2.各論 (10)緊急研究

神津島東方海域の海底下構造等に関する緊急研究

(研究期間:単年度  平成12年度)
研究代表者 平田  直(東京大学地震研究所  教授)
研究課題の概要
平成12年6月末以降に発生した三宅島の火山活動、及び三宅島から新島・神津島周辺海域の群発地震活動は、1年経過してもなお継続し、一連の地震活動では、震度6弱6回及び震度5強7回を観測する等、その継続期間及び規模については、過去、同海域で観測されたことのない現象であった。この現象はマグマの活動を原因とすると考えられる。そこで、今回の現象におけるマグマ活動の実態を把握するため、震源域の海底下構造調査、海底地質調査及び地震観測・地殻変動観測等を実施し、応力源の分布、応力源の力学的特性の総合解析を行い、地殻活動のメカニズムを実証的に確認した。
(1) 総評
    本研究は、神津島東方海域における平成12年6月末からの地震活動について、その応力源の特性を解明することを目的とし、1地震活動域の海底下構造調査によるマグマ溜まりの分布解析、2地殻変動・地震活動の精密観測による応力源の力学的特性解析、3応力源の総合解析を柱として研究が推進された。
  年度途中に発生した現象で、実質、半年程度の研究期間から考えて、設定した目標は概ね適切であった。海底下構造調査、地殻変動観測、地震観測など、効率よく調査・観測を推進し、多くの成果を挙げられたと考えられ、高く評価される。
  個々の研究成果としては
  ○海底下構造の探査結果による反射面の推定
  ○海底地形、海底断層の詳細分布の把握
  ○海底岩石採取による過去の火山活動の推定
  ○海底地震計による精密な地震活動の時空間分布の把握
  ○GPS観測による周辺域を含めた広範囲の地殻変動の捕捉
  ○三宅島におけるマグマ移動の時空間分布の推定
  などがあり、この地域における過去最大級の群発地震活動に伴う現象を捉えたことは、いずれも科学的価値が高いものである。これらの成果は、わが国の他の地域で発生する同様の群発地震活動の推移把握に対して、波及効果が期待できる。
  研究成果の情報発信については、短期間であったため必ずしも十分とはいえないが、地震学会等学術研究交流の場で成果発表がなされたのをはじめ、成果の速報として報道発表もなされている。国際的な雑誌にも一部発表されている。また、随時、政府の地震調査委員会に報告され、地震調査委員会の地震活動の現状評価に有効な資料となった。
  研究体制については、代表者の指導性は十分に発揮され、連携も一体的であったと考えられる。
  得られた結果の物理的解釈については、調査観測の成果がまとまった後に、そのための一定の時間が必要であり、まだ十分ではないように思われる。
  また、地震活動初期のころから研究を開始し、議論にかける時間があれば、もっと研究内容を充実できた可能性がある。
  総合的に見て、本研究は非常に優れた研究であったと考えられる。
  なお、今後、マグマ活動により地下での応力源の状態が大きく変化しているときに緊急研究を速やかに実施することが重要である。
(2) 評価結果
1 地震活動域の海底下構造調査による応力源の分布解析
    神津島東方海域の地下のマグマの実態を把握するため、OBSによる屈折法地震探査、マルチチャンネル反射法地震探査が行われた。これらにより、三宅島西方から神津島と新島間の地形的な高まりの部分で地震波速度が数%遅くなっていること、神津島と新島の間、及び三宅島の西方から神津島方向に広がる反射面が存在することが見出され、これらのところにマグマの関与又は存在が推定された。また、浅部の屈折法探査により、地震発生域の南東端で周辺よりも速度が遅くなっていることが明らかにされた。海底から岩石を採集し、これを分析した結果、神津島から南東に延びる海底火山列は地質学的に極めて新しい活動であることがわかった。
  上記以外に、既存データの再解析として、海底地形、シングルチャンネル反射法地震波探査、海上磁気、海上重力のデータを再解析し、神津島東方海域の地震発生域では、北西-南東方向の正断層群及び同方向の海山列を発見した。これにより活動レベルは明確ではないものの、過去にも今回と同様の地震活動が発生したことが推定された。
  以上のように、対象とした海域において、各種の計測による海底表層から深部までの海底下構造のイメージングが、研究期間が短い中で、かなりの精度で行われたことは高く評価できる。地下に推定されたマグマの活動が今後どうなるかなど、今後も機会を捉えて調査を続けることが重要と考えられる。
2 地殻変動・地震活動の精密観測による応力源の力学的特性解析
    島嶼部を含めて行われたGPS観測により、新島-神津島間の距離の伸長が、マグマの貫入に伴うとするモデルで説明できることが確認された。三宅島での重力観測により、島の西方へのマグマの移動が検証された。海底地震計等の地震観測により、震源が鉛直方向に薄い板状であることが見出された。また、板状の部分に発生した地震は、北西-南東方向に圧縮軸を持つ横ずれ型の発震機構のものが多いことが見出された。さらに、発震機構から推定される断層面と板状の震源分布は45度傾いていることが見出され、これは、三宅島の地下で発生したマグマが西方-北西方に貫入したとする、上述の地殻変動のデータから別途推定された結果と調和的であった。
  今回の活動において、ダイクの貫入が推定され、その付近の震源分布が精密に得られたこと、及び広範囲にわたり地殻変動を捉え、ダイクの貫入が確認できたことは高く評価できる。
3 応力源の総合解析
    上に得られた震源分布と、推定された構造によって深さ10から15kmにマグマ溜まりの上面が推定され、また、一部のマグマが浅部へ侵入し地殻変動が生じ、これにより群発地震が発生したことが推定できた。また、自然地震によるトモグラフィ解析により、神津島から三宅島にかけて、深さ7kmより浅いところに低速度域が見出され、ダイクの貫入に伴う高温の岩体、あるいは岩石の部分溶融が推定された。
  結果の解釈については、得られた反射面など、地下構造の物理的解釈に関し、十分な議論をする時間が足りなかった印象がある。しかしながら、過去に例を見ない規模、継続期間を持つ今回の群発地震活動について、上のように短期間で多くの成果が挙がっていることは評価される。今後も、同地域での観測に重点をおいた研究が継続されること及び原著論文の発表など、さらなる情報発信が望まれる。


 

-- 登録:平成21年以前 --