2.各論 (7)流動促進研究

1
生体組織形成を模倣したミセルの自己組織化による規則配列制御ナノスケールセラミックスの創製

(研究期間:平成11年~14年)
任期付研究員:穂積 篤(独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(研究継続:非常に優れた研究)
   本研究は、界面活性剤の会合により形成した柱状ミセルの特定部位を相互に接合させ、柱状ミセルを2,3次元に規則配列させ、それを鋳型にしたナノスケールセラミックスの合成技術の開発を行うものである。
   有機・無機複合体から、有機成分のみを低温で選択的に除去し、ナノメートルスケールの細孔を得る新たな技術の開発に成功するなど、短期間に多大の研究成果を創出し、特許も数多く取得しているなど、順調に研究が推移しており、高く評価できる。
    他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、以上の優れた研究成果が、広く国内外の大学、研究所のみならず、企業からも注目を集めており、十分な効果が あったものと考える。また、必要な分析機器等を整備し、空調機を備えた研究スペースを確保するなど、研究の遂行に必要な経費が重点配分されている。更に、 国内外での発表において必要な費用を研究室等で負担するなど、研究所の任期付研究員に対する支援も行われている。
   以上により、本研究は、総合的に非常に優れた研究であったと評価できる。

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2
LCA手法による地球温暖化対策設計ツール開発に関する研究

(研究期間:平成11年~15年)
任期付研究員:玄地 裕(独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(研究継続:非常に優れた研究)
    本研究は、民生部門の地域スケールでのエネルギー連関を記述したツールの開発を通じて、地域省エネルギー戦略を設計支援するものである。具体的には、エネ ルギー消費の巨大な東京23区をモデル地区とし、需要側として、特に夏季電力需要逼迫の主原因である都市高温化による気温上昇とそれに伴うエネルギー消費 増加のモデル化を、供給側として、地域冷暖房システムにつき、ライフサイクルコスト、ライフサイクルシー オー ツー排出量分析を行っているものである。
   現代社会が直面している都市の環境問題に正面から取り組み、具体的な解決策を提示しうるツールを開発しており、今後、社会的な波及効果が期待されるという意味で、高く評価できる。一方、本研究は、既存の地域冷暖房システムを前提として推計したシー オー ツー排 出量削減に対する地域単位での戦略的対応というミクロのアプローチを採っているが、今後、そもそも冷暖房が不要な都市環境システムを構築するにはどうする べきかといったマクロの視点を取り入れることも必要と考える。また、本ツールによるシュミレーションの現実妥当性についても、より明確に意識して研究を継 続することが求められる。
   他方、任期制の活用の効果に関して は、研究成果に加え、限られた任期の中で目的を明確にして研究課題を遂行する任期付研究員の存在が、他の研究者に対する刺激になり、研究所の活性化が図ら れている。また、任期付研究員の事務負担を最小限にするなど、研究所の任期付研究員に対する支援も行われている。
   以上により、本研究は、総合的に非常に優れた研究であり、研究を継続すべきものと評価できる。

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3
超伝導マグネットコイル電流密度向上のための要素技術開発

(研究期間:平成10年~12年)
任期付研究員:菊地 章弘(独立行政法人物質・材料研究機構)
総評(非常に優れた研究)
   本研究は、臨界電流密度Jcが極めて大きい急熱急冷・変態法Nb3Al超伝導線材を実用化し、高性能超伝導コイルへと発展させるために必要な要素技術開発を実施するものである。
    次世代の超伝導マグネット用超伝導線材として期待されているNb3Al線材の開発に関して、透過電子顕微鏡等を駆使して組織と臨界電流密度の関連を見出す とともに、Nb3Alの短時間変態熱処理を実施する新しいプロセス「2段階急熱急冷法」を開発するなど、実用化に向けて十分な成果をあげており、高く評価 できる。
   なお、今後、実用化に向けてコスト面での評価を行うことを期待する。
   他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、以上の優れた研究成果は、研究所の期待に十分に応えるものであり、任期制の利点を十分活用し、顕著な成果をあげている。また、研究スペースの重点的配分を図るなど、研究所の任期付研究員に対する支援も行われている。
   以上により、本研究は、総合的に非常に優れた研究であったと評価できる。

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4
エネルギー変換材料に用いるマイクロ粒子の生成・形態制御に関する基礎的研究

(研究期間:平成10年~12年)
任期付研究員:遠藤 明(独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(優れた研究)
    本研究は、将来的な実用化が期待される高機能エネルギー変換材料の製造において重要な、ナノメートルレベルでの構造形成、粒子成長機構などを解明するとと もに、反応場を積極的に制御することにより、工業規模での大量生産を可能にするための新しいプロセス基盤技術を確立することを目指すものである。
    研究成果については、ナノメートルレベルで構造規則性を有するメソポーラスシリカの構造形成、形態制御について、微細構造生成過程の相転移、自己組織化な どの機構を解明し、構造・形態の制御を実製造装置レベルで可能とする材料創製に係るプロセス技術で基盤的成果をあげており、新しい手法も含め、発展的な成 果が得られている。
   他方、任期付研究員の活用の効果に関して は、以上の研究成果に加え、任期付研究員が導入した新たなアプローチが研究グループを活性化させるなど、従来の研究と発展的に融合する効果があった。ま た、研究所により研究費の補助等の措置がとられるなど、研究所の任期付研究員に対する支援も行われている。
   以上により、本研究は、総合的に優れた研究であったと評価される。

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5
計算化学的手法を活用した精密機能材料の創製技術の開発

(研究期間:平成10年~12年)
任期付研究員:松村 一成(独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(優れた研究)
   本研究は、精密機能材料創製のための要素技術の確立に向けて、計算化学的手法を積極的に活用し、天然酵素類似機能を有する人工酵素系の構築を試みたものである。
    研究成果としては、計算化学的手法を活用して、生体系で見られる分子間相互作用の大きさを高精度の分子軌道計算によって見積ったり、リン酸ジエステルの加 水分解反応の機構について新たな知見を得、これらの結果を踏まえてリン酸ジエステルの生成・切断反応に対して触媒能を有する人工酵素系の設計を行い、構築 を行うとともに、実験により、ほぼ予期した触媒活性を示すことが確かめられた。
   今後、計算化学的手法と実験的な手法との連携を十分にとりつつ、今後の研究の発展に期待したい。なお、一層の情報発信に努めることが望まれる。
   他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、触媒活性を実験的に確かめる上で、任期付研究員の手法が研究の進捗に貢献した。また、研究所長の裁量で研究予算や研究スペースを確保するなど、研究所による任期付研究員に対する支援も行われている。
   以上により、本研究は、総合的に優れた研究であったと評価される。

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6
酵素概念模倣による飽和炭化水素選択酸化触媒の研究

(研究期間:平成10年~12年)
任期付研究員:山田 裕介(独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(優れた研究)
    本研究は、天然ガスを化学原料として利用することを目指し、メタン、エタン、プロパンといった低級飽和炭化水素を選択酸化し、アルコールやアルデビドなど の有用含酸素化合物に転換するための触媒を開発するものである。その際、酵素における「活性金属種の不活性担体上での孤立」の概念を取り入れ、固体触媒の 開発を試みた。
   研究成果としては、シリカ表面上での孤立鉄イオン濃度増大のための調整法を確立するとともに、コンビナトリアルケミストリ手法の導入に必要な迅速触媒機能評価技術の開発が行われ、構造と触媒特性との関係を正確に理解できるよう研究を進展させたことは評価できる。
    他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、任期付研究員がコンビナトリアルケミストリ手法を固体触媒の研究に取り入れるという新しい課題に積極的に取り 組んだことで、研究グループ全体の研究水準を引き上げることとなった。また、研究所独自に研究費を措置したり、研究スペースを十分に確保するなど、研究所 の任期付研究員に対する支援も行われている。
   以上により、本研究は、総合的に優れた研究であったと評価される。

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7
酸化物熱電変換セラミックスの材料設計に関する研究

(研究期間:平成10年~12年)
任期付研究員:申 ウソク(独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(優れた研究)
    本研究は、耐酸化性に優れた新規酸化物熱電源変換材料の探索を加速するため、第一原理計算により酸化物の電子状態を解析し、その結果から当該材料の熱電性 能を推定する手法を確立するとともに、試料作成により熱電性能を実験的に求め、開発する熱電性能推定手法の妥当性を検証するものである。
    研究成果としては、層状構造熱電酸化物であるNaCo2O4の第一原理計算を行い、基本的な電子状態図を明らかにしたこと、新規酸化物熱電変換材料として Bi2Sr3Co3O9焼結体系において、高温熱電特性を評価し、層状構造の結晶構造による熱電特性異方性を確認したこと、及びアルカリをドープした酸化 ニッケルを熱電材料として開発を行っており、概ね当初の目標を達成している。
    他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、以上の研究成果に加え、材料の物性評価に関する任期付研究員の優れた研究ポテンシャルを活用し、測定装置の自 動化を行い商品化する等、当該分野の研究の活性化に貢献した。また、研究遂行に必要な研究スペースを準備するなど、研究所の任期付研究員に対する支援も行 われている。
   以上により、本研究は、総合的に優れた研究であったと評価される。

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8
MeV重イオン表面励起反応の高度計測技術による高機能材料の開発に関する基礎的研究

(研究期間:平成10年~12年)
任期付研究員:溝田 武志(独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(優れた研究)
   本研究は、既存のタンデム加速器から得られるMeV重イオン照射による二次イオン分析システムを用いた高機能材料の評価を目指して、測定装置を設計・製作したものである。
   具体的には、C60フラーレン膜や金ナノ粒子を用い、製作した測定装置の性能を評価したところ、短時間で、質量分布を知ることができ、実用に十分耐える有効な手法であることが分かった。本成果については、今後、応用面、実用面で期待できるものと評価できる。
   なお、本測定装置の特許化が望まれた。
    他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、以上の成果に加え、任期付研究員の原子核実験等における高度な技術を活用することにより、本研究以外の原子力 関係の研究が促進された。また、任期付研究員が研究に集中できるよう庶務等を可能な限り減らすなど、研究所の任期付研究員に対する支援も行われている。
   以上により、本研究は、総合的に優れた研究であったと評価される。

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9
セラミックスの粒界の評価及び制御による超塑性の発現に関する研究

(研究期間:平成10年~12年)
任期付研究員:鈴木 義和(独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(非常に優れた研究)
   本研究は、セラミックスの超塑性発現と粒界の特性との関係を把握し、超塑性を行うことにより、加工と同時に機能付与・機能向上を可能にすることを目指すものである。
    研究成果としては、超塑性を発現する構造用セラミックスである正方晶ジルコニアに、永久磁石として用いられるバリウムヘキサフェライトを均一に分散させ た、新たなセラミックス複合材料が開発された。本研究は、セラミックスの成形加工のみならず、機能性を向上させることに成功し、短期間に基礎から応用まで 多くの研究成果を得ていることから、高く評価できる。
   他方、任 期付研究員の活用の効果に関しては、短期間に研究成果をあげるべく、積極的に研究を展開した任期付研究員の存在が、他の研究者によい刺激を与え、研究所全 体の活性化が図られた。また、任期付研究員のうち優れた者に対して業績手当を特別配分するなど、研究所の任期付研究員に対する支援も積極的に行われた。
   なお、発表が早すぎたため、特許化に至っていないことが惜しまれる。研究所が適宜研究の進捗状況を把握して、特許を出願させるべきであった。
   以上により、本研究は、総合的に非常に優れた研究であったと評価される。

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10
燃焼におけるダイオキシン類の生成・分解機構に関する研究

(研究期間:平成10年~12年)
任期付研究員:椎名 拡海(独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(優れた研究)
    本研究は、廃棄物焼却におけるダイオキシン類生成抑制技術のうち、焼却炉以降での複雑な後処理に頼らない技術の開発を目的として、ダイオキシン類の生成機 構のうち前駆体経由の生成経路について、重要な素反応の速度定数を直接的に測定して反応機構を構築しようとするものである。
   ダイオキシン生成における気相反応について一定の知見は得られたが、当初の目標設定が高く、三年間の任期内で研究課題全体をカバーするまでには至っていない。また、一層の情報発信を期待したい。
   他方、研究室スペースなどについて、通常よりも広いスペースを確保するなど、研究所の任期付研究員に対する支援は行われている。
   以上により、本研究は、今後、研究の積極的な展開が図られることを期待しつつ、総合的に優れた研究であったと評価できる。

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11 環境調和型メディアとしての超臨界二酸化炭素逆ミセル系の創出

(研究期間:平成11年~12年)
任期付研究員:川上 貴教(独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(優れた研究)
   本研究は、超臨界二酸化炭素逆ミセル系の開発を目的に、1超臨界二酸化炭素中で用いることのできる界面活性剤類の開発、2超臨界二酸化炭素中で用いることのできる界面活性剤の基礎的物性の解明等を行うものである。
    研究成果については、研究期間が短期間であったため、当初の目的よりも縮小したものとなったが、逆ミセル系創出の前提である超臨界二酸化炭素に溶解する界 面活性剤の開発に成功し、外部機関からの賞を受ける等、優れた成果をあげたことは評価できる。なお、今後、研究成果の情報発信に努めることが期待される。
    他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、研究所として、研究課題に応じて適宜必要な人材を獲得することができるにせよ、研究目標に比して研究期間が若 干短かった。また、研究所から任期付研究員に対し、超臨界逆ミセル測定のため、流度分布測定装置を購入したり、研究を分担できる外国人フェローを配置する などの支援が行われた。
   以上により、本研究は、総合的に優れた研究であったと評価できる。

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12 モデル生物ゲノム解析を利用した新規放射線感受性遺伝子の分離と機能解明に関する研究

(研究期間:平成11年~12年)
任期付研究員:平岡 秀一(独立行政法人放射線医学総合研究所)
総評
    本研究は、分裂酵母のcDNAやゲノム解析により、放射線感受性に関連する遺伝子を網羅し、その中から新規遺伝子を同定して、放射線感受性遺伝子の構造と 機能の解析を行ったものである。当初5年間にわたる研究計画であったが、任期付研究員が諸事情により2年間で他の研究機関に移ったため、任期付研究員制度 を十分活用できない事態に至ったことは誠に遺憾であり、評価に窮するものがある。
   なお、短期間のうちに分裂酵母のcDNAやゲノム解析は当初の予定とおりほぼ達成されており、貴重なデータを提供した意義は評価される。

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13 ゲノムDNA情報の構造生物学的解析

(研究期間:平成10年~12年)
任期付研究員:舘野 賢(独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(優れた研究)
    本研究は、ゲノムの全塩基配列内の遺伝子を高精度に同定するための計算アルゴリズムを創出するとともに、同定された遺伝子の構造を情報科学的及び理論構造 生物学的手法により解析を行ったものである。情報科学と構造生物学の融合という意欲的な取組みであるとともに、遺伝子同定の計算アルゴリズムの開発と半自 動解析のための情報システムの開発が行われるなど、一定の研究成果があがったものと考える。
   なお、今後、研究成果のより積極的な情報発信を期待する。
    他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、以上の研究成果を通じて、研究所のバイオテクノロジー研究の発展に貢献がなされた。また、任期付研究員を配属 した研究室には、理論解析グループの他に、構造解析グループ及び分子生物学グループのサブグループがあり、理論的研究を理論だけに閉じさせないための環境 が整っていた。
   以上により、本研究は、総合的に優れた研究であったと評価できる。

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14 脳梗塞モデルにおける神経細胞バイアビリティーの画像化の研究

(研究期間:平成10年~12年)
任期付研究員:渡辺 直行(独立行政法人放射線医学総合研究所)
総評(優れた研究)
   本研究では、脳虚血侵襲を受けた脳神経細胞でのGABA/ベンゾジアゼピン神経細胞受容体数が減少することを観察することによって、GABA/ベンゾジアゼピン神経細胞受容体の経時的変化に基づく神経細胞バイアビリティーへの核医学的画像診断方法の可能性が示された。
   臨床への応用についてはなお検討が必要であるとともに、今後、以上の研究成果を積極的に情報発信していくことが期待される。
    他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、限られた期間に研究成果をあげなければならない任期付研究員の存在が他の研究者に刺激となり、研究所全体の活 性化が図られる等の効果があったが、任期終了後まで見据え、じっくりと研究が行われることが期待される。また、任期付研究員に対して研究費を特別配分する など、研究所の任期付研究員に対する支援も積極的に行われた。
   以上により、本研究は、総合的に優れた研究であったと評価される。

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15 微生物及び高等植物を対象とした放射線及び環境負荷物質の光合成機能に与える影響に関する研究
(研究期間:平成10年~12年)
任期付研究員:坂下 哲哉(独立行政法人放射線医学総合研究所)
総評(優れた研究)
   本研究は、鞭毛藻類ユーグレナを研究対象微生物とし、γ線照射が二酸化炭素の固定、酸素の生成、脂肪酸生合成の光合成機能に及ぼす影響を環境負荷物質との比較検討を加えて明らかにするものである。
   本研究は、独立栄養微生物の光合成に着目し、その線量効果関係を初めて明らかにしたものであり、評価できる。一方、二酸化炭素の固定等の光合成機能に関してγ線照射時の線量応答は測定されたが、研究の目標や位置付けをより明瞭にする必要があった。
    他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、限られた期間に研究成果をあげなければならない任期付研究員の存在が他の研究者に刺激となり、研究所全体の活 性化が図られた。また、任期付研究員に対して研究費を特別配分するなど、研究所の任期付研究員に対する支援も積極的に行われた。
   以上により、本研究は、総合的に優れた研究であったと評価される。

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16 脳機能材料開発のためのミニ蛋白質の創製法に関する研究

(研究期間:平成10年~12年)
任期付研究員:上垣 浩一(独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(優れた研究)
   本研究は、脳機能材料として適切な蛋白質を創製するため、蛋白質より短いポリマーであり、設計・合成が可能なペプチドを用いて脳神経系で機能する新規機能性分子を創製するための基盤技術を開発するものである。
   ミニ蛋白質創製技術の開発、安定性の高い蛋白質の創製という目的は概ね達成している。脳機能材料としての応用が今後の課題であるが、基盤技術としての成果はあがっており、評価できる。
    他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、本任期付研究員は、海外の研究機関を含む他の研究機関との連携の要として重要な役割を果たし、3年間という比 較的短い期間に、多数の原著論文を国際的にも著名な雑誌に発表するなどしている。また、任期付研究員が所属する研究グループが獲得した外部資金により、本 研究を加速するのに必要な周辺機器の整備を行うなど、適切な支援が行われた。
   以上により、本研究は、総合的に優れた研究であったと評価できる。

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17 環境感覚を用いた人間の生理情報の蓄積とその応用に関する研究

(研究期間:平成10年~12年)
任期付研究員:西田 佳史(独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(優れた研究)
   本研究は、天井や家具にセンサを埋め込む等、居住環境自体をセンサ化することにより、生体情報を自動的に計測するとともに、これを健康管理情報として蓄積するシステムを構築するものである。
   個々の計測技術、計測装置については、波及効果を及ぼす可能性があり、評価できる。ただし、将来、病院や高齢者の独居住宅等での活用が考えられるが、人間の心理及び行動と調和のとれたシステムの開発につなげていくことが今後の課題と思われる。
    他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、以上の優れた研究成果に加え、報道機関などからも注目され、研究所の他の研究者への刺激になった。また、研究 以外の業務にかかわらせることを極力避け、目標の実現に専念できるよう努めるなど、研究所の任期付研究員に対する支援も行われた。
   以上により、本研究は、総合的に優れた研究であると評価できる。

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18 高齢者の筋出力調節系における神経-筋機能の可逆性に関する研究

(研究期間:平成10年~12年)
任期付研究員:木塚 朝博(独立行政法人産業技術総合研究所)
総評
    本研究は、高齢者の要介護状態(いわゆる「寝たきり状態」)への移行を予防するための訓練機器開発に資する生理学的基礎指針の提供を目的として、高齢者の 筋出力調節系における筋神経機能を解明し、筋出力調節系の低下予防を目指した運動処方を明らかにすることを目標とした研究である。
    筋出力調節系の低下予防のために低負荷刺激を与えるという発想は評価できるが、単に手や足への刺激の問題ではなく、全身の問題としてとらえる視点が不足し ている。また、本研究にとって最も重要と考えられる臨床研究との連動性が希薄であるとともに、健康な若者を被験者にして得たデータを、要介護の高齢者に適 用することには無理があり、研究目標との距離が大きい。
   他方、研究支援者の採用を行う等、研究所の任期付研究員に対する支援は行われている。

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19 低温微生物の低温適応機構と応用に関する研究

(研究期間:平成10年~12年)
任期付研究員:森田 直樹(独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(非常に優れた研究)
   本研究は、低温環境下に棲息する微生物の低温適応機構として重要であるとともに、ドコサヘキサエン酸(DHA)などの高度不飽和脂肪酸(PUFA)の微生物生産にとって有用である微生物生体膜脂質の高度不飽和化機構の解明とその応用に関する研究である。
    低温微生物の低温適応機構として重要な膜脂質の高度不飽和脂肪酸形成に関わる複雑な遺伝子群のクローニングに成功するなど、高い研究成果をあげている。ま た、高度不飽和脂肪酸の微生物生産のための基礎的研究においても成果をあげ、水産廃棄物の微生物培地への利用など実用につながる成果を得た。
    他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、以上の優れた研究成果に加え、研究所のバイオテクノロジー研究の発展に貢献するとともに、同年代の若手の研究 員を鼓舞する効果もあった。また、研究室、実験室についても、研究を推進するために不足のないスペースを確保するなど、研究所の任期付研究員に対する支援 も行われている。
   以上により、本研究は、総合的に非常に優れた研究であったと評価できる。
   なお、支援と同時に、任期付研究員がより自立して研究を行いうるよう、研究所の一層の配慮が期待された。

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20 乱流制御に関する基礎的研究

(研究期間:平成10年~12年度)
任期付研究員:瀬川 武彦 (独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(非常に優れた研究)
   本研究は、乱流抵抗を低減させることにより、航空機等のエネルギー効率を向上させることを目的として、乱流を制御するための諸条件を明らかにし、乱流を制御するための装置の開発を目指すものである。
    回流水槽の壁面に複数のアクチュエーターを配置し、それぞれ独立に振動させることにより、乱流抵抗を低減させうるという現象を発見したことは興味深い。乗 り越えるべき障害は多いが、乱流の能動的制御が実用化できることを期待したい。なお、現象を原理的に説明するために、乱流の数理的解析をしっかり行うこと が必要である。
   他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、以上の研究成果を踏まえ、さらに高度な能動乱流制御プロジェクトの提案・開始につながった。また、実験スペースの提供など、研究所の任期付研究員に対する支援も行われている。
   以上により、本研究は、総合的に非常に優れた研究であったと評価できる。

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21 光マイクロマニピュレーション技術の研究

(研究期間:平成10年~12年度)
任期付研究員:古川 祐光 (独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(非常に優れた研究)
   本研究は、光マイクロマニピュレーション技術について、従来の透明物体だけではなく、金属物体への適用を試みる等、より広い試料への適用に関する研究である。
    金属物体への適用に成功するとともに、物体の捕捉が、従来の光マイクロマニピュレーション技術とは異なる新たな物理現象によって行われていることを、理論 的にも実証的にも明らかにしており、学術的に高く評価できる。また、産業的にも、今後、新規光デバイス作成や高精度光加工技術への展開の可能性が期待でき る。
   他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、以上の優れた 研究成果に加え、任期付研究員の光技術が研究所のマイクロマニピュレーションに関する機械技術とよく融和し、研究所との連携が適切に図られている。また、 実験室を供与する等、研究所の任期付研究員に対する支援も行われている。
   以上により、本研究は、総合的に非常に優れた研究であったと評価できる。

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22 人工衛星群カオス軌道制御の研究

(研究期間:平成10年~12年度)
任期付研究員:梅原 広明 (独立行政法人通信総合研究所)
総評(優れた研究)
   本研究は、近年混雑著しい人工衛星群の軌道配置を自動的に制御できる仕組みを導出することを目指す研究である。
   これまでの研究蓄積を他分野に適用しようとする研究姿勢及び困難な問題に一つの方向付けをしたことが評価できる。今後、人工衛星群軌道制御手法を実際のミッションに適用し、実用化に向けた取組を期待したい。
   他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、任期制の活用により、他分野の専門家を登用でき、その結果、理学と工学との横断的アプローチにより研究を進捗させることができた。また、研究所は、任期付研究員が限られた期間の中で研究に専念できるよう配慮している。
   以上により、本研究は、総合的に優れた研究であったと評価できる。

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23 多元系酸化物薄膜の原子層制御MBE成長とデバイス化技術の研究

(研究期間:平成9年~12年度)
任期付研究員:右田 真司 (独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(非常に優れた研究)
   本研究は、原子層制御MBE成長技術によって、高品質な強誘電体薄膜さらにヘテロ構造の多層膜を作製し、強誘電体の電気分極が導電体の電気伝導を制御し、メモリ機能をもつデバイスの試作を行うものである。
    元素供給法の精密制御並びに成長温度の低温化によってヘテロエピタキシャル成長技術を高度化し、PbZrxTi1-xO3上への酸化物導電体 Bi2Sr2CuO6超薄膜(6nm)成長に成功するなど、研究成果は学術的に高く評価できる。なお、企業との情報交換や実用化への一層の取組を期待した い。
   他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、以上の優れた研究成果に加え、本研究に関連し、他の研究機関との共同研究に積極的に取組むなど、任期付研究員の積極性が十分に発揮された。また、実験スペースを確保するなど、研究所の任期付研究員に対する支援も行われている。
   以上により、本研究は、総合的に非常に優れた研究であったと評価できる。

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24 沿岸海洋生態系における外部負荷及び内部生産有機物の循環過程に関する研究

(研究期間:平成10年度~12年度)
任期付研究員:鈴村 昌弘(独立行政法人産業技術総合研究所)
総評(優れた研究)
    本研究は、沿岸域における有機態リン化合物の特性とその起源について、新しいアプローチで有機化学あるいは生化学的手法を用いて解析を行い、その高分子と しての構造と生分解性を併せて検討するとともに、外洋まで視野に入れた海洋環境中での有機物循環過程を明らかにしたものである。本来長期的なデータ収集が 必要な本研究テーマについて、3年間という研究期間を考慮すれば、十分な研究成果をあげたと高く評価できる。また、この研究で得られた懸濁有機物の解析手 法は、陸域から沿岸域への水系へ輸送される内分泌攪乱物質などの微量有害化学物質のキャリアの解析に役立つことが、今後期待される。一方、個人中心で研究 を遂行したことによる制約もあるが、当初、沿岸域の有機物の動態を幅広く解析することを目的としていたところ、実際にはリンを中心とした組成解析が研究の 中心を占めており、今後、窒素などの他の親生物元素にも展開していくことが課題であると考えられる。
   任期制の活用の効果に関しては、本研究課題の遂行には、その研究の幅広さから研究所の手厚いバックアップを背景にした中での個人研究が適当であると考えられることから、任期付研究員に対する研究所のより積極的な支援が望まれた。
   以上により、任期付研究員に対する研究所の支援に若干の課題が残ると思われるが、本研究は、総合的に優れた研究であったと評価できる。

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25 政策形成・研究開発実施過程における産学官のインタラクションに関する研究

(研究期間:平成10年~12年)
任期付研究員:伊地知 寛博(文部科学省科学技術政策研究所)
総評(非常に優れた研究)
    本研究は、諸外国における科学技術政策形成過程における産学官のインタラクション・システムを構築している原理・原則を抽出し、そのモデル化あるいは分類 を行ったものである。この結果、産学官連携や研究評価における利益相反のマネジメントが大学におけるコーポレート・ガバナンスの重要な課題であり、ベンチ マーキングが有効な方法論であることが示された。
   本研究は、科学技術政策の企画・立案に有益な研究であり、その研究成果とともに、政策的な意義が高く評価できる。
    他方、任期付研究員の活用の効果に関しては、任期付研究員が政府の審議会や政策検討会合等の場でプレゼンテーション等を行う機会を得、実際の科学技術政策 立案過程に関与する等、優れた成果をあげている。また、研究活動に必要な専有スペース及び機器、研究実施に必要な研究費等を所属研究所が追加的に支援する など、研究所の任期付研究員に対する支援も行われている。
   以上により、本研究は、総合的に非常に優れた研究であったと評価される。
   なお、本研究のように外国調査が不可欠な研究については、制度上、外国旅費を優先的に措置するなどの取組が必要である。

-- 登録:平成21年以前 --