった。本手法と用いると学際的・分野融合的な研究領域の客観的かつ定量的な把握が可能となる。
 例えば、「プロテオミクス」は全部で147件のコアペーパ[注3]を持つが、その分布を見ると化学が約5割、生物学・生化学が約2割あり、その他として工学などが含まれている。
 また、物理学、化学、材料科学の境界に「カーボンナノチューブ」、材料科学と化学の境界に「メソポーラス材料とナノワイヤー」が位置していることが分かった。
 また、領域の内容分析を行うことで「プロテオミクス」では、機器開発と科学的知見の獲得が相互に関連を持ちながら発展しており、1999年を境に研究の主な内容が機器開発から、その技術を利用した科学的知見の獲得へ移行したことが示された。

図表3 急速に発展しつつある51の研究領域
図表3 急速に発展しつつある51の研究領域

3‐5 今後の予定

 平成16年度は、平成15年度に得られた知見をもとに、以下の視点から分析を実施する予定である。

  • 上位51の研究領域のみでなく、もう少し下位の研究領域の分析
  • 研究領域の時系列変化の分析
  • 研究領域において中心的な研究機関の分析

【用語説明】

[注1]デルファイ法:デルファイ法とは、多数の専門家に同一内容のアンケートを繰り返し、回答者の意見を収斂させる方法。
[注2]共引用:ある論文が複数の論文を同時に引用することを指す。頻繁に共引用される論文は、その内容に一定の共通点があると考えられ、それらをグループ化する事で、研究内容に共通性のある論文の集合を得ることが出来る。本調査では論文のデータベースとしてThomsonISI社のEssential Science Indicatorsを用いた。
[注3]コアペーパ:共引用を用いてグループ化された研究領域を構成する論文のこと。
[注4]日本論文の比率:ここでは、論文の著者(多くは複数)の所属機関に、1つでも日本の組織が含まれれば日本論文としてカウントした。

お問合せ先

科学技術・学術政策局調査調整課科学技術振興調整費

(科学技術・学術政策局調査調整課科学技術振興調整費)

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