平成13年度科学技術振興調整費による研究実施課題等の評価結果について 2.各論(2)


(2)開放的融合研究

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分子・ハーモニック構造の構築と電磁場制御デバイスの開発

(研究期間:平成11年度~15年度)
研究代表者 木村克美(独立行政法人物質・材料研究機構特別研究員)
融合研究機関 独立行政法人物質・材料研究機構、
独立行政法人通信総合研究所
研究課題の概要
有機分子内に高機能を盛り込んだ新材料を開発し、ナノメータースケールでの電子と電磁場を制御したデバイスの開発及び理論構築を目指す。具体的には、(1)有機分子に電子・電磁場特性を組込んだ新たな系の合成、(2)単一分子スケールでの電子・電磁場現象の解明、及び(3)単一分子から発生するフォトン(光子)の高時間分解能での現象解明、を行う。
(1) 総評
    本研究における、合理的分子設計による線状、環状などのポリフィリン誘導体の分子組織化の制御原理の開拓やデンドリマー・色素複合体によるレーザー発振の発見、及びジェットスプレー法による有機超薄膜作成装置の開発などは、世界最高水準の成果であり高く評価できることから、優れた研究であると言える。これらの成果を踏まえ、今後はデバイス概念の明確化やデバイスの専門家の研究への参加などデバイスに重点を置いた内容とするなど、研究(計画)内容を一部見直して継続すべきである。
(2) 評価結果
1 進捗状況
    電磁場制御に関する研究に関しては、理論構築やコンセプトの証明・検証が十分達成されていないが、分子エレクトロニクスを実現するための基盤技術である機能分子の合成と2次元配列、個別分子の精密物性測定に関しては、中間目標を全般的に達成している。さらに、目標以上の成果を上げたテーマもあることから、目標達成度は概ね達成している。研究全体の進捗状況については、単一分子デバイスという最終目標の実現という点では不十分であるが、いくつかの研究では期待以上の進展があり、個々の研究者レベルでの研究の展開はめざましいことから、一部遅れがあるものの全体としては問題がないといえる。
2 目標設定
    当初の目標設定である分子エレクトロニクスの確立は、目標設定が高すぎるので、見直しが必要である。最終目標である単一分子デバイスの開発についても、もう少しターゲットの見える高性能な導電性ポリマーや有機EL素子などに目標を変更する必要がある。
3 研究成果
    合理的分子設計による線状、環状などのポリフィリン誘導体の分子組織化の制御原理の開拓やデンドリマー・色素複合体によるレーザー発振の発見、及びジェットスプレー法による有機超薄膜作成装置の開発などは、世界最高水準の成果が得られており、科学的価値は高いと評価できる。研究成果の波及効果については、本プロジェクトの成果が国際的な一流の専門誌に数多く報告されていることから、十分に期待できる。研究成果の情報発信については、専門誌上や国内外の学会での論文発表、シンポジウム開催など様々なメディアを通じた情報発信が十分に行われている。
4 研究体制
    研究総括責任者の指導性については、プロジェクト運営状況に関して不安点が見受けられることから、指導性が発揮されているとはいえない。プロジェクト後半において、研究目標となる具体的なデバイスを実現させるためには、明確な目標、実現可能項目、重点項目、スケジュールなどを計画的に設定する必要があるため、後半の研究に向け研究総括責任者の交替が行われたのは評価できる。サブテーマ間の連携・整合性については、分子を作成する化学者と、その分子を利用する側との十分な連携が図られている。開放的融合研究に向けた取り組みについては、開放面で特に諸外国からのポス・ドク研究員を多数採用し、それらの研究員が研究活動に大きく貢献していることや外部からのビジター、客員研究員もプロジェクトに参加していること、融合面では分子素材の提供者と精密物理測定者の組み合わせがよく機能しているなど意欲的な取り組みがなされている。ただし、今後プロジェクトを遂行する上で、デバイスの専門家の研究への参加が不可欠であると思われる。融合研究推進委員会の支援については、適切な支援が行われてきたと評価できる。


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水素・水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

(研究期間:平成11年度~15年度)
研究代表者 新村信雄(特殊法人日本原子力研究所先端基礎研究センター・研究主幹)
融合研究機関 特殊法人日本原子力研究所、独立行政法人農業生物資源研究所
研究課題の概要
構造既知のモデルタンパク質を用いて中性子回折測定手法、解析手法の改良及び開発を行い、さらに巨大分子用中性子結晶解析装置の製作を行う。中性子解析に適した試料(タンパク質等)の作製を行い、X線解析及びNMR法により水素原子、水分子を含まない立体構造の決定を行う。次に中性子回折実験を行い、水素を含めた全立体構造の決定を行う。これらの立体構造情報により分子動力学的な計算手法の改良を行い、構造構築原理、酵素反応機構及び機能発現機構を明らかにする。
(1) 総評
    3年目の目標は十分達成し(達成度は90%近く)、研究は順調に進捗しており、当初の目標設定も適切であったといえる。研究成果としても基本的なタンパク質(ミオグロビン等)の水素・水和構造を含む立体構造の決定等科学的価値の高い研究成果が得られている。研究体制についても、研究総括責任者の下、中性子解析、NMR・X線解析及びタンパク質等の結晶化という三技術の融合を進める体制が構築されている。
    したがって、全体として非常に優れた研究であると評価され、今後も研究を継続すべきである。
(2) 評価結果
1 進捗状況
    当初の3年目の目標については、生物学的に興味あるタンパク質の中性子回折実験に若干遅れがみられる(大きなサイズの結晶作製の遅れ)ものの、全体のこれまでの達成度は90%に近い。したがって、目標は十分達成され、本研究は順調に進捗していると評価される。ただ今後研究を順調に進捗させるには、生物学的に興味あるタンパク質大結晶の取得の目途を立てる必要がある。
2 目標設定
    進捗状況からみると当初の目標設定(a.生体分子用中性子結晶回折装置を建設し、重水素化タンパク質等の水素・水和構造を決定、b.タンパク質の立体構造の決定・酵素反応機構の解明、c.タンパク質・核酸間水素結合の特異性への水分子の関与の解明)は適切であり、最終目標の変更も不要である。
3 研究成果
  基本的なタンパク質であるミオグロビン等の構造解析による、タンパク質二次構造αヘリックス中の2分岐水素結合の存在の証明、タンパク質水和構造の形状の分類、水分子の結合状態と分子運動の相関の観測等、科学的価値が高く、波及効果の期待できる研究成果が得られている。
    また、研究成果については、学術論文を通しての発表、国際シンポジウムの開催、ProteinDataBank(PDB)へのタンパク質立体構造データの登録等を通じて情報発信が十分になされている。
4 研究体制
  研究総括責任者の指導力については、本研究の要である中性子解析、NMR・X線解析及びタンパク質等の結晶化という三つの主要技術の統括にもよく発揮されている。
    特に生物学的に興味あるタンパク質の中性子回折実験に向けた研究や、重水素化タンパク質・DNA試料の調整において、融合に向けた意欲的な取り組みがなされているといえる。ただし、今後さらに発展するためには、もっと積極的に生物学的に重要なタンパク質・核酸の構造を両研究所で共通の材料として研究し、両研究所の共著の論文が出るようにする必要がある。また中性子解析手法については他の研究機関にも利用できるようにする等、開放性をさらに高めることも重要である。


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話し言葉の言語的・パラ言語的構造の解明に基づく『話し言葉工学』の構築

(研究期間:平成11年度~15年度)
研究代表者 古井貞煕(東京工業大学教授、国立国語研究所併任)
融合研究機関 独立行政法人通信総合研究所、
独立行政法人国立国語研究所

研究課題の概要
自発的な「話し言葉」の情報処理技術の基盤を確立する。具体的には、(1)音声を文字化し言語情報を付与するとともに、パラ言語情報(音声の文字化によって欠落する情報)も付与したデータベース(話し言葉コーパス)の構築、(2)上記コーパスを用いて、話し言葉に含まれる言語情報とパラ言語情報の体系化、及び(3)音声を自動的に認識し、要約情報を出力する話し言葉要約システムのプロトタイプの開発、を行う。
(1) 総評
    本研究は話し言葉の音声認識・理解・要約という新しい研究領域の開拓である。世界的にも類例のない大規模な研究用データベース(日本語話し言葉コーパス)の共同開発を進めている。作成したデータの一部はモニター公開し、広い領域の研究者から申込みがあった。また、本プロジェクトの影響下に、海外(米国、英国)でも類似の大型プロジェクトが開始されるなど国内外への成果の波及効果も大きく非常に優れた研究であると言える。
    本研究の基盤となる『日本語話し言葉コーパス』の構築は、当初予定を上回る進捗を見せている。また、音声認識および言語処理関係の研究も順調に進展していることから、今後も予定どおりに研究を継続すべきであると評価される。
(2) 評価結果
1 進捗状況
    目標達成度については、十分達成している。一部については予定よりも進んでいる。研究の進捗状況については、本研究の基盤となる『日本語話し言葉コーパス』(データベース)の構築は、当初予定を上回る進捗を見せている。また、音声認識および言語処理関係の研究も順調に進捗している。
2 目標設定
    当初の目標設定は適切であり、最終目標変更の必要性は認められない。ただし、プロジェクト終了後のコーパスの管理維持が問題であり、今からその方法について真剣に検討すべきである。
3 研究成果
    話し言葉の音声認識・理解・要約という、新しい研究領域の開拓であり、科学的価値は高い。研究成果の波及効果については、本プロジェクトの影響により、米国が音声要約研究を国家プロジェクトの一つに取りあげたことや英国でも類似のプロジェクトが開始される等、国際的な波及効果を生んでいる。またコーパス構築技術に関しては、国内の複数研究機関に加えて、米国・韓国・台湾の研究機関からも作業マニュアルの公開要請があり、広く注目されるなど研究成果の波及効果は期待できる。研究成果の情報発信については、種々の国際会議で研究成果を発表する他、米国での国家プロジェクトの会議、種々の学会論文誌で成果を発表することやホームページによるプロジェクトの紹介など十分行われている。
4 研究体制
    研究総括責任者の指導性については、コーパスの設計の基本方針や音声研究と自然言語処理研究の円滑な交流の実現において発揮されている。サブテーマ間の連携・整合性については、コーパス開発を軸とした有効な連携が認められる。開放的融合研究に向けた取り組みについては、開放面でコーパスのデータの一部を広い領域の研究者に公開していること、融合面ではコーパスの構築を軸とした共同研究体制で成果を上げていることなどから、意欲的な取り組みがなされている。また融合研究推進委員会の支援については、国立試験研究機関の独立行政法人化に伴う研究環境の中で、遅滞なく研究を推進できており、適切な支援が行われてきたといえる。



 

-- 登録:平成21年以前 --