「科学技術倫理教育システムの調査研究」

平成16年6月

平成14~15年度
科学技術政策提言
報告書要旨

研究代表者:新田孝彦(北海道大学大学院文学研究科)
中核機関:北海道大学

1.調査研究の概要

 本調査研究の主要な目的は、 (1)高等教育機関・企業・学協会における倫理教育の実態を総体的に把握し、(2)現状の問題点を踏まえつつ、科学技術倫理教育を促進するための教育プログラム及び教育システムのモデルを提示すること、そして、(3)科学技術のリスクに関する規制やリスクコミュニケーションと倫理教育との関連を視野に入れつつ科学技術倫理教育に係わる政策提言を行うことであった。具体的な調査研究としては、以下のような活動を行った。

倫理教育に関する現状調査

  1. 技術系企業1,000社に対するアンケート調査
  2. 先進的な倫理研修体制をとっている企業へのインタビュー調査
  3. 各学協会の会員構成及び倫理委員会等の活動状況の調査
  4. 大学理工系学部における技術者倫理授業の開講実態に関するアンケート調査
  5. 欧米における科学技術倫理教育に関する文献調査及びヒアリング調査

【リスクマネジメント及びリスクコミュニケーションに関する調査研究】

  1. リスクマネジメントに関連するワークショップの開催
  2. 「模擬コンセンサス会議」授業モデルの開発
  3. 医薬品、労働安全衛生、原子力発電など各分野におけるリスク規制のあり方の研究
  4. リスク管理と企業倫理に関する事例研究

【科学技術倫理教育プログラムと教育システムの開発】

  1. 先進的な授業実践例の調査・分析
  2. メタ倫理教育プログラムの開発
  3. 教科書(『科学技術倫理を学ぶ人のために』)作成

 こうした調査により、明らかになったのは以下のような点である。(1)企業においては、行動憲章や倫理委員会を設置しているところが多かったものの、倫理意識定着のための活動は不十分である。また、各企業は他社の経験に関する情報を求めている。(2)各大学や高等専門学校においては、技術者倫理授業の導入は進んでいるものの、内容については試行的段階にあり、特に組織的な対応が欠けている。(3)学協会に関しては、多くの学協会が倫理綱領を制定しているものの、倫理委員会が十分に活動しているところはごくわずかである。また、学協会は学術団体としての性格が強く、専門職団体としての機能を十分に果す体制になっていない。(4)リスク管理の規制に関しては、自主的なリスクマネジメント体制がますます重視される傾向にあるが、行政の側の役割も依然不可欠である。従って、自主的なリスク管理と行政によるリスク管理の役割分担を明確化する必要がある。
 以上のような調査結果を踏まえ、本報告書では、以下のような提言を行うこととした。なおこうした提言のほか、上記教科書の作成や、報告書の中に掲載したメタ倫理教育プログラム・「模擬コンセンサス会議」授業モデルの開発なども本調査研究の成果である。

2.調査研究に基づく政策提言(要旨)

高等教育機関における科学技術倫理教育に関する提言
1 主要な理工系大学院の専門職養成課程(修士課程)、各種専門職大学院に「科学技術倫理」関連の科目を開設するための制度的な仕組みを導入するとともに、各大学の倫理教育を充実させる施策を講じる。
2 各種競争的資金に「技術倫理教育」支援を盛り込むとともに、主要大学において科学技術倫理教育FDプログラムを実施し、同時にこれを他大学に開放するためのFD支援経費等を拡充する。
3 大学による「サイエンス・ショップ」活動を、地域連携事業として位置づけるとともに、これを「スーパー・サイエンス・ハイスクール」事業(初等中等教育局)及び「大学Jr.サイエンス&ものづくり」事業(生涯学習政策局)の後継事業として、制度的・財政的な支援策を講ずる。
4 「現代社会」科目の中に科学技術社会論の成果を積極的に取り入れるとともに、「理科」科目の中にも技術を媒介とした科学への導入という視点を採用する。
企業の倫理研修に関する提言
1 各企業および業界団体に対して、企業倫理の確立を促し、倫理綱領や行動基準の策定を誘導するための諸施策を講ずる。
2 各企業が倫理研修体制の改善のために、素材や情報を交換できるシステムを構築する。特に各種コンテンツのライブラリーを構築する。
3 企業内部での報告・相談制度の導入を支援する諸施策を講ずる。中小企業に関しては、弁護士、業界団体あるいは労働団体を活用する制度の導入を支援する。
4 技術者倫理・企業倫理に関する産学連携を進めるための調整センターを設置する。
学協会に関する提言
1 各学協会に対して、学術団体(アカデミックソサエティ)から専門職団体(プロフェッショナルソサエティ)への機能変化を促すための環境整備、諸施策を行う。
2 各学協会に「倫理委員会」及びその下部組織としての「倫理教育小委員会」等を設置するための環境整備、諸施策を行う。
3 技術者倫理に関する継続教育を強化するため、大学、企業、学協会が連携した教育センターを設置する。
リスクマネジメントにおける法規制と倫理教育に関する提言
1 公益通報者保護法(案)に関する教育を技術者倫理教育の中に導入する。
2 企業の自主的リスクマネジメント体制の構築を促すとともに、投資家、消費者団体やオンブズマン等が外側からモニタリングしていくためのシステムを構築する。
3 労働安全マネジメントシステムと特例メリット制度との連携などにより、自律的な安全衛生活動と労働補償法との連携をはかる。
4 ISO基準認証の取得を奨励するなど事業者の自己責任による自主保安の考え方を徹底させる。また、安全主管者、安全管理グループ長など安全管理上枢要な者について、社内での位置づけを明確化し、社内の自主保安体制の充実化をはかるように事業者に促す。

お問合せ先

科学技術・学術政策局調査調整課科学技術振興調整費室

電話番号:03‐6734‐4017(直通)

(科学技術・学術政策局調査調整課科学技術振興調整費室)

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