平成13年度科学技術振興調整費による研究実施課題等の評価結果について 2.各論(6)


(6)知的基盤整備

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機能性分子による熱流体センシング技術の研究開発

(研究期間:第1期 平成11年~13年度)
研究代表者 浅井圭介(航空宇宙技術研究所)
研究課題の概要
超高速流・超低温流等、従来の方法による計測が困難な極限環境における熱流体現象を解明するため、色素化合物の光化学的機能を利用して、圧力・温度等の熱流体変数を可視化する新しい概念の熱流体センシング技術の研究開発を行う。機能性化学・光計測技術・熱流体力学の異分野の専門家が連携を図り、機能性分子の薄膜をセンサプローブとし、物体表面の圧力・温度場を光学画像として可視化するセンシングシステムを研究開発する。
(1) 総評(2期移行)
    本研究課題は、機能性化学(材料を提供する側)、光計測技術(測定器にまとめる側)、 熱流体力学(測定器を利用する側)の3分野で構成され、これらの分野間の緊密な連携により効率的な研究が推進されている。一部の研究が若干遅れているものの、全体的には研究は順調に進捗しており、所期の目標は十分達成されている。今後、第1期に開発された技術の実用化及び高度化を推進することにより、本課題の最終目標の達成は可能であると考えられることから、設定目標の変更は不要であると判断される。一方、研究成果については、開発技術の汎用化及びホームページを通じた研究成果の一般公開を積極的に推進しており、また、国内外の研究機関等からの照会実績も高いことから、知的基盤整備に高く寄与し、十分な情報発信が行われていると評価される。さらに推進体制については、3分野内における材料提供等の日常的な研究協力をはじめ、月例の定期研究会等の実施実績から十分な連携が図られており、中核機関である航空宇宙技術研究所は極めて高い組織力及び求心力により十分に機能しているとともに、研究の運営に対する研究機関等の支援も十分行われていると判断される。以上により、本研究課題は、知的基盤の整備に資する極めて優れた研究であると言える。
  従って、今後も研究を継続すべきであると評価される。
(2) 評価結果
1 分子センサの合成と薄膜化に関する研究開発
    1)新規機能性分子の合成と分子設計、2)機能性分子の基板表面への固定法、3)複合 機能を持つ分子熱流体センサの設計の3研究が実施された。温度センシング機能を有する色素の探索に若干の遅れが見られるが、熱流体センサとしての機能を有する色素及びバインダの探索は、ほぼ目標通りの成果を挙げていると判断される。また、色素吸着膜等の新しい色素固定法の開発や高機能性を有する分子熱流体センサの特許出願等も順調に行われており、優れた研究成果を挙げていると評価される。また、第2期においては、材料の極限環境における信頼性及び計測時の耐久性を高める研究視点が重要であると判断される。
2 機能性分子センサの光学測定技術に関する研究開発
    1)レーザー励起による光計測手法、2)ルミネセンス寿命のイメージング技術、3)コンピュータ画像処理による熱流体情報の解析技術の3研究が実施された。その結果、常温リン光光励起分子の分光計側装置の整備並びに寿命可視化装置の解析アルゴリズムの開発等に若干の遅れがあるものの、蛍光寿命2次元分布イメージング装置、高速度・高精度画像計測装置及び光画像基本処理モジュール等の試作は順調に進んでおり、総合的には優れた研究成果を挙げていると評価される。特に寿命可視化装置の解析アルゴリズムの開発について、計測システムの遅れは、寿命計測に利用されるセンサ材料の評価に影響を及ぼす可能性があることから、第2期における研究が加速されることが望まれる。
3 機能性分子センサによる極限流体現象の解析と評価に関する研究
  1)機能性分子センサによる高速流体・低温流体の解析と評価、2)機能性分子センサによる超希薄流の解析と評価の2研究が実施された。その結果、極超音速気流中の圧力場の可視化及び液体窒素温度における温度・圧力場の計測に世界で初めて成功するなど、機能性分子のセンシング機能を実証する研究成果を挙げたことは高く評価できる。また、色素吸着膜を用いた高速応答型圧力センサの開発及び希薄気体に適用可能な圧力センサの開発・評価等についても、優れた研究成果を挙げていると評価される。
(3) )第2期にあたっての考え方
    本研究は全体的に順調に進捗していることから、第2期移行にあたっては、研究体制の大幅な変更は必要としない。ただし、第1期の研究により、センサ機能と化合物の光物性の関係が分子レベルで明らかになりつつあるので、第2期においては、流体実験で要求される機能に応じた薄膜センサのキャラクタリゼーション及び分子設計の研究に移行するのが適当であると判断される。このため、「レーザー励起による光計測手法の研究」の一部を「新規機能性分子の合成と分子設計に関する研究」に統合し、「機能性分子の設計とキャラクタリゼーションに関する研究」を行うことが適当であると考える。また、開発したセンサの光化学機能を詳細に調査するとともに、時間分解計測法の実用化を目指し、ポイントセンサの研究開発を行うため、新たに「レーザー励起による高精度時分解計測手法の研究」を推進することは、意義があると評価される。

体制移行図


 

-- 登録:平成21年以前 --