平成11年度研究評価小委員会研究評価報告書について 2.各論 (1)総合研究 (i)


GPS気象学:GPS水蒸気情報システムの構築と気象学・測地学・水文学

への応用に関する研究

(研究期間:第1期 平成9~11年度)

 

 

研究代表者:内藤 勲夫(国立天文台地球回転系助教授)

 

 

(1) 総 評

GPS気象学は、これまで発展を続けてきたGPSによる測地技術と数値計算による気象予報技術を統合し、測地分野においては水蒸気による誤差の影響を排除することによる測地精度向上を、気象分野においてはリアルタイムの水蒸気分布データを取り込むことによる予報精度の向上を指向する新しい研究分野である。本プロジェクトの第1期は、測地と気象の両分野の協力により良い成果が出ているため、計画は順調に進捗している。また、国際的にもインパクトを与える成果を達成した研究もあり評価できる。また基礎研究としての成果も上がっており、今後は創造的な研究に発展すべきであるが、目標・目的は適切である。

しかし、リアルタイム予測、気象から測地へのフィードバックなどの応用面で、やや遅れがあるように思われる。また、第1期としては必ずしも適切ではない研究項目も見られたので、第2期は、それらの部分を整理して重要な課題に重点的に取り組む等研究内容を再編成して移行すべきである。さらに、今後は積極的なデータ公開を行い、外部からの新たな刺激の取り込みに努めるべきである。加えて、成果を早急に取りまとめ、国際学術誌上への発表などを積極的に行っていくべきである。

 

(2) 評価結果

(a) GPS可降水量の評価に関する研究

気象データによる準リアルタイムGPS大気遅延量の評価に関する研究では、計画通り進捗し海洋潮汐の効果を導き出したが、準リアルタイム処理に関する評価がやや不十分である。GPS大気遅延量推定に及ぼすローカルな水蒸気量変動の評価に関する研究は、達成度が高くトモグラフィーの利用可能性を明らかにしており有益である。GPS気象観測パッケージ及びデータ集信システムの開発は、GPSの急速な進歩により研究の意義が相対的に低下している。メソスケール気象現象による水蒸気の非一様性の評価では、水蒸気の時間的非一様性については十分な達成度といえるが、空間的非一様性については不十分である。

GPS可降水量を用いた数値予報に関する研究については、GPS可降水量データによる予測精度向上の影響評価という点で、十分な達成度といえる。

大陸海洋域におけるGPS可降水量に関する研究については、大陸域においてはregionalスケールからsynopticスケールの気象変動場が確認され、海洋域においては観測システムの開発・運用・測地研究の面で十分な成果を達成した。

大気の3次元構造推定手法の開発については、有益な成果を生み出しており、今後は気象サイドとの連携をより深める必要がある。全国GPS連続観測網による大気モデルの推定では、熱帯の積雲活動が活発な地域の上空で大気重力波動が卓越する事実を世界で初めて見出すなど、予想を超える成果が上がっており、国際誌での発表も多く、活力が感じられる。

(b) 宇宙測地の精度向上に関する研究
数値予報データによる大気遅延量補正手法の開発については、良い成果が出つつあるが、成果の発表が不十分である。解析ソフトウェアの改良に関する研究では、山岳波の影響検出等の新しい優れた成果を出しているが、既に役割を終えたと考えられる。大高度差基線網での精度評価については、臨時集中観測等により気象の局所性の影響を、定性的ながら明らかにする等の成果が出ている。
(c) GPS水蒸気情報システムの開発と運用
水蒸気情報システムの開発については、GPS高速解析手法の開発ではアルゴリズムに改良を加え準リアルタイム解析システムを構築したこと、水蒸気情報データベースの構築では日本列島上空の水蒸気可降水量のデータベースを構築し公開したこと、GPS大気遅延量と気象データの4次元データ同化手法の開発では、課題であった3次元データ化・地形の違いを解決しており、評価できる。

気象・測地・水文ユーザーによる総合評価については、環境科学・水文学への応用においてGISによる問題発見型アプローチに一定の成果が見られた。海上移動体測位への応用は、水蒸気データベースがリアルタイムで更新されるのでなければ適用は難しい。GPSと検潮との比較観測は、目標設定が第1期としては応用面に寄りすぎ十分な成果が得られなかった。SARへの応用では、干渉SARとGEONET遅延量に同様のパターンが見られる等、有意義な成果が得られているが、JERS-1運用停止という外的条件のため計画通り進んでいない。GPS水蒸気情報による広域蒸発散・植物生産力の推定は、対象の地上水蒸気量の非一様性が大きく推定が困難であり、第1期で終了すべきである。

 

(3) 第2期にあたっての考え方

1期では、GPSによるメソスケールの水蒸気変動の実態把握とそれがGPS測位に及ぼす影響の評価に重点を置いたが、第2期では、さらに小規模のローカルスケールの水蒸気変動に焦点を合わせ、GPSによる測位精度と可降水量推定精度の双方の向上を図ることに重点を置くべきである。実行にあたっては、重点項目のウェイト付けをはっきりさせると共に、サブテーマ間の連携を図り、有機的な共同研究となるよう、グループリーダーによる適切な調整が不可欠である。
(a) 稠密観測によるローカルスケールの水蒸気変動の評価に関する研究
GPSで観測される実際の水蒸気変動が極めて局所的であり、しかもそれがGPS測位誤差の最大の要因になっているとの第1期での成果を受けて、GPSによる特別稠密観測を行い、ローカルスケールの水蒸気変動を気象学的・測地学的立場から明らかにすべきである。これには第1期で確立されたGPS水蒸気トモグラフィー技術、高分解能モデルによる数値実験手法などを動員し、これまでに例のない水蒸気変動の詳細な3次元構造の推定も試みる必要がある。さらに、これらの3次元水蒸気変動データに基づいて、GPS鉛直測位の精度向上実験などを試みると同時に、その成果を高度差の存在する山岳域でのGPS鉛直測位の誤差要因の解明などへ応用すべきである。
(b) GPS解析の精度向上に関する研究
GPSによる測位と大気遅延量の双方の推定精度の向上を目標として、平野部及び山岳域での観測・解析研究を引き続き行うと共に、降水量変動などの気象変動が地殻変動観測そのものに及ぼす影響などの解明も行うべきである。一方、第1期で判明したマッピング関数などの適用限界を受けて、数値予報に基づく高空間分解能のグリッドデータによる我が国独自のマッピング関数の開発などを通じて、GPS解析モデルの改良とそれらを我が国のGPS観測網のルーチン解析などへ応用するための手法を探るべきである。
(c) 数値予報のGPS技術開発に関する研究
1期で開発したGPS可降水量のデータ同化手法の検証・改良と関連技術の開発を行うため、大陸や海洋の観測データも取り込み、それらが日本国内の数値予報結果に与えるインパクトなども評価すべき。また、第1期で見出されたメソスケール現象における水蒸気量の増減と降水現象の間の時間相関を受けて、実況監視予測の観点からのGPS可降水量とメソスケール降水現象との関係も解明すべきである。さらに第1期での予想外の成果であった宇宙基地型GPS気象学技術による全球大気構造の解明を受けて、その解析と関連技術の習得、得られた大気構造を数値予報に組み込むための基礎技術の開発などを行うべきである。
(d) GPS水蒸気情報システムに関する研究
1期で開発された準リアルタイムGPS解析手法を我が国のGPS観測網に反映させ、可降水量情報の高時間分解能化をはじめとするGPS水蒸気情報データベースの高品質化を図ると共に、将来の気象庁数値予報システムへの入力に備えるべきである。また、環境科学・測地学・水文学等の幅広いユーザーの利用に供するために、GPS水蒸気情報に不可欠な種々の関連データを整備登録し、データベースの一層の拡充を図るべきである。
 

 







 

-- 登録:平成21年以前 --